会計名及び科目 | 労働保険特別会計(徴収勘定) | (項)業務取扱費 |
部局等 | 厚生労働本省 | |
報奨金の概要 | 労働保険料の納付状況が著しく良好な労働保険事務組合に対して、報奨金を交付することで、労働保険事務組合制度の普及発展、労働保険事務組合における労働保険の適用促進及び委託事業主に係る労働保険料の収納率の向上・維持等を図るもの | |
報奨金の交付額 | 108億0589万円(背景金額)(平成21年度) |
(平成22年10月28日付け 厚生労働大臣あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴省は、労働者の業務上の事由又は通勤による負傷等に対する迅速かつ公正な保護を図ることを目的として労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)を、労働者の生活、雇用の安定等を図ることを目的として雇用保険を、それぞれ管掌している。両保険は、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号。以下「徴収法」という。)の規定に基づき、労働保険と総称され、原則として、労働者を一人でも使用する事業主について適用されることとなっている。そして、労働保険には、保険料の申告・納付、各種の届出等の事務手続(以下、これらの事務手続を「労働保険事務」という。)があり、労働保険事務は、専門の担当者を置くことができない中小事業主にとって負担となることが少なくない。
そこで、貴省は、徴収法等の規定に基づき、中小事業主の事務負担を軽減し、労働保険の適用促進及び適正な労働保険料徴収の確保を図ることを目的として、労働保険事務組合制度を設けている。労働保険事務組合(以下「事務組合」という。)は、厚生労働大臣の認可を受けて、事業協同組合、商工会等の既存の事業主の団体等(以下「母体組織」という。)がその構成員等である中小事業主から委託されて労働保険事務を処理するものである。
そして、昭和60年度以降、厚生労働大臣の認可を受けようとする事務組合は、その組合の規約に、事務組合の労働保険事務に係る経理(受託手数料、人件費等)と母体組織の経理とを区分して行う旨を定めることとされている。
ア 報奨金の交付目的等
貴省は、「失業保険法及び労働者災害補償保険法の一部を改正する法律及び労働保険の保険料の徴収等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(昭和44年法律第85号。以下「整備法」という。)の規定に基づき、48年度以降、労働保険料の納付状況が著しく良好な事務組合に対して、労働保険料に係る報奨金(以下「報奨金」という。)を交付しており、平成21年度における交付額は10,152事務組合に対して108億0589万余円となっている。
報奨金の交付目的は、整備法に規定されていないものの、貴省では、事務組合制度の普及発展(事務組合数の増加等)、事務組合における労働保険の適用促進、事務組合に労働保険事務を委託した事業主(以下「委託事業主」という。)に係る労働保険料の適正な徴収(収納率の向上・維持等)を図るためとしている。また、報奨金の使途は制限されていない。
報奨金の交付要件は、委託事業主のうち常時15人以下の労働者を使用するなどの事業主(以下「対象事業主」という。)について、その全対象事業主から納付された前年度の労働保険料の合計額が納付すべき額の95% 以上となっていることなどとなっている。そして、委託事業主のうち報奨金の交付要件となる対象事業主が約9割とその大部分を占めている。
また、報奨金の交付額は、事務組合ごとに、全対象事業主から納付された前年度の労働保険料の合計額に2.5% を乗じて得た額(定率分)と対象事業主の常時使用する労働者数等に応じて定められた単価に対象事業主数を乗じて得た額(定額分)を合計したものとされている。
イ 報奨金制度の変遷
現行の報奨金制度は、徴収法の施行(昭和47年4月1日)による事務組合制度の創設を受けて、整備法に基づき創設されたものであるが、それ以前から、同様の制度が存在していた。
33年10月に、中小事業主に対する失業保険の適用促進を図るなどのために失業保険事務組合制度が創設され、同時に、失業保険料の納付状況が著しく良好な同事務組合に対して報奨金を交付する制度が創設された。また、40年11月に、労災保険事務組合制度が創設され、同時に、同事務組合に対して報奨金を交付する制度も創設された。その後、47年4月に、失業保険及び労災保険の適用徴収事務の一元化を図った徴収法並びに整備法が施行され、失業保険事務組合及び労災保険事務組合が一元化されて事務組合となり、併せて、報奨金制度も一元化されて、現在に至っている。
