政府は、「経済財政改革の基本方針2007」(平成19年6月19日閣議決定)において、現行の独立行政法人が制度本来の目的にかなっているか、制度創設後の様々な改革と整合的なものになっているかなどについて、原点に立ち返って見直すこととし、101独立行政法人(注1)
について民営化や民間委託の是非を検討して、19年8月に、「独立行政法人整理合理化計画の策定に係る基本方針」(平成19年8月10日閣議決定。以下「基本方針」という。)を定めている。そして、独立行政法人制度の導入後、人件費の削減、財政支出の削減、自己収入の増加、透明性の確保等の成果がある一方、一部でいわゆる官製談合の舞台となるなど、国民の信頼回復が喫緊の課題となっているなどとして、政府は、基本方針等に基づき独立行政法人整理合理化計画(平成19年12月24日閣議決定。以下「整理合理化計画」という。)を策定し、これを着実に実行することとしている。
随意契約の見直しに関して、基本方針は、独立行政法人の契約について一般競争入札等(競争入札及び企画競争・公募をいい、「競争性のない随意契約」は含まない。以下同じ。)の導入、範囲拡大等を図るための見直しを行い、独立行政法人ごとに随意契約見直し計画を策定することとしている。
また、整理合理化計画では、独立行政法人の見直しに関して講ずべき横断的措置として、随意契約の見直しに関する事項が定められており、各独立行政法人の契約は、原則として一般競争入札等によることとして、各独立行政法人が策定した随意契約見直し計画を着実に実施することにより、「競争性のない随意契約」の比率を国並みに引き下げること、契約が一般競争入札等による場合であっても、特に企画競争又は公募を行う場合には、真に競争性、透明性が確保される方法により実施すること、随意契約見直し計画の実施状況を含む入札及び契約の適正な実施について、監事及び会計監査人による監査において厳正にチェックすることなどが定められている。
各独立行政法人が策定した随意契約見直し計画によると、101独立行政法人全体では、18年度に締結した「競争性のない随意契約」6.4万件、契約金額1.0兆円のうち、7割強に当たる4.9万件、0.7兆円を一般競争入札等に計画的に移行することとしている。そして、20年7月には、19年度における独立行政法人の契約状況が公表されており、これによると、図表2
のとおり、19年度実績で、「競争性のない随意契約」は5.0万件(注2)
、契約金額0.9兆円(注2)
となっている。なお、これを契約全体に占める割合でみると、件数では54.0%、契約金額では39.7%となっていて、18年度の64.0%及び47.6%に比べて、それぞれ10.0ポイント及び7.9ポイント低下している。
上記の政府における取組を踏まえて、前記第1の4で示した項目別に検査の結果を示すと次のとおりである。
図表2 随意契約見直し計画と平成19年度に締結した契約の状況
その後、郵便貯金・簡易生命保険管理機構が設立される一方、通関情報処理せんたー及び緑資源機構が解散しており、平成21年3月末現在では100法人となっている。
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以下の会計検査院の検査結果とは集計方法等が異なるため単純には比較できない。
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国の契約事務は、会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号。以下「予決令」という。)その他の会計法令等の規定に基づき行われている。そして、国の契約方式は、図表3 のとおり、一般競争契約及び指名競争契約(以下、両者を合わせて「競争契約」という。)並びに随意契約の三つがあり、このうち、機会の均等、公正性の保持、予算の効率的使用の面から、一般競争契約が原則とされている。
区分 | 要件 | 根拠条項 | |
一般競争契約 | (原則) 売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合においては、以下の場合を除き、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならない。 |
会計法第29条の3第1項 | |
指名競争契約 | 指名競争に付するものとされている場合 | 〔1〕 契約の性質又は目的により競争に加わるべき者が少数で一般競争に付する必要がない場合 〔2〕 一般競争に付することが不利と認められる場合 |
