会計名及び科目 | 一般会計 | (組織)林野庁 | (項)森林環境保全整備事業費 |
(項)森林居住環境整備事業費 | |||
部局等 | 林野庁 | ||
補助の根拠 | 森林法(昭和26年法律第249号) | ||
補助事業者 | 5道県(うち事業主体3道県) | ||
間接補助事業者(事業主体) | 市2、町1、計3事業主体 | ||
補助事業 | 森林環境保全整備、森林居住環境整備 | ||
補助事業の概要 | 森林の適正な整備を推進することなどを目的として、森林整備を行うための林道整備を実施するもの | ||
当初計上の便益項目を正しく算定すると費用便益比が1を下回っていた林道 | 11路線 | ||
上記に係る事業費 | 89億2338万余円 | ||
上記に対する国庫補助金交付額 | 44億9046万円 | (背景金額) |
森林整備事業における林道整備の費用対効果分析について
(平成22年10月28日付け 林野庁長官あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴庁は、森林法(昭和26年法律第249号)等に基づき、森林の適正な整備を推進することなどを目的として、都道府県等が造林、間伐、保育等の森林整備とそれらの作業を行うための林道整備とを内容とする森林整備事業を実施する場合に、その事業に要する費用の一部について国庫補助を行っている。
貴庁は、行政機関が行う政策の評価に関する法律(平成13年法律第86号。以下「政策評価法」という。)等に基づき、「林野公共事業の事業評価実施要領」(平成12年林野庁長官通知)等を策定し、これに基づき、政策評価の対象となる補助事業等について、事前評価、期中の評価及び完了後の評価からなる事業評価を費用対効果分析等の手法により行っている。そして、都道府県等は、この費用対効果分析等を行うのに必要な情報の収集等に努め、これらの情報を積極的に貴庁へ提供して協力することとなっている。
費用対効果分析は、事業の便益と当該事業を実施するために要する経費とを比較することにより、事業の効率性を測定・把握して、便益の現在価値(Benefit)を費用の現在価値(Cost)で除した費用便益比(B/C)を算定するものである。そして、森林整備事業の新規採択に当たっては、事業の効率性を審査する必須事項として、費用便益比が1以上であることが必要とされている。
前記のとおり、林道整備は森林整備事業の一部であり、林道だけが事業評価の対象となることはないものの、林道は造林等の森林整備を効率的に行うための施設であり、相当の費用を要する最も重要な林業の生産基盤である。これらのことなどから、貴庁は、林道整備を含む森林整備事業の新規採択に当たり、採択過程の透明性及び客観性を確保するとともに、事業効果の判断に資するため、都道府県等から林道整備のみを対象とした費用対効果分析に係る資料等の提出を受けることとしている。そして、貴庁は、林道整備を含む森林整備事業を新規採択する場合には、林道整備のみの費用便益比が1以上であり、林道整備の効果等が十分見込めることを確認している。
貴庁は、前記の「林野公共事業の事業評価実施要領」等を受けて具体的な評価方法として、「林野公共事業における事前評価マニュアル」(平成14年林野庁森林整備部計画課長通知。以下「マニュアル」という。)を策定している。マニュアルでは、森林整備事業の便益の種類及び算定方法が定められており、森林整備事業の新規採択に当たり、貴庁及び都道府県等は、マニュアルを適用して林道整備の費用対効果分析を行っている。
マニュアルによれば、林道整備の便益には、木材生産等便益、森林整備経費縮減等便益、一般交通便益、森林の総合利用便益等の8種類の便益があり、このうち、一般交通便益は、国土交通省の道路、街路事業と算定手法が共通化されているが、その他の便益は林道整備独自の便益である。また、評価に当たっては、事業の特性に応じて事業効果を発揮する区域(以下「事業効果発揮区域」という。)を定めることとされており、事業効果発揮区域は、〔1〕 既設の公道や作業道等を利用して適切な森林整備や伐採が行われてきた区域(以下「施業実施区域」という。)、〔2〕 林道が整備されることにより、新たに適切な森林整備が行われる区域(以下「新規施業実施区域」という。)とに区分される。
貴庁及び都道府県等が算定に用いている林道整備の便益と、その内容及び事業効果発揮区域は、表1のとおりである。
便益の種類 | 内容 | 事業効果発揮区域 | ||
木材生産等便益 | 木材生産経費縮減便益 | 林道の整備により、木材輸送トラックの大型化により輸送経費が縮減されるなどの便益 | 施業実施区域 | |
