会計名及び科目 | 一般会計(組織)厚生労働本省 | (項)介護保険制度運営推進費 |
平成19年度以前は、 | ||
(項)介護保険推進費 | ||
(項)社会福祉施設整備費 | ||
部局等 | 厚生労働本省、7地方厚生(支)局 | |
交付の根拠 | 地域における公的介護施設等の計画的な整備等の促進に関する法律(平成元年法律第64号) | |
補助事業者 | 58市区 | |
間接補助事業者(事業主体) | 49事業者 | |
交付金対象事業 | 面的整備計画に基づく施設等整備事業 | |
交付金対象事業の概要 | 市町村が作成する面的整備計画の公的介護施設等の整備に関する面的な配置構想を達成するため、民間事業者が実施する夜間対応型訪問介護ステーション整備等事業に対して市町村が補助する事業 | |
上記に対する交付金交付額の合計 | 27億1808万余円(平成18年度〜20年度) | |
上記のうち夜間対応型訪問介護の整備に係る事業効果が十分発現していない事態に係る交付金交付額 | 16億1251万円 |
(平成22年10月22日付け 厚生労働大臣あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
介護保険は、介護保険法(平成9年法律第123号)に基づき、市町村(特別区を含む。以下同じ。)等が保険者となり、市町村等の区域内に住所を有する65歳以上の者等を被保険者として、保健医療サービス等の給付を行う保険である。
平成18年度に、原則として当該市町村等の被保険者のみが利用できるサービスである地域密着型サービスが創設され、そのサービスには夜間対応型訪問介護等がある。
要介護者又は要支援者の認定を受けた者は、介護支援専門員等が作成する介護サービス計画に基づき保険給付を受け、原則として、所定単位数に単価(10円〜11.05円)を乗じて算定された介護報酬の1割について負担することとなっている。
夜間対応型訪問介護は、要介護者が、できるだけ居宅で能力に応じて自立した日常生活を営むことができるように、夜間の定期的な巡回又は通報により、訪問介護員が当該居宅を訪問し、入浴、排せつ、食事等の介護等の日常生活上の世話、緊急時の対応等を行い、夜間において安心して生活を送ることができるよう援助するものである。
そして、夜間対応型訪問介護の指定を受けた事業所(以下「事業所」という。)は、このサービスの利用者にケアコール端末(利用者が援助を必要とする状態となったときにオペレーションセンターに通報できる端末機器)を配布することとされており、おおむね利用者300人につきオペレーションセンターを1か所以上設置しなければならないこととなっている。
地域介護・福祉空間整備推進交付金(以下「推進交付金」という。)及び地域介護・福祉空間整備交付金(以下「整備交付金」という。また、推進交付金と整備交付金を合わせて「交付金」という。)は、市町村が作成する面的整備計画(注1)
に基づく夜間対応型訪問介護事業を含めた基盤整備事業に要する経費に充てるために市町村に交付するものであり、民間の事業者が事業主体となって実施する施設等整備事業に対して市町村が補助金を交付する事業等を交付の対象としている。
そして、交付金の交付額は、対象経費の実支出額の合計額と基準額とを比較して少ない方の額と、総事業費から寄附金その他の収入額を控除した額の合計額とを比較して少ない方の額とされている。
推進交付金の対象経費は、夜間対応型訪問介護については、〔1〕 利用者からの通報を受け付けることができる通信機器及びシステムの導入経費、ケアコール端末の購入又はリース等の経費(基準額3000万円)、〔2〕 夜間対応型訪問介護の広報経費等の需用費等(基準額300万円)とされている。一方、整備交付金の対象経費は、夜間対応型訪問介護については、面的整備計画に基づく夜間対応型訪問介護ステーションの整備に必要な工事費又は工事請負費及び工事事務費(基準額500万円)とされている。
交付金の交付手続については、〔1〕 交付を受けようとする市町村は、面的整備計画を都道府県を経由して貴省に提出し、〔2〕 これを受理した貴省は、当該面的整備計画を審査して、交付金の内示を行い、〔3〕 内示を受けた市町村は、交付申請書類等を地方厚生(支)局に提出して、〔4〕 地方厚生(支)局は、これと面的整備計画とを審査の上、交付決定を行うこととなっている。そして〔5〕 、事業完了後に市町村は地方厚生(支)局に事業実績報告書を提出して、〔6〕 これを受理した地方厚生(支)局は、その内容を審査の上、交付額の確定を行うこととなっている。
介護サービスのうち地域密着型サービスは、18年度から導入され、特に夜間対応型訪問介護については、交付金の交付対象の範囲が広く交付額も高額となっている。
