国民健康保険(前掲「国民健康保険の療養給付費負担金の交付が不当と認められるもの」
参照)については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)が行う国民健康保険について財政調整交付金が交付されている。財政調整交付金は、市町村間で医療費の水準や住民の所得水準の差異により生じている国民健康保険の財政力の不均衡を調整するため、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に基づいて交付するもので、普通調整交付金と特別調整交付金がある。
普通調整交付金は、被保険者の所得等から一定の基準により算定される収入額(以下「調整対象収入額」という。)が、医療費、老人保健医療費拠出金等から一定の基準により算定される支出額(以下「調整対象需要額」という。)に満たない市町村に対して、その不足を公平に補うことを目途として交付するものであり、医療費等に係るもの(以下「医療分」という。)と介護納付金(注1)
に係るもの(以下「介護分」という。)との合計額が交付されている。そして、普通調整交付金の交付額は、医療分、介護分ともに、それぞれ当該市町村の調整対象需要額から調整対象収入額を控除した額に基づいて算定することとなっている。
特別調整交付金は、市町村について特別の事情がある場合に、その事情を考慮して交付するものであり、結核・精神病特別交付金、減額解除特別交付金、保健事業特別交付金、徴収・医療改正特別交付金等がある。
財政調整交付金の交付手続については、〔1〕 交付を受けようとする市町村は都道府県に交付申請書及び実績報告書を提出して、〔2〕 これを受理した都道府県は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査の上、これを厚生労働省に提出して、〔3〕 厚生労働省はこれに基づき交付決定及び交付額の確定を行うこととなっている。
本院は、35都道府県の257市区町村等において、平成15年度から19年度までの間に交付された財政調整交付金について、会計実地検査を行った。その結果、10県の29市町村において、普通調整交付金の医療分の調整対象需要額を過大に算定していたり、調整対象収入額を過小に算定していたり、特別調整交付金の徴収・医療改正特別交付金の交付額に含めることができない金額を含めていたりなどしていて、交付金交付額計25,787,073,000円のうち計985,570,000円が過大に交付されていたり交付の必要がなかったりしていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、上記の29市町村において制度の理解が十分でなかったり、事務処理が適切でなかったりしたため適正な実績報告等を行っていなかったこと、また、これに対する上記10県の審査が十分でなかったことによると認められる。
前記の事態について、主な態様を示すと次のとおりである。
ア 普通調整交付金の医療分の調整対象需要額を過大に算定しているもの
普通調整交付金の調整対象需要額は、本来保険料で賄うべきとされている額であり、そのうち医療分に係る調整対象需要額は、一般被保険者(退職被保険者及びその被扶養者以外の被保険者をいう。以下同じ。)に係る医療給付費、老人保健医療費拠出金等の合計額から療養給付費等負担金等の国庫補助金等を控除した額となっている。
このうち、一般被保険者に係る医療給付費は、療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る被保険者の一部負担金に相当する額を控除した額、入院時食事療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額の合算額であり、その算定については、次のとおり行うものとされている。
(ア) 一部負担金に相当する額は、療養の給付に要する費用の額に10分の3などを乗じて得た額とする。
(イ) 都道府県又は市町村が、国の負担金等の交付を受けずに自らの負担で、年齢その他の事由により被保険者の全部又は一部について、その一部負担金に相当する額の全部又は一部を、当該被保険者に代わり保険医療機関等に支払う措置(以下「負担軽減措置」という。)を講じている場合がある。この負担軽減措置の対象者の延べ人数が一定の規模以上の場合には、負担軽減措置の対象者に係る療養の給付に要する費用の額等に、被保険者の負担の軽減の度合いに応じた所定の率を乗じて減額調整(注2)
を行うこととされている。
4県の5市町は、普通調整交付金の実績報告等に当たり、一般被保険者に係る医療給付費を過大に算定していたため、医療分の調整対象需要額を過大に算定していた。
