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  • 平成21年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第4 内閣府|
  • (内閣府本府)|
  • 不当事項|
  • 工事

中央防災無線網の整備に当たり、耐震施工が適切でなかったため、地震時における多重無線通信設備等の機能の維持が確保されていない状態となっていると認められたもの


(4) 中央防災無線網の整備に当たり、耐震施工が適切でなかったため、地震時における多重無線通信設備等の機能の維持が確保されていない状態となっていると認められたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)内閣本府 (項)内閣本府施設費
      (項)防災政策費
    (平成19年度は(項)内閣本府)
部局等 内閣府本府
工事名 中央防災無線網地上系通信施設(長距離通信用)等整備工事等15工事
工事の概要 防災関係機関の所定の設置箇所に中央防災無線網に係る電気通信設備を設置するもの
工事費
4,392,465,000円
(平成19年度〜21年度)

請負人 日本無線株式会社、日本電気株式会社、沖電気工業株式会社、株式会社ケーネス(平成21年3月以前は建電設備株式会社)、沖ウィンテック株式会社
契約 平成19年9月〜22年1月 一般競争契約(12契約)
  平成20年9月、21年11月 一般競争後の随意契約(3契約)
支払 平成20年4月〜22年4月
不当と認める工事費
1,561,422,327円
(平成19年度〜21年度)

1 工事の概要

 内閣府本府は、地震等の大規模な災害が発生した場合に被害状況等の情報の集約や共有に利用するための中央防災無線網の整備の一環として、平成19年度から21年度までの間に、「中央防災無線網地上系通信施設(長距離通信用)等整備工事」等15件の工事を工事費計4,392,465,000円で実施している。
 これらの工事は、内閣総理大臣官邸、中央省庁、公共公益機関(日本赤十字社等)等の72か所に多重無線通信設備、直流電源設備等の電気通信設備等を設置するものである。電気通信設備の設置に当たっては、収容架の中に電気通信設備を構成する複数の機器を収容する場合と、単体の機器を収容架を用いないで設置する場合がある(以下、電気通信設備を構成する機器を収容架も含めて「設備」という。)。
 内閣府本府は、設備の設置に当たっては、各工事の特記仕様書のほか、「電気通信設備工事共通仕様書平成17年版」(国土交通省大臣官房技術調査課電気通信室編集。以下「共通仕様書」という。)に基づき、次のとおり、請負人に所要の耐震性を満たすよう設計及び施工(以下「耐震施工」という。)を行わせることとしている。
 すなわち、共通仕様書において、請負人は、設備の設置に当たり、地震時の転倒等を防止できるよう耐震処理を行うこと、設備に作用する水平力や鉛直力に応じて適切なアンカーボルトを選定しなければならないこと、設備上部を固定するストラクチャー(注1) は、応力を計算して適切な部材、構造を決定しなければならないことなどとされている。また、共通仕様書に示されている「電気通信設備据付標準図集」(平成11年3月社団法人建設電気技術協会発行)において、設備の固定方法に応じて、引抜力(注2) とせん断力(注3) の計算による具体的なアンカーボルトの選定方法が定められており、アンカーボルトの許容引抜力(注2) は「自家用発電設備耐震設計のガイドライン」(平成17年8月社団法人日本内燃力発電設備協会発行)によることとされている。
 そして、請負人は、上記の共通仕様書等に基づき、設備上部をストラクチャー若しくは壁に振れ止め金具(注4) で固定するとともに下部をアンカーボルトで床若しくは基礎に固定する方法(以下「上下固定」という。参考図1参照)、又は、設備下部のみをアンカーボルトで床若しくは基礎に固定する方法(以下「下固定」という。参考図2参照)により、設備を新たに設置したり、既設の収容架の中に機器を増設、更新したりしている。

 ストラクチャー  設備上部を固定するために室内に据え付けられた梁(はり)
 引抜力・許容引抜力  「引抜力」とは、設備に地震力が作用する場合に、ボルトを引き抜こうとする力が作用するが、このときのボルト1本当たりに作用する力をいう。
その数値が設計上許される上限を「許容引抜力」という。
 せん断力  「せん断力」とは、設備に地震力が作用する場合に、ボルトを水平方向にせん断しようとする力が作用するが、このときのボルト1本当たりに作用する力をいう。
 振れ止め金具  設備上部をストラクチャー又は壁に固定するための鋼材