そこで、本院は、有効性等の観点から、夜間対応型訪問介護に係る交付金の交付を受けた市町村において、事業所による夜間対応型訪問介護の利用の促進等が図られて、交付金による事業効果が十分発現しているかなどに着眼して検査した。
本院は、18年度から20年度までの間に交付金の交付を受けている8地方厚生(支)局(注2) 管内の73市区(これらに対する交付金交付額計27億1808万余円)及び当該73市区が補助金を交付した65事業者の101事業所を対象として、貴省本省、3地方厚生局(注3) 並びに6地方厚生局管内の41市区及び41市区が補助金を交付した30事業者の38事業所については実績報告等の書類により会計実地検査を行うとともに、それ以外の市区、事業者及び事業所についても、調書の提出を求めるなどして検査した。
(注2) | 8地方厚生(支)局 北海道、東北、関東信越、東海北陸、近畿、中国四国、九州各厚生局、四国厚生支局 |
(注3) | 3地方厚生局 関東信越、東海北陸、九州各厚生局 |
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
上記73市区の101事業所のうち、21年度末のケアコール端末等の利用状況(介護保険給付のサービス提供に係る契約の締結状況)が確認できた63事業者の96事業所全体における21年度末の夜間対応型訪問介護のサービスの利用割合(注4)
についてみると、購入台数計13,127台に対して利用者数は計3,836人で29.2%となっていて、利用が低調となっていた。
そして、上記73市区の101事業所のうち、7地方厚生(支)局(注5)
管内の58市区が補助金を交付した49事業者の73事業所において、次のとおり交付金の効果が発現していない事態が見受けられた(各態様における事業者数については重複しているものがある。)。
(注4) | 利用割合 推進交付金によるケアコール端末の購入台数に対する利用者数の割合。ただし、21年度末までに廃止又は休止した事業所の利用者数については、事業実施期間中で最大の月の利用者数としている。 |
(注5) | 7地方厚生(支)局 北海道、関東信越、東海北陸、近畿、中国四国、九州各厚生局、四国厚生支局 |
ア 夜間対応型訪問介護のサービスの利用が低調となっていた事業所
40事業所 (39事業者)
上記の利用割合を事業所別にみたところ、利用割合が30% 未満と低調であった事業所が40事業所(39事業者)見受けられた。
これらの事業所においては、利用されていないケアコール端末等は、倉庫等に保管されたままとなっていた。
イ 夜間対応型訪問介護事業を休止していた事業所
26事業所 (7事業者)
(ア) 事業の継続が困難となったことから休止していた事業所
6事業所 (6事業者)
夜間対応型訪問介護事業の開始当初から利用者が増えず、事業の継続が困難となったことから21年度末までに事業を休止していた事業所が6事業所(6事業者)見受けられた。
これらの事業所において補助金により購入したケアコール端末等は、事業の休止期間中、倉庫等に保管されたままとなっていた。
(イ) オペレーションセンターを集約するために休止していた事業所
20事業所 (1事業者)
1事業者は、夜間対応型訪問介護事業の開始当初から利用者が増えなかったことからオペレーションセンターを集約するために、21年度末までに26事業所を6事業所に集約して、20事業所を休止させていた。
この事業者は、事業開始後、5事業所について1年未満、12事業所について1年以上2年未満、3事業所について2年以上2年2か月未満といずれも短期間に事業所を休止させており、補助金によりこれらの事業所に導入したオペレーションセンターのための通信機器等は短期間しか使用されなかった。
ウ 夜間対応型訪問介護事業を廃止していた事業所
7事業所 (5事業者)
夜間対応型訪問介護事業の開始当初から利用者が増えず、事業の継続が困難となったことから21年度末までに廃止した事業所が7事業所(5事業者)見受けられた。
これらの事業所において補助金により購入したケアコール端末等は、廃棄されたり倉庫等に保管されたままとなったりしていた。
以上のとおり、夜間対応型訪問介護のサービスの利用が低調となっていた40事業所(39事業者)に係る交付金計11億1842万余円、事業の継続が困難となったことから事業を休止していた6事業所(6事業者)に係る交付金計1億5588万余円、他の事業所にオペレーションセンターを集約するために事業を休止していた20事業所(1事業者)に係る交付金計2億7816万円、夜間対応型訪問介護事業を廃止していた7事業所(5事業者)に係る交付金計6004万余円、計73事業所(49事業者)に係る交付金計16億1251万円は、効果が十分発現しているとは認められない。
