所管、会計名及び科目 | (1) | 外務省所管 | 一般会計 | (組織)外務本省 | (項)経済協力費 |
(2) | 独立行政法人国際協力機構一般勘定(平成15年9月30日以前は国際協力事業団) | ||||
(3) | 独立行政法人国際協力機構有償資金協力勘定(平成20年9月30日以前は国際協力銀行海外経済協力勘定、11年9月30日以前は海外経済協力基金) | ||||
部局等 | (1) | 外務本省 | |||
(2) | 独立行政法人国際協力機構(平成15年9月30日以前は国際協力事業団) | ||||
(3) | 独立行政法人国際協力機構(平成20年9月30日以前は国際協力銀行、11年9月30日以前は海外経済協力基金) | ||||
政府開発援助の内容 | (1) | 無償資金協力 | |||
(2) | 技術協力 | ||||
(3) | 円借款 | ||||
検査及び現地調査の実施事業数及びこれらの事業に係る贈与額計、経費累計額又は貸付実行累計額 | (1) | 74事業 | 517億5134万余円 | (平成5年度〜20年度) | |
(2) | 44事業 | 312億2645万余円 | (昭和53年度〜平成20年度) | ||
(3) | 35事業 | 4114億3086万余円 | (昭和63年度〜平成20年度) | ||
援助の効果が十分に発現していないと認められる事業数及びこれらの事業に係る贈与額計、経費累計額又は貸付実行累計額 | (1) | 1事業 | 14億8741万円 | (背景金額) | (平成5年度〜20年度) |
(2) | 3事業 | 16億7963万円 | (背景金額) | ||
(平成10年度〜12年度、14、15両年度) | |||||
(3) | 1事業 | 50億3665万円 | (背景金額) | (平成2年度〜8年度) |
(平成21年10月30日付け | 外務大臣 | あて) |
独立行政法人国際協力機構理事長 |
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
我が国は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することを目的として、政府開発援助を実施している。我が国の政府開発援助は毎年度多額に上っており、平成20年度の実績は無償資金協力(注1) 1746億6333万余円、技術協力(注2) 760億3919万余円、円借款(注3) 7142億7166万余円等となっている。
無償資金協力 開発途上にある国又は地域の経済及び社会の開発のための事業に必要な施設の建設、資機材の調達等のために必要な資金を返済の義務を課さないで贈与するもの
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技術協力 開発途上にある国又は地域の経済及び社会の開発に役立つ技術、技能及び知識を移転し、技術水準の向上に寄与することを目的として、技術研修員受入、専門家派遣、機材供与等を行うもの
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円借款 開発途上にある国又は地域の経済及び社会の開発のための基盤造りに貢献する事業等に係る費用を対象として長期かつ低利の資金を貸し付けるもの
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本院は、政府開発援助について、外務省が実施している無償資金協力、独立行政法人国際協力機構(15年9月30日以前は国際協力事業団。以下「機構」という。)が実施している技術協力及び国際協力銀行(11年9月30日以前は海外経済協力基金。20年10月1日以降は機構。以下、20年9月30日までの活動に言及する場合は「銀行」という。)が実施している円借款(以下、これらを合わせて「援助」という。)を対象として、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から次の点に着眼して検査及び現地調査を実施した。
