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  • 平成20年度|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

借地に新築等した庁舎等の建物について登記が必要となる場合を明確に定めることなどにより、国営土地改良事業を実施するために設置されている事業所等における国有財産の管理が適切に行われるよう改善の処置を要求したもの


(14) 借地に新築等した庁舎等の建物について登記が必要となる場合を明確に定めることなどにより、国営土地改良事業を実施するために設置されている事業所等における国有財産の管理が適切に行われるよう改善の処置を要求したもの

部局等 7地方農政局
国有財産の区分一般会計所属 一般会計所属 (分類)行政財産 (種類)公用財産
登記所に嘱託すべき登記の概要 借地に新築等した国有財産である建物について、第三者に対する対抗要件を備えるために行う登記
登記の嘱託を行っていなかった国有財産である建物に係る面積
19,489m2 (建面積)/20,438m2
(延べ面積)
(平成20年12月末現在)

上記の建物の国 有財産台帳価格  8億5779万円

【改善の処置を要求したものの全文】

国有財産の登記について

(平成21年9月3日付け 農林水産大臣あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 貴省における国有財産の管理等の概要

(1) 国有財産の管理

 国が、国の事務、事業又は国の職員の住居の用に供するなどのため庁舎、宿舎等として所有する土地、建物等は、国有財産として、国有財産法(昭和23年法律第73号)に基づき、取得、維持、保存及び運用(以下、これらを「管理」という。)並びに処分を行うこととされている。
 国有財産の管理のうち、取得については、[1] 購入する場合、[2] 寄附による場合、[3] 交換による場合等があるが、建物の取得については、これらの場合以外に新築、増築及び改築する場合がある。また、保存については、修繕、盗難・紛失の防止、未登記財産に係る登記等、国有財産の保全に必要な行為と解されている。
 そして、各省各庁の長は、国有財産法に基づき、国有財産の分類(行政財産等)及び種類(公用財産等)ごとに国有財産台帳を、土地を基準として設定した口座別に作成して、口座ごとに財産の区分(建物等)、種目(事務所建等)、用途(庁舎等)、数量、価格等を記載することとなっている。

(2) 貴省における国有財産の管理

 貴省は、所管する国有財産の取扱いに関して、農林水産省所管国有財産取扱規則(昭和34年農林省訓令第21号。以下「取扱規則」という。)を定め、各地方農政局長を部局長として、それぞれの部局に所属する国有財産に関する管理等の事務を分掌させることとしており(以下、当該事務を分掌する部局長を「国有財産部局長」という。)、国有財産部局長に対して、常時その管理する国有財産の現状を把握させて、その管理及び処分を適正に行わせることとしている。
 そして、各国有財産部局長は、取扱規則に基づき事務取扱準則等を定め、それぞれの地方農政局管内の事業所等の長に国有財産の管理及び処分に関する事務の一部を分掌させている。

(3) 不動産登記の概要

 不動産の登記制度は、不動産の表示及び不動産に関する権利を公示するための制度であり、民法(明治29年法律第89号)第177条の規定により、不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従い、その登記をしなければ第三者に対抗することができないとされている。
 不動産登記法によれば、登記には、不動産の表示に関する登記と不動産の所有権、地上権等の権利に関する登記がある。そして、土地又は建物を取得した者は、当該土地又は建物に係る権利に関する登記の申請をすることができるとされており、土地又は建物を取得した者が国であって、国がその取得した土地又は建物について権利に関する登記をするときは、遅滞なく、当該登記を登記所に嘱託しなければならないこととなっている。
 そして、権利に関する登記は、表示に関する登記がなされていることが必要であることから、表示に関する登記がない新築の建物等を取得した場合には、取得した日から1月以内に、表示に関する登記を申請しなければならないこととなっている。
 ただし、この表示に関する登記の申請義務については、国が所有する土地又は建物は一般的に、直ちに取引の対象となるわけではないこと、国有財産台帳で管理されていることなどの理由から、国に対する適用が除外されている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 各地方農政局管内の事業所等の中には、国営土地改良事業を実施するために設置される事業所等(以下「国営土地改良事業所等」という。)がある。そして、貴省は、これらの国営土地改良事業所等の設置等に際し、通常、借地に庁舎、宿舎等の建物を新築等しているが、借地に新築等したこれら建物について、第三者に対する対抗要件を備える必要がある場合には、当該建物の所在地を管轄する登記所に登記を嘱託するなどして、その適切な管理を図ることが求められることとなる。
 そこで、本院は、合規性等の観点から、国営土地改良事業等の実施のために借地に新築等した庁舎等の建物について、第三者に対する対抗要件を備える必要がある場合に登記の嘱託が適切に行われているかなどの点に着眼して、表1のとおり、7地方農政局管内の38国営土地改良事業所等(注1) の長が管理している80口座に係る332棟の建物(平成20年12月末現在の国有財産台帳価格の合計額1,496,344,762円)を対象として検査した。

地方農政局名 国営土地改良事業所等数 口座数 建物数(棟) 建面積/延べ面積(m2 国有財産台帳価格(円)
東北農政局
関東農政局
北陸農政局
東海農政局
近畿農政局
中国四国農政局
九州農政局
8
3
4
3
2
5
13
21
6
8
5
2
6
32
69
42
42
13
4
31
131
7,631 / 8,306
3,603 / 3,873
3,553 / 3,553
1,646 / 1,718
145 / 145
3,497 / 3,827
11,422 / 12,503
368,672,285
109,319,552
153,739,071
98,819,719
1,454,928
226,097,293
538,241,914
38 80 332 31,497/33,925 1,496,344,762
 国有財産法施行細則(昭和23年大蔵省令第92号)第6条の規定に基づき、面積は端数を切り捨てて計上している。

