ページトップ
  • 平成20年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第10 農林水産省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

土地改良事業の受益農地について、例外的に転用の許可を与える場合の具体的な審査方法を定めるとともに、転用許可後の状況に関し適時適切な指導を行うことなどの重要性について周知徹底を図るよう意見を表示したもの


(4) 土地改良事業の受益農地について、例外的に転用の許可を与える場合の具体的な審査方法を定めるとともに、転用許可後の状況に関し適時適切な指導を行うことなどの重要性について周知徹底を図るよう意見を表示したもの

農地転用の許可権者 農林水産大臣、北海道知事、宮城県知事
部局等 農林水産本省、2農政局、2道県
農地転用に係る事態の概要
(1) 転用許可後の施設が農業従事者の就業機会の増大に十分寄与していない事態(この事態に係る転用許可7件)
(2) 転用許可後の受益農地が転用目的に供されないまま長期間にわた り放置されている事態(この事態に係る転用許可13件)
上記の中で、土地改良事業の事業費のうち国費相当額が判明している転用許可 件数、同事業数及び国費相当額
(1) 転用許可 6 件、土地改良事業 8 件、国費相当額 6424万円
(2) 転用許可 6 件、土地改良事業 7 件、国費相当額 2645万円
転用許可 12 件、土地改良事業 15 件、国費相当額 9069万円

【意見を表示したものの全文】

土地改良事業の受益農地の転用の許可に際しての取扱いについて

(平成21年10月30日付け 農林水産大臣あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 農地の転用の許可に際しての取扱いの概要

(1) 土地改良事業の受益農地

 貴省は、農業の生産性の向上、農業総生産の増大等に資することを目的として、土地改良法(昭和24年法律第195号)に基づき、国営事業又は国庫補助事業により、農業用用排水施設、農業用道路等の新設、区画整理等を行う土地改良事業を多数実施している。また、食料・農業・農村基本法(平成11年法律第106号)において、国は、国内の農業生産に必要な農地の確保及びその有効利用を図るため、農地として利用すべき土地の農業上の利用の確保等必要な施策を講ずるものとするとされており、土地改良事業の果たす役割は大きいものとなっている。
 そして、この土地改良事業の受益地である農地(以下「受益農地」という。)が農地以外のものに転用される場合には、土地改良事業の効用、すなわち事業実施後の農業生産額の増大、営農経費の節減等の効用が当該転用時以降失われる結果となり、土地改良事業の事業効果に大きな影響を与えることになる。このため、国営事業又は国庫補助事業のいずれの場合においても、事業完了後8年以内でかつ受益農地のうち所定の面積が転用される場合には、土地改良法に基づき、国は当該事業に要した国費相当額を農業者等から特別徴収金として徴収できることなどとなっており、また、国庫補助事業の受益農地が転用される場合には、国は事業主体に対し国庫補助金の返還措置を講ずることなどとなっている。

(2) 農地転用の許可の概要

 受益農地であるかどうかにかかわらず、農地を転用する場合には、農地法(昭和27年法律第229号)に基づき、転用する農地面積が4haを超える場合には農林水産大臣の許可(以下「大臣許可」という。)を、また、4ha以下の場合には都道府県知事の許可を受けなければならないこととされている(以下、農林水産大臣又は都道府県知事を「許可権者」という。)。なお、都道府県知事が許可を行うもののうち2haを超える許可については、あらかじめ国に協議することとなっている(以下、この場合の許可を「知事許可」という。)。そして、許可権者は、農地転用の許可を行う際に、農地の優良性や周辺の土地利用状況等により〔1〕 農用地区域内農地、〔2〕 甲種農地、〔3〕 第1種農地、〔4〕 第2種農地、〔5〕 第3種農地の5種類に区分された農地のうち、農用地区域内農地、甲種農地及び第1種農地の転用については、原則不許可とする厳しい許可基準を設けるなどしてその転用を抑制することなどとしている。
 ただし、甲種農地及び第1種農地に区分された農地の転用については、農村地域の活性化や離農等による担い手への農地の集積を促進し周辺地域の農業の振興に資するため、農業従事者の就業機会の増大に寄与する施設の用に供する場合など、例外的に許可できる場合がある。そして、就業機会の増大に寄与する施設であるか否かは、当該施設に雇用されることとなる者に占める農業従事者(農業従事者の世帯員を含む。以下同じ。)の割合が3割以上であれば該当することとされている。
 また、許可権者は、農地法、農地等転用関係事務処理要領(昭和46年46農地B第500号農林省農地局長通知)等に基づき、〔1〕 申請書に記載された事業計画に従って事業の用に供すること、〔2〕 許可に係る工事が完了するまでの間、本件許可の日から3か月後及びその後1 年ごとに工事の進ちょく状況を報告(以下、これに係る報告書を「進ちょく状況報告書」という。)することなどの条件を原則として付するものなどとされている。

