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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

不動産登記に要する登録免許税の額を算定する際の基礎となる不動産の基準単価を適切に改訂するよう意見を表示したもの


不動産登記に要する登録免許税の額を算定する際の基礎となる不動産の基準単価を適切に改訂するよう意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計 国税収納金整理資金 (款) 歳入組入資金受入
  (項)各税受入金
部局等 8法務局等
所有権の保存の登記に係る登録免許税の概要 不動産登記法に基づき、所有権の保存の登記申請を行う際に、不動産の価額を課税標準として課せられるもの
新築建物の棟数 365,878棟(平成18、19両年)
上記の棟数について認定基準単価により算出した課税標準の計及び登録免許税の計 6 兆2681 億4843 万余円/133 億8529 万余円
上記の棟数について認定基準単価と概要調書試算単価とに開差が生じているため過小又は過大になっていると見込まれる課税標準及び登録免許税の試算額の計 (過小)
1兆7692億7571万余円/36億1377万円(背景金額)
(過大)
623億9351万余円/2億4957万円(背景金額)

【意見を表示したものの全文】

 不動産登記に要する登録免許税の額を算定するための新築建物課税標準価格認定基準表等の改訂について

(平成21年10月23日付け 法務大臣あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 登録免許税等の概要

(1) 登録免許税の概要

 不動産の登記制度は、不動産の表示及び不動産に関する権利を公示するための制度であり、民法(明治29年法律第89号)第177条の規定により、不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従い、その登記をしなければ第三者に対抗することができないとされている。
 不動産の所有権の保存登記については、登録免許税法(昭和42年法律第35号)により登録免許税が課され、その場合の課税標準である不動産の価額は登記の時における当該不動産の価額、また、税率は1000分の4(注1) と規定されている。

 1000分の4  登録免許税法に規定されている税率。ただし、一定の要件を満たす住宅用家屋については、租税特別措置法(昭和32年法律第26号)の規定により、税率が1000分の1.5等に軽減されている。また、国、地方公共団体等の公共法人等が自己のために受ける登記については登録免許税は課されない。

(2) 登記の時における不動産の価額

 登記の時における不動産の価額は、登録免許税法附則第7条の規定により、当分の間、地方税法(昭和25年法律第226号)第341条第9号に掲げる固定資産課税台帳(注2) に登録された価格(以下「登録価格」という。)を基礎として政令で定める価額によることができるとされている。
 そして、政令で定める価額とは、登録免許税法施行令(昭和42年政令第146号)附則第3項の規定により、登録価格のある不動産については、当該登録価格に100分の100を乗じて得た金額に相当する価額とされている。
 また、新築建物のように登録価格のない不動産については、登記の申請の日において当該不動産に類似する不動産で登録価格のある不動産の当該登録価格を基礎として、登記官が認定した価額とするとされている。

 固定資産課税台帳  固定資産の状況及び固定資産税の課税標準である固定資産の価格を明らかにするため市町村が備える台帳で、土地課税台帳、土地補充課税台帳、家屋課税台帳、家屋補充課税台帳及び償却資産課税台帳の五つの台帳の総称

(3) 認定基準表による不動産の価額の認定

 法務局若しくは地方法務局若しくはこれらの支局又はこれらの出張所(注3) (以下、これらを合わせて「登記所」という。)において不動産の登記事務を行っている登記官が、登録価格のない新築建物等に係る不動産の価額を認定するために、登記申請の都度、当該不動産に類似する不動産を選定することは困難である。そこで、法務局及び地方法務局(以下「法務局等」という。)の長は、各登記官が認定する価額の妥当性及び均衡を図り、併せて登記事務の迅速な処理を図ることを目的に、あらかじめ、建物の構造・種類の区分ごとの1平方メートル当たりの価格(以下「認定基準単価」という。)を定めた新築建物課税標準価格認定基準表等(以下「認定基準表」という。)を管内の登記所に通知している。登記官は、この認定基準単価に登記面積を乗じて得られる価格を新築建物等に係る不動産の価額として認定することとなっている。