会計法第29条の3第3項 |
指名競争に付することができるとされている場合 | 〔3〕 契約に係る予定価格が少額である次に掲げる場合(以下、この要件による指名競争契約を「少額指名競争契約」という。) a 予定価格が500万円を超えない工事又は製造をさせるとき b 予定価格が300万円を超えない財産を買い入れるとき c 予定賃借料の年額又は総額が160万円を超えない物件を借り入れるとき d 工事又は製造の請負、財産の売買及び物件の貸借以外の契約でその予定価格が200万円を超えないものをするとき など 〔4〕 その他 |
予決令第94条第1項等 | |
随意契約 | 随意契約にるものとされている場合 | 〔1〕 契約の性質又は目的が競争を許さない場合 〔2〕 緊急の必要により競争に付することができない場合 〔3〕 競争に付することが不利と認められる場合 |
会計法第29条の3第4項 |
随意契約によることができるとされている場合 | 〔4〕 国の行為を秘密にする必要があるとき 〔5〕 契約に係る予定価格が少額である次に掲げる場合(以下、この要件による随意契約を「少額随契」という。) a 予定価格が250万円を超えない工事又は製造をさせるとき b 予定価格が160万円を超えない財産を買い入れるとき c 予定賃借料の年額又は総額が80万円を超えない物件を借り入れるとき d 工事又は製造の請負、財産の売買及び物件の貸借以外の契約でその予定価格が100万円を超えないものをするとき など 〔6〕 競争に付しても入札者がないとき、又は再度の入札をしても落札者がないとき 〔7〕 その他 |
予決令第99条等 |
これに対して、独立行政法人の契約事務は、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)等において、競争入札等の契約に関する基本的な事項を業務方法書に定めて主務大臣の認可を受けること及び会計に関する事項について規程(以下「会計規程」という。)を定めて主務大臣に届け出ることが規定されている。そして、独立行政法人の中には、このほか、会計規程に基づくなどして、契約事務に関する細則、要領等を独自に定めているものもある。また、独立行政法人の会計は、国の会計制度とは異なり予算の単年度主義の制約はなく、複数年にわたる契約(以下「複数年契約」という。)を締結することが可能であるなど、独立行政法人の契約制度は、国の制度と相違するだけでなく、法人間でも一律な制度とはなっていない。
20年報告では、上記を踏まえて、公告の方法、随意契約の基準、予定価格の作成等に関して留意することが必要な事項等を報告したことから、その改善状況等をみるため、検査対象法人100法人について、21年4月1日現在の契約制度の状況を調査、分析した。
(以下、数値の記述は、表示単位未満を切り捨てている。)
国の競争契約における契約相手方の決定は、支出原因契約にあっては、原則として予定価格の制限の範囲内で最低の価格の入札者を落札者とすることとされている(以下、この落札方式を「自動落札方式」という。)。ただし、契約の性質又は目的から価格のみの競争により難い場合、価格だけでなく、技術的要素等も併せて総合的に評価して落札者を決定する方式(以下「総合評価方式」という。)が認められている。
独立行政法人においても、21年4月1日現在で、100法人のうち98法人は、競争契約では原則として自動落札方式によることを会計規程等において規定しており、20年4月1日現在の96法人と比べて2法人増加している。これは、20年4月1日現在で、会計規程等において契約相手方の決定方法に関する定めを置いていなかった3法人のうち2法人(日本貿易保険及び奄美群島振興開発基金)が規定の整備を行ったことによるものである。なお、残る1法人(国立重度知的障害者総合施設のぞみの園)は、21年8月に規定の整備を行っている。 また、このほか自動落札方式によることとしていない法人が1法人(国立病院機構)あるが、これは、20年報告でも記述したとおり、予定価格の制限の範囲内の価格をもって入札した者のうち、最低価格で入札した者を第一交渉権者として交渉を行い、契約価格が決定した場合はその者を契約相手方とするなどの方式を会計規程等において定めているものである。