2 検査の結果

 本院は、内閣府本府において、合規性等の観点から、本件各工事の施工が適切に行われているかなどに着眼して会計実地検査を行った。そして、これらの工事について、契約書、仕様書、設計図面等の書類により検査するとともに、耐震施工を行った72か所のうち内閣府(中央合同庁舎第5号館)等の主要な39か所の218設備について実地に検査した。
 検査したところ、耐震施工が次のとおり適切でなかった。

ア 上下固定の耐震施工について

 請負人は、上下固定により設備を新たに設置したり、上下固定による既設の収容架の中に機器を増設、更新したりする工事において、設備上部を固定するストラクチャー及び振れ止め金具に地震時に作用する応力を計算するなどの耐震性の確認を行っていなかった。
 そこで、実際の施工状況を基に、ストラクチャー及び振れ止め金具に地震時に作用する応力について、所要の計算を行って報告するよう内閣府本府に求めて、その報告内容を確認するなどしたところ、ストラクチャー又は振れ止め金具に作用する曲げ応力度(注5) が許容曲げ応力度(注5) を上回っているなどしていて、計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。このため、設備上部が適切に固定されていないこととなり、下部のアンカーボルトに引抜力が生じることから、この引抜力について計算を行ったところ、28か所の105設備については、アンカーボルトに作用する引抜力が許容引抜力を上回っていて、計算上安全とされる範囲に収まっておらず、設備下部を固定しているアンカーボルトでは設備を適切に固定できない状態となっていた。

 曲げ応力度・許容曲げ応力度  「曲げ応力度」とは、材が曲げられたとき、曲がった内側に生じる圧縮力又は外側に生じる引張力の単位面積当たりの大きさをいい、その数値が設計上許される上限を「許容曲げ応力度」という。

(参考図1)

上下固定の概念図(設備上部が適切に固定されていない場合)

上下固定の概念図(設備上部が適切に固定されていない場合)

イ 下固定の耐震施工について

 請負人は、下固定による既設の収容架の中に機器を増設、更新する工事において、既設の収容架のアンカーボルトに地震時に作用する引抜力を計算するなどの耐震性の確認を行っていなかった。また、下固定により設備を新たに設置する工事において、アンカーボルトに地震時に作用する引抜力についての計算は行っていたものの、計算書への記載を誤るなどしていた。
 そこで、改めて下固定による場合のアンカーボルトに地震時に作用する引抜力を計算したところ、13か所の37設備については、アンカーボルトに作用する引抜力が許容引抜力を上回っていて、計算上安全とされる範囲に収まっておらず、設備を適切に固定できない状態となっていた。

(参考図2)

下固定の概念図(設備下部が適切に固定されていない場合)

下固定の概念図(設備下部が適切に固定されていない場合)

 以上のことから、検査した39か所の218設備のうち33か所の計142設備については、設備を固定するストラクチャー、アンカーボルト等に地震時に作用する応力が計算上安全とされる範囲に収まっておらず、ストラクチャー等が変形することなどにより、アンカーボルトが床又は基礎から引き抜かれ、設備が傾いたり転倒したりして破損するおそれがある。したがって、上記の142設備は、地震時における中央防災無線網としての機能の維持が確保されていない状態となっていて、耐震施工が適切でなく、これらに係る工事費相当額1,561,422,327円が不当と認められる。
 なお、内閣府本府は、本院に対し、請負人がストラクチャーに作用する応力についての計算書を実際には作成していなかったにもかかわらず、作成していたとして、これにより設備を適切に設置したなどと虚偽の説明を行った。その後、内閣府本府は、請負人に、計算書を作成させるなどした上で、本院が設備の設置現場において実地検査を行う直前に、設備の設置が適切に行われていなかった上記33か所142設備のうち24か所92設備について、計算上安全とされる範囲に収めるようにするための補強工事を行わせていた。
 このような事態が生じていたのは、請負人が、ストラクチャー等に地震時に作用する応力の計算を行わずに設備を設置していたことなどにもよるが、内閣府本府がこれに対する監督及び検査を適切に実施していなかったことなどによると認められる。