科目 | 事業収益 |
部局等 | 独立行政法人家畜改良センター本所 |
業務の概要 | 優良な家畜の普及を図るなどのために、精液採取用種雄牛の貸付けを行うもの |
貸し付けた精液採取用種雄牛から生産された精液の販売収入額の合計 | 33億7579万円(背景金額)(平成15年度〜19年度) |
(平成21年9月3日付け 独立行政法人家畜改良センター理事長あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴法人は、独立行政法人家畜改良センター法(平成11年法律第185号)に基づき、優良な家畜の普及及び飼料作物の優良な種苗の供給の確保を図ることを目的として、家畜の改良及び増殖並びに飼養管理の改善、種畜(繁殖用の家畜)の貸付け等の業務を行っている。このうち、種畜の貸付けの業務については、貴法人の前身の農林水産省家畜改良センター及び種畜牧場(以下「旧センター等」という。)が、「家畜等の無償貸付及び譲与等に関する省令」(昭和25年農林省令第43号。平成13年4月1日廃止。以下「旧省令」という。)等に基づいて行っていたのを、平成13年4月1日の旧センター等の独立行政法人化に伴い、貴法人が引き継いだものである。そして、貴法人がこの業務を行うに当たっては、貴法人が旧省令等に倣って定めた「独立行政法人家畜改良センター業務方法書」及び「種畜等、家畜受精卵、種卵及び精液の配布並びに種畜の貸付け実施要領」(以下、これらを「業務方法書等」という。)に基づき行っている。
貴法人は、旧センター等から引き継いで行っている種畜の貸付けについて、旧センター等が旧省令の「農林水産大臣は、家畜の改良又は増殖を図るため、牛、馬、めん羊等を無償で貸し付けることがある」との規定に基づき無償で行っていたのを受け、業務方法書等で種畜の貸付けは無償とする旨規定して、旧センター等当時と同様に無償で行っている。
そして、貸付けを受けることができる者は、独立行政法人、地方公共団体等、その他貴法人が適当と認める公益法人等としている。また、貸付期間は、牛にあっては4年以内等としているが、必要に応じて更新することができるとしている。そして、病気や繁殖能力の低下などにより貸付けの目的を達することができなくなった場合には、貴法人は、貸付けを終了し、返還された種畜を売却するなどしている。
貴法人が無償で貸付けを行っている種畜のうち、凍結精液を生産するための精液採取用の種雄牛(以下「精液採取用種雄牛」という。)は、乳用種については乳質等、肉用種については肉質等、それぞれの能力検定の成績が上位であるとして選抜された優良な牛である。貴法人は、精液採取用種雄牛から生産された凍結精液は、全国を対象に配布する必要があり、偏った配布等を抑制する必要があるとして、所有する精液採取用種雄牛を自らの費用で一定の段階まで育成し、社団法人家畜改良事業団(以下「事業団」という。)に無償で貸し付けている。
このように、精液採取用種雄牛の無償貸付けを事業団のみに対して行っているのは、優良な種雄牛の凍結精液を畜産農家等にあっせんし全国的に配布する公益法人として昭和40年度に設立された事業団が、当時、全国に凍結精液を配布することが可能な唯一の団体であったことから、旧センター等が事業団を唯一の貸付先として無償貸付けを始めたのをそのまま引き継いだものであるとしている。
そして、事業団は、貴法人から無償で貸付けを受けているこれらの精液採取用種雄牛(以下「貸付牛」という。)から生産された凍結精液(以下「貸付牛に係る凍結精液」という。)のほか、自ら所有する種雄牛から生産された凍結精液等を全国に販売している。
平成19年12月に閣議決定された「独立行政法人整理合理化計画」の中で、独立行政法人の自律化に関し「自己収入の増大に向けた取組を推進することを通じて、中期的には国への財政依存度を下げることを目指す」などとされているように、自己収入の増大に向けた取組を推進することは、独立行政法人の自律化につながると同時に、国からの運営費交付金の減少に資することともなるものである。
本院は、効率性等の観点から、貴法人が無償で行っている種畜の貸付けについて、貸付けを無償で行っているのは適切か、貸付先の選定方法は適切かなどに着眼して検査した。
そして、貴法人が15年度から19年度までの間に貸し付けた貸付牛計31頭を対象として、貴法人本所において、貸付契約書、貸付牛名簿等の書類及び本院の求めに応じて貴法人に提出された事業団の財務諸表や凍結精液の販売状況等の資料を分析するなどの方法により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
すなわち、貴法人は、前記のとおり、精液採取用種雄牛の貸付けについては、事業団に対して無償で行っているが、貸付牛に係る凍結精液の生産・販売に関する経理について報告させておらず、その販売実績を把握していなかった。
そこで、事業団における貸付牛に係る凍結精液の販売状況について調査したところ、事業団は、貸付牛に係る凍結精液の販売価格を、時価を勘案して1本当たり1,000円から5,000円と設定しており、15年度から19年度までの販売実績は、15年度399,652本、11億6822万余円、16年度254,286本、5億9684万余円、17年度241,557本、4億3149万余円、18年度222,255本、4億6263万余円、19年度289,080本、7億1659万余円、計1,406,830本、33億7579万余円となっていた。
このように、貴法人が貸付牛を事業団に無償で貸し付けている一方、事業団は、貸付牛の飼養管理や貸付牛に係る凍結精液の販売等の費用を負担しているものの、貴法人の費用で一定の段階まで育成された貸付牛に係る凍結精液の生産・販売を独占的に行って多額の販売収入を得ている。
しかし、近年の状況をみると、事業団以外にも、インターネットを通じて保有種雄牛の情報を公開したり、問い合わせを受け付けたりなどして凍結精液の全国販売を行っている団体が見受けられるなど、凍結精液の生産、流通及び販売を取り巻く環境は変化している。このような状況の中で、貴法人は、独立行政法人に移行してからも、貸付先の選定方法について見直しを行うことなく、継続して事業団のみに対して無償で貸付けを行っていた。
上記のように、精液採取用種雄牛の貸付先は事業団以外にもあると認められるのに、事業団のみが貸付けを無償で受け、貸付牛に係る凍結精液の生産・販売を独占的に行って多額の販売収入を得ていて、貸付牛を一定の段階まで育成し、所有している貴法人が貸付けの対価を得ていない事態は適切とは認められず、改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、精液採取用種雄牛について、凍結精液の生産、流通及び販売を取り巻く環境の変化や、貸付牛に係る凍結精液の事業団における販売実績等について十分検討を行わないまま、過去の経緯から事業団に対して無償貸付けを継続してきたことなどによると認められる。
貴法人は、18年度から22年度までとなる第2期中期目標に係る中期計画において、家畜の育種改良の推進等に貢献していくため、乳用牛及び肉用牛について、優良種畜等を供給することとしており、精液採取用種雄牛の貸付けを今後も実施していくことが見込まれる。
一方、独立行政法人は、「独立行政法人整理合理化計画」において、自己収入の増加に向けた取組を推進することなどを通じて、自律化することなどが求められている。
ついては、貴法人において、より一層の自律化に向け、精液採取用種雄牛の貸付けについて、貸し付けた牛から生産される凍結精液の販売による収入に応じ対価を徴収するなど有償化するとともに、貸付先の選定に当たっては対象を事業団に限定することなく事業団以外の凍結精液の全国販売を行っている団体も含めて競争入札を行うなど契約の競争性を確保して増収を図るよう改善の処置を要求する。