報奨金制度は、失業保険事務組合に対する報奨金制度の創設から半世紀以上が経過しており、近年、産業構造の変化とともに事業主の高齢化、後継者不足等により中小事業主の廃業が増加したり、国から支出された国費の使途の透明性が求められたりするなど、報奨金制度を取り巻く環境は変化している。また、報奨金の交付額は依然として多額に上っている。
そこで、本院は、経済性、有効性等の観点から、報奨金は現在においてもその交付目的に沿ったものとなっているか、その交付額の算定方法は報奨金交付の目的や使途の現状を考慮したものとなっているかなどに着眼して検査した。
本院は、貴省及び17都道府県労働局(注) (以下、都道府県労働局を「労働局」という。)において会計実地検査を実施するとともに、これらの会計実地検査を行った17労働局を含む全国47労働局から、管内の事務組合に対する監査の結果が記載された報告書(以下「監査報告書」という。)の提出を受け、その内容を分析するなどの方法により検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
ア 事務組合制度の普及発展の状況
報奨金は、事務組合制度の普及発展を図ることがその交付目的の一つとされている。そこで、事務組合数の推移についてみると、33年度末の失業保険事務組合数は全国でわずか171に過ぎなかったが、現行の事務組合制度となった47年度末には、事務組合数は10,625まで増加し、58年度末には13,080とピークに達した。しかし、これ以降、事務組合数は減少に転じて、近年、事業主の高齢化、後継者不足等による委託事業主の廃業に伴う事務組合の廃止が増加するなどしたため、平成21年度末には10,288まで減少している。
イ 事務組合における労働保険の適用促進の状況
報奨金は、事務組合における労働保険の適用促進を図ることがその交付目的の一つとされている。そこで、委託事業主数及び委託率(全適用事業主数のうち委託事業主数が占める割合をいう。以下同じ。)の推移についてみると、昭和34年末の委託事業主数及び委託率は、全国でわずか8,623及び2.5%(全適用事業主数335,000)に過ぎなかった。その後、委託事業主数及び委託率は共に増加を続け、委託事業主数は平成10年度末に1,415,575(全適用事業主数3,059,158に対する委託率46.2%)、委託率は11年度末に46.3%(全適用事業主数3,048,755、委託事業主数1,412,627)とそれぞれピークに達した。しかし、これ以降、委託事業主数及び委託率は共に減少に転じて、近年、事業主の高齢化、後継者不足等に伴う中小事業主の廃業が増加するなどしたため、21年度末には1,306,546及び44.3%(全適用事業主数2,945,265)にまでそれぞれ減少している。
ウ 委託事業主に係る労働保険料の収納状況
報奨金は、委託事業主に係る労働保険料の収納率(以下「事務組合の収納率」という。)の向上・維持等がその交付目的の一つとされている。そこで、事務組合(前記のとおり対象事業主が約9割を占めている。)の収納率の推移についてみると、昭和49年度において99.2% と高い収納率が既に達成されており、その後も30年間以上にわたって、ほぼ98% 以上で推移し、平成21年度においても98.5%と高い収納率となっている。これに対して、事務組合に委託していない労働者数15人以下の事業主に係る労働保険料の収納率についてみると、貴省の調査結果によれば、21年度において86.4%となっている。
上記ア及びイのように、事務組合数、委託事業主数及び委託率は減少傾向にあり、事業主の高齢化、後継者不足等に伴い、今後も漸減していくことが見込まれることから、報奨金の交付目的のうち〔1〕事務組合制度の普及発展及び〔2〕事務組合における労働保険の適用促進という面からの報奨金交付の意義は、現状では希薄になっていると認められる。その一方で、上記ウのように、事務組合の収納率はほぼ98%以上で推移しているのに対し、事務組合に委託していない労働者数15人以下の事業主の収納率は90%に達していないことなどから、〔3〕事務組合の収納率の向上・維持等のうち、収納率の向上はこれ以上見込めないものの、収納率を高く維持するという面からは、現状でもその意義を有しており、事務組合の役割は今後とも重要なものになると認められる。
事務組合の運営における報奨金の使途について、21年度に報奨金の交付を受けた全10,152事務組合のうち無作為に抽出した501事務組合を対象に、その収支状況等から実態調査を行ったところ、501事務組合のうち161事務組合は区分経理を行っていて、報奨金を事務組合の人件費等の運営費に充当している状況となっていた。また、残りの340事務組合のうち184事務組合は、報奨金を事務組合の人件費等の運営費に充当していると認識しているとしている。このように、事務組合の多くは、その運営において報奨金を事務組合の人件費等の運営費に充当している現状にあると認められた。
