会計名及び科目 | 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)生活保護費 | ||
部局等 | 厚生労働本省、23都道府県 | ||
国庫負担の根拠 | 生活保護法(昭和25年法律第144号) | ||
補助事業者(事業主体) | 県8、市127、特別区12、町1、計148事業主体 | ||
国庫負担対象事業 | 生活保護事業 | ||
国庫負担対象事業の概要 | 生活に困窮する者に対して最低限度の生活を保障するためにその困窮の程度に応じて必要な保護を行うもの | ||
活用が可能な他法他施策 | (1) | 障害福祉サービスに係る自立支援給付 | |
(2) | 更生医療に係る自立支援給付 | ||
上記の自立支援給付の活用が行われていなかった被保護者等 | (1) | 介護扶助に係る被保護者1,589人 | |
(2) | 医療扶助に係る診療報酬明細書1,142件 | ||
上記の被保護者等に対する支給済保護費のうち低減できると認められる額 | (1) | 35億1518万余円 | (平成15年度〜20年度) |
(2) | 6億1778万余円 | (平成19、20両年度) | |
計 | 41億3296万余円 | ||
上記に係る国庫負担相当額 | (1) | 8億7879万円 | |
(2) | 1億5444万円 | ||
計 | 10億3324万円 |
(平成21年10月30日付け 厚生労働大臣あて)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
記
生活保護は、生活保護法(昭和25年法律第144号)等に基づき、生活に困窮する者に対して、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、その最低限度の生活の保障及び自立の助長を図ることを目的として行われるものである。
保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。そのため、保護の実施に当たっては、各種の社会保障施策による支援等の活用が前提となっている。
貴省は、都道府県又は市町村(特別区を含む。以下、これらを合わせて「事業主体」という。)が、保護を受ける者(以下「被保護者」という。)に支弁した保護費の4分の3について生活保護費等負担金(平成19年度以前は生活保護費負担金。以下「負担金」という。)を交付しており、全国における負担金の交付額は、19年度で1兆9798億余円、20年度で2兆0045億余円に上っている。
保護は、その内容によって、生活扶助、介護扶助、医療扶助等の8種類に分けられている。このうち、介護扶助、医療扶助の範囲等は次のとおりとなっている。
ア 介護扶助は、介護保険法(平成9年法律第123号)に基づく保険給付の対象となる訪問介護、福祉用具の貸与等の介護サービスと同等のサービスを被保護者に対して保障するものである。そして、40歳以上65歳未満の被保護者であって、医療保険に加入していないために介護保険の被保険者とはされていない者のうち、介護保険法施行令(平成10年政令第412号)に規定する関節リウマチ、脳血管疾患等の特定の疾病により要介護状態等にある者(以下「40歳以上65歳未満の被保険者以外の者」という。)が、厚生労働大臣又は都道府県知事が指定する居宅介護支援事業者等(以下「指定介護機関」という。)から介護サービスを受けた場合の費用については、その費用の全額が介護扶助の対象として現物給付される。
イ 医療扶助は、厚生労働大臣又は都道府県知事が指定する医療機関(以下「指定医療機関」という。)等において被保護者が診療を受ける場合の費用等について行われるものであり、被保護者が医療保険の加入者でない場合は、診療費等の全額が医療扶助の対象として現物給付される。
(3) 他法他施策
事業主体が保護を実施するに当たっては、前記のとおり、各種の社会保障施策の活用が前提となっていることから、「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年厚生省発社第123号厚生事務次官通知)等により、他の法律又は制度による保障、援助等(以下「他法他施策」という。)を受けることができる者については極力その利用に努めさせることとなっている。
他法他施策については、上記の実施要領等により障害者自立支援法(平成17年法律第123号。以下「自立支援法」という。)など40の法律等について、特にその活用を図ることとなっている。これらの他法他施策のうち、自立支援法に基づく給付には、障害福祉サービス事業者等により提供される居宅介護、生活介護、補装具等の障害福祉サービスに係る給付、肢体不自由、心臓、腎臓等の機能障害等がある者に対して行われるこれらの更生のために必要な医療(以下「更生医療」という。)に係る給付等(以下、これらを合わせて「自立支援給付」という。)がある。
このうち障害福祉サービス及び更生医療に係る自立支援給付は、身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)等に規定する、18歳以上の者であって、都道府県から身体障害者手帳の交付を受けた者(以下「身体障害者」という。)等が対象となっている。そして、身体障害者等が障害福祉サービス等を受けた場合、市町村(特別区を含む。以下同じ。)はこれらに係る費用に対して給付することとなっている。
前記の介護扶助及び医療扶助と、障害福祉サービス及び更生医療に係る自立支援給付との適用関係については、それぞれ次のとおりとなっている。
