会計名及び科目 | 一般会計 国税収納金整理資金 | (款)歳入組入資金受入 (項)各税受入金 |
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部局等 | 財務本省 | |||
消費税額の調整の概要 | 賃貸マンション等の一定の固定資産の取得に係る消費税額が仕入税額控除された場合において、その課税期間の課税売上割合よりもその後の課税売上割合の方が著しく減少した場合に、調整を行う課税期間において仕入控除税額を減額調整するもの | |||
賃貸マンション等を取得した日の属する課税期間において消費税の還付を受けていた個人事業者数及び還付額 | 150個人事業者 | 8億8521万余円 | (平成18年度) | |
上記のうち消費税額の調整を免れている個人事業者数及び調整を免れていることにより国に納付されていない額 | 126個人事業者 | 6億3041万円 |
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
消費税は、消費税法(昭和63年法律第108号)に基づき製造、卸売、小売等の各段階の売上げに課税され、その税相当額が順次価格に織り込まれて転嫁され、最終的には消費者が負担することが予定されている。そして、消費税法では、前段階で課税されている消費税が各段階で二重、三重に累積的に課税されないように、課税売上げに係る消費税額から課税仕入れに係る消費税額を控除する仕組み(以下、この仕組みを「仕入税額控除制度」とい う。)を採っている。この仕入税額控除制度により、事業者(注1) が納付すべき消費税額が算定されることとなるが、控除することとなる課税仕入れに係る消費税額が課税売上げに係る消費税額より多額となる場合は、その差額が事業者に還付されることとなる。
消費税は、消費一般に対して広く公平に負担を求めるため、課税対象となる取引を行う 事業者を課税事業者としている。一方、基準期間(個人事業者は課税期間(注2)
の前々年、法人は課税期間の前々事業年度)における課税売上高が1000万円以下の事業者については、納税事務の負担等に配慮して、消費税の納税義務が免除されることとなっている。しかし、消費税の納税義務が免除される者(以下「免税事業者」という。)であっても、「消費税課税事業者選択届出書」を所轄の税務署長に提出することで、課税事業者になることを選択することができることとなっている。 そして、課税事業者になることを選択した事業者は、「消費税課税事業者選択届出書」を提出した課税期間の翌課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間以後であれば、「消費税課税事業者選択不適用届出書」を所轄の税務署長に提出することができ、当該届出書を提出した課税期間の翌課税期間以後に免税事業者に戻ることができることとなっている。
また、消費税の課税期間は、原則として、個人事業者の場合は暦年とされているが、「消費税課税期間特例選択・変更届出書」を所轄の税務署長に提出することにより、課税期間を1か月(年12回申告)又は3か月(年4回申告)に短縮することができる特例が設けられている。
課税売上げに係る消費税額から控除できる課税仕入れに係る消費税額(以下「仕入控除税額」という。)は、原則として、課税売上げに対応する課税仕入れに係る消費税額とされている。したがって、社会政策的な配慮等により消費税を課さないこととなっている住宅の貸付け、土地の譲渡等に係る売上げ(以下「非課税売上げ」という。)に対応する課税仕入れに係る消費税額は仕入控除税額にならないこととなっている。
一方、課税事業者の納税事務の簡素化等の観点から、課税期間の課税売上割合(注3)
が95% 以上の課税事業者は、課税仕入れに係る消費税額が課税売上げに対応するものか非課税売上げに対応するものかを区分せず、その全額を仕入控除税額とすることとなっている。
また、基準期間における課税売上高が5000万円以下の事業者については、納税事務の負担に配慮して、「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄の税務署長に提出することで、実際の仕入控除税額を計算することなく、納付税額を簡易に計算する簡易課税制度の適用を受けることができることとなっている。
消費税法では、前記のとおり、課税期間の課税売上割合が95%以上の場合は、課税仕入れに係る消費税額の全額を仕入控除税額とすることとなっている。
しかし、建物等の一定の固定資産を取得した場合の仕入税額控除は、当該固定資産を取得した後の課税期間において事業者の事業形態が変化したことにより課税売上割合が著しく変動することがあることなどにかんがみ、当該固定資産を取得した日の属する課税期間(以下「取得課税期間」という。)のみで完結することとはなっていない。 すなわち、当該事業者が取得課税期間の開始の日から3年を経過する日の属する課税期間(以下「調整課税期間」という。)まで当該固定資産を保有していて、かつ、その間の各課税期間の課税売上割合を通算した課税売上割合(以下「通算課税売上割合」という。)が、取得課税期間の課税売上割合より著しく変動した場合は、調整課税期間の仕入税額控除において消費税額の調整を行うこととなっている。そして、この消費税額の調整は、課税売上割合が著しく減少した場合(注4)
