海外農業移住交流事業は、農業拓植基金協会設立運営指導要綱(昭和34年34振第5823号農林事務次官依命通達。以下「指導要綱」という。)等に基づき設立された財団法人である都道府県農業拓植基金協会(以下「地方基金協会」という。)及び社団法人中央農業拓植基金協会(以下「中央基金協会」という。)が、それぞれの業務方法書に基づき、海外に移住する農業者等(以下「農業移住者等」という。)の営農の安定に必要な資金等の調達を円滑にするため、農業移住者等を資金面で援護しようとする者(以下「援護者」という。)が金融機関から資金を借り入れる際の債務の保証等を行うものである(海外農業移住交流事業の概要については、後掲の「農林水産省が公益法人等に補助金等を交付して設置造成させている資金等の有効活用等を図るよう改善の処置を要求したもの
」参照)。
両協会はいずれも、保証債務の弁済に充てるべき資産として国庫補助金、県費補助金等により基金を造成して、基金の運用益を協会の経費に支弁することとしている。そして、援護者が債務の弁済期限到来の日から3か月を経過してもその債務を履行しない場合には、金融機関からの請求に基づき代位弁済を行い、当該援護者に対する弁済金額に相当する額の求償権を取得することとしている。また、我が国の経済発展や国際社会の情勢の変化に伴い、農業移住者等が減少してきたことなどから、農林水産省(昭和53年7月4日以前は農林省)は、平成8年1月に、地方農業拓植基金協会の取扱いについて(平成8年農林水産省構造改善局農政部地域振興課。以下「取扱通知」という。)を発して、地方基金協会の業務を他の類似団体に統合させる場合には、基金の財産が債務保証業務に適正に使用されるように区分経理を行うことなどが必要であるとしている。
資金援助対策事業(17年度以前は資金援助推進対策事業)は、全国拓植農業協同組合連合会(以下「全拓連」という。)が、国際農業連携活性化特別対策事業実施要綱(平成18年17農振第2162号農林水産事務次官依命通知。以下「実施要綱」という。)等に基づき、日系農業者等の経営改善及び自立促進を図るため、金融機関が援護者に対して資金を融通した場合に、当該金融機関に対して国庫補助金等により利子補給を行うものである。そして、金融機関は、援護者から提出された借入申込書に基づき利子補給承認申請書を作成して全拓連に提出することなどとされている。
本院が、広島県及び3事業主体において会計実地検査を行ったところ、海外農業移住交流事業を実施した同県及び2事業主体は、解散した地方基金協会から収納した基金残額等を債務保証業務に使用していなかったり、業務の範囲を逸脱した保証による支払のために基金を取り崩していたり、基金の運用益を債務保証業務とは関係のない経費に使用したりしており、また、資金援助対策事業を実施した1事業主体は、実施要綱等で定められた手続に著しく反して利子補給を実施していて、いずれも補助の目的を達していなかったり、業務が適正に実施されていなかったりしていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、同県及び3事業主体において、国庫補助金等により造成された基金を適正に取り扱うことに対する認識が欠けていたり、実施要綱等に基づき業務を適正に実施することに対する認識が欠けていたりしたことなどによると認められる。
これを部局等別・補助事業者等別に示すと次のとおりである。
部局等 | 補助事業者等 | 間接補助事業者等 | 補助事業等 | 年度 | 事業費 | 左に対する国庫補助金等交付額 | 不当と認める事業費 | 不当と認める国庫補助金等相当額 | |||
千円 | 千円 | 千円 | 千円 | ||||||||
(395) | 農林水産本省 | 広島県 | 財団法人広島県農業拓植基金協会 (事業主体) |
海外農業移住交流 |
|
22,500 | 10,000 | 22,500 | 10,000 |
広島県は、財団法人広島県農業拓植基金協会(以下「広島基金協会」という。)に対して補助金を交付し基金を造成させて、債務保証業務を行わせていた。その後、広島基金協会は平成7年12月に解散して、同県は、広島基金協会の債務保証業務は広島県農業信用基金協会(以下「信用基金協会」という。)に引き継がれるとして、8年2月に、広島基金協会が造成した基金22,500,000円のうち、中央基金協会への再保証のための出資金5,000,000円を除く17,500,000円を収納していた。また、中央基金協会への出資金5,000,000円については、広島基金協会が返還請求権を放棄したため、中央基金協会において信用基金協会からの再保証のための出資金として振替処理された。