木材利用増進便益 | 林道の整備前は切り捨てとなっていた間伐材等が林道の整備により搬出し利用される便益 | 施業実施区域 | ||
木材生産確保・増進便益 | 林道が未整備で伐採対象とならなかった森林において、林道整備に伴うコスト縮減等により伐採が促進される便益 | 新規施業実施区域 | ||
森林整備経費縮減等便益 | 森林整備促進便益 | 林道が未整備で造林・保育が不十分になっていた森林において、林道の整備によって森林整備の促進が見込まれる場合の便益 | 新規施業実施区域 | |
山地保全便益 | 雨水の流下に伴う浸食による表土の流出を抑制する土砂流出防止便益及び山崩れ等によって短時間に大量に流出する土砂を抑制する土砂崩壊防止便益 | |||
炭素固定便益 | 森林整備を実施することによる当該森林の蓄積量の増加分から、森林による炭素固定量を推計し評価する便益 | |||
一般交通便益 | 集落から通勤先への通勤等に林道を利用することによって、走行時間の短縮又は走行経費が減少する便益 | — | ||
森林の総合利用便益 | フォレストアメニティ施設利用便益等 | 林道の整備により森林公園等(林道沿線の名勝地等を含む。)が整備され、市民への憩いの場の提供や山村と都市との交流資源として活用される便益等 | — | |
災害等軽減便益 | 自然災害発生時の迂回路や防火帯としての便益 | — | ||
維持管理費縮減便益 | 改良、舗装等により、維持管理費が縮減される便益 | — | ||
山村環境整備便益 | 集落内除雪便益 | 林道に流雪溝、融雪パイプ等を整備することにより、除雪に係る労働力等が縮減される便益 | — | |
その他の便益 | 通行の安全の確保や木材の有効活用等の便益を評価する。このほか、林道及び関連施設の整備によって生ずる便益について、それぞれの実態に応じた評価を行うものとする。 | — |
現下の厳しい財政事情の下、予算の効率的かつ効果的な執行を図るとともに、森林整備事業の採択過程の透明性、客観性を確保するためには、費用対効果分析を適切に実施することが重要である。
そこで、本院は、合規性、効率性、有効性等の観点から、林道整備の費用対効果分析及び森林整備事業の新規採択の判断は、マニュアル等に基づき適切に行われているか、マニュアルの内容、記述等に改善すべき点はないかなどに着眼して検査した。
(検査の対象及び方法)
本院は、貴庁及び13道県(注1) 及び管内の市町村において会計実地検査を行った。そして、12道県(注2) 及び13道県管内の81市町村が事業主体となって、平成16年度から21年度までに森林整備事業の新規採択の際に、費用対効果分析が実施された林道241路線の整備(事業費計2125億3748万余円、うち国庫補助金計1059億3670万余円)を対象に、費用対効果分析の算定書類及び現地の状況を調査するなどの方法により検査した。
検査したところ、7道県(注3)
及び6道県(注4)
管内の12市町村が事業主体となって、費用対効果分析が実施された林道40路線の整備(事業費計443億3869万余円、うち国庫補助金計219億7136万余円)について、森林整備事業の新規採択に当たり、費用便益比が過大に算定されていた。そのうち、3道県(注5)
及び3道県(注6)
管内の3市町(以下「3道県等」という。)が施行した林道11路線の整備(事業費計89億2338万余円、うち国庫補助金計44億9046万余円)については、当初に計上していた便益項目について正しく算定したところ、事前評価による便益計122億3903万余円のうち計72億9940万円が過大に算定されていて、費用便益比がいずれも1を下回っている事態が見受けられた。
このうち、主な事例を挙げると次のとおりである。
三重県の林道木屋村山線の整備(計画期間平成19年度から29年度まで、総延長10.0km、幅員4m、事業費計10億2600万円、うち国庫補助金計5億1300万円)について、同県が18年度に実施した事前評価の費用対効果分析は、費用23億7029万余円に対して、木材生産経費縮減便益319万余円、木材利用増進便益7780万余円、森林整備促進便益34億1203万余円を含めた便益が37億3956万余円であるため、費用便益比は1.58であるとしていた。
しかし、マニュアルの理解が十分でなかったため、木材生産経費縮減便益及び木材利用増進便益の事業効果発揮区域について、施業実施区域とすべきところを新規施業実施区域としていたり、新規施業実施区域を含めたりしていた。また、森林整備促進便益の事業効果発揮区域について、新規施業実施区域とすべきところを施業実施区域を含めているなど、計26億4936万余円の便益が過大に算定されていた。