 法務局若しくは地方法務局若しくはこれらの支局又はこれらの出張所  全国の8ブロックの地域に8法務局、主として都道府県単位の地域に42地方法務局(法務局のある地域は除く。)が設置されていて、法務局及び地方法務局の管内に支局が、また、法務局、地方法務局及びこれらの支局の管内に出張所が設置されている。

(4) 都道府県概要調書

 登録免許税の課税標準である不動産の価額は、登録価格を基礎とするとされている。そして、登録価格は、地方税法の規定により、総務大臣が定める固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(以下「固定資産評価基準」という。)に基づいて、市町村長が決定し、固定資産課税台帳に登録した価格である。
 この登録価格は、市町村が課す固定資産税の課税標準として用いられるものであり、固定資産税は建物を新築した年の翌年以降に課されることから、市町村長は、新築した時点の建物の評価を行い、この評価した額に課税する翌年までの間の劣化等による補正率を乗 ずるなどして決定することとされている。
 そして、市町村長は、上記のように固定資産評価基準に基づいて決定した登録価格、登録価格算出の基礎となった建物の床面積、再建築費評点数(注4) 等の年間の実績を集計して都道府県知事に送付し、都道府県知事は、各市町村分を集計して都道府県内の概要調書(以下「都道府県概要調書」という。)を作成することとされている。

 再建築費評点数  評価対象になった建物と同一の建物を、評価の時点においてその場所に新築するとした場合に必要とされる建築費を点数化したものである。なお、この再建築費評点数に所定の1点当たりの価額を乗じたものを再建築費という。

(5) 認定基準表の改訂

 登録価格は、総務省告示により3年ごとに評価替えが行われることとなっている。
 貴省は、法務局等の長に対して、「評価額のない新築建物の課税標準価額認定基準の改訂について」(昭和59年法務省民事局長通達)を発して、固定資産税の評価替えが行われる年度の4月1日に認定基準表を改訂するように、また、「固定資産評価替えに伴う評価額のない新築建物の課税標準価額の認定基準について」(民事局民事第二課長名依命通知。以下「依命通知」という。)を発して、新たな認定基準単価については、現行の認定基準単価に、総務省が算定した在来分の家屋の評価に係る補正率を参考にして定めた評価替えに伴う平均予想上昇率を乗じて得た額を基礎として算出するように指示している。
 そして、依命通知には、この現行の認定基準単価に平均予想上昇率を乗ずる方法により算出した額が、都道府県概要調書等により算出した額と著しく相違する場合を除き、改めて見直しを行う必要はない旨の記載がされており、都道府県概要調書等により算出した額と比較して相違の程度を確認することとされているが、都道府県概要調書等によりどのように算出するかという算出方法及びどの程度相違した場合に著しく相違したとするかの基準は具体的に示されていない。

(6) 登録免許税の納付額

 全国510登記所(平成19年度末)における建物の所有権保存の登記に係る申請件数は18年度77万余件、19年度72万余件となっていて、この申請に係る登録免許税の納付額の総額は18年度294億0235万余円、19年度287億8427万余円に上っている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、合規性等の観点から、認定基準表が適切に改訂されているかに着眼して、8法務局等(注5) において18、19両年の新築建物の所有権保存の登記に係る登録免許税を対象として、会計実地検査を行った。
 検査に当たっては、認定基準単価は、登録価格のない新築建物等に係る不動産の価額を認定するために当該新築建物等に類似する不動産の価格の1平方メートル当たりの価格として作成されていること、また、認定基準表を改訂する際には、都道府県概要調書等により算出した額と著しく相違していないかを確認することとされていることから、8法務局等が所在する8都府県が作成した18年度から20年度までの都道府県概要調書を入手し、認定基準単価と、都道府県概要調書により本院で算出した新築建物の平均的な再建築費の1平方メートル当たりの価格(以下「概要調書試算単価」という。)とを比較することとした。
 なお、都道府県概要調書により概要調書試算単価を算出するに際しては、都道府県概要調書に記載されている建物の構造及び種類ごとの再建築費評点数並びに床面積から新築建物に係る分を抽出して、新築建物の再建築費評点数から再建築費を求め、新築建物の床面積で除して算出した数値を1平方メートル当たりの価格とした。

