会計名及び科目 | 一般会計 | (組織)国土交通本省 | (項)都市計画事業費等 | |||||||||
社会資本整備事業特別会計(治水勘定)(平成19年度以前は、治水特別会計(特定多目的ダム建設工事勘定)) | ||||||||||||
(項)多目的ダム建設事業費等 | ||||||||||||
社会資本整備事業特別会計(道路整備勘定)(平成19年度以前は、道路整備特別会計) | ||||||||||||
(項)道路事業費等 | ||||||||||||
部局等 |
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補助の根拠 | 下水道法(昭和33年法律第79号)、河川法(昭和39年法律第167号)、道路法(昭和27年法律第180号)等 | |||||||||||
事業主体 |
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前工事に引き続き随意契約により行う後工事の概要 | 公共工事において、全体工事を当初に発注する前工事とそれに引き続き発注する後工事に分割し、前工事の請負人と随意契約により締結するもの | |||||||||||
前工事における競争の利益が反映されていない後工事の工事費 |
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標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
貴省は、国土の総合的かつ体系的な利用、開発及び保全、そのための社会資本の総合的な整備を図るため、河川、道路等の公共工事を請負契約により多数実施している。また、地方公共団体においても、毎年度多額の国庫補助金の交付を受けて、公共工事を請負契約により多数実施している。
これらの公共工事の契約に当たっては、国においては、会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)等に基づき、また、地方公共団体においては、地方自治法(昭和22年法律第67号)、地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)等に基づき、それぞれ予定価格の作成、入札等の手続を経て契約を締結している。
そして、これらの法令等において、請負契約を締結する場合の契約方式は、原則として、一般競争入札によることとされているが、一般競争入札の例外として、競争に付することが不利と認められる場合には、随意契約によるものとするなどの規定が設けられている。
公共工事においては、入札・契約手続の改善、予算付けの重点化や国庫債務負担行為の活用、工事の種類等に応じた発注単位の合理化等が求められているところであるが、貴省又は地方公共団体が実施する工事には、予算その他の事情等から、全体工事を当初に発注する工事(以下「前工事」という。)とそれに引き続き発注する工事(以下「後工事」という。)に分割しているものがある。
この場合、前工事は、一般競争入札等の競争入札に付するものの、後工事については、前工事と密接不可分の関係にあり、瑕疵担保責任の範囲を明確にしたり、前工事で使用した仮設備を引き続き使用したりして、施工の安全性を確保しつつ所要の品質の構造物を経済的に築造する必要があるなどのため、競争に付することが不利と認められる場合に該当するとして、前工事の請負人と随意契約を締結しているものが多数ある。
このような後工事の予定価格の算定に当たっては、共通仮設費、現場管理費、一般管理費等の諸経費について、貴省制定の土木工事標準積算基準書又は同積算基準書を基に地方公共団体が定めている積算基準(以下、これらを「積算基準」という。)に基づき、前工事と後工事を一つの工事とみなして、直接工事費等を合算した額にそれぞれの率を乗ずるなどして、工事全体を通じて共通的に必要となる諸経費を算出し、この額から前工事で計上した諸経費の額を控除する調整を行うこととされている。
積算基準等によれば、各工事における設計数量の増減や工種の変更等に基づく設計変更に当たっては、変更後の設計金額に当初の契約金額の設計金額に対する比率(以下「落札率」という。)を乗じて得た額又はそれ以下の額により変更契約を締結することとされており、一般競争入札等による変更前の契約の競争の利益を変更後の契約に反映するものとなっている。そして、後工事についても、上記の設計変更と同様に、一般競争入札等を行って契約された前工事の落札率を後工事の設計金額に乗じて後工事の予定価格を算定する方法(以下「落札率方式」という。)を採ることや、前工事の入札公告等において全体工事と前工事の内容及び落札率方式により後工事の予定価格を算定する旨を明記することを定めている事業主体が一部で見受けられる。
また、貴省が、平成18年4月に各地方整備局等に対して発出した「いわゆるダンピング受注に係る公共工事の品質確保及び下請業者へのしわ寄せの排除等の対策について」(平成18年国官総第33号、国官会第64号、国地契第1号、国官技第8号、国営計第6号、国総入企第2号。)の通達では、適正な競争環境を整備するため、前工事と後工事の関係にある工事のうち「政府調達に関する協定」(平成7年条約第23号)の適用を受ける前工事が低入札価格調査制度の調査対象となった場合には、前工事に含まれる工種についてあらかじめ単価等の合意を行い、後工事について随意契約を締結する場合は、前工事において合意した単価等を後工事の積算において使用する方法(以下「単価合意方式」という。)を採るものとされ、その旨を前工事の入札公告等で明記するものとされている。この通達は、貴省が直轄事業で実施する公共工事について、いわゆるダンピング受注対策として発出したものであるが、単価合意方式は、請負人から提出された請負代金内訳書、すなわち落札価格の明細を基に前工事に含まれる工種について単価等の合意を行うものであることから、合意した単価等を使用して後工事の積算を行うことにより、単価等の合意が行われた工種の範囲において、前工事における競争の利益を反映することができるものとなっている。
