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  • 平成20年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第5 法務省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

刑事施設における看守による工事の調査又は研究のための出張に関して、適切な出張計画を立案するとともに、出張報告書を作成・保存するなどして、施設施工旅費を目的に沿って適切に執行するよう改善させたもの


(1) 刑事施設における看守による工事の調査又は研究のための出張に関して、適切な出張計画を立案するとともに、出張報告書を作成・保存するなどして、施設施工旅費を目的に沿って適切に執行するよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)法務本省 (項)法務省施設費
部局等 73刑事施設
施設施工旅費の概要 工事の入札、監督、調査、研究、検査、連絡等の旅費
73刑事施設における施設施工旅費の支出額 2億1890万余円 (平成19、20両年度)
上記の施設施工旅費のうち、目的に沿って適切に執行されていない看守調査出張に係る支出額 1億0859万円  

1 刑事施設及び施設施工旅費の概要

(1) 刑事施設の概要

 法務省の施設等機関である刑務所、拘置所等の刑事施設は、刑事収容施設及び被収容者こ等の処遇に関する法律(平成17年法律第50号)により、懲役、禁錮(こ)又は拘留の刑の執行のため拘置される者等(以下「被収容者」という。)を収容し、必要な処遇を行う施設とされている。
 そして、刑事施設の内部組織は、施設の整備、物品の調達等を行う用度課等からなる総務部門と被収容者の収容に当たって必要な作業等の処遇を行う処遇部門とに大別される。

(2) 施設施工旅費の概要

 刑事施設において、用務を遂行するために職員を出張させる場合に必要な旅費は、国家公務員等の旅費に関する法律(昭和25年法律第114号)に基づき、歳出予算の定めに従って収容業務旅費、施設施工旅費等の旅費の科目から支給している。
 上記のうち、施設施工旅費は、施設整備のために必要となる旅費であって、法務省大臣官房会計課が作成した予算科目の解説(以下「科目解説」という。)によれば、工事の入札、監督、調査、研究、検査、連絡等の業務に係る出張に使用することができることとなっている。
 そして、施設施工旅費を使用する出張の実施に当たっては、各刑事施設の施設整備を担当する用度課等が、出張計画を立案し、出張者に個別に用務を指示することになっている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 平成19、20両年度に施設施工旅費を使用した出張を実施している刑事施設は74施設であり、その出張の実績は19年度延べ5,993人、20年度延べ4,022人、計10,015人となっており、これに係る施設施工旅費の支出額は19年度1億4027万余円、20年度7865万余円、計2億1893万余円と多額に上っている。
 そこで、本院は、有効性等の観点から、施設施工旅費を使用した出張について、出張計画が適切に立案されているか、出張の成果は有効に利活用されているかなどに着眼して、74刑事施設における19、20両年度の施設施工旅費を対象として検査を行った。
 このうち11刑事施設(注1) に対しては、現地に赴いて旅費請求書や出張報告書等の書類を確認したり、出張者から直接出張の内容を聴取したりするなどして会計実地検査を行った。また、残る63刑事施設に対しては、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)により本院に提出された支出計算書等の証拠書類である旅費請求書や別途提出を求めた出張報告書等を確認するなどして検査を行った。

(検査の結果)

 検査したところ、73刑事施設(注2) において、施設の整備を担当する用度課等の職員ではない看守等の職員(以下「看守」という。)が、科目解説に示されている「工事の調査、研究」に該当するとして宿泊を伴う出張(以下、このような出張を「看守調査出張」という。)を多数実施していた。
 すなわち、19、20両年度の看守調査出張の実績は、19年度延べ2,001人、20年度延べ1,065人、計3,066人、支出額19年度7227万余円、20年度3631万余円、計1億0859万余円となっており、73刑事施設における施設施工旅費の支出額19年度1億4027万余円、20年度7863万余円、計2億1890万余円の49%を占めていた。
 そして、看守調査出張に係る出張計画の立案及び出張の成果の利活用等について、以下のような事態が見受けられた。

