本院は、17年度決算検査報告の特定検査対象に関する検査状況として「中小企業金融安定化特別保証制度の実施状況について」を掲記し、特別基金の相当部分が将来長期にわたって取り崩されることなく協会に保有されることが見込まれる状況を踏まえて、中小企業庁において、必要に応じて財政当局、都道府県等及び各協会と協議するなどして、特別基金の最終的な処理方針を検討することが重要である旨の所見を記述している。
前記のとおり、世界的な金融危機から生じた景気後退により開始された緊急保証制度に伴う国の財政負担も大きくなってきている。
そこで、17年度決算検査報告のフォローアップとして、経済性、効率性、有効性等の観点から、特別基金が特別保証債務残高に対して適正な規模であるか、現在の経済情勢に対応した活用が可能かなどに着眼して検査するとともに、経営安定基金の状況について検査した。検査に当たっては、中小企業庁において、特別保証の状況について説明を聴取するとともに、連合会において、経営安定基金の状況について12年度から19年度までの収支計算書等を分析するなどの方法により、それぞれ会計実地検査を行った。また、52協会の10年度から19年度までの貸借対照表、収支計算書等に基づき、各協会に出えんされた特別基金の状況や特別保証会計の収支状況等について、書面で検査するとともに、52協会のうち11協会については、協会本部に赴いて会計実地検査を行った。
10年度から13年度までの特別保証に係る保証承諾の実績は、172万余件、保証承諾額28兆9437億余円となっている。19年度末におけるこの保証承諾された債務の状況は、10万余件、保証債務残高7078億余円であり、保証承諾額に対して2.4%まで減少してきている。代位弁済は、24万余件、代位弁済額2兆5093億余円であり、保証承諾額に対して8.7%となっている。また、求償権の行使により協会が回収した額は、3558億余円であり、回収率は14.2%となっている。
また、19年度末における協会ごとの特別基金の状況についてみると、52協会中、14協会で特別基金の全額を取り崩している一方で、残りの38協会では計458億9024万余円の残高がある。各協会の特別基金の残高に差があるのは、協会間で事故率(3.9〜18.7%)、回収率(9.5〜31.5%)に著しい差があることなどによる。
前記のとおり、19年度末の各協会における特別保証債務残高は、52協会合計で7078億余円となっている。過去の事故率8.7%を参考に現下の経済情勢を考慮して、特別保証債務残高7078億余円に10%の代位弁済が生ずるとして、将来発生すると見込まれる各協会の損失額及び損失処理後の特別基金残高を試算すると、回収を考慮しなくても、保険のてん補率が80%であることから、現在特別基金の残高がある38協会のうち31協会に、特別基金計391億3005万円が取り崩されることなく保有され続けることになる。
中小企業者が、特別保証に係る既往借入金をその残高と同額以内で借り換える場合、協会は、当該借換保証に係る収支計算を特別保証会計に含めることとなっている。
一方、中小企業者が、特別保証付借入れを別の保証付借入れとまとめて借り換えたり、借入額を増やすなどして借り換えたりする場合、協会は、当該借換保証に係る収支計算を特別保証会計から外すこととなっている。
20年10月に緊急保証制度が創設されて以降、既存の特別保証付借入れから緊急保証付借入れへの借換えが見受けられるようになった。そして、20年11月から21年3月までの間に、特別保証を含んだ保証債務から緊急保証(緊急保証以外の保険法第2条第4項第5号に該当する中小企業者に対する経営安定関連保証を含む。)に借り換えられた保証債務のうち約882億円が、同額以内の借換えでないことから、特別保証会計の対象にならない保証債務となっている状況となっていた。
しかし、上記のように特別保証から緊急保証に借り換えられ、保証債務の収支計算が特別保証会計から外れる場合、協会に対する損失補償は、別途国の補助金により造成された経営安定基金から行われることになり、更に特別基金が取り崩されることなく協会に保有され続ける事態を生じさせることになる。
特別保証のための特別基金については、今回の検査における試算においても特別基金のうち391億3005万円は取り崩されることなく協会に保有され続けることが見込まれる状況となっている。
さらに、緊急保証制度が創設されて以降、特別保証から緊急保証等への借換えが行われることで、更に特別基金が取り崩されなくなる事態も見受けられた。
しかし、現行の制度では、信用保証協会法施行規則や同規則に基づき改正された協会の定款等により、特別基金は特別保証の収支計算に係る欠損の補てんにのみ充てることができるとされていて、緊急保証に係る損失処理等には使用できないこととなっている。
したがって、貴省において、以上の事態を踏まえて、特別基金の有効活用を図るための方策を講ずる要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴省において、特別基金の相当部分が取り崩されることなく協会に保有され続けることが見込まれるにもかかわらず、特別基金の最終的な処理についての検討が十分ではなかったことなどによると認められる。