科目 | 固定資産 有形固定資産 土地 |
部局等 | 成田国際空港株式会社本社 |
減損処理の概要 | 取得価額に対して時価が著しく下落した固定資産について、当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額して、当該減少額を減損損失として当期の損失とすること |
成田国際空港株式会社の平成16事業年度決算において減損処理を行っていた地区数及び減損額 | 23地区 68億9385万円(背景金額) |
(平成21年10月30日付け 成田国際空港株式会社代表取締役社長あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴会社は、成田国際空港株式会社法(平成15年法律第124号)に基づき、成田国際空港の設置及び管理を効率的に行うことなどにより、航空輸送の利用者の利便の向上を図り、我が国の産業、観光等の国際競争力の強化に寄与することを目的として、平成16年4月1日、同法の規定により解散した新東京国際空港公団の一切の権利及び義務を承継し、全額政府出資の特殊会社として設立された。そして、貴会社は、株式上場による完全民営化の早期実現を目標として掲げており、会社設立年度の16事業年度には約72億円、17事業年度は約141億円の当期純利益を計上していて、17事業年度から株主である国に対して当期純利益に応じて、17事業年度20億円、18事業年度約30億円、19事業年度約25億円、20事業年度約13億円の配当を行っている。
貴会社は、成田国際空港の設置及び管理に必要な空港施設用地、航空保安施設用地等の固定資産(以下「空港用地」という。)を取得する際に、その所有者(以下「用地所有者」という。)に対して、原則として金銭補償の方法により適正な損失補償を実施することとしているが、用地所有者が金銭に代えて代替地の提供を要望する場合には、必要に応じて当該取得に係る空港用地の価格の範囲内で代替地を提供することとしている。このため、貴会社は、上記空港用地のほか、代替地を要望する用地所有者に提供する目的であらかじめ土地を取得して(以下、この取得した土地を「代替地用地」という。)、保有している。
貴会社は、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)等に基づき有価証券報告書等を作成して、当該事業年度の終了後3か月以内に内閣総理大臣に提出し、有価証券報告書の一部を構成する貸借対照表、損益計算書等(以下、これらを合わせて「財務諸表」という。)について、監査法人の監査証明を受けている。
そして、貴会社は、財務諸表の作成に当たり、経理規程(平成16年規程第11号)等に基づき行うこととしており、これによれば、会計に関する取引の処理に当たっては、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準により行わなければならないこととされている。
金融庁に設置されている企業会計審議会は、企業会計の基準、監査基準の設定等について調査審議して、内閣総理大臣等に対して報告等することとされており、14年8月に、固定資産の減損に係る会計基準(以下「減損基準」という。)を公表している。また、財団法人財務会計基準機構の内部組織である企業会計基準委員会は、企業会計基準等の調査研究、意見表明等を行っており、上記の公表を受けて15年10月に、固定資産の減損に係る会計基準の適用指針を公表している(以下、減損基準とこの指針を合わせて「減損基準等」という。)。そして、減損基準等は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準とされている。
減損基準等によれば、固定資産に減損の兆候があり、減損損失を認識すべきであると判定された固定資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額して、当該減少額を減損損失として当期の損失とするとされている。回収可能価額とは、正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額とされており、正味売却価額を算定する場合には、固定資産の時価から処分費用見込額を控除して行うこととされている。
そして、時価とは公正な評価額をいい、原則として市場価格に基づく価額を時価とすることとされているが、市場価格が観察できない場合には、合理的に算定された価額が時価となることとされている。この合理的に算定された価額は合理的な見積りに基づき算定されることとされていて、不動産については、これを不動産鑑定評価基準に基づいて算定することとされている。また、自社における合理的な見積りが困難な場合には、不動産鑑定士から鑑定評価額を入手して、それを合理的に算定された価額とすることができることとされている。
また、減損基準等によれば、減損損失を認識すべきであると判定された固定資産のうち重要性が乏しい不動産については、本来入手すべき鑑定評価額に代えて、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標を、合理的に算定された価額とみなすことができるとされていて、その容易に入手できると考えられる指標として固定資産税評価額等が示されている。そして、判例によれば、商法(明治32年法律第48号)第260条に規定する「重要ナル財産ノ処分」に該当するかどうかは、当該資産の価額、当期純利益に与える影響等を総合的に考慮して判断すべきものとされている。