また、総合評価方式については、21年4月1日現在で、96法人が導入(未実施の法人を含む。以下同じ。)しており、20年4月1日現在の63法人から大幅に増加している。一方、会計規程等でその根拠を明確に定めている法人は、20年4月1日現在の62法人から27法人増加しているものの、89法人にとどまっている(法人別内訳は別表1
参照)。
20年報告では、総合評価方式による競争契約の実施に当たっては、契約の公正性及び透明性を担保し、客観的及び合理的に技術的要素等の評価を行う必要があることなどから、要領、マニュアル等の整備を行うとともに、審査の公正性及び透明性を向上させるため、評価方法の作成及び審査の過程において、必要に応じて学識経験者等の第三者の意見を反映させるための方策を講じたり、審査結果を開示したりすることが重要であるとしている。
そこで、総合評価方式を導入している前記の96法人について、21年4月1日現在における総合評価方式の取扱いに関する要領、マニュアル等の整備状況をみると、図表4
のとおり、「〔1〕 要領、マニュアル等を作成済みであるとする法人」は、20年4月1日現在の24法人から58法人に増加しており、その占める割合は、38.0%から60.4%に上昇している。また、「〔3〕 要領、マニュアル等を作成していないとする法人」は、23法人あるが、これらの法人では、総合評価方式を導入可能な案件が少ないなどのため、国等の要領、マニュアル等を準用して実施するなどとしている。
図表4 総合評価方式の取扱いに関する要領、マニュアル等の整備状況
また、評価に係る手続の透明性等の状況をみると、図表5 のとおり、技術、提案内容の審査体制について、「〔1〕 審査委員会等による審査を行っているとする法人」が73法人、「〔2〕 外部の有識者等が審査に関与しているとする法人」が37法人あり、「〔3〕 〔1〕 〔2〕 のいずれにも該当するとする法人」が36法人ある。そして、「〔4〕 技術、提案内容の審査結果を応札者に開示しているとする法人」は60法人となっていて、いずれも20年4月1日現在より増加している状況である。
実施状況 | 平成20年4月1日現在 | 21年4月1日現在 |
〔1〕 審査委員会等による審査を行っているとする法人 | 58法人 | 73法人 |
〔2〕 外部の有識者等が審査に関与しているとする法人 | 21法人 | 37法人 |
〔3〕 〔1〕 〔2〕 のいずれにも該当するとする法人 | 21法人 | 36法人 |
〔4〕 技術、提案内容の審査結果を応札者に開示しているとする法人 | 45法人 | 60法人 |
一般競争契約は、公告により競争を行う旨を不特定多数の者に知らせ、なるべく多数の競争参加者を得ることが契約の公正性を確保し、競争の実効性を高めることから、周知の効果が十分発現するよう、周知の期間を十分確保するとともに、周知の方法も適切に選択する必要がある。国の場合は、予決令第74条において、「その入札期日の前日から起算して少なくとも十日前に官報、新聞紙、掲示その他の方法により公告しなければならない」と規定されているが、緊急の場合には「その期間を五日までに短縮することができる」とされている。
20年報告では、公告の実施に当たり、し意的な判断を排除して、その効果を十分に発現させるためにも、公告期間、公告の周知方法等を会計規程等において明確に定めて適正に運用するとともに、公告期間の下限を国の基準より短く設定している場合には、入札のための準備期間を考慮した十分な期間となっているか検討する必要があるとしている。
21年4月1日現在における公告の方法に関する規定状況をみると、図表6
のとおり、20年4月1日現在では、公告の方法に関して明確に会計規程等に規定していない法人が4法人、公告期間の下限が国の基準を下回っている法人が45法人あったが、これらすべての法人が国の基準に準じて規定の整備、見直しを行っている(法人別内訳は別表1
参照)。
事項 | 平成20年4月1日現在 | 21年4月1日現在 | |
公告の方法に関して会計規程等に規定していない法人 | 4 | 0 | |
公告期間の下限が国の基準を下回っている法人(注) | 45 | 0 | |
予定価格等に応じて10日より短く設定しているものがある法人 | 5 | 0 | |
緊急の場合以外にも公告期間を10日より短縮できるとしている法人 | 31 | 0 | |
緊急の場合等において公告期間を必要に応じて短縮できるとしている法人 | 7 | 0 | |
公告期間の下限を入札期日から起算して7日前としている法人 | 1 | 0 | |
公告期間を入札期日の前日ではなく入札期日から起算して10日前としている法人 | 6 | 0 |
