電子申請等関係システムの利用状況について
(平成21年9月18日付け 国税庁長官あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
1 電子申請等関係システムの概要
(1) 電子申請等関係システムの整備・運用
政府は、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(平成12年法律第144号)に基づいて、平成13年1月、内閣に、内閣総理大臣を長とした高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(以下「IT戦略本部」という。)を設置し、高度情報通信ネットワーク社会の形成に関するe-Japan重点計画を作成するなどして、国民の利便性の向上を図るとともに、行政運営の簡素化、効率化及び透明性の向上に資するため、国及び地方公共団体の事務におけるインターネットその他の高度情報通信ネットワークの利用の拡大等行政の情報化を積極的に推進することとしている。
そして、各府省等は、その一環として、国民が国の行政機関とこれまで書面を用いてやり取りしてきた申請、届出等(以下「申請等」という。)について、インターネット等を経由した電子的な申請等を行うための電子申請等関係システムを整備・運用してきている。
(2) 貴庁における電子申請等関係システムの概要
貴庁が21年4月時点で運用している電子申請等関係システムは、次のとおりとなっている。
ア 国税電子申告・納税システム(e-TAX)
このシステムは、国税の申告、納税等の手続について、申請者がインターネットを経由した電子的な申請等を行うために16年度から運用しているもので、20年度末における処理可能な手続は、国税申告等の888手続となっている。
イ 国税庁電子開示請求システム
このシステムは、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)に基づく開示請求等の手続について、申請者がインターネットを経由した電子的な申請等を行うために18年度から運用しているもので、20年度末における処理可能な手続は、保有個人情報の開示請求等の6手続となっている。
2 本院の検査結果
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、参議院からの検査要請に基づき、18年10月に、「各府省等におけるコンピュータシステムに関する会計検査の結果について」として、その検査結果を報告している。そして、同報告において、電子申請等関係システムの電子申請件数を全申請件数(電子申請件数と書面による申請件数の計)で除した率(以下「電子申請率」という。)が全体では低い状況にあることから、各府省等において、手続のオンライン化の必要性、経済性を十分検討するとともに、利便性に対する国民の意見、要望も広く聴取して、そのニーズを的確に把握するなどしてシステムの利用の拡大を図り、もって国民の利便性の向上に努めることが必要であり、本院は、今後とも多角的な観点から検査を実施していくとしている。
そして、検査要請に基づいて実施した上記の18年の検査以降、IT戦略本部及び各府省等は、電子申請等関係システムに係る行政の情報化を推進するため、「オンライン利用促進のための行動計画」(18年3月、19年3月改定)、「オンライン利用拡大行動計画」(20年9月)等を策定している。
本院は、上記のことなどを踏まえ、経済性、効率性、有効性等の観点から、システムの利用が拡大しているか、システムの見直しが行われているかなどに着眼して会計実地検査を行った。
検査に当たっては、21年4月時点で貴庁が運用している前記2システムについて、電子申請等関係システムに係る調書を徴するとともに、各システムの利用状況、電子申請率向上のための施策等について関係資料により実地に検査した。
(検査の結果)
(1) 電子申請等関係システムの整備・運用等に係る経費と利用状況
貴庁が運用している前記2システムの17年度から20年度までの整備・運用等に係る経費(注1) は、表1のとおり計353億6436万余円となっている。
表1 電子申請等関係システムの整備・運用等に係る経費
(単位:円)
システム名
|
17年度
|
18年度
|
19年度
|
20年度
|
合計
|
国税電子申告・納税システム(e-Tax)
|
8,113,926,861
|
8,581,912,938
|
8,941,068,873
|
9,619,557,947
|
35,256,466,619
|
国税庁電子開示請求システム
|
31,052,868
|
41,589,548
|
15,662,220
|
19,593,840
|
107,898,476
|
国税庁合計
|
8,144,979,729
|
8,623,502,486
|
8,956,731,093
|
9,639,151,787
|
35,364,365,095
|
そして、これら2システムの利用状況等を検査したところ、次のような事態が見受けられた。
ア 電子申請率の推移
貴庁が整備・運用している電子申請等関係システムの17年度から20年度までにおける電子申請率は、表2のとおり、国税電子申告・納税システム(e-TAX)では電子申請率が向上しているものの、国税庁電子開示請求システムでは電子申請率が10%以下と低迷しており、18年度以降は1%以下と著しく低迷していて、また、年間の電子申請件数も19年度以降は100件以下となっている。
表2 電子申請率
(単位:件、%)
システム名 | 17年度 | 18年度 | 19年度 | 20年度 | ||||||||
システムに係る手続の全申請件数 | 左のうち電子申請件数 | 電子申請率 | システムに係る手続の全申請件数 | 左のうち電子申請件数 | 電子申請率 | システムに係る手続の全申請件数 | 左のうち電子申請件数 | 電子申請率 | システムに係る手続の全申請件数 | 左のうち電子申請件数 | 電子申請率 | |
国税電子申告・納税システム(e-Tax) | 38,189,391 | 189,051 | 0.4 | 39,451,963 | 1,824,131 | 4.6 | 43,818,099 | 9,454,476 | 21.5 | 45,265,740 | 14,906,650 | 32.9 |
国税庁電子開示請求システム | 81,140 | 5,920 | 7.2 | 145,228 | 275 | 0.1 | 140,974 | 50 | 0.0 | 134,410 | 61 | 0.0 |