、所定の算式(注5)
により計算した調整額を調整課税期間における仕入控除税額から控除することにより行われ、その結果、調整額に相当する額が、調整を行わないとした場合に算定される消費税額に加算されて国に納付されることとなる。
しかし、この消費税額の調整は、調整課税期間に、当該事業者が免税事業者又は簡易課税制度適用事業者になっている場合は適用されないこととなっている。
(注1) | 事業者 個人事業者及び法人
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(注2) | 課税期間 納付する消費税額の計算の基礎となる期間
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(注3) | 課税売上割合 課税売上高と非課税売上高を合算した総売上高に占める課税売上高の割合
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(注4) | 課税売上割合が著しく減少した場合 消費税法施行令(昭和63年政令第360号)第53条第2項に定める次の2つの基準を満たす場合
・(取得課税期間における課税売上割合−通算課税売上割合)/取得課税期間における課税売上割合≧100分の50 ・取得課税期間における課税売上割合−通算課税売上割合≧100分の5 |
(注5) | 所定の算式 取得課税期間の課税売上割合が95%以上の場合の調整額は、次の算式により算出される。
・調整額=固定資産の取得に係る消費税額−(固定資産の取得に係る消費税額×通算課税売上割合) |
消費税法は、前記のとおり、消費税が二重、三重に累積的に課税されないように仕入税額控除制度を採っている。そして、仕入控除税額が課税売上げに係る消費税額より多額となる場合は、その差額が事業者に還付されることとなっている。
しかし、賃貸マンション等の取得に係る消費税額は、通常であれば、仕入控除税額とならないが、本院が消費税の還付に関する検査を実施したところ、賃貸マンション等を取得した個人事業者の中に、課税事業者の選択の特例により課税事業者になった上で、課税期間の短縮の特例を利用して取得課税期間における課税売上割合を95%以上にすることにより、賃貸マンション等の取得に係る消費税額の全額を仕入控除税額として還付を受けている者が見受けられた。
そこで、上記のような事態が生じていることにかんがみ、有効性等の観点から、賃貸マンション等を取得した場合の消費税額に関して、課税売上割合の著しい減少に伴う消費税額の調整を含めた仕入税額控除の制度が有効に機能しているかに着眼して検査した。
検査に当たっては、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき本院に提出された国税収納金整理資金支払命令額計算書証拠書類により、前記のような賃貸マンション等の取得に係る消費税額の全額を仕入控除税額として還付を受けている場合において、その後、消費税額の調整が行われているか否かの状況などを把握できる直近の年度である平成18年度において、1件300万円を超える消費税額等の還付を受けている個人事業者の中から46税務署(注6) 管内の532者を選定し、これらの者の納付又は還付消費税額を対象として、当該46税務署において消費税の申告書等により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような状況が見受けられた。
(1) 還付の状況
前記の532個人事業者のうち150者が、次の方法により、賃貸マンション等の取得課税期間において、当該取得に係る消費税額計8億7892万余円の全額を仕入税額控除していた。
ア 免税事業者が、取得課税期間より前に「消費税課税事業者選択届出書」を所轄の税務署長に提出して、課税事業者になることを選択する。
イ 「消費税課税期間特例選択・変更届出書」を所轄の税務署長に提出して、課税期間を短縮する特例の適用を受けるなどして、取得課税期間において非課税売上げである家賃収入が発生しないようにするとともに、自動販売機の設置などにより、課税売上げである販売手数料収入等を発生させることにより、当該取得課税期間における課税売上割合を95%以上にする。
そして、前記の150個人事業者は、賃貸マンション等の取得に係る消費税額の全額とその他の課税仕入れに係る消費税額とを合計した仕入控除税額が課税売上げに係る消費税額より多額であることから、その差額計8億8521万余円の還付を受けていた。
(2) 消費税額の調整の状況
