会計名及び科目 | 一般会計 | (組織)防衛本省 | (項)防衛施設安定運用関連諸費 | |
部局等 | 内部部局、9地方防衛局等 | |||
有料道路損失補償の概要 | 駐留軍の軍用車両に係る有料道路の通行料金を徴収できないことにより有料道路事業者が受ける損失を補償するもの | |||
有料道路損失補償額 | 8億6203万余円 | (平成20年度) | ||
上記のうち普通車に係る補償額 | 4億4171万円 | (背景金額) |
(平成21年10月23日付け 防衛大臣あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
我が国に駐留するアメリカ合衆国軍隊(以下「駐留軍」という。)は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(昭和35年条約第7号。以下「地位協定」という。)第5条第2項の規定に基づき、その軍用車両により、駐留軍が使用している施設及び区域に出入り並びにこれらのものの間を移動することができ、その際、道路使用料が課されないとされている。これにより有料道路事業者(以下「事業者」という。)は、駐留軍からは有料道路の通行料金を徴収できないことから、貴省は、「有料道路の損失の補償に関する訓令」(平成19年防衛省訓令第83号)に従って、事業者の申請によりその通行料金相当額を補償している。
事業者に対する損失補償は、次のような手続により行われている。
〔1〕 駐留軍は、軍用車両の運転者に対して、我が国とアメリカ合衆国(以下「米国」という。)との間で合意された「軍用車両有料道路通行証明書」(以下「通行証」という。)を発行し、運転者は、有料道路の料金所を通過する都度、通行証を1枚提出する。
〔2〕 事業者は、通行証により車種別(普通車及び大型車等)の台数及び通行料金を四半期ごとに集計するなどして算定した額(以下、この額を「補償額」という。)について、9防衛局等(注1)
(以下「地方防衛局等」という。)に対して有料道路損失補償申請書に通行証等を添え て申請する。
〔3〕 地方防衛局等は、有料道路損失補償申請書及び通行証等の内容を調査の上、補償額を決定し、その補償額に係る損失補償契約を締結して、事業者に対して補償額を支払う。
そして、地方防衛局等では、平成20年1月から12月までの間に駐留軍が使用した有料道路に係る補償額として、20年度に、49事業者、損失補償契約180件に関して970,462台分計8億6203万余円を支払っている。
駐留軍は、前記の合意に基づき、「在日米軍司令部書式19EJ(軍用車両有料道路通行証明書)の配布と使用について」(2004年4月5日付在日米軍司令部規則31—205別添8)を定めており、これによると、通行証は私有車両に用いるものではないこと、通行証を発行するに当たっては、車種、運転者の氏名、車両番号、発行日、施設・区域所在地、発行責任者の署名及び官職を使用前に記入すること、記入する際に運転者と発行責任者は、同一人物であってはならないことなどとしている。そして、駐留軍の各部隊では、通行証の整理番号、車両の目的地等を記載した記録簿を作成し、保存することとしている。
貴省は、軍用車両の定義を駐留軍の公務のために使用される車両であるとし、公務とは、駐留軍の指揮命令下にあるというものではなく、地位協定第5条第1項に規定する「公の目的」、すなわち、「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与すること」という駐留軍の目的であるとしている。
そして、駐留軍は、駐留軍が公認し、かつ、規制する諸機関(以下「諸機関」という。)を駐留軍が使用している施設及び区域に設置していて、諸機関は、自らの収益により、駐留軍の構成員及び軍属並びにその家族(以下「駐留軍の構成員等」という。)に対して、福利厚生活動を行っている。その福利厚生活動として10飛行場等(注2)
では諸機関が直接レンタカー業務を実施しており、その業務で使用されている車両(以下「レンタカー」という。)についても、個人的なレジャーや観光等、「公の目的」に当たらない場合を除き、軍用車両として通行証が発行されることがあるとしている。