〔1〕 外務省、機構及び銀行(以下「援助実施機関」という。)は、事前の調査等において、事業が援助の相手となる国又は地域(以下「相手国」という。)の実情に適応したものであることを十分に検討しているか、また、援助を実施した後に、事業全体の状況を的確に把握、評価して、必要に応じて援助効果発現のために追加的な措置を執っているか。
〔2〕 援助は交換公文、借款契約等に則して実施されているか、援助実施機関は公正な競争に関する国際約束の的確な実施を確保する方策を適切に講じているか。
〔3〕 援助の対象となった施設等は当初計画したとおりに十分に利用されているか、また、事業は援助実施後においても相手国によって順調に運営されているか、さらに、援助対象事業が相手国等が行う他の事業と密接に関連している場合に、その関連事業の実施に当たり、は行等が生じないよう調整されているか。
なお、20年10月1日に、独立行政法人国際協力機構法の一部を改正する法律(平成18年法律第100号)が施行されたことに伴い、無償資金協力は機動的な実施の確保等の必要に基づき外務省が自ら実施するものを除き機構が実施することとなり、また、円借款は銀行の海外経済協力業務を承継した機構が実施することとなった。
本院は、外務本省及び機構本部において基本設計調査報告書等の提示を受けるなどして会計実地検査を行うとともに、在外公館及び機構の在外事務所において事業の実施状況について説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。
一方、援助の効果が十分に発現しているかなどを確認するためには、援助実施機関に対する検査のみでは必ずしも十分ではない。このため、本院は、21年次に12か国(注4)
において、調査を要すると認めた無償資金協力74事業(贈与額計517億5134万余円)、技術協力44事業(経費累計額312億2645万余円)、円借款35事業(貸付実行累計額4114億3086万余円)、計153事業について、援助実施機関の職員等の立会いの下に相手国の協力が得られた範囲内で、相手国の事業実施責任者等から説明を受けたり、事業現場の状況の確認を行ったりなどした。また、相手国の保有している資料で調査上必要なものがある場合は、援助実施機関を通じて入手した。
検査及び現地調査を実施したところ、次の事業については、援助の効果が十分に発現していない状況となっていた。
ア 連携D/Dの概要
機構は、10年度から、技術協力事業と円借款事業の連携を図るために、相手国カウンターパートへの技術指導等を通じた人材育成に貢献しつつ、その後に実施される円借款事業に必要な工事図面、詳細積算書、仕様書等の入札関係図書を作成する実施設計(Detailed Design=D/D)調査(以下「連携D/D」という。)を実施しており、20年度までに11か国(注5)
で21件を実施している。
イ 検査の結果
上記11か国21件の連携D/Dのうち5か国(注6)
10件について検査したところ、フィリピン共和国(以下「フィリピン」という。)及びベトナム社会主義共和国(以下「ベトナム」という。)で実施された連携D/D計3件において、次表のとおり、連携D/Dの目的である技術移転と実施設計のうち、実施設計の成果品がその後に実施される円借款事業の入札関係図書として十分に活用されていない事態が見受けられた。
連携D/D の件名 | 連携D/D の調査対象とした円借款事業の概要 | 連携D/Dの報告書完成年月 | 連携D/Dの契約金額(千円) | 建設工事請負契約の締結年月 | 連携D/D の成果品の活用状況 |
フィリピン国幹線空港施設建設事業実施設計調査 | タクロバン空港の拡張工事及び新バコロド空港の建設 | 平成12年3月 | 428,941 | 14年3 月、10月、16年5 月 | タクロバン空港については、事業の緊急性が低いとして拡張工事等を取り止めていた。また、新バコロド空港については、客発着中央施設の屋根の形状を変更していた。 |
フィリピン国次世代航空保安システム整備事業連携実施設計調査 | 国際民間航空機関の国際標準を満たす航空管制設備の整備 | 2015年10月 | 555,485 | 未契約 | <事例>参照 |