貴会社は、16事業年度に、保有する代替地用地又は代替地用地として所有していたが代替地用地として提供する見込みがなく早期に売却等により処分の要があるとしている土地(以下、処分の要があるとしている土地を「不要代替地用地」という。)のうち、時価が著しく下落した計23地区(以下「23地区」という。)について、固定資産の減損に係る会計処 理(以下「減損処理」という。)を行っている。
貴会社は、前記のとおり、空港用地及び代替地用地等を多数保有しており、その固定資産の額は多額に上っているが、代替地用地及び不要代替地用地の一部について、減損処理により、固定資産の帳簿価額を減額し、当該減少額を減損損失として当期純利益を減少させている。貴会社は、株式上場に向けて財務諸表の正確性及び適正性の確保を図り、貴会社の財務情報の適切な表示を行うため、減損処理を減損基準等の趣旨に沿って行うことが求められており、このことは、ひいては貴会社への国の出資の目的にも沿うものである。
そこで、本院は、正確性、合規性等の観点から、回収可能価額の算定が減損基準等に沿って行われているかなどに着眼して、16事業年度に減損処理を行った23地区に係る減損額68億9385万余円を対象として、貴会社において、有価証券報告書等の書類により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴会社は、23地区の減損処理に当たり、正味売却価額が使用価値を上回ることから、正味売却価額により回収可能価額を算定することとした。そして、次表のとおり、23地区のうち市街化区域にある代替地用地5地区(以下「5地区」という。)については、早期に売却の可能性が高いと判断したなどとして、鑑定評価額を採用して回収可能価額を計11億8104万余円(帳簿価額計32億7171万余円)と算定していた。
一方、市街化区域以外にある代替地用地7地区及び不要代替地用地11地区(以下「18地区」という。)については、市場性が低く早期に売却の可能性が低いと判断したなどとして、重要性が乏しい不動産に該当するものとし、固定資産税評価額を採用してそれぞれの回収可能価額を計6353万余円(帳簿価額計32億4839万余円)及び計7288万余円(帳簿価額計16億9121万余円)と算定していた。
この結果、23地区の帳簿価額の合計額は減損処理前の82億1131万余円が減損処理後に13億1746万余円となり、減損額の合計額は68億9385万余円に上っていた。
そして、減損処理前の帳簿価額についてみると、次表のとおり、売却の可能性が低く重要性が乏しい不動産に該当するとしていた18地区のうち、帳簿価額の上位12地区(以下「12地区」という。帳簿価額計47億9623万余円)の各帳簿価額は、いずれも売却の可能性が高いとして鑑定評価額を採用していた前記5地区のうち帳簿価額が最も低い地区番号5の帳簿価額9133万余円を上回っている。また、減損額についてみても、12地区(減損額計46億6788万余円)の各減損額は1億1418万余円から13億5855万余円までとなっていて、売却の可能性が高いとしていた上記5地区のうち減損額が最も小さい地区番号5の減損額5123万余円を上回っている。そして、12地区の減損額は計46億6788万余円となっていて、当期純利益約72億円に対して重要な影響を与えている。
区分 | 地区 番号 |
保有面積 (m2 ) |
帳簿価額(千円) 〈平成15事業年度決算額〉 A |
回収可能価額(千円)
鑑定:鑑定評価額を採用固定:固定資産税評価額を採用 B
|
減損額(千円) B—A |
摘要 | ||
代替地用地 | 市街化区域 | 1 | 63,678 | 2,562,348 | 869,849 | 鑑定 | ▲1,692,498 | 売却の可能性が高いとしていた地区 |
2 | 1,454 | 291,014 | 124,000 | 鑑定 | ▲167,014 | |||
3 | 2,694 | 205,534 | 101,000 | 鑑定 | ▲104,534 | |||
4 | 1,537 | 121,486 | 46,100 | 鑑定 | ▲75,386 | |||
5 | 286 | 91,330 | 40,100 | 鑑定 | ▲51,230 | |||
計 (5地区 ) |
69,650 | 3,271,713 | 1,181,049 | ▲2,090,664 | ||||
市街化区域以外 | 1 | 123,722 | 1,366,976 | 8,423 | 固定 | ▲1,358,553 | 売却の可能性が低いとしていた地区 | |
2 | 9,914 | 848,543 | 22,306 | 固定 | ▲826,236 | |||
3 | 4,426 | 361,964 | 9,954 | 固定 | ▲352,010 | |||
4 | 5,895 | 195,167 | 11,036 | 固定 | ▲184,131 | |||
5 | 1,787 | 189,071 | 4,020 | 固定 | ▲185,050 | |||
