国土交通省の国庫補助事業(以下「補助事業」という。)における事業費の内容、算定方法等は、道路整備事業については「道路局所管補助金等交付申請について」(平成13年3月30国土交通省国道総第589国土交通省道路局長通知)等に、また、街路事業、下水道事業等(以下「都市・地域整備事業」という。)については「都市・地域整備局所管国庫補助金交付申請等要領」(平成13年6月27日国都総第2000号国土交通省都市・地域整備局長通知)等に定められている。
これらによると、補助事業の事業費は、本工事費(委託費を含む。)、用地費、補償費等から成る工事費と職員の人件費、旅費、庁費等から成る事務費とに区分されている。このうち、事務費については、事業費(注1)
を所定の金額の段階に区分して、区分ごとに定められた率(以下「事務費率」という。)を乗じて得た額を合計するなどした額(以下「定率事務費」という。)を事務費補助限度額とし、その範囲内で必要な額を補助の対象となる事務費(以下「補助対象事務費」という。)として算定することとなっている。
事業主体は、補助事業の実施に当たって、工事等の全部又は一部を国、他の地方公共団体、民間事業者等に委託して施行する場合、委託費を支払っており、この委託費の中に、委託先が当該委託業務を実施するために必要な事務費(以下「委託事務費」という。)が含まれている。
そして、工事等を委託して施行する場合、事業主体が自ら行う事務が軽減され、その分の事務費を要しないこと及び委託費の中に委託事務費が含まれていることから、道路整備事業においては、定率事務費から委託事務費の実績額を控除した額を事務費補助限度額とすることとなっている。
また、都市・地域整備事業において工事を委託して施行する場合、定率事務費から、委託費に事務費率を乗じて得た額の2分の1を控除した額を事務費補助限度額とすることとなっており、公共施設管理者負担金(注2)
を支払う場合及び土地開発公社等から先行取得用地を再取得する場合も同様の取扱いとすることとなっている。ただし、この事業主体の事務費と委託事務費等との合計額で補助の対象とすることができる額は、原則として定率事務費の範囲内とすることとなっている。したがって、工事を委託して施行する場合等における事業主体の事務費補助限度額は、定率事務費から、委託費等の額に事務費率を乗じて得た額の2分の1又は委託事務費等のいずれか多い方の額を控除した額とすることとなっている。
本院が31道府県及びその管内の378市町村等において会計実地検査を行ったところ、14道府県の20事業主体が事業費計52,233,304,635円(国庫補助金計44,306,651,315円)で実施した38事業は、補助対象事務費の算定が次のとおり適切でなかった。
ア 道路整備事業
13事業主体は、19事業の事務費補助限度額を計1,763,916,071円と算定して、この範囲内で補助対象事務費を計1,701,554,356円としていた。
しかし、このうち12事業主体は、工事等の一部を委託して施行している18事業において、事務費補助限度額の算定に当たり、定率事務費から委託事務費を適正に控除して算定すべきところ、次のように算定していた。
(ア) 工事等の一部を委託して施行しているにもかかわらず、定率事務費から委託事務費を控除することなく、定率事務費を事務費補助限度額としていたもの 8事業主体、12事業
(イ) 定率事務費から委託事務費の実績額を控除すべきところ、これより低額な概算額を控除するなどして事務費補助限度額としていたもの 3事業主体、4事業
(ウ) 定率事務費から委託事務費を控除すべきところ、事業費から委託費を控除していたり、交付決定の単位ごとに定率事務費を算定すべきところ、事業を構成する個々の路線ごとに算定したりしていたもの 2事業主体、2事業
また、1事業主体は、1事業において、当該事業の事務費補助限度額の範囲内の額を補助対象事務費とすべきところ、当該事業の事務費補助限度額を超える金額を補助対象事務費として、さらに、事業費の実績額が減少しているにもかかわらず、当初の事業費に基づいて事務費補助限度額を算定していた。
したがって、所要の控除を行うなどして適正な事務費補助限度額を算定すると計1,589,820,801円となり、前記の補助対象事務費計1,701,554,356円は111,733,555円過大になっており、これに係る国庫補助金相当額66,883,308円が過大に交付されていて、不当と認められる。
イ 都市・地域整備事業
8事業主体は、19事業の国庫補助対象事業費計8,955,400,000円に事務費率を乗ずるなどして事務費補助限度額を計383,161,655円と算定して、この範囲内で補助対象事務費を計340,551,054円としていた。
