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未利用となっている特許微生物寄託業務等に係る電子申請システムについて、運用停止などの抜本的な見直しを行うよう是正改善の処置を求めたもの


未利用となっている特許微生物寄託業務等に係る電子申請システムについて、運用停止などの抜本的な見直しを行うよう是正改善の処置を求めたもの

科目 研究業務費、一般管理費
部局等 独立行政法人産業技術総合研究所
電子申請システムの概要 パソコンを用いて、インターネット上で特許微生物寄託業務等に係る申請等手続を行うことができるシステム
未利用となっている電子申請システムの開発、保守等に要した経費の額 8754万円(平成16年度〜20年度)

【是正改善の処置を求めたものの全文】

  特許微生物寄託業務等に係る電子申請システムについて

(平成21年9月1日付け 独立行政法人産業技術総合研究所理事長あて)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。

1 電子申請システムの概要

(1) 特許微生物寄託業務等の概要

 貴研究所は、平成13年3月に特許庁長官から特許法施行規則(昭和35年通商産業省令第10号)第27条の2の規定に基づき特許出願に係る微生物(以下「特許微生物」という。)を寄託(注1) すべき機関(以下「寄託機関」という。)として指定を受けるなどして、特許微生物の寄託・分譲業務(以下「特許微生物寄託業務」という。)を同年4月から貴研究所つくばセンター内の特許生物寄託センターにおいて行っている。また、貴研究所は、計量法施行令(平成5年政令第329号)第22条の規定において特定計量器について型式の承認を行う者とされており、計量法(平成4年法律第51号)第76条第1項の規定に基づく特定計量器の型式承認(注2) 及び同法第102条第1項の規定に基づく基準器検査(注3) 等の業務(以下、これらの業務を「計量業務」という。)を同年4月から貴研究所つくば、関西両センター内の計量標準総合センターにおいて行うなどしている。
 貴研究所は、これらの業務(以下「特許微生物寄託業務等」という。)の実施に当たり、従来書面で行うこととなっていた申請、請求及び届出の各手続(以下「申請等手続」という。)をパソコンを用いてインターネット上でも行うこと(以下「電子申請」という。)ができるようにするために、17年3月に「独立行政法人産業技術総合研究所に係る手続等における情報通信の技術の利用に関する規程」(平成17年16規程第52号)等を定め、これに基づき、電子申請により行われた申請等手続はこれらを行う者から書面で行われたものとみなして取り扱われることとしている。

 特許微生物を寄託  微生物(動植物細胞等を含む。)に係る発明について特許出願しようとする者は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその微生物を容易に入手できる場合を除き、その微生物(真空のアンプルに格納されたものを5本以上等)を寄託しなければならないとされている。そして、寄託機関にその微生物を寄託したことを証明する書面を特許出願書類に添付し、特許庁に出願することとなる。
 特定計量器の型式承認  水道メーターなどに使用される計量器について、製造メーカーから提出された試作モデルが耐久性等の技術基準に適合するか否かの試験を行い、適合する場合は型式を承認するもの
 基準器検査  検定等の検査を行う時に基準として使用する特級基準分銅等の基準器の器差(精度、許容される誤差)等が、検定等を行うために必要な一定水準以上の要求事項を満たしているかどうかを検査するもの

(2) 電子申請システム導入の経緯

 政府は、14年6月に決定した「e−Japan重点計画—2002(内閣府IT戦略本部)」において、国、地方を通じ申請、届出等に限らず法令に基づく行政手続については、書面による手続に加えて、原則として2003年度(15年度)までにすべてオンラインによる手続も可能とすることとした。これを受けて、経済産業省は、同年7月の「経済産業省国の行政機関等の行政手続等の電子化推進に関するアクション・プラン」において、同省所管法令に係る国等の行政手続については、15年度までに例外なくオンライン化することとした。
 そして、同省は、地方公共団体及び同省所管の独立行政法人等が行う手続についてオンライン化の促進を図るため、15年6月に「地方公共団体及び独立行政法人等におけるオンライン化の実施方策について(経済産業省版)」(以下「オンライン化実施方策」という。)を定め、同年7月、貴研究所を含む同省所管の独立行政法人等に対して、オンライン化実施方策を参考に行政手続のオンライン化に取り組むよう要請している。
 貴研究所は、この要請を受けて、電子申請システムの導入の是非について検討し、貴研究所の業務のうち、法令に基づく行政手続である特許微生物寄託業務等の申請等手続をオンライン化することは、申請者に大きな利便性を与えるとともに、貴研究所の業務処理の効率化につながると判断して電子申請システムの開発に着手し、17年3月から運用を開始している。

(3) 電子申請における有体物の取扱い

 特許微生物寄託業務及び計量業務の2業務においては、申請書の内容と特許微生物又は計量器等(以下、これらを「有体物」という。)を突合して確認するなどの必要性があることから、有体物を申請書と同時に提出することが原則となっている。これらの業務の特性を踏まえて、貴研究所は、電子申請の場合、有体物の取扱いに関して、電子申請を行った際に付与される識別番号が記載された「送り状」を有体物に添付して電子申請を行った日から3日以内に提出するなどの手続を定めている。

