科目
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貸付金
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部局等
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独立行政法人日本学生支援機構
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事業の概要
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経済的理由により修学に困難がある優れた学生等に対して、学資金の貸与を行う事業
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(1)要返還債権額
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3兆2353億9869万余円
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(平成19事業年度末)
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(2)(1)のうち3か月以上延滞債権額
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2252億5466万円
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(背景金額)
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上記のうち住所不明者として整理している債務者に係る延滞債権額
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132億8282万円
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(平成21年10月23日付け独立行政法人日本学生支援機構理事長あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を求める。
記
貴機構は、独立行政法人日本学生支援機構法(平成15年法律第94号)に基づき、経済的理由により修学に困難がある優れた学生等に対して、学資を貸与(以下、貸与する資金を「学資金」という。)している。
そして、学資金の貸与を受けた者(以下「債務者」という。)は、貸与の終了した月の翌月から起算して6月を経過した後、割賦払いで学資金を貴機構に返還するものとされており、あらかじめ届け出た金融機関の口座から割賦金を毎月自動的に引き落とす方法により返還することが原則となっている。
学資金の返還に先立ち、債務者は、在学する大学等(大学、短期大学、高等専門学校及び専門課程を置く専修学校をいう。以下同じ。)を通じて、借用金額、債務者の氏名、住所、電話番号等を記入した返還誓約書を貴機構に提出することとなっている。そして、貴機構は、債務者に対して返還すべき学資金の残額等を記載した振替案内等の文書を年1回送付したり、債務者が災害、傷病、生活困窮等によって学資金の返還が困難となった場合は、願い出を受けて返還期限を猶予(以下「返還期限猶予」という。)したりしている。
学資金の原資は、債務者からの返還金、国の一般会計からの無利息の借入金、国の財政投融資資金等からの借入金及び貴機構が発行する財投機関債による借入金となっており、その事業規模は、学資金貸与残高及び要返還債権額についてみると、平成11事業年度末に比べて19事業年度末にはそれぞれ2.3倍、2.4倍と大幅に拡大している。なお、要返還債権の件数は、11事業年度末に比べて19事業年度末には1.7倍となっている(表1
参照)。
そして、返還期日が到来した割賦金の返還を延滞している債務者に対して貴機構が有するすべての貸付金債権(以下「延滞債権」という。)の額は、11事業年度末に比べて19事業年度末には2.8倍と大幅に増加しており、このうち、3か月以上延滞債権額は、1009億2133万余円から2252億5466万余円と2.2倍に増加している(表1
参照)。
表1 | 学資金貸与事業の業務実績 | (単位:千円) |
区分 | 平成11事業年度末(a) | 19事業年度末(b) | (b)/(a) | |||
学資金貸与残高 | 2,177,189,988 | 5,200,989,476 | 2.3倍 | |||
うち要返還債権額 | 1,316,529,731 (1,346,737) |
3,235,398,698 (2,356,342) |
2.4倍 (1.7倍) |
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うち延滞債権額 | 126,269,149 | 363,531,524 | 2.8倍 | |||
うち3か月以上延滞債権額 | 100,921,337 | 225,254,668 | 2.2倍 |
また、貴機構が返還期限猶予を承認した件数は11事業年度の89,284件に対して、19事業年度には189,913件と2.1倍に増加している(表2 参照)。
表2 | 返還期限猶予を承認した事由別実績 | (単位:件) |
