会計名及び科目 | 年金特別会計(業務勘定) | (項)業務取扱費 | |
(項)福祉施設事業費 | |||
部局等 | 社会保険庁(平成22年1月1日以降は厚生労働本省) | ||
契約名 | 「ねんきんあんしんダイヤル」年金記録相談業務等4契約 | ||
契約の概要 | 年金記録に関する電話相談に対応する業務を行わせるもの | ||
契約の相手方 | 4会社 | ||
契約 | 平成19年7月 随意契約 | ||
支払額 | 2,550,315,540円 | (平成19年度) | |
過大となっていた支払額 | 44,320,121円 | (平成19年度) |
社会保険庁は、平成22年1月1日に廃止されて厚生労働省に引き継がれるまで、同庁が所掌していた厚生年金保険及び国民年金の事業に関する事務に関し、19年6月から20年3月までの間に「ねんきんあんしんダイヤル」年金記録相談業務等を、また、20年1月から21年3月までの問にねんきん特別便電話相談に係る業務等を、それぞれ、一般競争契約又は随意契約により民間業者に委託(以下、当該業務の委託を受けた民間業者を「委託業者」という。)して実施している。
これらの委託契約は、委託業者に、年金受給者等からの年金記録に係る相談を電話によって受け付けて回答したり、相談内容を記録したりするなどの業務を行わせるものである。
各委託業者は、これらの年金記録電話相談業務を実施するため、仕様書に記載された履行場所において、オペレーター席、スーパーバイザー席及び管理者席の業種ごとに必要な人員を確保し、それぞれ配置することとされている。
このうち、オペレーターは相談者からの電話を受けて応対する業務に従事する者、スーパーバイザーはオペレーターを指導的に補完する業務に従事する者、管理者は当該履行場所の管理運営業務に従事する者である(以下、これらを合わせて「業務従事者」という。)。
そして、各委託契約に係る仕様書において、上記の業種ごとに、契約期間における稼働日数、配置席数、業務の開始・終了時刻及び業務実施時間数が定められており、委託業者は、これらに基づき業務を実施することとされている。
委託業者に対する対価の支払は、各委託業務に係る契約書において、おおむね次の手順により行われることとされている。
〔1〕 委託業者は、日々の業務実施結果について報告書を作成して社会保険庁に提出し、その内容について同庁の監督職員の検査を受ける。
〔2〕 委託業者は、上記〔1〕 の検査に合格した報告書を月単位に取りまとめた月間報告書を作成し、その内容について同庁の検査職員の検査を受ける。
〔3〕 委託業者は、上記〔2〕 の検査に合格したときは、請求書を作成して対価の支払を支出官(社会保険庁総務部経理課長)に月ごとに請求する。
この請求額は、業種ごとに定められた時間当たり契約単価に月ごとの実際の業務実施時間数を乗じて、月ごとの人件費を算出し、これに各月の設備使用料等を加えるなどして算出される。
〔4〕 支出官は、請求書を受理した日から30日以内に当該請求書の内容を審査の上、その対価を委託業者に支払う。
本院は、国会からの検査要請を受け、21年10月に、「年金記録問題に関する会計検査の結果について」
として、その検査結果を報告している。その中で、各業務従事者の業務実施時間数を確認できる具体的な根拠資料を提出することなどが仕様書等において明示されておらず、支払請求の対象となる業務実施状況の確認を行うことができない事態を報告した。
そこで、本院は、引き続き、合規性等の観点から、社会保険庁が行っていた事務を引き継いだ厚生労働本省において、契約の履行状況に係る監督及び検査が、会計法令、委託契約書等に基づいて行われ、業務の対価の支払が適正に行われているかなどに着眼して、前記の委託契約のうち8委託業者と締結した31契約(支払額計11,542,363,365円)を対象として会計実地検査を行った。検査に当たっては、社会保険庁から本院に証拠書類等として提出された契約書、仕様書、請求書等の関係書類を検査するとともに、8委託業者に赴き、業務実施時間数について各委託業者が保管している報告書、稼働実績表等を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
検査したところ、上記の31契約から、委託業者が稼働実績表を保存していなかったために業務実施時間数を把握できなかった2契約を除いた29契約のうち、4委託業者と締結した「ねんきんあんしんダイヤル」年金記録相談業務に係る4契約(支払額計2,550,315,540円)について、次のような事態が見受けられた。
上記の4委託業者は、人件費計1,987,512,535円に設備使用料等計441,359,416円を加えて、委託業務に係る請求額を計2,428,871,951円と算定し、これに係る消費税計121,443,589円と合わせて、計2,550,315,540円を社会保険庁に対して請求していた。
このうち人件費について、4委託業者が保管している報告書、稼働実績表等に基づき、当該請求内容の適否を確認したところ、4委託業者は、業務従事者(オペレーターのうちコンピュータシステムにより業務実施時間数を管理されている者を除く。)が、それぞれの業務の開始時刻から終了時刻までの問の拘束時間のすべての時間において業務に従事していたものとして、それぞれの拘束時間数を業務実施時間数として計上していた。
しかし、4委託業者の就業規則によれば社員の休憩時間が、労働基準法(昭和22年法律第49号)の規定に準拠して8時間を超える場合は60分とするなどとされ、また、社員は休憩時間を自由に利用できるなどとされていて、現に各委託業者において業務従事者に対して休憩時間を与えていた。そして、稼働実績表には各業務従事者の毎日の拘束時間数が明記されており、この拘束時間のうちの休憩時間については、業務従事者は業務に従事していないので、本件委託費の支払の対象とならず、前記の4契約における人件費の算定に当たり、休憩時間を含めた拘束時間数を業務実施時間数として、これを支払の対象としていたのは適切とは認められない。
現に、4委託業者以外の1委託業者においては、各業務従事者の拘束時間数から休憩時間を差し引いた時間数を業務実施時間数とし、これを支払の対象として請求していた。
したがって、本件委託業務における請求に当たっては、各業務従事者の拘束時間から休憩時間を差し引いた時間を基にして人件費を算定すべきであり、これにより本件委託契約の適正な支払額を算出すると計2,505,995,419円となり、前記の委託費の支払額計2,550,315,540円との差額計44,320,121円が過大に支払われていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、社会保険庁において、仕様書に各業務従事者の業務実施時間数を確認できる稼働実績表等の具体的な根拠資料を提出することなどを明記していなかったこと、請求書の審査に際し、請求額の基礎となる各業務従事者の業務実施時間数の妥当性を十分確認していなかったことなどによると認められる。