しかし、結局、信用基金協会が債務保証業務の継承に同意しなかったことから、同県は、7年度以降、債務保証業務を他の団体に引き継ぐことなく、収納した全額を取扱通知に反して区分経理せずに保有していた。また、中央基金協会への出資金については、中央基金協会が信用基金協会名義の出資金で保有したままとなっていた。
したがって、解散した広島基金協会から同県が収納したままとなっていた基金残額17,500,000円、広島基金協会から中央基金協会への出資金5,000,000円、計22,500,000円(国庫補助金相当額10,000,000円)は、債務保証業務に使用されていなかったものである。
(396) | 農林水産本省 | 社団法人中央農業拓植基金協会 (事業主体) |
— | 海外農業移住交流 |
|
321,800 | 321,500 | 72,000 | 71,932 |
中央基金協会は、平成13年度に全拓連が援護者として金融機関から借り入れた4件の借入金(借入金額計72,000,000円)について債務保証を行い、金融機関からの請求に基づきその全額について代位弁済を行ったとして、全拓連に対する同額の求償権を取得したとしていた。
しかし、中央基金協会が行っていた保証は、実際には、同協会の業務方法書に定められていない金銭消費貸借契約における連帯保証であり、中央基金協会は、16年度から20年度までの間に、当該借入金の元本返済時期が到来する都度、元本返済額相当額を基金から取り崩して、全拓連を経由して金融機関に計72,000,000円を支払い、同額の求償権が発生したとして処理していた。
したがって、上記の支払額72,000,000円(国庫補助金相当額71,932,877円)は、業務の範囲を逸脱した連帯保証のために基金から取り崩されていたものである。
(397) | 農林水産本省 | 全国拓植農業協同組合連合会 (事業主体) |
— | 資金援助対策 | 14〜20 | 13,695 | 13,691 | 4,412 | 4,410 |
全拓連は、平成13年度に自らが援護者となって金融機関から借り入れた4件の借入金(借入金額計72,000,000円。前記の海外農業移住交流事業に係る借入金と同一のもの。)について、事業主体として利子補給を行い、当該借入金に係る利子のうち1.25%に相当する金額を金融機関に支払ったとしていた。
しかし、全拓連は、援護者として当該農業移住者等に対して貸付けを行う際、上記の借入金額から利子の一部を預り金として控除して残額を送付しており、事業主体としての上記利子補給の実施に当たり、14年度から20年度までの間に、利払いに際して、利子補給金計4,412,816円を預り金の取崩額と合わせて支払っていた。また、実施要綱等において援護者が行うこととされている借入申込書の金融機関への提出、事業主体が行うこととされている金融機関からの利子補給承認申請書の受領等の手続を行っていなかった。
したがって、本件利子補給(利子補給金額計4,412,816円、国庫補助金相当額計4,410,996円)は、実施要綱等に著しく反して実施されていたものである。
(398) | 沖縄総合事務局 | 沖縄県 | 財団法人沖縄県農業拓植基金協会等 (事業主体) |
海外農業移住交流 |
|
22,400 | 10,000 | 1,797 | 802 |
沖縄県は、財団法人沖縄県農業拓植基金協会に対して補助金を交付し基金を造成させて、債務保証業務を行わせていた。その後、同協会は平成10年3月に解散して、その業務及び残余財産を引き継いだ財団法人沖縄県国際交流財団も12年3月に解散したことから、現在、債務保証業務及び残余財産は財団法人沖縄県国際交流・人材育成財団に引き継がれている(以下、これらの財団法人を合わせて「沖縄基金協会等」という。)。
一方、同県は、援護者が金融機関から資金を借り受けた場合に、同県の単独事業として、金融機関に対して利子補給金の交付を行っており、その事業主体を沖縄基金協会等としている。そして、沖縄基金協会等は、昭和61年度から平成6年度までの各年度、8年度、9年度及び15年度に、県費補助金計13,944,000円に自己負担金計1,806,178円を合わせた計15,750,178円を金融機関に対して利子補給金として交付していた。
しかし、上記の自己負担金1,806,178円のうち1,797,534円は、指導要綱において債務保証業務の経費を支弁するものとされている基金の運用益から支払われていた。
したがって、上記の支払額計1,797,534円(国庫補助金相当額計802,466円)は、指導要綱の規定に反して、基金の運用益を債務保証業務の経費とは関係のない県の単独事業の経費に支弁していたものである。
(395)—(398) の計 | 380,395 | 355,191 | 100,710 | 87,146 |