しかし、報奨金の交付額は、上記のような人件費等の運営費への充当という現状を踏まえることなく、前記のとおり対象事業主から納付された労働保険料の合計額等に基づき算定されているため、その合計額が多ければ多いほどこれに比例して、多額となっている。 そこで、21年度に報奨金の交付を受けた4,317事務組合に係る監査報告書等により各事務組合の職員1人当たりの報奨金の交付額についてみると、次表のとおり、報奨金の交付額が100万円未満の事務組合では40万余円に過ぎないのに対して、1000万円以上の事務組合は259万余円と6倍以上となっていた。
表 | 事務組合の職員1人当たりの報奨金交付額の状況 | (単位:事務組合数、千円、人) |
事務組合ごとの報奨金の各交付額 | 100万円 未満 |
100万円以上 200万円 未満 |
200万円以上 500万円 未満 |
500万円以上 1000万円 未満 |
1000万円 以上 |
計 |
事務組合数 | 2,851 | 874 | 490 | 72 | 30 | 4,317 |
66.0% | 20.2% | 11.3% | 1.6% | 0.6% | 100% | |
各交付額の合計額(A) | 1,194,082 | 1,240,400 | 1,432,124 | 464,925 | 669,664 | 5,001,197 |
23.8% | 24.8% | 28.6% | 9.2% | 13.3% | 100% | |
事務組合の職員数の合計(B) | 2,971 | 1,350 | 1,188 | 274 | 258 | 6,042 |
職員1 人当たりの報奨金交付額(A/B) | 401 | 918 | 1,204 | 1,696 | 2,595 | 827 |
注(1) | 職員数は、専任の場合は「1人」、兼任の場合は「0.5人」で計算している。
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注(2) | 平成21年度において、報奨金は、10,152事務組合に対して108億0589万余円が交付されており、1事務組合当たりの平均交付額は106万余円となる。 |
注(3) | 割合、金額及び職員数は、表示単位以下を切り捨てているため、数値を合計しても計欄の数値と一致しない。 |
以上のことから、報奨金が事務組合の人件費等の運営費に充てられているなどの現状を踏まえ、その交付額の算定方法については、上限額を設定するなど事務組合の運営費に充てられている報奨金の使途の現状を考慮したものに改め、交付額の縮減を図る必要があると認められる。
また、本院が実態調査を行った前記501事務組合のうち、340事務組合は区分経理を行っていないなどしている状況となっていた。しかし、前記のとおり、昭和60年度以降、厚生労働大臣の認可を受けようとする事務組合はその規約に区分経理を行う旨を定めることとされているのであるから、事務組合において区分経理が適切に行われ、国から支出された報奨金の使途が確認できるようにする必要があると認められる。
現在の報奨金交付の意義が事務組合の収納率を高く維持することにあり、また、報奨金の使途が事務組合の人件費等の運営費に充当されている現状にかんがみると、従来どおりの報奨金の交付目的のもとに、報奨金の交付額が労働保険料の納付額等に基づき上限なく算定されている事態、また、事務組合において区分経理が十分に行われていないなどしていて、国から支出された報奨金の使途が確認できない事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴省において、次のことによると認められる。
ア 報奨金の交付目的の達成状況や報奨金の使途の現状等を踏まえた報奨金制度の見直しについて十分検討してこなかったこと
イ 事務組合に対して区分経理を適切に行うことについての指導監査が十分でなく、国から支出された報奨金の使途の透明性が確保されていないこと
前記のとおり、近年、報奨金制度を取り巻く環境は変化しており、また、報奨金の交付額は依然として多額に上っている。
ついては、貴省において、報奨金の交付が適切かつ効果的なものとなるように次のとおり報奨金制度を見直すよう意見を表示する。
ア 報奨金の交付目的の達成状況や使途の現状を把握した上で、報奨金の交付目的が事務組合の収納率を高く維持することにあることを明示するとともに、交付額の算定方法を、上限額を設定するなど報奨金が事務組合の人件費等の運営費に充てられている現状を考慮したものに改め、交付額の縮減を図ること
イ 事務組合に対して区分経理を適切に行うよう指導監査を徹底し、国から支出された報奨金の使途の透明性を確保すること