したがって、事業効果発揮区域を正しく適用するなどして便益を修正して算定すると、10億9019万余円となるなどのため、費用便益比は0.46となる。
上記の事態を受けて、3道県等は前記の11路線に係る費用便益比の再調査を行い、算入対象となる便益の種類が異なっていたり、当初算入していなかった便益があったりしているとして、これを考慮すれば11路線の費用便益比は1を上回るとしている(表2参照)
。
しかし、これらの11路線は、前記のとおり事前評価による便益計122億3903万余円のうち計72億9940万円が過大に算定されており、これに3道県等が当初算入していなかったなどとしている便益計37億7309万余円を合わせると、合計110億7249万余円という当初の便益の合計額にも相当するような額の便益の相違があることとなり、3道県等においては政策評価法に基づく事業評価制度が適切に実施され機能しているとは言い難い状況となっていた。
事業主体 | 路線名 (地区名) |
当局の事前評価 | 本院の検査及び道県等の再調査の結果 | ||||||
本院の検査により過大に算定されていたと認められる便益 | 左の便益を反映した費用便益比 | 本院の検査後、3道県等が行った再調査において、当初算入していなかった便益 | 左の便益を反映した費用便益比 | ||||||
便益額(千円) | 費用便益比 | 内容 | 金額 (千円) |
内容 | 金額 (千円) |
||||
北海道枝幸町 | オチャラベ線 | 60,396 | 1.65 | 山地保全便益について、評価期間(50年)を5年間毎に区切り、5年間毎の便益を合計して評価期間の便益を算定することとしていた。 しかし、5年間分の便益を算定する際に1年間の便益に正しくは5を乗ずるところ、誤って事業開始からの経過年数である15(2年度から17年度まで)を乗ずるなどしていた。 また、炭素固定便益についても同様の誤りをしていた。 |
44,885 | 0.72 | 土砂流出防止便益 | 6,922 | 1.05 |
その他 | 70 | ||||||||
北海道 | 菊水線 | 1,132,978 | 2.19 | 732,375 | 0.81 | ふれあい機会創出便益 注(1) | 196,182 | 1.21 | |
その他 | 1,219 | ||||||||
三重県 | 木屋村山線 | 3,739,560 | 1.58 | 木材生産経費縮減便益及び木材利用増進便益の事業効果発揮区域について、施業実施区域とすべきところを新規施業実施区域としていたり、新規施業実施区域を含めたりしていた。 また、森林整備促進便益の事業効果発揮区域について、新規施業実施区域とすべきところを施業実施区域を含めるなどしていた。 |
2,649,367 | 0.46 | 災害復旧経費縮減便益 注(2) | 1,027,390 | 1.01 |
その他 | 282,326 | ||||||||
三重県 | 鶴が坂線 | 2,319,582 | 1.61 | 1,592,965 | 0.5 | 災害復旧経費縮減便益 | 1,401,580 | 1.55 | |
その他 | 129,308 | ||||||||
三重県 | 野又越線 | 1,188,418 | 1.8 | 866,104 | 0.69 | 洪水防止便益 注(3) | 99,675 | 1.18 | |
災害復旧経費縮減便益 | 95,408 | ||||||||
その他 | 30,596 | ||||||||
山口県岩国市 | 久保田線 | 283,127 | 1.124 | 3,285 | 0.88 | ふれあい機会創出便益 | 45,250 | 1.04 | |
その他 | 89 | ||||||||
山口県岩国市 | 大奴田線 | 255,753 | 1.15 | 105,921 | 0.67 | ふれあい機会創出便益 | 81,336 | 1.04 | |
その他 | 56 | ||||||||
熊本県 | 天草市今田線 | 1,315,293 | 2.87 | 816,358 | 0.91 | 炭素固定便益 | 47,966 | 1.00 |
|
高知県 | 清水三原、中村大正、檮原東津野各線(四万十川地区) | 1,943,927 | 1.19 | フォレストアメニティ施設利用便益について、算定対象とならない宿泊施設(海沿いや街中にある国民宿舎、ビジネスホテル等)を対象にするなどしていた。 | 448,140 | 0.91 | その他の便益 注(4) | 323,525 | 1.12 |
炭素固定便益 | 4,196 | ||||||||