6 | 15,912 | 165,670 | 976 | 固定 | ▲164,693 | |||
7 | 3,030 | 121,002 | 6,819 | 固定 | ▲114,182 | |||
計〔1〕 | 164,689 | 3,248,395 | 63,537 | ▲3,184,857 | ||||
不要代替地用地 | 市街化区域 | 1 | 988 | 182,581 | 19,060 | 固定 | ▲163,520 | |
市街化区域以外 | 2 | 12,130 | 620,611 | 27,293 | 固定 | ▲593,318 | ||
3 | 39,463 | 301,042 | 11 | 固定 | ▲301,030 | |||
4 | 2,843 | 282,155 | 17,498 | 固定 | ▲264,657 | |||
5 | 19,679 | 161,451 | 950 | 固定 | ▲160,500 | |||
計〔2〕 | 75,103 | 1,547,842 | 64,814 | ▲1,483,028 | ||||
計〔1〕 +計〔2〕 (12地区 ) |
239,793 | 4,796,237 | 128,351 | ▲4,667,885 | ||||
6 | 8,146 | 74,345 | 423 | 固定 | ▲73,922 | |||
7 | 3,211 | 32,858 | 7,226 | 固定 | ▲25,631 | |||
8 | 1,275 | 22,701 | 55 | 固定 | ▲22,645 | |||
9 | 1,337 | 8,850 | 106 | 固定 | ▲8,743 | |||
10 | 4,544 | 4,089 | 237 | 固定 | ▲3,852 | |||
11 | 315 | 521 | 16 | 固定 | ▲505 | |||
計〔3〕 | 18,829 | 143,367 | 8,066 | ▲135,301 | ||||
計〔2〕 +計〔3〕 | 93,933 | 1,691,210 | 72,880 | ▲1,618,329 | ||||
計〔1〕 +計〔2〕 +計〔3〕 (18地区) |
258,622 | 4,939,605 | 136,418 | ▲4,803,187 | ||||
合計(23地区) (23地区) |
328,273 | 8,211,319 | 1,317,467 | ▲6,893,851 |
注(1)
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市街化区域以外とは、市街化調整区域及び市街化区域と市街化調整区域の区分がされていない区域をいう。ただし、不要代替地用地の地区番号4の地区については一部市街化区域を含んでいる。
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注(2)
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保有面積は小数点以下を切り捨てているため、帳簿価額、回収可能価額及び減損額は千円未満を切り捨てているため、数値を合計しても計欄の数値と一致しない場合がある。
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これらのことから、売却の可能性が低く重要性が乏しい不動産に該当するとしていた12地区の減損額は、売却の可能性が高いとして鑑定評価額を採用していた5地区のそれと同等以上に貸借対照表の固定資産の価額及び損益計算書の当期純利益の額に重要な影響を与えていると認められる。しかし、貴会社は、重要性が乏しい不動産の範囲について明確な定めを設けることなく、5地区について鑑定評価額を採用する一方で、12地区については帳簿価額が高額であるにもかかわらず売却の可能性が低いことをもって重要性が乏しい不動産に該当するとして、本来入手すべき鑑定評価額に代えて、合理的に算定された価額とみなすことができ容易に入手できると考えられる指標のひとつとして示されている固定資産税評価額により回収可能価額を算定していて、減損処理上合理性を欠いた取扱いとなっており、重要性が乏しい不動産に該当しない限り回収可能価額の算定は鑑定評価額によるとする減損基準等の趣旨に沿っていないものと認められる。
上記のとおり、12地区の帳簿価額が高額であり、また、その減損額は当期純利益の額に重要な影響を与えることになると認められるにもかかわらず、売却の可能性が低いことをもって重要性が乏しい不動産に該当するものと判断して、鑑定評価額を採用することなく固定資産税評価額により回収可能価額を算定している事態は、減損基準等の趣旨に沿ったものになっていないものと認められ、改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴会社において、減損処理における回収可能価額の算定に当たり、減損基準等の趣旨に沿って行うことについて検討を十分に行っていなかったことなどによると認められる。
貴会社は、代替地用地を多数保有していて、今後も減損損失を認識した場合には減損処理を行うことが見込まれる。
ついては、貴会社において、回収可能価額の算定を減損基準等の趣旨に沿って行うよう意見を表示する。