しかし、このうち7事業主体は、工事の一部を委託して施行したり、公共施設管理者負担金を支払ったり、土地開発公社からの先行取得用地の再取得を行ったりしている18事業において、事務費補助限度額の算定に当たり、定率事務費から、委託費等の額に事務費率を乗じて得た額の2分の1又は委託事務費等のいずれか多い方の額を控除すべきところ、これを控除することなく算定していた。
また、1事業主体は、1事業において、事業の一部を実施できなかったのに、当初の事業費に基づいて事務費補助限度額を算定していた。
したがって、所要の控除を行うなどして適正な事務費補助限度額を算定すると、一部の事業主体で計上していなかった工事費を考慮しても計283,935,513円となる。そして、この適正な事務費補助限度額及び上記の工事費を基に改めて国庫補助対象事業費を算定すると計8,899,273,280円となり、前記の国庫補助対象事業費計8,955,400,000円は56,126,720円過大になっており、これに係る国庫補助金相当額30,985,363円が過大に交付されていて、不当と認められる。
ア及びイの事態について一例を示すと次のとおりである。
鳥取県は、街路事業の一環として、平成18年度から20年度までの間に、都市計画道路3・3・9号米子駅陰田線外6路線の整備を事業費計3,075,600,0000円(全額国庫補助金)で実施している。
この事業費のうち事務費については、事業費の額に事務費率を乗ずるなどして事務費補助限度額を計138,248,755円と算定して、この範囲内で執行された事務費計128,226,633円を補助の対象としていた。
しかし、この事業費は、鉄道事業者に委託して施行した工事に係る委託費等計438,826,287円が含まれており、このうち、同事業者の委託事務費等は計16,052,302円であった。そして、同県は、この委託事務費等計16,052,302円が委託費等計438,826,287円に事務費率を乗じて得た額の2分の1の額計9,873,590円より多額であることから、事務費補助限度額の算定に当たり、定率事務費から上記の委託事務費等計16,052,302円を控除しなければならないのに、これを控除していなかった。
したがって、所要の控除を行って適正な事務費補助限度額を算定すると計122,072,774円となり、前記の補助対象事務費計128,226,633円は計6,153,859円が過大になっており、これに係る国庫補助金相当額計6,153,859円が過大に交付されている。
ア及びイのような事態が生じていたのは、20事業主体において、補助対象事務費の算定に当たり、委託費等に係る控除についての認識等が十分でなかったことなどによると認められる。
これらの事態を都道府県別・事業主体別に示すと次のとおりである。
部局等 | 補助事業者等 (事業主体) |
補助事業等 | 年度 | 事業費 (国庫補助対象事業費) |
左に対する国庫補助金等交付額 | 不当と認める事業費 (国庫補助対象事業費) |
不当と認める国庫補助金等相当額 | 摘要 | |
千円 | 千円 | 千円 | 千円 | ||||||
ア | 道路整備事業 | ||||||||
(469) | 岩手県 | 岩手県 | 地域連携推進、交通安全施設等整備 | 18、19 | 906,668 (906,668) |
478,334 | 12,090 (12,090) |
6,248 | 委託事務費を控除していないもの |
(470) | 同 | 紫波郡 紫波町 |
地方道路交付金 | 19 | 56,650 (56,650) |
56,650 | 1,705 (1,705) |
1,705 | 同上 |
(471) | 同 | 西磐井郡 平泉町 |
地方道路交付金 | 19 | 126,500 (126,500) |
126,500 | 1,354 (1,354) |
1,354 | 控除額を誤ったもの |
(472) | 福島県 | 福島県 | 交通安全施設等整備 | 18 | 1,162,912 (1,162,912) |
581,456 | 7,137 (7,137) |
3,568 | 委託事務費を控除していないもの |
(473) | 茨城県 | 茨城県 | 交通連携推進 | 19 | 1,650,000 (1,650,000) |
825,000 | 5,614 (5,614) |
2,807 | 控除方法を誤ったもの |
(474) | 埼玉県 | 埼玉県 | 交通円滑化、地域連携推進 | 18 | 4,320,489 (4,320,489) |