一方、上記に関して、公告期間を適切に確保するために、別途通知を発することにより、運用上、公告期間を延長するなどしている法人もある。
上記について、運用上、公告期間を延長している参考事例を示すと次のとおりである。
<参考事例>
[公告期間を運用上延長しているもの]
また、公告の周知方法としては、できる限り多くの事業者に対して等しく周知できるような手段により行うことが重要であり、このため、複数の媒体等により周知することや、特に近年ではインターネットが広く普及してきたことから、ホームページを活用して周知することが効果的である。
上記に関して、ホームページに掲載する調達情報の閲覧に係る利便性を高めるための取組を行っている参考事例を示すと、次のとおりである。
<参考事例>
[調達情報の閲覧に係る利便性を高めるための取組を行っているもの]
そこで、掲示、ホームページ等の主な手段別に、21年4月1日現在における各法人の入札公告の周知方法を調査したところ、図表7 のとおり、すべての法人でホームページを活用しており、これと併せて掲示を行っている法人が90法人となっている。
\ | 掲示板に掲示しているとする法人 | ホームページに掲載しているとする法人 |
平成21年4月1日現在 | 90 | 100 |
ウ 指名競争契約の基準の設定状況
指名競争契約は、特定多数の者を指名して競争させる方式であり、信頼できる契約相手方の選定、入札等の事務の簡素化等の利点を有する一方、競争参加者が限定・され、指名がし意的に行われた場合の弊害も大きいことなどから、限定的に運用することとして、できる限り一般競争契約の拡大を図ることが望ましい。国の場合、指名競争契約については、図表3
のとおりその基準が定められており、少額指名競争契約によることができる予定価格の限度額(以下「指名競争契約限度額」という。)が設定されている。
20年報告では、指名競争契約は、公正性及び透明性を確保するという点から、限定的に活用することとして、できる限り一般競争契約を拡大することが重要であり、その運用に当たっては基準を明確に定める必要があることから、少額指名競争契約によることができる旨の規定があるのに指名競争契約限度額を具体的に定めていない法人や、指名競争契約限度額を国の金額基準より高額に設定している法人について、業務運営上真にやむを得ないものを除いて、適切に見直しを行う必要があるとしている。
そこで、21年4月1日現在における指名競争契約限度額の設定状況をみると、図表8
のとおり、20年4月1日現在で指名競争契約限度額を具体的に定めていなかった法人(1法人)は指名競争契約限度額を具体的に定めている。また、指名競争契約限度額を国の金額基準より高額に設定していた法人(11法人)のうち、10法人は国の金額基準に準じて見直しており、残る1法人(水資源機構)は国の金額基準に準じて見直すこととして会計規程等を改正予定であるとしている(法人別内訳は別表1
参照)。
時点 [対象法人数] |
指名競争契約を導入していない法人 | 少額指名競争契約に係る条項のない法人 | 国の金額基準と同額か下回る基準となっている法人 | 契約種類別で国の金額基準をいずれか一つでも上回っている法人 | 指名競争契約限度額を具体的に定めていない法人 | ||||
契約種類別の内訳 | |||||||||
工事・製造 | 財産の買入れ | 物件の賃借 | その他役務等 | ||||||
平成20年4月1日現在 [100法人] |
7 | 14 | 67 | 11 | 6 (2) |
7 (4) |
9 (6) |
9 (5) |
1 |
21年4月1日現在 [100法人] |
8 | 6 | 85 | 1 | 1 (1) |
0 (0) |
0 (0) |
0 (0) |
0 |
また、指名競争契約を導入していない法人が20年4月1日現在の7法人から8法人に増加しているが、これは、郵便貯金・簡易生命保険管理機構において、一般競争契約を原則とすることとして、指名競争契約を廃止したことによるものである。
随意契約は、競争によることなく特定の者を選定してその者と契約を締結する方式であり、相手方を特定することにより資産、信用、能力の確実な者を選定することができるほか、競争契約の場合のように、通常、公告や入札といった手続が必要とされないことから、契約事務の負担軽減を図る最も簡便な契約方式でもある。その反面、契約相手方が特定されることにより価格の競争性が働かないこと、契約相手方の選定過程における透明性が競争契約に比べて低いことなどから、これが安易に適用された場合、契約相手方が固定され公正性が確保されなくなり、ひいては不利な価格で契約を締結するおそれもあるため、適正に運用する必要がある。
