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  • 平成21年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第10 厚生労働省|
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  • 補助金

生活保護費等負担金が過大に交付されていたもの


(8) 生活保護費等負担金が過大に交付されていたもの

9件 不当と認める国庫補助金 64,856,841円

 生活保護費等負担金(平成19年度以前は生活保護費負担金。以下「負担金」という。)は、都道府県又は市町村(特別区を含む。)が、生活に困窮する者に対して、最低限度の生活を保障するために、その困窮の程度に応じて必要な保護を行う場合に、その費用の一部を国が負担するものである。この保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産や能力等あらゆるものを活用することを要件としている。そして、被保護者が急迫の場合等において、資力があるにもかかわらず保護を受けた場合等においては、事業主体の定める額等(以下「返還金等」という。)を返還しなければならないこととなっている。
 負担金の交付額は、次により算定することとなっている。
 すなわち、事業主体において、当該年度に調査、決定(以下「調定」という。)した返還金等の額(以下「返還金等の調定額」という。)を費用の額から控除して、これに過年度の返還金等の調定額に係る不納欠損額を加えて国庫負担対象事業費を算出する。そして、これに国庫負担率を乗じて負担金の交付額を算定する。

費用の額-返還金等の調定額+不納欠損額=国庫負担対象事業費、国庫負担対象事業費×国庫負担率(3/4)=負担金の交付額

 この費用の額、返還金等の調定額及び不納欠損額は、それぞれ次により算定することとなっている。
ア 費用の額は、次の〔1〕 及び〔2〕 に〔3〕 を加えて算定する。
〔1〕  保護を受ける世帯(以下「被保護世帯」という。)を単位として、その所在地域、構成員の数、年齢等の別に応じて算定される生活費の額から、被保護世帯における就労収入、年金受給額等を基に収入として認定される額を控除して決定された保護費の額の合計額
〔2〕  被保護者が医療機関で診察、治療等の診療を受けるなどの場合の費用(診療報酬等)について、その全額又は一部を事業主体が負担するものとして決定された保護費の額の合計額
〔3〕  事業主体の事務経費
イ 返還金等の調定額は、事業主体において、当該年度に納入されると否とにかかわりなく調定した額とされている。
ウ 不納欠損額は、過年度の返還金の調定額のうち5年間納入されなかった場合等に不納欠損処理された額とされている。
 本院が、24都道府県及び管内の237市区において会計実地検査を行ったところ、次のような事態が見受けられた。
 すなわち、2県の3事業主体において、被保護者から返還金等を徴収すべき事由が発生したときは、返還金等の額を決定して、返還金等の債権額を納入義務者に告知するなど当該返還金等の債権を管理していたものの、納入可能な額についてのみ調定していて、負担金の交付額の算定において返還金等の調定額の算出が適切でなかった。また、6都県の6事業主体において、被保護者が就労して収入を得たり、年金を受給したりなどしているのに、計7世帯から事実と相違した届出がなされるなどしていたため、保護費が過大に支給されていた。
 このため、8都県の計9事業主体に対して負担金計64,856,841円が過大に交付されていて不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められる。
ア 事業主体において、負担金の交付額の算定における返還金等の調定額の算定に係る理解が十分でなかったこと
イ 被保護世帯において事実と相違した届出を行っているのに、事業主体において、収入の認定等に当たって課税調査等の調査確認が十分でなかったこと
ウ 都県において、適正な生活保護の実施に関する指導が十分でなかったこと
 前記の保護費が過大に支給されていた事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

 A事業主体は、平成15年10月に世帯Bを対象として保護を開始して、引き続き保護を実施している。そして、19年1月から21年12月までの各月の保護費の支給に当たり、世帯主の就労収入の届出に基づき、この間の同世帯の収入を950,628円と認定して、保護費の額を決定していた。
 しかし、実際には、世帯Bの世帯主は、この間に上記のほかにも就労収入計3,203,630円を得ており、このことなどのため3,105,292円の保護費が過大に支給されていた。

 以上を都県別・事業主体別に示すと次のとおりである。

都県名 補助事業者
(事業主体)
年度 国庫負担対象事業費 左に対する国庫負担金交付額 不当と認める国庫負担対象事業費 不当と認める国庫負担金交付額 摘要
千円 千円 千円 千円
(504) 青森県 青森市 平成20 11,508,011 8,631,008 53,538 40,153 返還金等の調定額の算出が適切でなかったもの
(505) むつ市 20 1,957,734 1,468,301 5,502 4,126
(506) 愛知県 常滑市 20 215,204 161,403 2,106 1,579
(504)—(506) (返還金等の調定額を適切に算出していなかったもの)の計 13,680,951 10,260,713 61,147 45,860
(507) 茨城県 水戸市 18〜21 10,091 7,568 3,011 2,258 年金収入を認定していなかったもの
(508) 東京都 中央区 15〜20 10,784 8,088 4,417 3,312
(509) 奈良県 奈良市 19〜21 5,138 3,853 2,905 2,179 就労収入を認定していなかったもの
(510) 和歌山県 和歌山市 18〜21 11,342 8,506 7,511 5,633 就労収入を過小に認定していたもの
(511) 香川県 香川県 19〜21 4,467 3,350 2,900 2,175 就労収入を認定していなかったもの
(512) 長崎県 佐世保市 昭和55〜平成21 40,685 30,514 4,581 3,435 手当収入を認定していなかったもの
(507)—(512) (保護費が過大に支給されていたもの)の計 82,510 61,882 25,328 18,996
合計 13,763,461 10,322,596 86,475 64,856

 上記の事態については、厚生労働省は、従来発生防止に取り組んでいるところであるが、さらに、生活保護の適正実施について事業主体への指導を徹底するとともに都道府県等の監査等を通じて事務処理の適正化を図る必要があると認められる。