 検査に当たっては、上記の38国営土地改良事業所等のうち5国営土地改良事業所等(注2) において国有財産台帳等の書類と現地の建物の状況とを照合するなどして会計実地検査を行うとともに、残りの33国営土地改良事業所等については、国有財産台帳の写し等の書類を農林水産本省から本院に提出させた上で検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、上記の借地に新築等した建物のうち、38国営土地改良事業所等の77口座に係る300棟(国有財産台帳価格計1,348,968,089円)については、国が所有する建物は表示に関する登記の申請義務の適用が除外されているとして、登記の嘱託が行われていなかった。しかし、これら登記の嘱託が行われていない300棟のうち、30国営土地改良事業所等の60口座に係る226棟(国有財産台帳価格計857,798,540円)については、地方公共団体以外の個人、法人等からの借地(以下「民有地」という。)に新築等した建物である(表2参照)ことから、財産の保全のため第三者に対する対抗要件を備える必要があり、登記の嘱託を行う必要があると認められた。

地方農政局名 国営土地改良事業所等数 口座数 建物数(棟) 建面積/延べ面積(m2 国有財産台帳価格(円)
東北農政局
関東農政局
北陸農政局
東海農政局
近畿農政局
中国四国農政局
九州農政局
7
3
2
3
2
2
11
19
6
2
5
2
3
23
58
42
3
13
4
25
81
5,349 / 5,816
3,603 / 3,873
27 / 27
1,646 / 1,718
145 / 145
3,049 / 3,162
5,670 / 5,697
248,478,813
109,319,552
695,750
98,819,719
1,454,928
165,932,127
233,097,651
30 60 226 19,489/20,438 857,798,540
(注)
 国有財産法施行細則第6条の規定に基づき、面積は端数を切り捨てて計上している。

 民有地に新築等した建物について登記の嘱託が行われていない事例を示すと、次のとおりである。

<事例>

 東北農政局津軽農業水利事務所長は、平成14年度から24年度までを事業期間とする国営岩木川左岸(二期)農業水利事業等を実施するなどのため、個人から土地を同事務所の敷地として賃借した上で、10年3月に庁舎を新築するなどして、20年12月末現在において計17棟の建物(建面積計1,788m 、延べ面積計1,788m 、国有財産台帳価格計65,086,961 円)を管理している。
 しかし、同事務所長は、民有地に新築等したこれら17棟の建物について、国が所有する建物については表示に関する登記の申請義務の適用が除外されているとして、財産の保全のため第三者に対する対抗要件を備える必要があるかどうかを十分検討せず、登記の嘱託を行わないままとしていた。
 なお、不動産登記法を所管する法務省は、同省が所管する国有財産について、不動産登記法による登記の申請義務の適用が除外される場合であっても、借地に建物を新築、増築、移築又は改築し、財産の保全のため第三者に対する対抗要件を備える必要があるときなどには、遅滞なく、管轄登記所に登記を嘱託しなければならないこととしている。

(改善を必要とする事態)

 国が所有する土地又は建物は、国有財産台帳に記載されていることなどの理由から、不動産登記法による表示に関する登記の申請義務の適用が除外されているが、借地上の建物については、登記がなされていればその借地権は第三者に対する対抗力を有すると解されている。
 したがって、前記のように、民有地に新築等した国営土地改良事業所等の建物について、財産の保全のため第三者に対する対抗要件を備える必要があるかどうかについて十分検討することなく、登記の嘱託を行わないままとなっているものが多数ある事態は、国有財産の管理として適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴省において、借地に新築等した建物について、財産の保全のため、どのような場合に登記の嘱託を行わなければならないかを明確にしていなかったことなどによると認められる。

3 本院が要求する改善の処置

 貴省は、今後とも、各地方農政局において、借地に新築等した建物の管理を引き続き行っていくとともに、新たな国営土地改良事業等の実施に伴い、借地に新築等する建物を取得することが見込まれている。そして、これらの建物等の国有財産については、常に良好な状態においてこれを管理することが必要とされている。
 ついては、貴省において、借地に新築等した建物について、どのような場合に登記の嘱託を行わなければならないかを明確に定め、これを各地方農政局管内の国営土地改良事業所等の長に周知するとともに、前記の30国営土地改良事業所等の60口座に係る226棟について登記の嘱託を行わせることなどにより、国有財産の管理が適切に行われるよう改善の処置を要求する。

 38国営土地改良事業所等  北奥羽、阿武隈、西北陸、淀川水系、四国、北部九州、南部九州各土地改良調査管理事務所、津軽、大崎両農業水利事務所、四国東部農地防災事務所、馬淵川沿岸、最上川下流沿岸、隈戸川、両総、北総中央、那珂川沿岸、佐渡、柏崎周辺、九頭竜川下流、新矢作川用水、宮川用水第二期、斐伊川沿岸、筑 後川下流、筑後川下流白石平野、尾鈴、綾川二期、西諸、都城盆地、曽於北部、肝 属中部、徳之島用水各農業水利事業所、いさわ南部農地整備事業所、新濃尾、野洲 川沿岸、那賀川、佐賀中部各農地防災事業所、高知三波川帯農地保全事業所、有明 海岸保全事業所

 5国営土地改良事業所等  淀川水系土地改良調査管理事務所、両総、宮川用水第二期両農業水利事業所、佐賀中部農地防災事業所、有明海岸保全事業所