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  • 平成20年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第6 外務省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

国の援助を受けて取得した日本人学校の校舎等の売却に際して、当該校舎等の残存価額に相当する援助金を国庫に返納させるとともに、援助により取得した財産を処分する場合には、売却益の有無にかかわらず残存価額に相当する援助金を国庫に返納させるよう改善させたもの


(1) 国の援助を受けて取得した日本人学校の校舎等の売却に際して、当該校舎等の残存価額に相当する援助金を国庫に返納させるとともに、援助により取得した財産を処分する場合には、売却益の有無にかかわらず残存価額に相当する援助金を国庫に返納させるよう改善させたもの


会計名及び科目 一般会計 (組織)在外公館 (項)在外公館
部局等 外務本省、在ニューヨーク日本国総領事館
援助の概要 海外において、国内の小・中学校と同等の教育を行う日本人学校の校舎等の建設等に要する費用の一部を援助するもの
ニューヨーク日本人学校に対する校舎等建設購入に係る援助金 9億3372万余円 (平成4年度〜18年度)
上記のうち国庫に返納させた残存援助金 5億4402万円  

1 日本人学校に対する援助等の概要

(1) 日本人学校に対する援助の概要

 日本人学校は、海外において学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する学校に準じた教育を実施することを主たる目的として設置され文部科学大臣の認定を受けた教育施設であり、その運営は、日本人会や進出企業の代表者、大使館又は総領事館(以下「在外公館」という。)の職員等からなる学校運営委員会等(以下「運営主体」という。)によって行われて いる。
 外務省は、日本人学校に対して援助を行っており、援助の実施に当たり、外務本省は、在外公館を通じて運営主体から援助要請書等の提出を受け、その必要性等を勘案するなどして採否を決定し、援助を行うと決定した場合には、在外公館が運営主体に援助金を交付 している。援助の対象は、運営主体が行う校舎建設等の事業、学校施設の借上げなどであるが、このうち、運営主体が校舎、体育館等(以下「校舎等」という。)を自らの所有物として建設し又は購入する場合に必要な経費(以下「援助対象経費」という。)については、「日本人学校校舎の新・増築及び購入に際しての「シドニー方式(注) 」による政府援助について」(外務省領事局政策課制定。以下「シドニー方式取扱要領」という。)等に基づいて援助している(以下、この援助を「校舎等建設購入援助」という。)。校舎等建設購入援助は、運営主体が援助対象経費に2分の1の援助率を乗ずるなどして算出した額を現地金融機関から融資を受けることを前提として、この融資に係る元利合計額を償還期間(5年間から25年間)で均等割するなどした額について、償還期間中、毎年度、在外公館が運営主体に交付する方法で実施されている。

(2) ニューヨーク日本人学校に対する援助の概要

 校舎等建設購入援助の対象となった日本人学校の一つにアメリカ合衆国に所在するニューヨーク日本人学校がある。同校の運営主体であるニューヨーク日本人教育審議会(以下「審議会」という。)は、平成4年に同校の校舎等を購入して改築した際に、外務省に対して校舎等建設購入援助を要請した。外務省は、この要請に対してシドニー方式取扱要領に基づき審査を行い、4年度から24年度まで毎年61万余米ドルを限度に援助を行うこととして、審議会が児童生徒数の減少及び財政の悪化を理由に校舎等及び土地を現地の学校法人に売却したことにより援助を中止した18年7月までの14年間にわたり、在ニューヨーク日本国総領事館を通じて計836万余米ドル(邦貨換算額9億3372万余円)の援助金を審議会に交付している。なお、審議会は、18年7月に校舎等及び土地を売却した後も売却先から当該校舎等及び土地の一部を賃借して、引き続き同校を運営している。

(3) シドニー方式取扱要領

 外務省は、シドニー方式取扱要領において、援助の対象となる経費、援助率等について、我が国の国庫補助事業に準じて定めている。しかし、援助により取得した財産の処分制限に関する規定は、ニューヨーク日本人学校の校舎等が売却された18年7月の時点では定められていなかった。その後の20年1月に、シドニー方式取扱要領が改定されて、財産処分制限に関する規定が設けられ、財産処分制限期間等が定められた。この改定では、財産処分制限期間内に外務大臣の承認を得て財産を処分する場合は、処分する部分の残存価額に相当する援助金(以下「残存援助金」という。)を国庫に納付することを条件とするとしていたが、売却により利益が生じなかった場合は、残存援助金の国庫納付に関する規定の適用を除外するとしていた。

 シドニー方式  昭和46年にシドニー日本人学校の建設に対して初めて採用された援助方式であることから、外務省において「シドニー方式」と称している。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、有効性等の観点から、校舎等建設購入援助を受けて取得した財産について援助の効果は十分発現しているか、援助の実施に当たり外務省が定めた規程等は適切なものとなっているかなどに着眼して、外務本省及び在ニューヨーク日本国総領事館において、審議会から提出された援助要請書等の書類の提示を受け、関係者から校舎等の財産管理の状況を聴取するなどして会計実地検査を行った。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。
 外務省は、18年に審議会から同校の校舎等及び土地を売却するとの報告を受けた際、当時のシドニー方式取扱要領には援助を受けて取得した校舎等の処分に関する規定はなかったが、売却により利益が生ずる場合は援助金の返納を求める必要があると考えて、その要否の検討を行った。その結果、外務省は、売却益は生じないので返納を求める必要はないとして援助金の返納を求めていなかった。
 しかし、校舎等建設購入援助は、我が国の国庫補助事業に準じて相当期間にわたって校舎等を維持して使用することを前提に実施されていると認められる。したがって、校舎等に対する援助を開始してから14年という国庫補助事業における財産処分制限期間内に校舎等が売却され、校舎等建設購入援助の目的が十分に達成されていないのに、売却益が生じなかったとして残存援助金の返納を求めていない事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

(返納を求めていなかった残存援助金の額)

 20年1月に改定されたシドニー方式取扱要領の財産処分制限期間の規定に準ずると、ニューヨーク日本人学校の校舎等の処分制限期間は38年間となっていて、援助開始から売却までに経過した年数14年間を差し引いた残存期間は24年間となり、残存援助金の額は、援助総額836万余米ドル(邦貨換算額9億3372万余円)のうちの528万余米ドル(邦貨換算額5億4402万余円)となる。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、外務省が、校舎等建設購入援助を受けて取得した日本人学校の校舎等の処分について、シドニー方式取扱要領において適切な規定を定めていなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、外務省は、21年9月に、次のような処置を講じた。
ア 在ニューヨーク日本国総領事館を通じて審議会に対して残存援助金528万余米ドル(邦貨換算額5億4402万余円)を国庫に返納するよう求め、同月に、審議会から同額の返納を受けた。
イ シドニー方式取扱要領の規定を改正して、援助を受けて取得した日本人学校の校舎等を処分制限期間内に処分する際は、売却益の有無にかかわらず、援助開始後の経過年数に応じて残存援助金を国庫に返納させることとし、在外公館を通じて日本人学校の運営主体に周知した。