近年、公共工事においては、入札・契約制度の改革等により、入札参加者間の競争性が高まっていることなどから、年々落札率が低下してきており、貴省各地方整備局の一般競争入札における平均落札率は、14年度は95.5%であったものが、19年度は89.4%となっており、補助事業においても同様の傾向となっている。しかし、前工事に引き続き同一の請負人に随意契約により発注する後工事では、他者との競争がないなどのために契約金額が高止まりするおそれがあることから、本院は、経済性等の観点から、随意契約による後工事の予定価格の算定が適切なものとなっているかなどに着眼して検査した。
そして、前工事に引き続き同一の請負人と18年度から21年度までの間に随意契約により実施している後工事について、貴省の7地方整備局等(注1)
における河川事業及び道路事業(以下、これらを「直轄事業」という。)に係るもの計42件、契約金額計2070億3691万余円、5都道府県(注2)
、10政令指定都市 (注3)
及び12市区(注4)
の27事業主体における貴省都市・地域整備局所管の国庫補助事業(以下「補助事業」という。)に係るもの計192件、契約金額計898億7998万余円(国庫補助金432億0487万余円)、合計234件、契約金額合計2969億1689万余円を対象として、契約書、入札状況調書、設計書等の書類により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
検査の対象とした後工事234件のうち、補助事業の5事業主体(注5)
が実施した後工事52件、契約金額計231億1621万余円(国庫補助金113億8104万余円)においては、予定価格の算定に当たって、落札率方式を採っていた。
これに対して、貴省の7地方整備局等が実施した後工事42件、契約金額計2070億3691万余円、補助事業の22事業主体(注6)
が実施した後工事140件、契約金額計667億6376万余円(国庫補助金318億2382万余円)、合計182件、契約金額合計2738億0067万余円においては、後工事の予定価格の算定に当たって、落札率方式、単価合意方式等のいずれの方法も採っておらず、設計金額を予定価格とするなどしていた。なお、直轄事業で単価合意方式が採られていないのは、前記の通達に定める場合に該当する工事がなかったためである。
そして、いずれの方法も採っていない後工事182件の落札率について、一般競争入札等により契約を締結したそれぞれの前工事149件の落札率と比較したところ、前工事より後工事の方が高率となっているものが後工事182件のうち168件見受けられた。そして、これら168件の後工事の落札率は、前工事に比べて、直轄事業で0.2ポイントから24.6ポイント、平均4.3ポイント、補助事業で0.2ポイントから53.4ポイント、平均11.1ポイント、全体の平均では9.6ポイント高くなっていた。
また、いずれの方法も採っていない場合にあっては、後工事の規模が大きくなるほど競争の利益が反映されない範囲も大きくなることから、設計金額について、これらの後工事182件と前工事149件を比較したところ、後工事の設計金額(後工事が複数件ある場合はその合計額)の方が多額となっているものが、直轄事業では、後工事42件のうち18件、補助事業では後工事140件のうち40件、計58件見受けられ、このうち直轄事業で12件、補助事業で20件、計32件の後工事の設計金額が前工事の2倍を超えていた。
これらについて、一例を示すと次のとおりである。
A市は、平成18年度から23年度にかけて、終末処理場の水処理施設を増設するための工事を、予算の都合等から分割して発注することとし、前工事(設計金額31億4356万余円)については、一般競争入札に付した結果、契約金額が21億7781万余円(国庫補助金11億9176万余円)で、落札率は69.2%となっていた。また、後工事については、前工事で施工した基礎杭の上に、土留めなどの仮設構造物を引き続き使用して躯(く)体を築造することなどから、両者は一体の構造物であり密接不可分なものであるとして、前工事の請負人と随意契約を締結していた。そして、後工事の予定価格の算定に当たっては、A市制定の積算基準等には特段の定めが設けられていないことから、落札率方式、単価合意方式等のいずれの方法も採っていなかった。その後工事(設計金額37億8331万余円)の落札結果をみると、契約金額は37億8000万円(国庫補助金20億7622万余円)で、落札率は99.9%となっていた。
このように、後工事の予定価格の算定に当たって、落札率方式、単価合意方式等のいずれの方法も採っていない多くの後工事において、前工事より落札率が高率となっていたり、後工事の規模が大きくなっていたりしていて、後工事の予定価格に前工事における競争の利益が反映されていなかったり、その反映されない範囲がより大きいものとなっていたりしている状況となっていた。
上記のように、後工事について前工事の請負人と随意契約を締結する場合、前工事と一体の工事とみなして後工事の諸経費の調整を行っている一方で、後工事の予定価格に前工事における競争の利益を反映させる方法が採られていない事態は適切でなく、改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴省の7地方整備局等及び補助事業の22事業主体において、前工事と後工事を一体の工事とみなして競争の利益を反映させることについての認識が十分でないことなどによると認められる。
公共工事においては、前記のとおり、入札・契約手続の改善、予算付けの重点化や国庫債務負担行為の活用、工事の種類等に応じた発注単位の合理化等が求められているが、その中にあっても、予算その他の事情等から前工事と密接不可分の関係にある後工事の発注が行われ、競争入札に付することが不利と認められる場合に該当するなどの理由から、前工事の請負人と随意契約を締結しているものが多数見受けられる。
ついては、貴省において、本件のように全体工事を分割して発注する場合において、前工事のみならず、工事全体として競争による経済性等が図られるよう、次のとおり意見を表示する。
ア 後工事の予定価格の算定に当たって、落札率方式、単価合意方式等の競争の利益を反映できる方法を検討し、その方法や運用の在り方を積算基準等において定めること
イ 国庫補助事業を実施する地方公共団体に対して、上記アにより定めた内容やその趣旨を周知するとともに、各地方公共団体が、工事の内容や規摸、実施体制等の実情に応じて落札率方式、単価合意方式等の競争の利益を反映できる方法を採用し運用できるよう助言すること