事業年度 | 大学等に在学 | 外国留学 | 災害 | 傷病 | 生活保護 | その他 | 合計 |
平成11 | 63,233 | 2,397 | 697 | 2,992 | 246 | 19,719 | 89,284 |
19 | 127,063 | 162 | 178 | 7,484 | 1,016 | 54,010 | 189,913 |
貴機構は、独立行政法人日本学生支援機構に関する省令(平成16年文部科学省令第23号)により、割賦金の返還を延滞している債務者に対しては、少なくとも6月ごとに返還を督促することとされており、これによっても債務者が割賦金を返還しないときは民事訴訟法(平成8年法律第109号)等に定める手続により割賦金の返還を確保することとなっている(以下、この手続による回収方法を「法的措置」という。)。
そして、債務者が貴機構に届け出た金融機関の口座から割賦金の振替が不能となった場合の割賦金の回収のための具体的な方法は、以下のとおりとなっている。
〔1〕 延滞5か月目までは、毎月、債務者に督促の電話をかけるとともに振替不能通知を送付する。
〔2〕 延滞6か月目から12か月目までの間は、債務者に督促の電話をかけたり請求書等を送付したりする。
〔3〕 延滞1年以上となった場合は、住所、電話番号等の連絡先が把握できている債務者のみを対象として債権回収会社(以下「サービサー」という。)に対する債権回収の委託及び法的措置を実施し、法的措置の一環として支払督促申立予告書(注) を送付する。
また、貴機構は、延滞した割賦金を回収するために上記のような方法で債務者に督促等をする機会を通じて、返還期限猶予を願い出れば承認される可能性のある債務者(以下「潜在的返還期限猶予対象者」という。)に対して、当該願い出を行うよう指導している。
前記のとおり、学資金貸与残高及び延滞債権額はともに増大している。また、貴機構が行う債権管理は、債務者が学資金の返還を終了するまでの長期間にわたることとなり、その間に、債務者は、就職等を契機に転居したり、転勤等に伴い転居したりなどして、住所を異動する機会が生ずることになる。一方、債務者の住所等は、債務者の実情を調査したり、債権管理上必要な措置を執ったりするために必要となる重要かつ基本的な情報である。
貴機構において、債務者の住所等を確実に把握していないと、〔1〕 学資金を返還しない債務者に対して割賦金の支払を求めることができなかったり、〔2〕 延滞した割賦金を回収するために債務者に督促等をする機会を通じて、潜在的返還期限猶予対象者に対して返還期限猶予の願い出について指導することができなかったりすることになる。
そこで、本院は、合規性、効率性、有効性等の観点から、貴機構が債務者の住所等を把握して、延滞した割賦金を適切に回収しているか、返還期限猶予の願い出について十分指導しているかなどに着眼して、次のとおり会計実地検査を行った。すなわち、貴機構及び貴機構が業務を委託しているサービサー4社のうち2社において、延滞債権に関する資料等の提出を受けるなどの方法により会計実地検査を行った。また、奨学金の返還促進に関する有識者会議において、学資金は大学等に対して質的観点からも経営的観点からも寄与しており、大学等の在学中における債務者への指導の在り方やその内容が、卒業後の延滞率に影響を与えているなどとされている。このような視点から、学資金貸与事務を実施している大学等のうち8大学を調査した。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴機構は、債務者が提出した返還誓約書等により、債務者の住所等を把握することとしており、債務者が転居した場合は、債務者は新たな住所、電話番号等を記入した転居届を貴機構に提出することとなっている。
しかし、債務者が転居届を提出しない場合は、年1回債務者に送付する振替案内等の文書が、あて先不明として貴機構に返送されてくることになる。そして、貴機構は、このように住所を把握できなくなった者を、住所調査が必要な住所不明者として整理している。
そして、貴機構における住所不明者に係る延滞債権は、表3のとおり、19事業年度末における3か月以上延滞債権214,220件、2252億5466万余円のうち13,269件、132億8282万余円となっていて、件数比で6.1%、金額比で5.8%を占める状況となっている。
表3 | 住所不明者の状況(平成19事業年度末) | (単位:件、千円) |
区分 | 全債務者(a) | うち住所不明者(b) | (b)/(a) | |
3か月以上延滞債権 | 件数 | 214,220 | 13,269 | 6.1% |
金額 | 225,254,668 | 13,282,822 | 5.8% |
貴機構は、前記のとおり、貴機構が債務者の住所等を把握できていると認識している割賦金債権については、その回収をサービサーに委託している。しかし、19事業年度に回収を委託した割賦金債権8,231件のうち5,121件(62.2%)については、債務者に電話等による連絡をとることができない状況となっている。
また、支払督促申立予告書を送付した割賦金債権35,165件のうち、8,826件(25.0%)については、債務者の住所は判明しているものの配達証明郵便の保管期間が経過したことにより貴機構に返送されてきたため、債務者に連絡をとることができない状況となっており、また、1,269件(3.6%)については、あて先不明として貴機構に返送されてきたため、住所不明者であることが新たに判明している。
