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  • 平成20年度|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

中山間地域総合整備事業の一環として整備された活性化施設について、販売スペース等の設置に関する規制を緩和するなどして、施設の有効利用を促進することにより、中山間地域における農業・農村の一層の活性化を図るよう意見を表示したもの


(3) 中山間地域総合整備事業の一環として整備された活性化施設について、販売スペース等の設置に関する規制を緩和するなどして、施設の有効利用を促進することにより、中山間地域における農業・農村の一層の活性化を図るよう意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)農村整備事業費
      (項)北海道農村整備事業費
部局等 農林水産本省、7農政局
補助の根拠 予算補助
補助事業者 22道県(うち事業主体18道県)
間接補助事業者
(事業主体)
市17、町7、村3、計27事業主体
補助事業 中山間地域総合整備
補助事業の概要 中山間地域の農業・農村の活性化を図るために、農業生産基盤とともに、活性化施設を整備するなど農村生活環境等の整備を併せて行う事業
事業効果が十分発現していない活性化施設 127施設
上記の施設に係る事業費
125億2507万余円
(平成6年度〜16年度)

上記に対する国庫補助金相当額
69億0384万円
 

【意見を表示したものの全文】

中山間地域総合整備事業により整備された活性化施設の有効利用について

(平成21年10月20日付け 農林水産大臣あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 中山間地域総合整備事業及び活性化施設の概要

(1) 中山間地域総合整備事業の概要

 中山間地域は、平野の外縁から山間に至る地域であり、我が国の国土面積の72%を占めており、我が国の農家戸数、経営耕地面積の4割、農産物の販売金額の3割を占める重要な農業生産地域とされている。しかし、近年、中山間地域において、人口の減少、高齢化等が進み、農業の生産活動や農村の集落機能が停滞して、活力が低下しつつある。このため、貴省は、中山間地域総合整備事業実施要綱(平成2年2構改D第475号農林水産事務次官依命通知。以下「実施要綱」という。)等に基づき、中山間地域を対象として農業生産基盤とともに農村生活環境等の整備を併せて行うことにより、農業・農村の活性化を図り、もって地域における定住の促進等に資することを目的として、中山間地域総合整備事業(以下「中山間整備事業」という。)を国庫補助事業として実施している。
 実施要綱等によると、都道府県及び市町村(以下、これらを「事業主体」という。)は、計画策定地域の範囲、農村振興の関連施策、地域住民の活動計画、農業生産基盤整備事業の計画、農村生活環境整備事業の計画等を定めた中山間地域総合整備事業実施計画(以下「実施計画」という。)を作成することとなっている。そして、貴省は、実施計画に基づき事業主体が実施する中山間整備事業に要する経費について、予算の範囲内において、国庫補助金を交付している。

(2) 活性化施設の概要

 中山間整備事業の一環として整備される活性化施設は、農業生産活動、農業生産基盤の維持管理、地域保全活動等の拠点として利用されることにより農業・農村の活性化に資する多目的施設であるとされている。そして、貴省が作成した「中山間総合整備事業の手引き」(農林水産省農村振興局整備部農村整備課監修。以下「手引き」という。)等によると、その具体的利用目的は、「地域農業振興のための会議、集会等」、「地域特産物の開発普及のための実習、研修、講習、実験等」、「農産物の調理、加工、実演、体験等」などとなっている。
 そして、貴省は、活性化施設は国庫補助事業により整備される施設であることから、中山間整備事業の目的から逸脱することのないように厳正な対応を行う必要があるとして、平成13年度に手引きを改訂する際に、活性化施設内で物品等を販売することを規制し、物品等を販売する場合は地元特産物のPR等に資する小規模なものに限ること、常設施設となるような部屋、カウンター等の施設は補助の対象としないことを明文化している。
 また、活性化施設を整備するに当たっては、事業主体は、利用団体、利用対象戸数、利用人口等を明らかにした上で、適正な利用計画に基づいて施設の規模を決定することなどとなっている。このため、事業主体は、実施計画を提出する際には、活性化施設に設置する研修室、会議室、調理実習室等について、各室ごとの利用目的、年間の利用回数、利用人数(以下「計画利用者数」という。)等に関する資料を添付することになっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点及び着眼点)

 活性化施設は、前記のとおり、農業生産活動等の拠点として利用されることにより農業・農村の活性化に資する施設であるとされていることから、実際の利用者数が計画利用者数を上回るなど、農業生産活動等の拠点として十分に利用されることを通じて、地域の農業・農村の活性化が図られることが肝要となる。
 そこで、本院は、有効性等の観点から、活性化施設は実施計画の利用目的に沿って利用され計画利用者数等を確保しているか、地元特産物のPR等に資する販売スペースや地域の食材を利用する食堂等(以下、これらを「販売スペース等」という。)の設置状況はどのようになっているかなどの点に着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

 本院は、貴省、24道県(注1) 及び管内の市町村において会計実地検査を行った。そして、このうち21道県(注2) 及び10県(注3) 管内の36市町村計57事業主体が16年度以前に整備した活性化施設188施設(事業費計199億8949万余円、国庫補助金計110億1477万余円)を対象として、実施計画、活性化施設の使用簿等の関係書類及び現地の状況を調査するなどして活性化施設の利用状況を検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、活性化施設の17年度から19年度までの間の利用状況は、次表のとおりとなっている。