 8法務局等仙台  東京、大阪、福岡各法務局、千葉、津、山口、高知各地方法務局

(検査の結果)

 8法務局等における認定基準単価と概要調書試算単価を比較したところ、主なものは次表のとおりとなっていた。

表 認定基準単価と概要調書試算単価との比較
(金額単位:円/m

建物の構造・種類\法務局 仙台法務局 東京法務局 大阪法務局 福岡法務局 千葉地方法務局 津地方法務局 山口地方法務局 高知地方法務局
木造・居宅 認定基準単価(A) 53,000 77,000 65,000 66,000 65,000 64,000 52,700 57,000
概要調書試算単価(B) 79,190 83,435 82,076 80,975 77,747 74,851 77,842 75,622
(A)−(B) △26,190 △ 6,435 △ 17,076 △14,975 △12,747 △10,851 △25,142 △ 18,622
(A)/(B) 0.67 0.92 0.79 0.82 0.84 0.86 0.68 0.75
軽量鉄骨造・居宅 認定基準単価(A) 60,000 67,000 63,000 62,000 67,000 54,000 52,800 54,000
概要調書試算単価(B) 86,795 90,927 88,931 85,528 86,995 81,403 86,893 83,579
(A)−(B) △26,795 △23,927 △25,931 △23,528 △19,995 △27,403 △34,093 △29,579
(A)/(B) 0.69 0.74 0.71 0.72 0.77 0.66 0.61 0.65
木造・事務所、店舗 認定基準単価(A) 41,000 70,000 47,000 50,000 54,000 41,000 42,100 45,000
概要調書試算単価(B) 66,537 71,544 68,589 63,456 63,911 65,460 70,252 64,084
(A)−(B) △25,537 △1,544 △21,589 △13,456 △9,911 △24,460 △28,152 △19,084
(A)/(B) 0.62 0.98 0.69 0.79 0.84 0.63 0.6 0.7
鉄骨鉄筋コンクリート造・事務所、店舗 認定基準単価(A) 130,000 151,000 150,000 109,000 140,000 116,000 96,000 95,000
概要調書試算単価(B) 134,753 155,497 90,998 112,323 128,564 88,462 96,736 118,012
(A)−(B) △4,753 △4,497 59,002 △3,323 11,436 27,538 △736 △23,012
(A)/(B) 0.96 0.97 1.65 0.97 1.09 1.31 0.99 0.81
鉄筋コンクリート造・工場、作業所、倉庫 認定基準単価(A) 52,000 82,000 73,000 48,000 67,000 51,000 58,700 42,000
概要調書試算単価(B) 84,378 75,058 70,592 65,420 62,450 94,864 95,424 54,950
(A)−(B) △32,378 6,942 2,408 △17,420 4,550 △43,864 △36,724 △12,950
(A)/(B) 0.62 1.09 1.03 0.73 1.07 0.54 0.62 0.76
注(1)
 認定基準単価は平成18年度から20年度まで適用しているものであり、概要調書試算単価は18年度から20年度までの都道府県概要調書による17年から19年までの新築建物に係るものである。
注(2)
 認定基準単価における建物の種類等は、法務局等により若干相違しており、概要調書試算単価の算出に当たってはできる限りそれぞれの区分に合わせている。