このように、貴機構は、債務者の住所等を把握できているとしているが、実際には、債務者に連絡をとることができなかったり、住所不明者であることが新たに判明したりする事態が生じている。
以上のことから、19事業年度末における債務者の住所等を確実に把握できていない延滞債権は、住所不明者に係る3か月以上延滞債権額132億8282万余円にとどまらず、3か月以上延滞債権額2252億5466万余円の大宗を占めるものと思料される。
貴機構は、返還期限猶予について、延滞した割賦金を回収するために債務者に督促等をする機会を通じて債務者を指導するほか、年1回債務者に送付する振替案内等の文面に記載することにより周知しているとしている。
しかし、貴機構が、割賦金の返還を延滞している債務者のうち、住所を把握できているものについて毎事業年度行っている延滞の実情に関する調査の結果によると、19事業年度において、本人が無職・失業や病気療養等の状況にあって潜在的返還期限猶予対象者と認められるものが多数見受けられた(表4
参照)。
表4 | 割賦金の返還を延滞している債務者の状況調査結果(平成19事業年度) | (単位:%) |
債務者の状況 | 低所得 | 親の債務返済 | 借入金の返済 | 延滞額の増加 | 無職・失業 | 家族の病気療養 | 本人の病気療養 | 在学・留学 | 生活保護受給 | 災害 | その他 |
割合 | 40.8 | 37.3 | 23.0 | 22.0 | 19.8 | 11.9 | 11.7 | 3.3 | 1.9 | 0.7 | 15.9 |
注(1) | 調査対象(発送件数)は、平成19年12月において延滞6か月以上の者(106,141件)で、有効回答は7,250件(有効回答率6.8%)である。 |
注(2) | 延滞事由は複数回答可としている。 |
以上のことから、貴機構が返還期限猶予について指導したり周知したりしているとしているにもかかわらず、住所を把握できている債務者の中に潜在的返還期限猶予対象者が多数見受けられる事態が生じている状況にあっては、住所不明者や連絡をとることができない債務者の中にも潜在的返還期限猶予対象者が多数存在するものと思料される。
19年3月に貸与が終了した新規債務者における住所不明者の状況をみると、貴機構が、同年8月中旬に「返還開始のお知らせ」231,310件を返還誓約書に記載されていた住所に送付したところ、1,464件(同年10月時点)があて先不明として貴機構に返送されてきたため、1,464件に係る債務者が住所不明者であることが新たに判明している。しかし、貴機構は、第1回振替日(同年10月27日)までの間は、新たに判明した住所不明者の住所調査を行うなどの対応を何ら執っていなかった。
また、大学等は、返還誓約書を提出した債務者には全く関与していなかった。
そこで、19事業年度末における新規債務者に係る3か月以上延滞債権8,496件(182億9904万余円)のうち、一度も返還のない新規債務者に係る延滞債権6,740件(142億8028万余円)から674件(14億4251万余円)を抽出して住所不明者の状況をみると、21年7月現在で住所不明者として整理している債務者に係る延滞債権は29件(7834万余円)となっていて、件数比で4.3%(金額比で5.4%)となっている。
これは、3か月以上延滞債権全体における住所不明者の割合(件数比で6.1%、金額比で5.8%)に相当程度近いものとなっていることから、住所不明者は、毎事業年度、新規債務者の段階から相当な割合で発生しているものと思料される。
上記のとおり、債務者の住所等は、債務者の実情を調査したり、債権管理上必要な措置を執ったりするために必要となる重要かつ基本的な情報であるのに、貴機構において、債務者の住所等を確実に把握していないことから、延滞した割賦金の回収が適切に実施できていなかったり、潜在的返還期限猶予対象者に対して返還期限猶予の願い出について十分指導できていなかったりなどしている事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴機構において、債務者の住所等を確実に把握するための体制が十分整備されていなかったこと、延滞した割賦金の回収を適切に実施したり、潜在的返還期限猶予対象者に対して返還期限猶予の願い出について十分指導したりすることの認識が十分でなかったことなどによると認められる。
貴機構が実施している学資金貸与事業は今後も拡大することが見込まれ、それに伴って延滞債権の更なる増加が懸念される。また、債務者からの返還金は、国等からの借入金を返還する原資であるとともに、新たな貸与の原資でもあることから、延滞債権を適切に回収していくことは、貴機構の財政基盤を安定化させるためにも重要である。
ついては、貴機構において、債務者の住所、電話番号等の連絡先を適時適切に把握して、債務者の実情に応じた割賦金の回収及び返還期限猶予の願い出に関する指導を適時適切に行うよう、次のとおり改善の処置を要求する。
ア 住所不明者が判明した場合や連絡をとることができなくなった場合は、直ちに調査する体制を整備するとともに、債務者の出身大学等との連携強化を図ったり、関係機関の情報を債務者の住所等の把握に活用したりなどする体制を整備すること
イ 延滞した割賦金を回収するために債務者に督促等をする機会を通じて、債務者の実情の調査及び潜在的返還期限猶予対象者の把握に努めるなどの体制を整備すること