上記の事態について一例を示すと次のとおりである。
岡山市は、平成15、17及び18年度の普通調整交付金の実績報告等に当たり、岡山県が実施している負担軽減措置であるひとり親家庭等医療費助成の対象者に係る療養の給付に要する費用の額等に対する減額調整率の適用を誤ったため、一般被保険者に係る医療給付費を過大に算定していた。
その結果、一般被保険者に係る適正な医療給付費により算出した調整対象需要額に基づいて普通調整交付金の交付額を算定すると、計4,166,000円が過大に交付されていた。
イ 普通調整交付金の調整対象収入額を過小に算定しているもの
普通調整交付金の調整対象収入額は、医療分及び介護分それぞれについて、一般被保険者又は介護納付金賦課被保険者の数を基に算定される応益保険料額と、それら被保険者の所得を基に算定される応能保険料額とを合計した額となっており、本来徴収すべきとされている保険料の額である。
このうち、医療分の応能保険料額は、一般被保険者の所得(以下「算定基礎所得金額」という。)に一定の方法により計算された率を乗じて算定される。
そして、算定基礎所得金額は、保険料の賦課期日現在一般被保険者である者の前年における所得金額の合計額とすることとなっている。ただし、同一世帯に属する被保険者の所得金額の合計額が別に計算される金額(以下「所得限度額」という。)を超えて高額である世帯(以下「所得限度額超過世帯」という。)がある場合には、当該世帯の所得金額のうち所得限度額を超える部分の額に一定の方法により計算した率を乗じて得た額を、上記一般被保険者の所得金額の合計額から控除して、算定基礎所得金額とすることとなっている。そして、介護分の応能保険料額は、介護納付金賦課被保険者について医療分と同様の方法で算定することとなっている。
3県の4市町は、普通調整交付金の実績報告等に当たり、所得限度額超過世帯の所得金額の計算を誤るなどしていたため、調整対象収入額を過小に算定していた。
上記の事態について一例を示すと次のとおりである。
福島県郡山市は、平成15年度から18年度までの普通調整交付金の実績報告等に当たり、所得限度額超過世帯の所得金額を集計する電算処理を誤ったため、所得限度額を超える部分の額を過大にしていたことにより、算定基礎所得金額を過小に計算していた。
その結果、適正な算定基礎所得金額により算出した調整対象収入額に基づいて普通調整交付金の交付額を算定すると、計790,107,000円が過大に交付されていた。
ウ 特別調整交付金(徴収・医療改正特別交付金)の交付額に含めることができない金額を含めているもの
特別調整交付金のうち徴収・医療改正特別交付金は、〔1〕 保険料徴収システム開発事業及び医療制度改正によるシステム改修事業、又は〔2〕 住基情報等提供システム及び後期高齢者医療保険料徴収システムの開発事業に伴って、財政負担が多額となっている場合等に交付することとなっている。
そして、その交付額は、被保険者数、システム開発の契約額等から一定の計算式により、上記〔1〕 及び〔2〕 に係る調整基準額をそれぞれ算定し、いずれか金額の大きい調整基準額のみを交付額とすることとなっている。
2県の17市町村は、徴収・医療改正特別交付金の実績報告等に当たり、金額の小さい調整基準額も含めて交付額としていた。
上記の事態について一例を示すと次のとおりである。
山梨県富士吉田市は、平成19年度の徴収・医療改正特別交付金の実績報告等に当たり、2種類ある調整基準額のうち金額の大きい調整基準額31,155,000円のみを交付額としないで、金額の小さい調整基準額22,004,000円も含めて交付額としていた。
その結果、徴収・医療改正特別交付金が22,004,000円過大に交付されていた。
このほか4県の5市町は、特別調整交付金の結核・精神病特別交付金、減額解除特別交付金又は保健事業特別交付金の実績報告等に当たり、対象とならない事業費を対象事業費に含めるなどしていたため、交付額を過大に算定するなどしていた。
なお、前記の29市町村のうち2市町については事態の態様が重複している。
以上を県別・交付先(保険者)別に示すと次のとおりである。
県名 | 交付先 (保険者) |
交付金の種類 | 年度 | 交付金交付額 | 左のうち不当と認める額 | 摘要 | |
千円 | 千円 | ||||||
(124) | 宮城県 | 亘理郡山元町 | 特別調整交付金(徴収・医療改正特別交付金) | 19 | 10,883 | 3,806 | 交付額に含めることができない金額を含めていたもの |
(125) | 福島県 | 郡山市 | 普通調整交付金 | 15〜18 | 8,947,424 | 790,107 | 調整対象収入額を過小に算定していたもの |