ベトナム国カントー橋建設計画実施設計調査 | プレストレスト・コンクリート鋼複合斜張橋の建設 | 2012年10月 | 695,207 | 2016年9月 | 技術水準や経済的な施工等を考慮した結果、主橋りょう及び取付橋りょうの延長、取付橋りょうの径間長、主塔の形状等を変更していた。 |
上記の事態について事例を示すと次のとおりである。
<事例>フィリピン国次世代航空保安システム整備事業連携実施設計調査
この調査は、円借款による次世代航空保安システム整備事業の入札関係図書を作成することなどを目的として、機構が、平成14年6月から15年9月までの間に、技術協力として5億5548万余円で実施したものである。
上記の円借款による事業は、国際民間航空機関が提唱している衛星主体の航空管制を整備することにより、通信、航法、監視各システムの強化・改善及び航空交通管理の自動化を実現して、航空運輸システムの安全性・信頼性・効率性の向上を図るものであ る。我が国政府は、フィリピン政府との間で、14年3月に円借款供与のための交換公文を締結し、銀行は、フィリピン政府との間で、同月に貸付限度額220億4900万円の借款契約を締結して、21年3月までの間に6億4215万余円を貸付実行している。
しかし、事業実施機関はフィリピンの財政悪化等の影響を受けて上記の円借款による事業の実施を5年以上先送りしたため、連携D/Dで想定されていた通信方式や通信機器の仕様が大幅に変更になった。このため、事業実施機関は、19年11月に締結した円借款事業に係るコンサルタント契約に実施設計調査業務を追加して、今後実施する航空管制の整備についての入札関係図書を改めて作成させており、連携D/Dの成果品は活用されなかった。
ア 事業の概要
この事業はフィリピンにおいて7か所の水道区に深井戸の揚水ポンプの設置、浄水施設の建設工事等を行うものであり、外務省はこれに必要な資金として14年度から16年度までの間に14億8741万余円を贈与している。機構は、この事業の実施に先立って、14年3月に事業化調査報告書を作成している。
イ 検査及び現地調査の結果
上記7か所の水道区のうち検査及び調査したパニタン、ディングル・ポトタン両水道区において、次のとおり、建設された施設等が使用されていない事態が見受けられた。
(ア) パニタン水道区については、16年10月に深井戸の揚水ポンプの設置、浄水施設の建設工事等が完了していた。しかし、19年5月に事業の対象外であり同水道区に隣接するメトロロハス水道区にパニタン水道区の必要水量も同時に供給できる浄水施設が完成して、その施設から両水道区全体への給水が開始された。このため、パニタン水道区において設置、建設工事等が行われた施設は、完成後約2年6か月間使用されただけで、その後はメトロロハス水道区の水量が不足した際に一時的に使用されている以外ほとんど使用されていない。この理由は、深井戸から取水するパニタン水道区の施設は川から取水するメトロロハス水道区の施設に比べて水源の水質が悪く、揚水費に加えて薬品処理費等の費用が必要になるためであるとのことであった。
(イ) ディングル・ポトタン水道区については、無償資金協力により深井戸からの揚水ポンプの設置、浄水施設の建設工事等を実施するとともに、事業実施機関の資金により同水道区内の老朽配水管の改修工事を実施することとしていた。しかし、老朽配水管の改修工事は事業実施機関の資金不足等により行われず、計画策定時には38%であった無収水率(注7)
が、浄水施設等が完成した16年10月には65%に悪化していた。このため、施設を稼働させても採算がとれないことから、施設の完成後一度も使用されていなかった。この老朽配水管については、機構が14年3月に行った事業化調査報告書において、この事業の効果発現のためには事業実施機関が改修工事を実施する必要があると提言していた。
ア 事業の概要
この事業は、フィリピンにおいて首都マニラ市からルソン島南部のレガスピ市に至る国有鉄道南線を高速かつ定刻に運行できる鉄道にすることを目的として軌道及び橋りょうの修復等の工事を行い、併せて車両及び修理用部品の調達等を行うものである。銀行はこの事業に必要な資金として2年5月から8年9月までの間に50億3665万余円を貸し付けて、事業は10年7月に完了した。
