国民健康保険は、市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)又は国民健康保険組合(以下「国保組合」という。)が保険者となって、被用者保険の被保険者及びその被扶養者等を除き、当該市町村の区域内に住所を有する者等を被保険者として、その疾病、負傷、出産又は死亡に関して、療養の給付、出産育児一時金の支給、葬祭費の支給等の給付を行う保険である。
このうち、国保組合は、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)により、主たる事務所の所在地の都道府県知事の認可を受けて設立され、都道府県知事の認可を受けた規約において定めた同種の事業又は業務に従事する者で当該国保組合の地区内に住所を有する者を組合員として組織することとなっており、国保組合が行う国民健康保険の被保険者は、これらの組合員及びその世帯に属する者とされている。
また、健康保険法(大正11年法律第70号)により、常時5人以上の従業員を使用する建設、医療等の事業を行う事業所又は法人の事業所は健康保険の適用を受けることとなっており、これらの事業所(以下「適用事業所」という。)に常時使用される者等は、健康保険の被保険者となることとされている。
国民健康保険については各種の国庫助成が行われており、その一環として、国保組合が行う国民健康保険事業運営の安定化を図るなどのため、国保組合に対して、療養給付費補助金、出産育児一時金補助金、事務費負担金、特定健康診査・保健指導補助金(以下、これらを合わせて「療養給付費補助金等」という。)等が交付されている。
このうち、療養給付費補助金の交付額は、原則として、各国保組合の被保険者の療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る被保険者の一部負担金に相当する額を控除した額及び入院時食事療養費、療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額の合算額(以下「医療給付費」という。)の100分の32に相当する額とすることとなっており、また、各国保組合の財政力等を勘案して交付額を増額することができることとなっている。
療養給付費補助金等の交付手続については、〔1〕 交付を受けようとする国保組合は都道府県に交付申請書を提出して、〔2〕 これを受理した都道府県は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査の上、厚生労働省に提出して、〔3〕 厚生労働省はこれに基づき交付決定を行い療養給付費補助金等を交付することとなっている。そして、〔4〕 当該年度の終了後に、国保組合は都道府県に実績報告書を提出して、〔5〕 これを受理した都道府県は、その内容を審査の上、厚生労働省に提出して、〔6〕 厚生労働省はこれに基づき交付額の確定を行うこととなっている。
全国建設工事業国民健康保険組合(以下「工事業国保」という。)は、東京都内に所在する本部及び全国の59支部で構成されており、工事業国保の規約等によると、組合員は、建設工事業に従事する者とされている。
工事業国保をめぐっては、平成21年12月以降、市町村の国民健康保険より保険料が低額になるなどとして、実際には建設工事業に従事していないにもかかわらず工事業国保に加入しているとする無資格者加入の問題や、健康保険及び厚生年金保険の事業主負担を免れるなどのため、適用事業所となるべき法人事業所等の従業員等であるにもかかわらず従業員5人未満の個人事業所の従業員等として工事業国保に加入するなどしているとする偽装加入の問題が報道された。
本院が、東京都並びに工事業国保本部及び6支部において、会計実地検査を行ったところ、次のような事態が見受けられた。
部局等 | 補助事業者 (保険者) |
補助金等の種類 | 年度 | 国庫補助金等交付額 | 不当と認める国庫補助金等交付額 | 摘要 | |
千円 | 千円 | ||||||
(130) | 厚生労働本省、東京都 | 全国建設工事業国民健康保険組合 | 療養給付費補助金 | 16〜20 | 70,718,409 | 1,089,299 | 無資格者等補助対象外の者を含めていたもの |
事務費負担金 | 16〜20 | 854,455 | 11,208 | ||||
出産育児一時金補助金 | 16〜20 | 894,195 | 10,234 | ||||
特定健康診査・保健指導補助金 | 20 | 36,166 | 1,087 | ||||
計 | 72,503,225 | 1,111,829 |
ア 北海道西、北海道中央、北海道札幌及び福岡県各支部では、組合員1,590人(被保険者3,343人)が、適用事業所となるべき法人事業所等の従業員等であるにもかかわらず、個人事業所の従業員等であるとしたり、従業員を5人未満となるように複数の個人事業所に振り分けてそれぞれの個人事業所の従業員等を装ったりなどして加入していた。
イ 徳島県支部では、加入申込時等において、組合員資格を支部の母体となっている団体の証明のみによって確認することが常態化しており、就業の実態を確認していなかったなどのため、組合員976人(被保険者2,362人)が、加入時から建設工事業に従事していなかったり、転廃業により建設工事業に従事していなかったりなどしていた。
ウ 三重県支部では、組合員229人(被保険者462人)について、法人事業所が、建設工事業以外の事業に従事する従業員を加入させたり、従業員を個人事業所の事業主と偽って加入させたりしていた。
そして、工事業国保は、療養給付費補助金等の実績報告における医療給付費等の算定に当たり、上記の無資格者等の補助対象とならない組合員計2,795人、これに係る被保険者計6,167人を含めていたため、これらの被保険者に係る医療給付費等が過大に算定されていた。
したがって、この過大に算定された医療給付費等に係る療養給付費補助金等計1,111,829,171円が過大に交付されていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、工事業国保において、組合員の資格確認の重要性に対する認識が十分でなかったこと及び適用事業所となるべき法人事業所等における組合員資格の適正化についての認識が欠けていたこと、また、東京都において、工事業国保に対する指導、監督が十分でなかったことなどによると認められる。
なお、本院が検査を実施した6支部を含めた全59支部に対して、厚生労働省及び東京都の指示により工事業国保が行って22年8月までに報告した調査の結果によると、被保険者27,898人について、建設工事業に従事していないなど加入資格がなかったことが判明したとしている。そして、この結果等を受けて厚生労働省は、22年9月、工事業国保に対して是正改善命令を発して、実態の解明や追加調査等を求めた。
本院は、今後、上記の工事業国保が行った調査結果及び追加調査等の内容について検証するなど、引き続き工事業国保に対して検査を行っていくこととする。