(126) | 同 | 耶麻郡猪苗代町 | 同 | 15、17、18 | 458,102 | 4,449 | 同 |
(127) | 福井県 | 小浜市 | 同 | 17、18 | 441,840 | 2,554 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(128) | 山梨県 | 富士吉田市 | 特別調整交付金(徴収・医療改正特別交付金) | 19 | 53,159 | 22,004 | 交付額に含めることができない金額を含めていたもの |
(129) | 同 | 都留市 | 同 | 19 | 24,570 | 10,327 | 同 |
(130) | 同 | 山梨市 | 同 | 19 | 7,790 | 2,211 | 同 |
(131) | 同 | 大月市 | 同 | 19 | 23,502 | 11,805 | 同 |
(132) | 同 | 韮崎市 | 同 | 19 | 7,082 | 1,214 | 同 |
(133) | 同 | 南アルプス市 | 同 | 19 | 24,396 | 11,150 | 同 |
(134) | 同 | 甲斐市 | 同 | 19 | 34,022 | 10,079 | 同 |
(135) | 同 | 笛吹市 | 同 | 19 | 16,788 | 6,449 | 同 |
(136) | 同 | 上野原市 | 同 | 19 | 40,965 | 24,396 | 同 |
(注3) | |||||||
(137) | 同 | 甲州市 | 普通調整交付金、特別調整交付金(徴収・医療改正特別交付金) | 17〜19 | 703,963 | 16,288 | 交付額に含めることができない金額を含めていたものなど |
(138) | 同 | 中央市 | 特別調整交付金(徴収・医療改正特別交付金) | 19 | 7,125 | 1,595 | 交付額に含めることができない金額を含めていたもの |
(139) | 山梨県 | 中巨摩郡昭和町 | 特別調整交付金(徴収・医療改正特別交付金) | 19 | 26,268 | 11,456 | 交付額に含めることができない金額を含めていたもの |
(140) | 同 | 南都留郡西桂町 | 同 | 19 | 7,570 | 2,303 | 同 |
(141) | 同 | 南都留郡忍野村 | 同 | 19 | 18,768 | 3,989 | 同 |
(142) | 同 | 南都留郡山中湖村 | 同 | 19 | 7,477 | 4,307 | 同 |
(143) | 同 | 北都留郡小菅村 | 同 | 19 | 6,800 | 3,085 | 同 |
(144) | 奈良県 | 御所市 | 特別調整交付金(保健事業特別交付金) | 15〜17 | 16,577 | 6,179 | 保健事業の対象となる事業費を過大にしていたもの |
(145) | 同 | 北葛城郡王寺町 | 同 | 15〜17 | 14,826 | 3,924 | 同 |
(146) | 島根県 | 浜田市 | 同 | 18 | 8,621 | 2,599 | 同 |
(147) | 岡山県 | 岡山市 | 普通調整交付金 | 15、17、18 | 7,880,215 | 4,166 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(148) | 同 | 倉敷市 | 同 | 15、18 | 4,659,583 | 2,278 | 同 |
(149) | 同 | 玉野市 | 同 | 17、18 | 805,537 | 7,156 | 調整対象収入額を過小に算定していたものなど |
(150) | 福岡県 | 糟屋郡宇美町 | 普通調整交付金、特別調整交付金(結核・精神病特別交付金) | 17、18 | 527,600 | 5,815 | 調整対象需要額を過大に算定していたものなど |
(151) | 長崎県 | 壱岐市 | 普通調整交付金 | 17、18 | 998,018 | 2,277 | 調整対象収入額を過小に算定していたもの |
(152) | 鹿児島県 | 姶良郡加治木町 | 特別調整交付金(減額解除特別交付金) | 17 | 7,602 | 7,602 | 交付金の交付要件を満たしていなかったもの |
(注3) 平成17年10月31日以前は塩山市 | |||||||
(124)—(152)の計 | 25,787,073 | 985,570 |
上記の事態については、厚生労働省は、従来発生防止に取り組んでいるところであるが、さらに、通知等により市町村の事務処理の適正化に努めるとともに都道府県の実績報告等に係る審査等の強化を図る必要があると認められる。