(3) 貴省における取組

 貴省は、転用が許可された農地が、その後、転用目的に供されないまま長期間にわたり放置されている事態が見受けられることから、「農地転用許可後の転用事業の促進等に関する事務処理について」(昭和51年51構改B第1939号農林省構造改善局長通知)を発出している。そして、同通知により、許可権者は、許可を受けた事業者が工事の進ちょく状況報告書の提出を遅滞したときには、その提出を文書により督促するなどして許可後の工事の進ちょく状況を常に把握しておくこと、また、進ちょく状況が事業計画に記載された工事の着手又は完了の時期から著しく遅延しているなどのものについては、速やかに工事に着手し又は工事を完了すべき旨などを文書により催告することなどとなっている。
 また、貴省は、農業従事者の就業機会の増大に寄与する施設に供するために転用が許可された施設において、施設稼働後の雇用実績が雇用計画に達していない事例等があったことから、平成19年に発出した「農業振興地域制度及び農地転用許可制度の運用の適正化等について」(平成19年18農振第1942号農林水産省農村振興局長通知)において、雇用の確実性を一層明確にするとともに、雇用計画に対する雇用状況を把握することができるよう、許可申請書に雇用計画及び雇用協定の添付を求めて、許可権者において雇用の確実性の判断を行うことなどとしている。

2 本院の検査結果

(検査の観点及び着眼点)

 土地改良事業は、農業用用排水施設等が整備された優良な農地等を整備することにより、農業の生産性の向上、農業総生産の増大等を図ることを目的として、長年にわたり多額の国費を投じて実施されてきた事業である。
 しかし、土地改良事業の受益農地が転用された場合、多額の国費を投じて実施した土地改良事業の効用が、当該転用時以降失われる結果となる。このため、転用された農地が、転用時以降失われた効用に代えて、転用目的に供されることにより当該地域において新たな効用を生み出すことが重要となる。
 そこで、本院は、有効性等の観点から、農業従事者の就業機会の増大に寄与する施設の用に供するために例外的に転用の許可を受けた受益農地に設置された施設が、実際に農業従事者の就業機会の増大に十分寄与しているか、転用された受益農地が転用目的に供されないまま長期間にわたり放置されていないかなどの点に着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

 本院は、農林水産本省、4農政局 (注1) 及び9道県(注2) において、20年度までに行われた土地改良事業の受益農地に係る転用の許可計175件(このうち土地改良事業の事業費のうち国費相当額が判明している許可は129件、これらに係る土地改良事業203件、転用された受益農地の面積延べ1,157ha、国費相当額計22億1686万余円)を対象として、転用許可申請書等の書 類及び現地の状況を調査するなどして会計実地検査を行った。

 4農政局  東北、関東、東海、近畿各農政局

 9道県  北海道、秋田、宮城、埼玉、静岡、愛知、滋賀、和歌山、愛媛各県

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 受益農地の上に設置された施設が農業従事者の就業機会の増大に十分寄与していない事態について