国においては、随意契約によることができる場合を、図表3
のとおり、予決令等に具体的に掲げるとともに、随意契約によるときはなるべく2人以上の者から見積書を徴することとして契約価格の適正を図るなどとしている。
一方、独立行政法人においては、国と同様の具体的な要件のほか、次のような事由を随意契約によることができる要件(以下「随意契約要件」という。)として定めている法人が見受けられる。
すなわち、独立行政法人の中には、法人により規定上の文言は異なるものの、〔1〕 「業務運営上必要がある場合」、「事業運営上の特別の事由に基づく契約をするとき」などのように、随意契約要件が具体的に定められていない条項(以下「包括的随契条項」という。)や、〔2〕 「国、地方公共団体その他の公法人又は公益法人と契約するとき」などのように、契約の内容等の範囲を限定せずに、公益法人であることのみをもって随意契約を行うことができるとする条項(以下「公益法人随契条項」という。)を設定しているものがある。
20年報告では、これらの条項は、随意契約とする理由(以下「随契理由」という。)が具体的に明らかにはされておらず、安易に適用された場合の弊害が大きいことなどから、会計規程等において随意契約の基準に係る条項を定めるに当たっては、可能な限り要件を明確かつ具体的に定めることが必要であり、各法人の業務の特性等を踏まえて、あらかじめ想定されるケースについてはできる限り具体的に規定する必要があるとしている。
そこで、21年4月1日現在における包括的随契条項及び公益法人随契条項の設定状況をみると、図表9
のとおり、両条項を設定していた法人の多くは、会計規程等の改正を行って、これらの規定を廃止するなどしており、包括的随契条項を設定している法人は20年4月1日現在の53法人から7法人に、公益法人随契条項を設定している法人は11法人から2法人にそれぞれ減少しており、いずれの条項も設定している法人は、なくなっている(法人別内訳は別表1
参照)。
\ | 包括的随契条項を設定している法人 | 公益法人随契条項を設定している法人 | いずれの条項も設定している法人 |
平成20年4月1日現在 | 53法人 | 11法人 | 4法人 |
21年4月1日現在 | 7法人 | 2法人 | 0法人 |
なお、20年報告では、見積競争方式(注3) について、真に競争性、公正性及び透明性を確保するためには、あくまでも一般競争契約によることを原則とすべきであり、少額随契によることができる予定価格の限度額(以下「随契限度額」という。)を超える金額基準を前提とする見積競争方式は、事実上、随契限度額を引き上げる運用にもなりかねず、適切な取扱いとは認められないとしているが、20年4月1日現在で見積競争方式を導入していた国立環境研究所は、20年10月に会計規程等を改正して、これを廃止した。そのため、21年4月1日現在では、見積競争方式を導入している法人はなくなっている。
近年、業者選定の公平性及び透明性を向上させるための取組として、随意契約等を締結する場合の契約手続の前段階において、企画競争又は公募が行われている。
国の場合、「公共調達の適正化について」(平成18年8月25日財計第2017号)において、従来、競争性のない随意契約を行ってきたものについては、一般競争入札(総合評価方式を含む。)又は企画競争若しくは公募を行うことにより、競争性及び透明性を担保するものとされている。また、独立行政法人についても、当該独立行政法人を所管する府省を通じて、「公共調達の適正化について」に掲げられた各項目に準じて各法人において公共調達の適正化に取り組むことが要請されている。
企画競争は、契約の内容によっては価格による競争を実施することが困難な場合において、複数の業者から企画書等を提出させるなどして、その内容や業務遂行能力が最も優れた者を選定する手続であり、選定した者を契約相手方として随意契約(以下、このような随意契約を「企画随契」という。)が締結されることになる。なお、提案内容の審査は総合評価方式においても行われるが、企画競争が提案内容の審査により随意契約の相手方を選定する手続であるのに対し、総合評価方式は入札を行い、提案内容と価格を総合的に評価して、落札者を決定する点で異なっている。