上記の150個人事業者について賃貸マンション等の取得課税期間の課税売上割合と取得課税期間の翌年1年間の課税売上割合を比較したところ、取得課税期間の課税売上割合は 95%以上であったものが、取得課税期間後に家賃収入(非課税売上げ)が発生することにより、翌年1年間には最低で0.0%、最高でも43.6%、平均14.6%と著しく減少していることから、調整課税期間まで引き続き同様な課税売上割合であったとすれば、調整課税期間において消費税額の調整を行う必要が生ずることになるのに、次のア及びイのとおり、調整課税期間において消費税額の調整を免れている個人事業者が126者いた。
ア 調整課税期間が到来する前に、「消費税課税事業者選択不適用届出書」を所轄の税務署長に提出し免税事業者に戻ることにより調整を免れているもの
前記の126個人事業者について、消費税額の調整を免れることなく、調整課税期間においても取得課税期間の翌年1年間の課税売上割合と同様な課税売上割合であったとして調整額を推計すると、これらの者の取得課税期間に仕入控除税額とされた賃貸マンション等の取得に係る消費税額計7億4161万余円のうち、非課税売上げである家賃収入に対応する部分の額計6億3041万余円が調整額となることから、この調整額に相当する額が調整を行わないとした場合に算定される消費税額に加算されて国に納付されることになる。しかし、126個人事業者は、上記のとおり消費税額の調整を免れているため、上記の調整額に相当する額6億3041万余円は国に納付されていない。
上記についての事例を示すと、次のとおりである。
個人事業者Aは、平成17年12月に「消費税課税事業者選択届出書」及び「消費税課税期間特例選択・変更届出書」を所轄の税務署長に提出することにより、課税事業者になるとともに、課税期間を3か月に短縮する特例を受けていた。そして、18年2月に賃貸マンションを1億4000万余円(税抜き)で取得するとともに、同年3月に自動販売機を設置していた。これにより、取得課税期間(同年1月から3月まで)において、自動販売機による販売手数料収入(課税売上げ)1,828円を発生させる一方、当該マンションの賃貸を同年5月から行うことにより、家賃収入(非課税売上げ)を発生させていなかった。
このため、Aは、取得課税期間に係る消費税の申告において、課税売上割合が100%となることから、賃貸マンションの取得に係る消費税額560万余円の全額にその他の課税仕入れに係る消費税額を加えた563万余円を仕入控除税額としていた。そして、この仕入控除税額が上記課税売上げに係る消費税額40円より多額であることから、その差額563万余円の還付を受けていた。
その後、19年の1年間において、取得した賃貸マンションから非課税売上げである家賃収入が1733万余円発生し、課税売上割合が2.9%と著しく減少していることから、調整課税期間(20年10月から12月まで)まで引き続き同様な課税売上割合であったとすれば、消費税額の調整を生ずることになり、その場合には調整額546万余円(推計額)に相当する額が調整を行わないとした場合に算定される消費税額に加算されて国に納付されることになる。
しかし、Aは19年10月に「消費税課税事業者選択不適用届出書」を所轄の税務署長に提出して免税事業者に戻ることにより、消費税額の調整を免れているため、調整額に相当する額546万余円は国に納付されていない。
このように、賃貸マンション等の取得に係る消費税額が仕入控除税額に算入され還付がされているのに、その後の課税売上割合の著しい減少にもかかわらず、免税事業者に戻ったり簡易課税制度の適用を受けたりすることで消費税額の調整を免れていて、調整額に相当する額が国に納付されていない事態は、消費税額の調整を含む仕入税額控除制度が有効に機能しておらず、賃貸マンション等の取得に係る消費税額を仕入税額控除していない事業者や消費税額の調整を行っている事業者との間で公平性が著しく損なわれていると認められる。
上記のように、消費税額の調整を含む仕入税額控除制度が有効に機能しておらず、賃貸マンション等の取得に係る消費税額を仕入税額控除していない事業者や消費税額の調整を行っている事業者との間で公平性が著しく損なわれている事態は適切とは認められず改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴省において、通常であれば仕入税額控除されることとはならない賃貸マンション等の取得に係る消費税額が仕入控除税額に算入され還付がされているのに、その後の課税売上割合の著しい減少にもかかわらず、消費税額の調整を免れて、調整額に相当する額が国に納付されないこととなる事態を防ぐための措置が十分講じられていないことなどによると認められる。
消費税については消費一般に対して広く公平に負担を求めるものであることから、消費税額の調整を含めた仕入税額控除制度を有効に機能させ、公平性を高める必要がある。
ついては、貴省において、賃貸マンション等の取得に係る消費税額のうち非課税売上げである家賃収入に対応する部分の額が、国に適切に納付されることとなるための措置を講ずるよう意見を表示する。