駐留軍による通行証の使用について、国会等において様々な議論がなされ、特にレンタカーにおいて通行証が使用されていることが取り上げられた。その発端となったのは、横田飛行場における諸機関のホームページにおいて、ここでレンタルすれば、多くの場合、車のレンタル料金と同じほどかかる日本国のほとんどの高速料金を払わずに済む旨の記述があったことによる。なお、この記述については、その後、削除されているものの、岩国飛行場における諸機関のホームページでは、21年8月現在において、レンタル料金には高速道路無料通行券が含まれており、それがあれば日本国中どこへでも行ける旨の記述が掲載されている。
本院は、合規性等の観点から、貴省の有料道路損失補償額の支払は適正なものとなっているかなどに着眼し、19年に有料道路を使用した駐留軍の車両のうち普通車がその6割を占めていることから、貴省及び地方防衛局等において、20年に有料道路を使用している普通車645,651台、これらの車両が使用している有料道路の通行料金に対する補償額4億4171万余円を対象として会計実地検査を行った。
検査に当たっては、19年の普通車における通行証の使用実績が8月に最も多いことなどから、20年8月に使用された通行証を中心に、18,440枚、補償額2126万余円を抽出して分析を行った。
抽出した通行証18,440枚のうち、我が国と米国との間で合意された通行証の必要事項が記載されていないものが、1,512枚、補償額1,890,561円見受けられた。これは、抽出した通行証における枚数の8.19%、補償額の8.89%に相当する。これらの主な内訳は、〔1〕 発行責任者の署名又は官職のいずれかが記載されていないものが372枚(補償額346,495円)、このうち、いずれも記載されていないものが60枚(同42,571円)、〔2〕 車両番号が記載されていないものが202枚(同365,562円)となっていた。
また、発行責任者の署名及び官職については、記載はあるものの判読できないものや運転者と発行責任者とが同一氏名であるものも多数見受けられた。
しかし、地方防衛局等は、これらの通行証の記載事項の不備について確認を行わず、また、駐留軍に対する事実確認の照会等の調査を実施しないまま、補償額を事業者に支払っていて、適切を欠いた事態となっている。
上記の必要事項が記載されていない通行証のうち、北関東防衛局管内で使用され、車種、運転者の氏名、車両番号及び発行日の4事項が記載されていないものについて、貴省を通じて、駐留軍に対し、通行証を発行した経緯について、記録簿を提出の上説明するよう協力を依頼した。
これに対して、在日米軍司令部から「通行証への記載は運転者が行うこととしているが、本件は必要事項を記入することなく通行証を提出していたものであり、当該通行証は、横田飛行場所在の部隊において、公務のために横田飛行場からキャンプ座間へ赴く者に対して発行されたものである。なお、記録簿には、目的地にキャンプ座間と記載されていた。」との回答があった。
しかし、当該通行証は、記録簿に記載されている車両の目的地であるキャンプ座間と異なる東関東自動車道の習志野本線料金所と新空港自動車道の新空港料金所との区間で使用されていた。
また、運転者と発行責任者とが同一氏名で、必要記載事項である発行責任者の官職が記載されておらず、かつ、車種及び車両番号が二線で訂正されている通行証に係る記録簿の提出の協力を依頼して、確認したところ、記録簿に記入するとされている車両の目的地が記載されていなかった。
このように、駐留軍の記録簿と通行証の実際の使用状況に差異が生じていると認められることから、更に通行証の記載に不備があるものなど140枚を抽出し、貴省を通じて、駐留軍に記録簿の提出の協力を依頼しているが、駐留軍からの協力が得られていない状況である。
以上のように、抽出した通行証では、必要事項が記載されていない割合が枚数で8.19%、補償額で8.89%見受けられ、その抽出結果から得られた割合に基づき、普通車全体(645,651台、補償額4億4171万余円)について必要事項が記載されていない通行証の枚数、補償額を推計すると、約52,900枚、約3920万円となる。
レンタカーによる通行証の使用については、前記のとおり、横田飛行場の諸機関におけるホームページでの記述内容を発端として国会等で議論がなされた。