また、公募は、特殊な技術又は設備等が不可欠な契約において、必要な技術又は設備等をホームページ等で具体的に明らかにした上で参加者を募る手続であり、ほかに履行可能な者がいないか確認するために行われるものである。そして、要件を満たす応募者が複数の場合は一般競争入札又は企画競争が行われて、1者の場合は当該1者と随意契約が締結されることになる。
20年報告では、企画競争又は公募は、契約手続の前段階において不特定多数の者を参加させることから、契約の競争性、公正性及び透明性を一定程度向上させることが期待できるため、独立行政法人において競争契約により難い場合には、こうした取組を一層推進するとともに、これらの実施に当たり、し意的な運用を排除して、その効果を十分発現させるためには、実施方法に係る要領、マニュアル等の整備を行うことが必要であるとしている。また、企画競争の実施に当たっては、特定の者が有利にならないよう、公正性及び透明性を確保する必要があるため、参加者の募集は、原則として公示により行うこととし、企画書等の審査に当たっては、評価項目等を参加者に開示するとともに、調達要求部門だけでなく契約担当部門も関与するなどの取組を行うことが必要であるとしている。
a 企画競争の導入状況及び実施方法に関する要領、マニュアル等の整備状況
21年4月1日現在における企画競争の導入状況をみると、図表10
のとおり、企画競争を導入している法人は、20年4月1日現在の92法人から95法人に増加している。一方、企画競争を導入していない法人は5法人ある(法人別内訳は別表1
参照)。
図表10 企画競争の導入状況及び実施方法に関する要領、マニュアル等の整備状況
企画競争を導入している上記の95法人について、企画競争の実施方法に関する要領、マニュアル等の整備状況をみると、図表10 のとおり、「〔1〕 要領、マニュアル等を作成済みであるとする法人」は、20年4月1日現在の37法人から70法人に増加しており、その割合は40.2%から73.6%に上昇している。また、「〔2〕 要領、マニュアル等を作成していないとする法人」は6法人あるが、これらの法人では、企画競争を導入可能な案件が少ないなどのため、国等の要領、マニュアル等を準用して実施するなどとしている。
b 参加者の募集の状況
企画競争を導入している前記の95法人について、参加者の募集方法の状況みると、図表11
のとおり、「〔1〕 原則として一般募集を(注4)
を行うとする法人」は20年4月1日現在の73法人から93法人に増加しており、ほとんどの法人が原則として一般募集による方法を採用している。
その一方で、「〔2〕 契約案件ごとに一般募集の要否を検討の上実施するとする法人」も2法人(宇宙航空研究開発機構及び都市再生機構)ある(法人別内訳は別表1
参照)。
図表11 参加者の募集方法の状況
c 企画競争の評価項目、評価方法及び審査結果の開示状況
企画競争を導入している前記の95法人について、企画競争の「評価項目」、「評価方法」及び「審査結果」の参加者への開示状況をみると、図表12 のとおり、「〔1〕 すべて開示しているとする法人」は20年4月1日現在の46法人から64法人に増加しており、「〔2〕 一部開示していない項目があるとする法人」も加えると、開示を行っている法人は90法人となっている。その一方で、「〔3〕 すべて開示していないとする法人」も5法人ある(法人別内訳は別表1 参照)。
図表12 企画競争の評価項目、評価方法及び審査結果の開示状況
審査結果の開示方法に関して、参加者に評価結果を開示するなど透明性を高める手続を定めている参考事例を示すと、次のとおりである。
<参考事例>
[審査結果の開示方法に関して透明性を高める手続を定めているもの] 参考〔3〕 日本学生支援機構は、「企画競争による公募に係る実施要領」に基づいて、企画競争への参加者の募集は一般募集により実施するとともに、評価項目及び評価方法を開示することとしている。また、審査結果は、すべての競争参加者に対して通知するとともに、「通知内容については、契約予定者の評価点及び当該者の評価点を記述するもの」として、「非特定者(注)
に対しては、非特定者の要請に応じ、具体的な理由について、前述の評価点及び評価に関するより具体的な内容を告知することができるものとする。」と定めている。
そして、同機構は、上記の実施要領に基づき、審査結果通知書のひな型を定め、企画提案書提出者数、契約予定者及び非特定者の評価点を記載した審査結果通知書を作成して交付している。 非特定者 契約予定者に選定されなかった者
|