 農地の転用が原則不許可とされている第1種農地について、農業従事者の就業機会の増大に寄与する施設の用に供するため例外的に行われた農地の転用の許可11件について、当該施設の営業開始後における農業従事者の雇用状況を調査したところ、被雇用者に占める農業従事者の割合が3割未満となっている事態が、東北、関東両農政局に係る大臣許可5件、北海道及び宮城県に係る知事許可2件、計7件(これらの許可に係る土地改良事業16件)について見受けられた。そして、このうち、土地改良事業の事業費のうち国費相当額が判明している許可は6件であり、これらの許可に係る土地改良事業は8件、転用された受益農地の面積は延べ42.4ha、国費相当額は計6424万余円であった。

<事例>

 関東農政局は、平成17年8月に、A県B市内の第1種農地6.2haについて、農業従事者の就業機会の増大に寄与する商業施設の建設用地に供するものとして、例外的に転用を許可している。
 この農地のうちの5.8haの農地は、A県が事業主体となり昭和58年度から平成3年度までを事業期間として実施したほ場整備事業(受益農地の全面積2,515ha、事業費153億0100万円、国庫補助金額65億5677万円)の受益農地であり、この受益農地に係る国庫補助金相当額を算定すると1512万余円となる。そして、上記の商業施設を運営するC会社は、B市との間で締結した雇用協定において、農業従事者を被雇用者の3割以上雇用するとしていた。
 しかし、同施設の営業開始後における農業従事者の雇用割合は、実際には、18年 36.7%、19年25.1%、20年22.9%となっていて、3割以上となっていたのは初年のみであった。

(2) 受益農地が転用目的に供されないまま長期間にわたり放置されている事態について

 転用が許可された受益農地が、転用目的に供されないまま長期間にわたり放置されており、転用により何の効用も生み出していないと認められる事態が、農林水産本省及び東北、関東両農政局に係る大臣許可13件(これらの許可に係る土地改良事業18件)について見受けられた。そして、このうち土地改良事業の事業費のうち国費相当額が判明している許可は6件であり、これらの許可に係る土地改良事業は7件、転用された受益農地の面積は延べ32.4ha、国費相当額は計2645万余円であった。
 上記の13件の許可に係る事態の態様は、次のとおりである。
(ア) 転用の許可後5年以上経過しているのに、許可に係る工事に着手していなかったものが4件見受けられた。そして、これらについては、進ちょく状況報告書が提出されていないのに、許可権者による同報告書の督促や速やかに工事に着手すべき旨の催告が行われていないなどの状況となっていた。
(イ) 転用許可後10年以上経過していて、最後に提出された進ちょく状況報告書における工事の進ちょく状況が50%以下となっていたものなどが9件見受けられた。そしてこれらについては、最後に同報告書が提出されてから10年以上も経過しているのに、許可権者による同報告書の督促や工事を早期に完了させる旨の催告が行われていないなどの状況となっていた。

(改善を必要とする事態)

 前記のように、多額の国費を投じて農業用用排水路等を整備するなどした土地改良事業の受益農地が、農業従事者の就業機会の増大に寄与する施設の用に供するために例外的に転用の許可を受けているのに、転用許可後において当該施設が農業従事者の就業機会の増大に十分寄与していなかったり、受益農地の転用許可後、当該受益農地が転用目的に供されないまま長期間にわたり放置されていたりしている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 貴省において、農業従事者の就業機会を増大させるために例外的に転用の許可を与える場合の審査方法を具体的に示していないこと
イ 貴省の関係部局及び道県において、転用許可後の事業の実施状況を十分に把握し、問題があると認められる場合には指導を行うことなどの重要性に対する認識が十分でないこと

3 本院が表示する意見

 貴省において、土地改良事業の受益農地について転用の許可の趣旨が十分に達成され、また、転用による新たな効用の確保に資するため、次のような処置を講ずるよう意見を表示する。
ア 農業従事者の就業機会を増大させるために例外的に転用の許可を与える場合の具体的な審査方法を定めて、これを関係部局及び都道府県に示すこと
イ 転用許可後の事業の実施状況に問題があると認められる場合には指導を行うことなどの重要性について、関係部局及び都道府県に対して周知徹底を図ること