ア 介護扶助と障害福祉サービスに係る自立支援給付との適用関係について
介護扶助と障害福祉サービスに係る自立支援給付との適用関係については、障害福祉サービスに介護サービスと同等のサービスがあることから、当該障害福祉サービスを受けられる場合は、自立支援給付が介護扶助に優先することとなっている。そのため、貴省は、「介護扶助と障害者自立支援法に基づく自立支援給付との適用関係等について」(平成19年社援保発第0329004号厚生労働省社会・援護局保護課長通知)等により、事業主体に対して、40歳以上65歳未満の被保険者以外の者であって、自立支援給付の利用が可能な者から介護扶助の申請があった場合、自立支援給付の受給状況等を確認するとともに、自立支援給付の利用申請が行われていない場合は利用申請を行うよう指導することなどを周知している。
イ 医療扶助と更生医療に係る自立支援給付との適用関係について
医療扶助と更生医療に係る自立支援給付との適用関係についても、上記のアと同様に、自立支援給付が医療扶助に優先することとなっている。そのため、貴省は、「生活保護法による医療扶助運営要領について」(昭和36年社発第727号厚生省社会局長通知)等により、事業主体に対して、医療扶助によって医療を受けようとする被保護者が自立支援給付を受けることができる者であると思われるときは、担当する指定医療機関等に連絡を取り、更生医療に係る自立支援給付を受けることができるものであるかなどについて確認するよう周知している。
上記のア及びイに係る自立支援給付は、身体障害者等である被保護者が給付を受ける場合については、費用の額の100分の100に相当する額を給付することとなっている。そして、国は、市町村に対して自立支援給付の費用の2分の1を障害者自立支援給付費負担金、障害者医療費国庫負担金等として交付することとなっている。
一方、生活保護については、前記のとおり国が保護費の4分の3について負担金を交付していることから、介護扶助及び医療扶助ではなく自立支援給付を活用することにより、この4分の3と2分の1の差に相当する国庫負担金の額(以下「国庫負担相当額」という。)が低減されることになる。
なお、自立支援法が施行された18年4月1日より前の障害福祉サービス及び更生医療に係る給付については、それぞれ身体障害者福祉法等に基づく支援費及び更生医療として、自立支援給付と同様に市町村から給付されていた。
19年度における被保護者数は154万人で、そのうちの80%の124万人が医療扶助を受けており、その数も年々増加している。また、12年度に介護保険法の施行に合わせて創設された介護扶助の扶助人員は12年度の6万人から19年度は18万人と3倍に増加している。
そこで、本院は、合規性等の観点から、介護扶助及び医療扶助に係る他法他施策のうち障害福祉サービス及び更生医療に係る自立支援給付等の活用が適時適切に行われているかに着眼して検査した。
本院は、貴省及び23都道府県(注1)
の169事業主体の177福祉事務所(以下「検査実施事務所」という。)において、次のとおり、被保護者等を抽出して、負担金の事業実績報告書等の書類により会計実地検査を行った。
〔1〕 検査実施事務所において、19年度に介護扶助を受給している40歳以上65歳未満の被保険者以外の者を中心に被保護者5,133人
〔2〕 検査実施事務所のうち、13都道府県(注2)
の113事業主体の121福祉事務所において、19、20両年度に支給された医療扶助に係る診療報酬明細書(以下「レセプト」という。)13,440件
検査したところ、8県、23都道府県管内の127市、12特別区及び1町、計148事業主体の154福祉事務所において、障害福祉サービス及び更生医療に係る自立支援給付の活用が図られていない事態が次のとおり見受けられた。
前記の被保護者5,133人について、介護扶助の支給状況を検査したところ、23都道府県の147事業主体の152福祉事務所における被保護者1,589人については、身体障害者手帳を所持していることなどから、介護扶助による訪問介護等の介護サービスの給付に代えて、居宅介護等の障害福祉サービスに係る自立支援給付を受けることが可能であるのに、保護担当部門と障害担当部門との連携等が十分でなかったなどのため、自立支援給付を受けていなかったり、身体障害者手帳の取得後速やかに給付の申請が行われていなかったりなどしていた。
上記の被保護者1,589人について、自立支援給付を適切に活用したとすれば、15年度から20年度までの支給済保護費が35億1518万余円低減されて、自立支援給付の適用に伴う障害者自立支援給付費負担金等の増を考慮しても、国庫負担相当額が8億7879万余円低減されることになる。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
A市は、被保護者Bが平成15年9月から21年3月までの間に受けた訪問介護、訪問看護等の介護サービスに対して介護扶助費1279万余円を支給していた。
しかし、Bは15年8月に身体障害者手帳(1級)の交付を受けており、上記の介護サービスのうち訪問介護790万余円については、障害福祉サービスのうちの居宅介護を利用することにより自立支援給付を受けることが可能であったが、A市は、保護担当部門と障害担当部門との連携等が十分でなく、Bに対して自立支援給付の利用申請を指導していなかった。
したがって、Bが障害福祉サービスのうちの居宅介護の利用を申請して、自立支援給付の活用を適切に行ったとすれば、上記の介護扶助費のうち訪問介護に係る支給済保護費790万余円が低減されて、障害者自立支援給付費負担金の増を考慮しても国庫負担相当額が197万余円低減されることになる。