d 審査における契約担当部門の関与の状況
企画競争を導入している前記の95法人について、契約担当部門の審査への関与の状況をみると、図表13 のとおり、「〔1〕 契約担当部門が審査に参加しているとする法人」は20年4月1日現在の45法人から59法人に増加している。その一方、「〔2〕 契約担当部門が審査に参加していないとする法人」は36法人あるが、これらの法人ではすべて「契約担当部門に審査内容及び審査結果が書面で報告される」としている(法人別内訳は別表1 参照)。
図表13 企画書等の審査における契約担当部門の関与の状況
(イ) 公募
21年4月1日現在における公募の導入状況をみると、図表14
のとおり、公募を導入している法人は、20年4月1日現在の70法人から85法人に増加している。一方、公募を導入していない法人は15法人ある。
公募を導入している上記の85法人について、公募の実施方法に係る要領、マニュアル等の整備状況をみると、図表14
のとおり、「〔1〕 要領、マニュアル等を作成済みであるとする法人」の占める割合は、20年4月1日現在の37.1%から71.7%に上昇している。また、「〔2〕 要領、マニュアル等を作成していないとする法人」は24法人あるが、これらの法人では、公募を導入可能な案件が少ないなどのため、国等の要領、マニュアル等を準用して実施するなどとしている(法人別内訳は別表1
参照)。
図表14 公募の導入状況及び実施方法に関する要領、マニュアル等の整備状況
国の場合、競争入札は、あらかじめ決定された予定価格の制限の範囲内で落札者を決定することから、開札に当たっては、予定価格を記録した書面(以下「予定価格調書」という。)を、開札場所に置かなければならないこととされている。
そして、予定価格の作成に当たっては、契約担当官等は、契約の目的となる取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に定めなければならないこととされている。
また、予定価格は、随意契約においても競争入札に準じて定めなければならないとされている。ただし、「随意契約による場合の予定価格等について」(昭和44年蔵計第4438号)により、次の場合は、予定価格調書その他の書面による予定価格の積算を省略して差し支えないこととされている(以下、次の〔1〕 及び〔2〕 の要件を「国の省略要件」という。)。
〔1〕 法令に基づいて取引価格又は料金が定められていることなどから、特定の取引価格又は料金によらなければ契約をすることが不可能又は著しく困難であると認められるもの
〔2〕 予定価格が100万円を超えない随意契約で、各省各庁における契約事務の実情を勘案して、各省各庁の長において省略しても支障がないと認めるもの予定価格は、契約を締結するに際し、公正に契約金額を決定するための基準であるとともに、契約相手方の申し出た価格が市場価格等を反映した妥当な価格であるか否かを判断する基準でもあることから、経済的な調達を実施するためには、適正に算定されなければならない。
20年報告では、予定価格の作成は、契約の適正化を図るための重要な契約手続であり、これを適正に行う必要があることから、予定価格の作成根拠、決定方法等を会計規程等において明確に定めて、これに従って運用するとともに、予定価格調書その他の書面による予定価格の積算を行うことなく予定価格の作成を省略できる取扱い(以下「予定価格の作成の省略に関する取扱い」という。)については、その要件を業務運営上真にやむを得ない事由に限る必要があるとしている。
21年4月1日現在における予定価格の作成に関する規定の設定状況をみると、20年4月1日現在では原則として予定価格を作成しなければならない旨を会計規程等で明確に規定していなかった3法人(日本貿易保険、日本貿易振興機構及び奄美群島振興開発基金)は、いずれもその旨を会計規程等で明確に規定している。
21年4月1日現在の予定価格の作成の省略に関する取扱いの状況をみると、これを会計規程等に定めている法人は20年4月1日現在の94法人から98法人に増加している。これは、契約事務処理の負担の軽減化等のため、国の基準や20年報告での他の法人の例を参考にして、予定価格の作成の省略に関する取扱いを会計規程等に明記しても支障がないと判断したことによるものである。
また、予定価格の作成の省略に係る金額基準について、国の金額基準よりも高額に設定している法人は、20年4月1日現在の36法人から1法人にまで減少している。なお、この法人の金額基準は、契約種類別の随契限度額と同額(最も高額なもので250万円)となっていたが、21年6月に規程の改正を行い、国の金額基準に準じて見直している。
