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  • 平成20年度|
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労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が過大となっていたもの


(78) 労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が過大となっていたもの

会計名及び科目 労働保険特別会計(労災勘定) (項)保険給付費
部局等 厚生労働本省(支出庁)
8労働局(審査庁)
支払の相手方 141医療機関
過大な支払となっていた労災診療費 手術料、入院料等
過大支払額 36,335,836円 (平成18、19両年度)

1 保険給付の概要

(1) 労働者災害補償保険

 労働者災害補償保険は、労働者の業務上の事由又は通勤による負傷、疾病等に対して療養の給付等の保険給付を行うほか、社会復帰促進等事業(平成19年3月以前は労働福祉事業)を行うものである。

(2) 療養の給付に要する診療費の支払

 療養の給付は、保険給付の一環として、負傷又は発病した労働者(以下「傷病労働者」という。)の請求に基づき、都道府県労働局長の指定する病院若しくは診療所又は社会復帰促進等事業で設置された病院において、診察、処置、手術等(以下「診療」という。)を行うものである。そして、診療を行ったこれらの医療機関は、都道府県労働局(以下「労働局」という。)に対して診療に要した費用(以下「労災診療費」という。)を請求することとなっており、労働局で請求の内容を審査した上で支払額を決定して、これに基づき、厚生労働本省において労災診療費を支払うこととなっている。
 労災診療費は、「労災診療費算定基準について」(昭和51年基発第72号労働省労働基準局長通達。以下「算定基準」という。)に基づき算定することとなっている。この算定基準によると、労災診療費は、労災診療の特殊性等を考慮して、〔1〕 健康保険法(大正11年法律第70号)に基づく診療報酬点数表の点数(以下「健保点数」という。)に12円(法人税等が非課税となっている公立病院等については11円50銭)を乗じて算定すること、〔2〕 初診料、再診料等特定の診療項目については、健保点数とは異なる点数又は金額を別に定めて、これにより算定することとなっている。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

 本院は、全国47労働局のうち、8労働局において会計実地検査を行い、合規性等の観点から、各労働局の審査に係る18年度又は19年度の労災診療費の支払が算定基準に基づき適正になされているかなどに着眼して、診療費請求内訳書等の書類により検査した。そして、適正でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査を行った。

(2) 過大な支払となっていた事態

 検査の結果、8労働局の審査に係る労災診療費のうち、手術料、入院料、注射料、処置料、リハビリテーション料等が過大に支払われていたものが141医療機関について36,335,836円あり、不当と認められる。
 これらの事態について、その主なものを示すと次のとおりである。

ア 手術料に関するもの

 手術料は、創傷処理、植皮術等の区分ごとの健保点数により算定することとなっている。また、手術において特定保険医療材料(注1) を使用した場合は、厚生労働大臣が定めた材料単価(以下「基準単価」という。)を基に算定した特定保険医療材料の価格を10円で除した点数を当該手術の健保点数に合算した点数により手術料を算定することとなっている。
 しかし、8労働局管内の107医療機関では、手術料について、本来算定すべき区分の健保点数によらず、異なる区分のより高い健保点数により算定したり、手術で使用した特定保険医療材料の基準単価や数量を誤り、過大に算定された特定保険医療材料の点数により算定したりするなどしていた。このため、手術料140件で24,856,078円が過大に支払われていた。
 上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

 A病院では、傷病労働者Bに対する関節形成手術に係る手術料について、基準単価37,500円の特定保険医療材料である固定用内副子特殊型(注2) を41個使用したとして、その合計額1,537,500円を10円で除した153,750点に11円50銭を乗じた1,768,125円と算定していた。しかし、これは、診療費請求内訳書を作成する際に固定用内副子特殊型の使用個数の入力を誤ったもので、正しい使用個数は4個であり、これに係る手術料は172,500円となることから、1,595,625円が過大となっていた。

(注1)
 特定保険医療材料  厚生労働大臣が手術等の健保点数に合算してその費用を算定することができると定めている特定の保険医療材料
(注2)
 固定用内副子特殊型  骨、靭(じん)帯等の傷病部位を固定するために使用するネジ

イ 入院料に関するもの

 入院料のうち特定入院料は、救命救急入院料、回復期リハビリテーション病棟入院料等の区分ごとに算定できる要件を満たす場合に、当該区分の健保点数により算定することとなっている。
 しかし、8労働局管内の27医療機関では、算定できる要件を満たしていないのに救命救急入院料等の特定入院料を算定するなどしていた。このため、入院料82件で8,673,259円が過大に支払われていた。

 このような事態が生じていたのは、医療機関が労災診療費を誤って算定し請求していたのに、8労働局において、これに対する審査が十分でないまま支払額を決定していたことによると認められる。
 上記の過大に支払われていた労災診療費の額を労働局ごとに示すと、次のとおりである。

労働局名 医療機関数 過大支払件数 過大支払額
千円
北海道 20 29 4,265
山形 12 26 4,915
福島 13 88 3,482
茨城 11 15 3,307
東京 32 44 8,457
岐阜 12 20 2,025
兵庫 27 52 7,954
福岡 14 22 1,926
141 296 36,335

 上記の事態については、厚生労働省は、従来発生防止に取り組んでいるところであるが、さらに、診療費請求内訳書等に係る審査の強化を図るとともに、医療機関に対して、労災診療費算定基準等の周知徹底を図る必要があると認められる。