表 平成17年度から19年度までの間の活性化施設の利用状況
平成17年度から19年度までの間の活性化施設の利用状況 事業主体数 施設数
(割合:%)
事業費
(国庫補助金)
販売スペース等
(割合:%)
すべての年度において実際の利用者数が計画利用者数を下回っている施設 18道県及び27市町村 施設
127
(67.5)
千円
12,525,071
(6,903,848)
施設
4
(13.7)
施設
123
(77.3)
2か年度において実際の利用者数が計画利用者数を下回っている施設 7道県及び3市町 11
(5.8)
1,147,366
(631,046)
1
(3.4)
10
(6.2)
1か年度において実際の利用者数が計画利用者数を下回っている施設 5道県及び7市町 10
(5.3)
1,187,636
(653,196)
1
(3.4)
9
(5.6)
すべての年度において実際の利用者数が計画利用者数を上回っている施設 16道県及び6市町 40
(21.2)
5,129,417
(2,826,689)
23
(79.3)
17
(10.6)
合計 21道県及び36市町村 188
(100.0)
19,989,491
(11,014,779)
29
(100.0)
159
(100.0)
注(1)
 割合及び金額は、端数処理のため各項目の数値を合計しても一致しない。

注(2)
 事業主体数は、重複があるため各項目の数値を合計しても一致しない。

 前記188施設のうち18道県(注4) 及び10県管内の27市町村計45事業主体が整備した127施設(事業費計125億2507万余円、国庫補助金計69億0384万余円)は、17年度から19年度までの間のすべての年度において実際の利用者数が計画利用者数を下回っている。これら127施設の大部分は、いわゆる地域の集会所として整備されている。そして、127施設のうち123施設は、施設内に販売スペース等が設置されていない状況である。
 一方、前記188施設のうち、17年度から19年度までの間のすべての年度において実際の利用者数が計画利用者数を上回っている活性化施設は、40施設である。そして、これら40施設のうち23施設は、施設内に販売スペース等が設置されており、地域内外の利用者を広く確保するための有効な手段の一つとして活用されている状況である。また、これら23施設の19年度の農産物販売等による収入額についてみると、300万円以上1000万円未満の施設が4施設、1000万円以上1億円未満の施設が14施設、1億円以上の施設が5施設となっている。このように、これら23施設については、販売スペース等の設置により就業機会の増大及び農業所得の向上が図られており、農業・農村の活性化に一定の効果を上げていると認められる。
 前記127施設において実際の利用者数が計画利用者数を下回っている背景には、活性化施設を整備した地域において、年々、人口の減少、高齢化等が進み、計画していた地域農業振興のための会議、集会等の実施回数が減少していること、施設の整備後に近隣地域に建設された類似施設と競合していることがあると考えられるが、13年度に貴省が改訂した手引き等において、施設内での物品等の販売に一定の制限が設けられたため、事業主体において、施設内で物品等を販売することについて十分な検討を行わないまま販売スペース等の設置を見送るなど、販売スペース等の設置が抑制される方向に誘導される結果となっていると考えられ、このこともその背景にあると認められる。
 以上のことから、活性化施設内に販売スペース等を設置することにより、施設の活用を図ることは、利用者数の増加、ひいては就業機会の増大及び農業所得の向上を図る上で有効な手段の一つであると認められる。

(改善を必要とする事態)

 農業・農村の活性化に資するため整備された活性化施設のうち多数の施設について、実際の利用者数が計画利用者数を下回っていて、活性化施設の整備に係る事業効果が十分に発現していない事態は、これらの施設が国庫補助金により整備されたものであることなどを考慮すると適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 事業主体において、活性化施設は農業生産活動等の拠点として利用されることにより農業・農村の活性化に資することを目的として整備された施設であることや、都市部や地域外の住民との交流により利用者数の確保を図ることが重要であることについての認識等が十分でなかったこと
イ 貴省において、活性化施設が国庫補助事業により整備された施設であることから、農業・農村の活性化を図るという中山間整備事業の目的から逸脱することのないように厳正な対応を行う必要があるとして、活性化施設内の販売スペース等の設置について抑制的な運用を行ってきたこと

3 本院が表示する意見

 中山間地域は、人口の減少、高齢化等が都市部と比較してより進んでいる地域であることから、活性化施設内に販売スペース等を設置することなどにより地域内外の利用者を広く確保することが、中山間地域における農業・農村の活性化を図る上で重要となる。
 ついては、貴省において、次のような処置を講ずるなどして、既存の活性化施設の有効利用を促進することにより、地産地消の促進、地域住民の就業機会を増大等させ、中山間地域における農業・農村の一層の活性化を図るよう意見を表示する。
ア 人口の減少、高齢化等の中山間地域を取り巻く各種の社会経済状況を十分に勘案して、活性化施設内における販売スペース等の設置に関する規制の緩和を図ること
イ 都道府県に対して、利用状況が好調な活性化施設の事例を市町村等に紹介するなどして、活性化施設の利用者数の増加を図るために、販売スペース等の設置、都市部や地域外の住民との交流の拡大に向けた指導を行うことなどを要請すること

 24道県  北海道、青森、宮城、秋田、栃木、群馬、埼玉、千葉、石川、福井、岐阜、静岡、滋賀、兵庫、和歌山、岡山、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、長崎、熊本、大分各県

 21道県  北海道、青森、宮城、栃木、群馬、埼玉、千葉、石川、福井、岐阜、静岡、滋賀、兵庫、岡山、徳島、愛媛、高知、福岡、長崎、熊本、大分各県

 10県  秋田、群馬、石川、兵庫、和歌山、岡山、徳島、香川、長崎、大分各県

 18道県  北海道、青森、宮城、栃木、群馬、埼玉、石川、福井、岐阜、静岡、滋賀、岡山、徳島、愛媛、高知、福岡、長崎、大分各県