(4) 電子申請の利用条件

 この電子申請を利用するためには、申請者は、民間認証局等から発行される電子証明書を取得した上で、カードリーダ等を購入することが必要となっている。一方、貴研究所が電子申請システムを利用して申請者に理事長名等の電子公印を付した電子公文書を発行するためには、経済産業省認証局から発行される電子証明書が必要となり、貴研究所は17 年3月にその発行を受けている。

(5) 電子申請システムの開発、保守等経費

 上記の電子申請システムの開発、保守等に20年度までに要した経費は、システム開発、改修及びシステム用機器購入に要した経費が計6962万余円(16年度5923万余円、17年度654万余円、20年度385万余円)、保守等に要した経費が計1791万余円(17年度203万余円、18年度541万余円、19年度541万余円、20年度504万余円)、合計8754万余円になっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 貴研究所が17年3月に電子申請システムの運用を開始してから既に4年が経過している。
 そこで、本院は、有効性、効率性等の観点から、貴研究所において、同システムが有効に利用され申請者の利便性の向上が図られているか、申請等手続に係る事務処理の効率化が図られているかなどに着眼して、貴研究所つくば、関西両センターにおいて、特許微生物寄託業務等の申請等手続に係る同システムの利用状況について、関係書類により会計実地検査を行った。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 電子申請システムの未利用について

 17年3月に電子申請システムの運用を開始してから21年3月末までの間に、貴研究所において行われた特許微生物寄託業務等の申請等手続は計41,772件に上っているが、これらはすべて書面によるものであり、電子申請システムにより受理した実績はなく、電子申請システムは全く利用されていなかった。

(2) 電子証明書の発行停止について

 経済産業省は、20年10月をもって同省認証局を含む各府省の認証局が政府共用認証局に一元化されることに伴い、貴研究所に対する電子証明書発行の妥当性について検討したところ、貴研究所において申請者に対する電子公文書の発行実績がないことなどから、20年4月以降は同省認証局から電子証明書を発行しない取扱いとした。このように電子証明書が発行されないことにより、電子公文書が発行できないこととなったのに、貴研究所は電子申請システムについて特段の見直しを行っていなかった。

(3) 申請者の意向の把握について

 20年9月に政府において策定された「オンライン利用拡大行動計画(内閣府IT戦略本部)」によれば、内閣官房及び総務省は、利用率が極めて低調であり、今後とも改善の見込みがない手続については、今後の利用者ニーズや費用対効果、代替措置の有無等を総合的に勘案して、停止すべきシステムの範囲を電子政府評価委員会に対して報告し、その評価や国民からの意見も踏まえた上で、システム停止の是非について結論を得るものとするとされている。
 貴研究所は、前記(1)、(2)の本院の検査結果や上記のオンライン利用拡大行動計画における利用者ニーズの把握の趣旨を踏まえ、電子申請システムの必要性に対する申請者の意向を把握・確認するため、特許微生物寄託業務及び計量業務の申請等手続を行っている主な申請者(特許微生物寄託業務21申請者、計量業務13申請者)に対して、21年4月から5月にかけてアンケート調査を実施するとともに、それぞれの業務について各2申請者からヒアリングを行った。
 その結果、申請者からは、電子申請を行う場合においても、申請書と有体物を提出しなければならないことは従前と同様であり、電子申請システムを利用するまでのメリットがないことや、申請者がわざわざ電子証明書を取得したり、カードリーダを購入したりするための費用をかけるメリットがないことなどの意向が示されている。

(是正改善を必要とする事態)

 上記のように、貴研究所が開発、運用した電子申請システムは、経済産業省の要請により導入したものとはいえ、その運用を開始してから21年3月末までの間全く利用されておらず、また、貴研究所において、未利用となっている同システムについて特段の見直しを行わないまま運用を継続していたことは適切とは認められず、申請者の意向を踏まえた抜本的な見直しを行い、是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴研究所において、電子申請システムの導入の際に、申請書と有体物の提出等を伴う特許微生物寄託業務及び計量業務の申請等手続については、これらの申請等手続が電子申請になじむものかどうかについて利用者ニーズ等の検討を十分に行わなかったこと、また、運用開始時から電子申請システムが利用されていない状況が継続していたのに、同システムの適時適切な見直しを行っていなかったことによると認められる。

3 本院が求める是正改善の処置

 貴研究所は、特許微生物寄託業務等について、今後も引き続き法令等に基づいて的確に実施していく必要があり、これら業務を効率的に実施していくことが求められている。
 ついては、貴研究所において、前記の事態を踏まえ、所要の手続を経るなどして、電子申請システムの運用停止などの抜本的な見直しを行うよう是正改善の処置を求める。

【当局が講じた処置】

 本院は、独立行政法人産業技術総合研究所において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
 検査の結果、同研究所は、本院指摘の趣旨に沿い、特許微生物寄託業務等に係る電子申請システムの抜本的な見直しを行うために設置した検討委員会において、21年9月に同システムは廃止することが適当である旨の報告書が取りまとめられたことから、同月、同システムを廃止することとする処置を講じていた。