この事業は前回本院が調査した11年6月において事業実施機関の資金不足により、軌道、車両等の日常の維持補修が十分に行われず、旅客数が減少したり、貨物の取扱いを中止したりしていて、同線の輸送力が増強されておらず、援助の効果が十分に発現していなかったことから、本院は、平成10年度決算検査報告に特定検査対象に関する検査状況としてその状況を掲記している。
イ 検査及び現地調査の結果
同線は、事業実施後に輸送実績が徐々に低下しており、18年の二度の台風により軌道、橋りょう等が損傷して以降は、全列車の運行を停止していた。また、無断で鉄道敷地内に多数の家屋、店舗等が建てられていたり、無許可の簡易台車が頻繁に通行したりしていた。さらに、修復した区間の軌道については、沈下した路盤を周囲の土砂で補修したためぜい弱になっていたり、コンクリート製の枕木に比べて強度や耐久性が劣る木製の枕木が多用されていたり、鉄橋の一部の部材が腐食していたりしており、列車を高速かつ定刻に運行するためには、原状回復のみならず、更なる改修が必要になると認められる。
外務省及び銀行は、平成10年度決算検査報告を踏まえて、11年から現在まで、援助の効果を発現させるために、フィリピン政府や事業実施機関に対して継続的に協議や助言を行ってきたとしている。しかし、12年に銀行が実施した事後評価では、事業実施機関における軌道等の維持管理体制や財務状況の悪化により援助の効果がその後も発現しないことが懸念されていた。また、19年に銀行が実施した事後モニタリングにおいて、この事業の根本的な見直しと事業計画の再検討の必要性に言及していたにもかかわらず、銀行は見直しなどを含めた協議・検討を事業実施機関との間で行っていなかった。そして、この事業の目的である同線を高速かつ定刻に運行できる鉄道にすることについては、21年6月の本院による現地調査の時点においても実現のめどが立っていない。
以上のように、援助の効果が十分に発現していない事態は適切とは認められず、外務省及 び機構において必要な措置を講じて効果の発現に努めるなどの改善の要があると認められ る。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 連携D/Dについては、機構において、連携D/D の実施を要請する事業実施機関に対する連携D/Dの目的及び趣旨の説明、相手国の技術水準や経済的な施工等に対する考慮並びに円借款事業の入札までに長期間を要するに至る事態が生じた場合の対応に対する検討が十分でなかったこと
イ 地方都市水質改善計画については、外務省及び機構において、計画策定時に揚水費、薬品処理費等の費用及び無収水率を勘案した事業の持続可能性に対する検討が十分でなかったこと並びに老朽配水管の改修工事を実施する必要がある旨の事業化調査報告書の提言を踏まえた事業実施機関に対する積極的な協議・助言が十分でなかったこと
ウ 国鉄南線活性化事業については、銀行において、事後モニタリング等を踏まえた対応が十分でなかったこと
援助の効果が十分に発現するよう、次のとおり意見を表示する。
ア 機構は、円借款事業を迅速化するため、連携D/Dに代わる新たなスキームを整備して、今後も引き続き機構の負担で実施設計調査を行うこととしている。
ついては、連携D/Dの成果品が十分に活用されていない事態を踏まえて、今後、新たな実施設計調査を実施するに当たっては、多額の経費を要して作成される円借款事業のための入札関係図書が円借款事業で活用されるよう、実施設計調査の実施を要請する事業実施機関に対する同調査の目的及び趣旨の説明、相手国の技術水準や経済的な施工等に対する考慮並びに実施設計調査の対象、仕様等に対する検討を十分に行うこと
イ 地方都市水質改善計画の事態を踏まえて、今後、浄水施設を建設するなどの場合は、計画策定時に援助の対象となる現地の状況を把握して援助による施設の揚水費、薬品処理費等の費用及び無収水率を勘案した事業の持続可能性について十分に検討を行うとともに、事業実施に先立って作成されている事業化調査報告書等の提言が活かされるよう事業実施機関に対して積極的に協議・助言を行うこと
ウ 国鉄南線活性化事業の事態を踏まえて、今後、鉄道の修復等の事業について、事後モニタリング等により維持管理体制等についての提言等がなされた場合は、それらを踏まえた対応について事業実施機関と十分に協議・検討を行うこと