そこで、本院は、貴省から駐留軍の諸機関がレンタカー業務で使用している車両番号を入手して、通行証に記載されている車両番号と対照したところ、抽出した通行証18,440枚のうち、駐留軍の構成員等が利用しているレンタカーで使用されている通行証は5,149枚(補償額10,631,627円。抽出した通行証における枚数の27.9%、補償額の49.9%)であった。
この中には、前記(1)で必要事項が記載されていない通行証1,512枚のうち566枚が含まれており、レンタカーで使用されている通行証5,149枚の10.9%となっていた。一方、レンタカー以外で使用されている通行証で必要事項が記載されていないものは7.1%となっており、レンタカーにおいて必要事項が記載されていない通行証の割合の方が高くなっていた。
そして、レンタカーで使用された通行証5,149枚を曜日別についてみると、土曜日に使用されているものが978枚、日曜日に使用されているものが796枚、米国の祝日に使用されているものが243枚あり、抽出した通行証のうち平日に使用されている割合(23.8%)に対して、土曜日、日曜日及び米国の祝日に使用されている割合(土曜日40.0%、日曜日42.7%、米国の祝日81.2%)が高くなっていた。また、通行料金4,000円以上の高額の区間(往復すればレンタル料金を超える区間)において使用されている通行証についてみると、1,156枚のうち、レンタカーで使用されている通行証895枚の割合(77.4%)は、抽出した通行証18,440枚のうちレンタカーで使用されている通行証5,149枚の割合(27.9%)に比べて高くなっていた。
これらレンタカーで使用されている通行証の中には、米国の祝日に通行証を使用し、交通事故を起こしたが、駐留軍は、軍の指揮命令下にあるという意味での公務中の交通事故としては認めていなかったり、同一人物が運転する同一のレンタカーにおいて、土曜日及び日曜日等を利用して、東京都の八王子本線料金所から京都府、大阪府、兵庫県及び奈良県内の各有料道路を経由して、同料金所に戻る間に11枚の通行証が使用されていたりしたものなどがあった。
しかし、貴省は、レンタカーによる有料道路の使用について、駐留軍の通行証の発行をもって、一律に軍用車両であるとして取り扱っていて、駐留軍に対して調査を十分行っていなかった。このため、本院は、貴省を通じて、駐留軍に対して、レンタカーに係る通行証の発行状況等について、諸機関から直接説明を受けることを依頼したが、駐留軍からの協力は得られておらず、使用が「公の目的」に限定されているかを確認することができなかった。
以上のように、本院が検査した通行証において、発行責任者の署名及び官職等の必要事項が記載されていなかったり、レンタカーで休日等に使用されていたりしているのに、記載状況の確認や、駐留軍に対する事実確認の照会等の調査が十分行われず、「公の目的」のために使用されたものであることなどが確認されないまま補償額が支払われている事態は、適切ではなく改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴省又は地方防衛局等において、次のことによると認められる。
ア 事業者から提出を受けた通行証について、その記載に漏れはないか、発行責任者は適切かなどの確認を行っていないこと
イ 発行責任者の署名又は官職等が記載されていない通行証やレンタカーで休日等に使用している通行証など、その使用目的に疑義があると思料されるものについて、駐留軍の通行証の発行をもって、一律に軍用車両として、駐留軍に対する必要な調査を十分行っていないこと
貴省又は地方防衛局等においては、今後とも駐留軍による有料道路の使用について、地位協定等に基づき、事業者に対して我が国負担により補償額を支払うこととしている。ついては、貴省において、通行証が適切に使用されるよう次のとおり改善の処置を要求する。
ア 通行証の記載状況について、記載漏れはないか、発行責任者は適切かなどを十分確認すること
イ 発行責任者の署名又は官職等が記載されていない通行証やレンタカーで休日等に使用している通行証など、その使用目的に疑義のあるものについて、「公の目的」のために使用されていることを確認するなどのため、駐留軍から記録簿の提出を受けることなどができるよう駐留軍側と調整を図り、調査体制を整備すること