2,255,244 | 36,613 (36,613) |
18,690 | 委託事務費を控除していないものなど |
(475) | 静岡県 | 静岡県 | 地方道路交付金 | 19 | 5,122,700 (5,122,700) |
5,122,700 | 3,953 (3,953) |
3,953 | 控除方法を誤ったもの |
(476) | 大阪府 | 大阪府 | 交通安全施設等整備 | 18 | 337,996 (337,996) |
168,998 | 2,469 (2,469) |
1,234 | 委託事務費を控除していないもの |
(477) | 和歌山県 | 和歌山県 | 交通安全施設等整備 | 18 | 220,000 (220,000) |
110,000 | 6,122 (6,122) |
3,061 | 同上 |
(478) | 鳥取県 | 鳥取県 | 交通連携推進、地方道路交付金 | 18、19 | 5,455,950 (5,455,950) |
5,000,950 | 19,386 (19,386) |
11,192 | 同上 |
(479) | 愛媛県 | 愛媛県 | 交通安全施設等整備 | 18 | 1,000,000 (1,000,000) |
500,000 | 4,438 (4,438) |
2,219 | 補助対象事務費を誤ったもの |
(480) | 愛媛県 | 今治市 | 地方道路交付金 | 18 | 476,300 (476,300) |
476,300 | 2,636 (2,636) |
2,636 | 委託事務費を控除していないもの |
(481) | 福岡県 | 福岡県 | 地方道路交付金 | 18、19 | 22,441,738 (22,441,738) |
22,441,738 | 8,209 (8,209) |
8,209 | 控除額を誤ったもの |
アの計 | 43,277,904 (43,277,904) |
38,143,871 | 111,733 (111,733) |
66,883 | |||||
イ | 都市・地域整備事業 | ||||||||
(482) | 北海道 | 旭川市 | まちづくり総合支援、まちづくり交付金、街路、土地区画整理 | 15〜19 | 2,824,960 (2,824,960) |
1,304,860 | 26,911 (26,911) |
11,615 | 先行取得用地の再取得費等に係る控除をしていなかったもの |
(483) | 同 | 江別市 | 浸水対策下水道 | 18 | 681,000 (681,000) |
340,500 | 4,669 (4,669) |
2,334 | 工事の委託費に係る控除をしていなかったもの |
(484) | 同 | 恵庭市 | 浸水対策下水道 | 18 | 435,800 (435,800) |
217,900 | 2,061 (2,061) |
1,030 | 同上 |
(485) | 秋田県 | 大仙市 | 公共下水道、土地区画整理 | 18、19 | 1,263,500 (1,263,500) |
817,900 | 3,962 (3,962) |
3,091 | 同上 |
(486) | 奈良県 | 奈良市 | 街路外1 | 17 | 295,000 (295,000) |
147,500 | 2,065 (2,065) |
1,032 | 先行取得用地の再取得費に係る控除をしていなかったもの |
(487) | 同 | 橿原市 | 街路 | 19 | 137,500 (137,500) |
137,500 | 1,151 (1,151) |
1,151 | 同上 |
(488) | 鳥取県 | 鳥取県 | 街路 | 18、19 | 3,075,600 (3,075,600) |
3,075,600 | 6,153 (6,153) |
6,153 | 工事の委託費に係る控除をしていなかったものなど |
(489) | 香川県 | 木田郡 三木町 |
汚水処理施設整備交付金 | 19 | 242,040 (242,040) |
121,020 | 9,151 (9,151) |
4,575 | 事務費補助限度額算定の対象事業費を誤ったもの |
イの計 | 8,955,400 (8,955,400) |
6,162,780 | 56,126 (56,126) |
30,985 | |||||
ア、イの合計 | 52,233,304 (52,233,304) |
44,306,651 | 167,860 (167,860) |
97,868 |