上記(1)アのとおり、夜間対応型訪問介護のサービスの利用が低調であった39事業者の40事業所について、事業所が所在する7地方厚生(支)局管内の36市区の面的整備計画の作成状況及びサービスの利用が低調となっている理由を調査したところ、次のとおりとなっていた。
ア 面的整備計画の作成状況
上記の36市区は、いずれも、面的整備計画の作成に当たって夜間対応型訪問介護の詳細な需要調査を実施しておらず、おおむね利用者300人につきオペレーションセンターを1か所以上設置するという基準をそのまま面的整備計画の算定根拠とするなどしていた。また、面的整備計画書には事業費のみを記載することとしているため、ケアコール端末等の需要の有無等が把握できないものとなっていた。
このため、交付金を財源として整備されたケアコール端末等の台数は、需要の有無等を確認して検討された結果とは言い難く、また、必要性等の審査、確認も困難な状況であった。
イ 夜間対応型訪問介護の利用が低調となっている理由
夜間対応型訪問介護の利用が低調となっている理由について調査したところ、多くの市区及び事業者が利用者、介護支援専門員等の理解不足や、類似する制度・事業が存在していることを挙げていた。
このうち、類似する事業については、市町村の福祉事業として実施している緊急通報体制等整備事業(注6)
(17年度より一般財源化している。)等がある。この事業は、制度としては実施者、目的が夜間対応型訪問介護と異なっているものの、利用者が夜間対応型訪問介護と同様の通信機器を用いて緊急事態を受信センター等に通報することにより適切な対応を図るものである。そして、機器導入時に設置工事費等の一部を利用者が負担する場合もあるが、毎月の運用費用は大半が無料であり、夜間対応型訪問介護の自己負担が1,000円から1,105円(夜間対応型訪問介護費(I)の1月当たり基本分)であるのに比べて相当安価なものとなっている。このため、21年度末の利用割合が10%未満の19事業所が所在する15市区についてみると、夜間対応型訪問介護のケアコール端末利用者数が計94人であるのに対して、緊急通報体制等整備事業等の利用者数は計10,129人(うち65歳以上で無料の者は9,660人)と、非常に多い状況となっていた。
一方、類似事業について利用者の調整を行っている市においては、夜間対応型訪問介護の利用割合が高くなっていた。
多数の事業所において、夜間対応型訪問介護のサービスの利用が低調であったり、短期間で休止又は廃止したりしていて、夜間対応型訪問介護の整備に係る事業効果が十分発現していない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 事業者において、夜間対応型訪問介護の事業が交付金によって実施されているものであることの認識が十分でないこと、市区において、十分な需要調査を行わずに面的整備計画を作成して、これに基づき交付金の交付申請を行っており、また、交付金交付後に夜間対応型訪問介護の利用状況を把握していないこと
イ 貴省及び地方厚生(支)局において、市町村から提出された面的整備計画及び交付申請書類等について、十分な需要調査に基づいているか、また、具体的な需要があるかを審査、確認できるような体制となっていないこと
ウ 夜間対応型訪問介護のサービス自体が、緊急通報体制等整備事業等の類似する事業と実質的には対象者が重複しているものが多いこと
今後急速な高齢化の進展が見込まれる中で、高齢者が在宅で安心して生活を営むために住み慣れた地域で必要な介護を受けることが可能となるような社会の構築が望まれており、夜間対応型訪問介護は、その一環として創設され、サービスの提供が行われている。
ついては、貴省において、夜間対応型訪問介護の利用の促進を図るなどして、交付金による事業効果が十分発現するよう次のとおり意見を表示する。
ア 市町村に対して、事前に利用者の需要調査を十分に実施してその結果に基づき面的整備計画及び交付申請書類等を作成するよう助言し周知すること
イ 市町村から提出された面的整備計画及び交付申請書類等について、十分な需要調査に基づいているか、また、具体的な需要があるかを審査、確認できるような体制とすること
ウ 市町村に対して、夜間対応型訪問介護のサービスについて、利用が進んでいない実態を把握し、その原因を分析し、利用の促進が図られるように助言すること
エ 市町村に対して、夜間対応型訪問介護のサービスと類似するサービスについては、各関係機関又は部署が相互に連携を密にし、調整を行うよう助言すること
オ 交付金により購入したものの、利用がなく遊休しているケアコール端末等について、他地域の事業者で活用するなど、活用の促進を図る方策について検討すること