一方、予定価格の作成の省略に関する取扱いについて、国の省略要件とは異なり、省略する理由や対象範囲が明確でなく、その妥当性に疑義がある要件を定めている法人が21年4月1日現在で、次のとおり18法人見受けられる。
すなわち、法人により規定上の文言は異なるものの、「契約の性質上、特に予定価格の作成を要しないと認められるもの」を要件として定めている法人が12法人、「迅速に契約しなければ業務の遂行に支障を及ぼすと認めるもの」を要件として定めている法人が5法人、「あらかじめ事業費の上限を限度額として提示するとき」や「概算契約をしようとするとき」などを要件として定めている法人が5法人となっている(法人別内訳は別表1
参照)。
前記のとおり、予定価格の作成は、契約の適正化を図るための重要な契約手続であることから、上記の要件を設定することの是非について、各法人の業務の特性等を踏まえて十分検討して、業務運営上真にやむを得ないと認められるものに限定する必要がある。また、設定する場合には、その省略する理由や対象範囲についてできる限り明確かつ具体的に定めることが必要である。
独立行政法人は、国の場合のような予算の単年度主義の制約がないことから複数年契約を締結することが可能である。しかし、例えば情報システムの調達において、複数年の賃借を前提とした契約を、単年度ごとの随意契約として毎年度契約更新しているものなども見受けられる。また、複数年契約を導入している場合でもその多くは賃借契約であり、適用範囲も限られている状況である。このため、随意契約見直し計画の達成に向け、契約期間を複数年にすることにより、経費節減、役務契約におけるサービスの質の向上、契約事務の合理化等を図ることを目的として、複数年契約の導入・拡大に取り組むこととしている法人も多い。
複数年契約は、経費節減やサービスの質の向上、契約事務の合理化等の利点がある一方、原則として発注者の都合による契約期間中途の契約解除が困難であるため、事業環境の急激な変化により業務の変更や休止が生じたり、十分なサービスの質が確保できなかったりした場合等において、かえって契約の固定化による弊害を招くおそれもある。
20年報告では、複数年契約の実施に当たり、複数年契約を締結する場合の要件や契約書及び仕様書に記載すべき必要事項を要領等であらかじめ定めておくなどして、し意的な運用を排除するとともに、契約解除又は契約変更を行う場合の取扱いを明確にするなどして、適正な運用を図る必要があるなどとしている。
そこで、21年4月1日現在の複数年契約の導入状況等をみると、図表15
のとおり、100法人すべてが導入しており、このうち73法人は、複数年契約の実施に関する規定を会計規程等において定めているとしている。そして、複数年契約の対象となる契約の種類、期間等の要件を会計規程、要領等で具体54法人は、的に示しているとする法人は、20年4月1日現在の19法人から増加しているものの46法人にとどまっており、残りの契約内容により条件が異なり一律に要件を定めるのは適当でないなどとして、要件を具体的に示していない(法人別内訳は別表1
参照)。
導入状況等 | 平成20年4月1日現在 | 21年4月1日現在 | |
【複数年契約を導入しているとする法人】 | 98法人 (100%) |
100法人 (100%) |
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導入根拠を会計規程等で定めているとする法人 | 28法人 (28.5%) |
73法人 (73.0%) |
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契約の要件を会計規程、要領等で具体的に示しているとする法人 | 19法人 (19.3%) |
46法人 (46.0%) |
以上のように、各独立行政法人の契約制度に関して、20年報告において留意することが必要であるとした事項については、おおむね改善されているが、一部の法人においては、会計規程等の整備や見直しに至っていない状況も見受けられる。これらのうち、依然として包括的随契条項等を設定しているなど、契約の適正化を図る上で重要な契約手続について会計規程等の整備や見直しに至っていない法人は、入札及び契約の適正化を図る観点から、早急に改善を図ることが必要であると認められる。