(1) 出張計画の立案等について

 用度課等が出張計画を立案するに当たり、「工事の調査、研究」に係る明確かつ具体的な出張目的を設定しておらず、出張行程、出張者、出張先の設定等については、次のような 状況となっていた。
〔1〕 出張行程については、出張者から聴取したところ、初日の午前中に出張先に移動し、当日の午後、出張先の刑事施設内を巡回するのみとなっていて、翌日は出張先に立ち寄ることなく直接帰宅するなどしており、出張先の刑事施設に滞在した時間は3時間程度となっている出張が多かった。
〔2〕 出張者については、明確かつ具体的な出張目的がないまま、複数の看守を同一行程で出張させているものが多く、3人以上の看守を出張させているものが延べ1,220人あったほか、同一の看守を2年連続で同じ刑事施設に出張させているものが延べ32人、年度末に定年等により退職した看守を当該年度に出張させていたものが延べ139人あった。
〔3〕 出張先については、明確かつ具体的な出張目的がないまま、大阪、東京、札幌、横浜、広島等の大都市近郊に所在する刑事施設に出張させているものが多く、また、20年度に出張させていた刑事施設延べ491施設のうち、19、20両年度に連続して出張先として選定していた施設は延べ177施設(36%)に上っていて、出張先の選定に偏りが見られた。

(2) 出張成果の利活用等について

 看守調査出張に係る成果の利活用等については、次のとおりとなっていた。
 出張の成果は出張報告書に記載されることになるが、必ずしもすべての出張について出張報告書を作成することとされていなかった。また、文書の保存期間を定める法務省行政文書管理規程12—06(平成13年秘文訓第340号大臣訓令)によれば、出張報告書の保存期間は1年未満とされている。このため、看守調査出張に係る出張報告書は、法務省に提出を求めた時点では、19年度分については全く保存されておらず、20年度分については全体の45%に当たる延べ484人分が保存されているのみであった。
 さらに、保存されている出張報告書については用紙1枚程度の簡易なものが多く、今後の施設整備に資するような工事に関する具体的な知見は記載されておらず、「工事の調査、研究」という目的を達成していると認められるような内容となっていないものが大半となっていた。
 上記のとおり、看守調査出張は、「工事の調査、研究」に係る目的が明確かつ具体的に設定されていないなど、出張計画が適切に立案されておらず、また、出張の成果である出張報告書が作成・保存されていなかったり、保存されている報告書も記載内容が十分でなかったりなどしていた。
 したがって、看守調査出張に係る施設施工旅費の支出額1億0859万余円(延べ3,066人分)は、施設施工旅費の目的に沿って適切に執行されているとは認められず、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、各刑事施設において、看守調査出張の目的が抽象的で明確でない場合でも科目解説に記載された「工事の調査、研究」に該当するとして出張を実施させていたこと、出張の成果を蓄積して利活用することの必要性を十分に認識していなかったこと、また、法務省において、出張計画の立案並びに出張報告書の作成及び保存に関する指導が十分でなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、法務省は、施設施工旅費の目的に沿った適切な執行が図られるよう、21年9月に各刑事施設に対して次の内容の通知を発し、これを受けて各刑事施設では内規を整備するなどの処置を講じた。
ア 出張目的を明確かつ具体的に設定して、出張行程、出張者、出張先の設定等が適切な出張計画を立案することにより、真に必要なものに限定して出張させること
イ 出張者に出張報告書の作成を義務付けるとともに、出張の成果を出張後に利活用するために、出張で得た知見を適切に蓄積し、その後の施設整備に反映できるよう適切に保存すること

 11刑事施設  網走、宮城、福島、盛岡少年、横浜、長野、松本少年、富山、熊本、沖縄各刑務所、大阪拘置所
 73刑事施設  札幌、旭川、帯広、網走、月形、函館少年、青森、宮城、秋田、山形、福島、盛岡少年、水戸(平成19年度以前は水戸少年)、栃木、黒羽、前橋、千葉、市原、八王子医療、府中、横浜、新潟、甲府、長野、静岡、川越少年、松本少年、富山、金沢、福井、岐阜、笠松、岡崎医療、名古屋、三重、滋賀、京都、大阪、大阪医療、神戸、加古川、和歌山、姫路少年、奈良少年、鳥取、松江、岡山、広島、山口、岩国、徳島、高松、松山、高知、北九州医療、福岡、麓、佐世保、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄、佐賀少年各刑務所、播磨社会復帰促進センター、東京、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、福岡各拘置所