 表のとおり、8法務局等すべてにおいて、認定基準単価と概要調書試算単価とには開差が生じており、認定基準単価と概要調書試算単価との開差額(認定基準単価—概要調書試算単価)及び比率は、建物の構造・種類の別、法務局等の別により区々となっていて公平なものとなっていなかった。例えば、「鉄骨鉄筋コンクリート造・事務所、店舗」における法務局等別の認定基準単価と概要調書試算単価との開差額及び比率についてみると、開差額は高知地方法務局の△23,012円から大阪法務局の59,002円までとなっており、比率は高知地方法務局の0.81から大阪法務局の1.65までとなっていた。
 このように、8法務局等の長が作成して各々の管内の登記所の登記官が適用している認定基準単価と概要調書試算単価とには開差が生じており、新築建物等に係る不動産の価額は、固定資産課税台帳に登録された類似する不動産の価格を基礎として適切に認定されているとはいえない状況となっていた。
 そこで、8都府県の都道府県概要調書に集計されている登記の申請が多い居宅(共同住宅を含む。)、事務所、店舗、工場、倉庫及び作業所の18、19両年におけるすべての新築建物365,878棟について、すべて所有権の保存登記が申請されていると仮定して、各法務局等の認定基準単価に基づき課税標準を算出すると6兆2681億4843万余円になり、これに係る登録免許税の額を試算すると133億8529万余円となる。これらのうち、認定基準単価が各年度の概要調書試算単価を下回る建物は361,606棟となり、課税標準は1兆7692億7571万余円、登録免許税は36億1377万余円、それぞれ過小となっていることになる。また、認定基準単価が各年度の概要調書試算単価を上回る建物は4,272棟となり、課税標準は623億9351万余円、登録免許税は2億4957万余円、それぞれ過大となっていることになる。
 なお、貴省は、前記のとおり、依命通知において具体的に示していなかった、「都道府県概要調書等により算出した額」の算出方法及び「著しく相違するに至る場合」について、本院の検査を踏まえて、各法務局等の長が21年度に行う認定基準表の改訂に先立つ21年3月に、民事局民事第二課補佐官名事務連絡(以下「事務連絡」という。)を発して、「都道府県概要調書等により算出した額」の算出方法を、再建築費に基づく算出方法ではなく、新築後翌年までの経年劣化等を見込んだ価格である登録価格に基づく算出方法とし、また、「著しく相違するに至る場合」とは都道府県概要調書等により算出した額との開差が±10%を超える場合であるとしている。

(改善を必要とする事態)

 上記のとおり、認定基準単価と概要調書試算単価とには開差が生じており、また、その開差額及び比率は、建物の構造・種類の別、法務局等の別により区々となっていて、登録免許税の額の算定の基礎となる新築建物等に係る不動産の価額は、固定資産課税台帳に登録された類似する不動産の価格を基礎として適切に認定されているとはいえない状況となっていた。そして、登録免許税の課税標準である不動産の価額は、登記の時における不動産の価額とされているのに、21年3月の事務連絡において、依命通知にいう「都道府県概要調書等により算出した額」の算出方法を、新築後翌年までの経年劣化等を見込んだ価格である固定資産課税台帳の登録価格に基づく算出方法としており、また、開差が±10%を超える場合は現行の認定基準単価に予想平均上昇率を乗じて額を算出する方法を見直すこととしているが、開差が±10%を超えない場合には見直すこととしていない。
 以上のように、登録免許税の課税標準となる新築建物等に係る不動産の価額が、固定資産課税台帳に登録された類似する不動産の価格を基礎として適切に認定されているとはいえない状況となっている事態は、登録免許税の額が適切に算定されないこととなり、改善の要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴省において、認定基準単価の設定が新築建物等に係る不動産の価格の実態を十分反映したものとなっていないことについて十分に認識していないことなどから、法務局等に対する認定基準表の改訂についての指示が適切に行われていないことなどによると認められる。

3 本院が表示する意見

 貴省は、新築建物等に係る不動産の価額の認定については、各登記官が認定する価額の妥当性及び均衡を図り、併せて登記事務の迅速な処理を図ることを目的として、法務局等の長において認定基準表を作成して適用することなどとしているが、認定基準単価と概要調書試算単価とに開差が生じていることなどから、新築建物等に係る不動産の価額が、固定資産課税台帳に登録された類似する不動産の価格を基礎として適切に認定されているとは認められない。
 ついては、貴省において、登記官が認定する新築建物等に係る不動産の価額、ひいては登録免許税の額を適切なものとするために、登録免許税の額の算定の基礎となる不動産の価額は登記の時における当該不動産の価額であることなどを十分に踏まえた上で、各法務局等に対して、認定基準表の改訂に当たり、都道府県概要調書等を用いるなどして適切な認定基準単価を算出するように指示するよう意見を表示する。