合計3道県3市町 | 11路線 | 12,239,034 | 7,299,400 | 3,773,094 |
注(1) | 算入していなかった便益としてふれあい機会創出便益(森林の総合利用便益の一つで、新たに林道を開設した場合の市民の森林等のふれあいの機会の創出の便益)を計上している。 |
注(2) | 算入していなかった便益として災害復旧経費縮減便益(災害等軽減便益の一つで、改良、舗装等により、災害復旧経費が縮減される便益)を計上している。 |
注(3) | 算入していなかった便益として洪水防止便益(森林整備促進便益の一つで、降雨によって地表に達した雨水が土壌に浸透等せずに河川等へ流れるのを森林整備によって防止する便益)を計上している。 |
注(4) | フォレストアメニティ施設利用便益として算定対象とならない宿泊施設(海沿いや街中にある国民宿舎、ビジネスホテル等)の利用料金については、「その他の便益」として計上している。また、算入していなかった便益として、炭素固定便益を計上している。 |
このように、事前評価における費用便益比について、当初の便益の合計額にも相当するような額の便益の相違がある事態は、森林整備事業の新規採択という予算執行の側面から、その判断の妥当性や判断に至る過程の透明性及び客観性に疑念を生じさせるものであり、当初から正確な便益の数値に基づき、費用便益比を算定する必要があると認められる。
(改善を必要とする事態)
前記のとおり、林道40路線の整備について、費用便益比が過大に算定されており、そのうち、当初に計上していた便益項目について正しく算定すると林道整備の費用便益比が1を下回っている路線が11路線あり、本院の検査後の3道県等による再調査結果も含めると、これら11路線に限ってもさらに多くの便益の相違がある事態は、事業評価制度に対する信頼性を損ね、補助事業の新規採択の判断の妥当性や判断に至る過程の透明性及び客観性に疑念を生じさせるもので適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 貴庁及び道県等において、適正な事業採択に資することを目的として、事業の採択前に費用対効果分析により行われる事前評価の意義が、適切かつ効率的な予算執行を確保する上で、極めて重要であることの認識が十分でないこと
イ 貴庁において、事業評価の基準であるマニュアルに詳細な説明や具体的な計算方法を記述したり、道県等に対しマニュアルの内容を周知徹底したりするなどのマニュアルに対する理解を深めるための方策が十分講じられていないこと
ウ 道県等において、マニュアルに対する理解及び費用対効果分析の適切な実施に対する認識が十分でないこと
現下の厳しい財政事情の下では、公共事業の実施に当たり、費用対効果分析を適切に行って、事業採択過程の透明性、客観性を確保することが強く求められている。
ついては、貴庁において、森林整備事業における林道整備の実施に当たり、事前評価及び新規採択の判断を行うための費用対効果分析が適切に実施されるよう次のとおり意見を表示する。
ア 森林整備事業の新規採択における事前評価の重要性を踏まえ、費用便益比の算定に際して、特に便益の算定を正しく行うよう、事業評価及び補助事業採択の実施主体として道県等を指導すること
イ 事業評価の基準であるマニュアルについて、費用対効果分析を実施する際の指針として詳細な説明や具体的な計算方法を記述したり、都道府県等に対しその内容を周知徹底したりするなどの方策を講ずること
(注1) | 13道県 北海道、栃木、富山、石川、福井、三重、和歌山、広島、山口、愛媛、高知、福岡、熊本各県
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(注2) | 12道県 北海道、富山、石川、福井、三重、和歌山、広島、山口、愛媛、高知、福岡、熊本各県
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(注3) | 7道県 北海道、富山、石川、福井、三重、山口、高知各県
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(注4) | 6道県 北海道、栃木、石川、三重、山口、熊本各県
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(注5) | 3道県 北海道、三重、高知両県
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(注6) | 3道県 北海道、山口、熊本両県
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