国税庁合計 | 38,270,531 | 194,971 | 0.5 | 39,597,191 | 1,824,406 | 4.6 | 43,959,073 | 9,454,526 | 21.5 | 45,400,150 | 14,906,711 | 32.8 |
貴庁は、国税庁電子開示請求システムの電子申請率の向上を図るため、ホームページ等で利用の周知を図っているものの、保有個人情報の開示請求等の電子申請を行うためには、電子署名による本人確認手続が必要であること、申請者のメリットが少ないことなどから、電子申請率が低迷しているとしている。
イ 電子申請が可能となった手続の利用状況
オンライン化によって電子申請が可能となった貴庁の前記2システムの手続について、19年度の全申請件数の申請件数区分ごとの分布状況をみると、表3のとおり、全899手続中、全申請件数が0件のものが120手続(構成比13.3%)、1件以上50件以下のものが374手続(同41.6%)となっていて、申請そのものが極めて少ない手続が494手続(同54.9%)となっている。
(単位:手続、%)
区分 | 電子申請が可能となった手続の全申請件数 | 電子申請が可能となった手続数計 | |||||||
0件 | 1件〜50件 | 51件〜100件 | 101件〜1,000件 | 1,001件〜10,000件 | 10,001件〜99,999件 | 10万件以上 | 注(1)
把握できないなど |
||
注(2)
手続数 |
120 | 374 | 118 | 124 | 69 | 55 | 21 | 18 | 899 |
494 | |||||||||
構成比 | 13.3 | 41.6 | 13.1 | 13.7 | 7.6 | 6.1 | 2.3 | 2.0 | 100 |
54.9 |
また、2システムの19年度における電子申請件数計9,454,526件について、手続ごとの内訳を調査したところ、前記899手続のうち、電子申請があったものは230手続にすぎず、これらの中で電子申請件数が最も多いのは、表4のとおり、国税電子申告・納税システム(e-TAX)の「国税申告手続」の5,076,492件で、全体の53.6%を占めており、また、電子申請件数の多い上位3手続の電子申請件数9,189,400件が全体の電子申請件数に占める割合は97.1%となっていて、電子申請件数の相当数が特定の手続によるものとなっている。
(単位:件、%)
電子申請件数 a |
電子申請件数が最も多い手続 (「国税電子申告・納税システム(e-Tax)」の「国税申告手続」) |
電子申請件数の多い上位3手続 | その他227手続 | |||
電子申請件数 b |
左の占める割合 c=b/ax100 |
電子申請件数 d |
左の占める割合 e=d/ax100 |
電子申請件数 f |
左の占める割合 g=f/ax100 |
|
9,454,526 | 5,076,492 | 53.6 | 9,189,400 | 97.1 | 265,126 | 2.8 |
このように、利用される電子申請の手続が特定の手続に偏っているのは、IT戦略本部が12年度に策定したe-Japan重点計画等の政府の施策において、「国民等と行政との間の実質的にすべての申請・届出等手続を、2003年度までのできる限り早期にインターネット等で行えるようにする」とされたことなどを受け、各府省等が、これまで原則としてすべての手続をオンライン化してきたことなどによると認められる。
(2) オンライン申請1件当たりの経費
IT戦略本部に置かれている電子政府評価委員会は、各府省等における電子申請等関係システムの整備経費・運用経費(注2)
やオンライン申請件数等について調査し、その結果を「電子政府評価委員会平成20年度報告書」として21年3月に公表している。そして、同報告書において、電子申請等関係システムを、〔1〕 経費を比較的容易に把握できるシステム(類型I)、〔2〕 整備経費については比較的容易に把握することができるが、運用経費については、正確な数値が把握できないシステム(類型II)及び〔3〕 整備経費及び運用経費ともに正確な数値が把握できないシステム(類型III)の3類型に分類した上で、各システムの年間運用経費に1年当たりの整備経費を加えた額をオンライン申請等件数で除するなどしたオンライン申請1件当たりの経費(注3)
を公表している。そして、類型Iに該当するシステム全体でのオンライン申請1件当たりの経費は、144円となっていて、また、類型II及び類型IIIを合わせたシステム全体でのオンライン申請1件当たりの経費は、391円となっている。
この報告書によると、電子申請率が低迷している国税庁電子開示請求システムは、類型Iに分類されていて、19年度におけるオンライン申請1件当たりの経費は581,620円となっていて、電子申請の現状がこのまま推移すると、費用対効果が十分発現されないこととなると認められる。
(改善を必要とする事態)
電子申請等関係システムの整備・運用等に係る経費が多額に上っているにもかかわらず、電子申請率が10%以下と低迷していて、18年度以降は1%以下と著しく低迷しており、かつ、19年度以降の電子申請件数が100件以下となっているシステム(17年度から20年度までの整備・運用等に係る経費1億0789万余円)が見受けられ、システムの整備・運用等に係る経費に対してその効果が十分発現していない事態は適切でなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴庁において、IT戦略本部が策定した政府の施策を受け原則としてすべての手続を一律にオンライン化してきたこと、電子申請等に対する国民のニーズの的確な把握や利用拡大への取組が十分でないことなどのほか、電子申請率が低迷しているシステムについて費用対効果の検討が十分でなく、抜本的な見直しを行っていないことなどによると認められる。
3 本院が表示する意見
貴庁は、国民の利便性の向上、効率的な電子行政サービスの提供等を図るため、今後とも電子申請等関係システムを運用していくこととしている。
ついては、貴庁において、オンライン利用拡大行動計画に沿った利用の拡大に向けた諸施策の着実な推進を図るとともに、電子申請率が低迷していてシステムの整備・運用等に係る経費に対してその効果が十分発現していないシステムについては、システムの停止、簡易なシステムへの移行など費用対効果を踏まえた措置を執るよう意見を表示する。