前記のレセプト13,440件の診療費等の給付状況等を検査したところ、13都道府県の61事業主体の64福祉事務所における1,142件(被保護者313人)について、被保護者が身体障害者手帳を所持していて、更生医療に係る自立支援給付により人工透析療法、ペースメーカー移植術、人工関節置換術等を受けることが可能であるのに、保護担当部門と障害担当部門及び指定医療機関との連携等が十分でなかったなどのため、更生医療の適用を受けていなかったり、指定医療機関への受診開始後速やかに更生医療の適用申請が行われていなかったりしていた。
上記の被保護者について、自立支援給付を適切に活用したとすれば、19、20両年度の支給済保護費が6億1778万余円低減されて、自立支援給付の適用に伴う障害者医療費国庫負担金の増を考慮しても、国庫負担相当額が1億5444万余円低減されることになる。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
C市は、被保護者Dが平成20年6月に受けたペースメーカー交換術等に係る医療費について、医療扶助費145万余円を支給していた。
しかし、Dは13年に心臓疾患によりペースメーカー移植術を受けたことにより、心臓機能障害に係る身体障害者手帳(1級)の交付を受けていることから、上記医療費のうち、ペースメーカー交換術に係る医療費113万余円については、C市から更生医療に係る自立支援給付を受けることが可能であったが、C市は、Dの病状把握や保護担当部門と障害担当部門及び指定医療機関との連携等が十分でなく、Dに対して更生医療の適用申請を行うよう指導していなかった。
したがって、Dが更生医療の適用を申請して、その適用を受けたとすれば、上記医療扶助費のうちペースメーカー交換術に係る113万余円の支給済保護費が低減されて、障害者医療費国庫負担金の増を考慮しても国庫負担相当額が28万余円低減されることになる。
以上のように、障害福祉サービス及び更生医療に係る自立支援給付を受けることが可能であるのに、これを活用することなく介護扶助及び医療扶助を支給していて、自立支援給付の活用が行われていない事態は、生活保護制度の趣旨からみて適切とは認められず、是正及び是正改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 事業主体において
(ア) 介護扶助と自立支援給付との適用関係について、40歳以上65歳未満の被保険者以外の者は自立支援給付が介護扶助に優先されることについての認識が十分でないこと、また、介護扶助の申請の際に、保護担当部門と障害担当部門、指定介護機関等との連携、サービス内容の把握が十分でなく、自立支援給付の適用の可否について検討が十分行われていないこと
(イ) 医療扶助と自立支援給付との適用関係について、自立支援給付が医療扶助に優先されることについての認識が十分でないこと、また、更生医療に係る制度の理解及び被保護者に係る更生医療の適用症例の把握、並びに保護担当部門と障害担当部門及び指定医療機関との連携が十分でないこと
(ウ) 被保護者に対する自立支援給付の適用申請に係る周知が十分でないこと
イ 貴省において
(ア) 他法他施策の適用に当たって、介護扶助及び医療扶助と自立支援給付との適用関係について、事業主体に対して周知が十分でないこと
(イ) 自立支援給付の活用について、事業主体に対する具体的な指示等が十分でないこと
近年、被保護世帯数及び負担金が増加傾向にあり、引き続き保護の適正な実施が強く求められていることから、貴省において、事業主体に対して自立支援給付が未活用なものについて速やかに活用させるよう是正の処置を要求し、また、自立支援給付の活用が適時適切に行われるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。
ア 事業主体に対して次のような技術的助言を行うこと
(ア) 介護扶助と障害福祉サービスに係る自立支援給付との具体的な適用関係について周知徹底を図り、自立支援給付の活用の可否について、指定介護機関等と連携しながら主体的に把握させるとともに、保護担当部門と障害担当部門との連携について明確にすること
(イ) 医療扶助と更生医療に係る自立支援給付との適用関係及び更生医療の制度について周知徹底を図り、その適用症例になり得ると認められる場合に適用申請等が適切に行えるよう、保護担当部門と障害担当部門、指定医療機関等との連携について明確にすること
イ 貴省、都道府県等が事業主体に対して行う生活保護法施行事務監査の際に、介護扶助及び医療扶助に係る自立支援給付の活用状況を確認して、福祉事務所に対して改めて指導を徹底すること
ウ 介護扶助及び医療扶助と自立支援給付との適用関係について、介護扶助及び医療扶助に係る運営要領等において、より明確にすること
エ 全国会議等の場において、介護扶助及び医療扶助の支給に当たって、自立支援給付の活用が適切に行われている事業主体の事務処理、研修教材等の優良事例を取り上げるなどして介護扶助及び医療扶助に係る自立支援給付の活用について徹底を図ること
(注1) | 23都道府県 東京都、北海道、大阪府、宮城、茨城、群馬、埼玉、千葉、新潟、石川、福井、長野、愛知、奈良、鳥取、島根、広島、愛媛、高知、福岡、佐賀、宮崎、沖縄各県
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(注2) | 13都道府県 東京都、北海道、大阪府、茨城、群馬、埼玉、千葉、新潟、愛知、広島、愛媛、高知、福岡各県
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