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  • 平成21年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第12 経済産業省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

国際博覧会事業の実施に当たり、委託先が事業者と締結した再委託契約において、実績額に基づく精算に向けて協議させるなどの適宜の処置を要求し及び今後締結される再委託契約において、実績額に基づいた精算を行わせるなどの是正改善の処置を求め並びに事業の収支状況を公表するなどの改善の処置を要求したもの


(1) 国際博覧会事業の実施に当たり、委託先が事業者と締結した再委託契約において、実績額に基づく精算に向けて協議させるなどの適宜の処置を要求し及び今後締結される再委託契約において、実績額に基づいた精算を行わせるなどの是正改善の処置を求め並びに事業の収支状況を公表するなどの改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)経済産業本省 (項)貿易投資促進費
エネルギー対策特別会計(エネルギー需給勘定)
      (項)エネルギー需給構造高度化対策費
部局等 経済産業本省
事業の概要 2008年サラゴサ国際博覧会及び2010年上海国際博覧会における日本館の運営等
委託契約名 平成20年度国際博覧会政府出展事業(上海国際博覧会に係る政府参加準備業務)に関する委託契約等4件(平成20年度〜22年度)
委託契約の相手方 独立行政法人日本貿易振興機構
委託契約金額   39億1241万余円 (平成20年度〜22年度)
精算等が行えない契約となっている再委託契約の金額   29億2924万余円 (平成20年度〜22年度)
上記の再委託契約に基づく支払済額   9億4977万余円 (平成20、21両年度)
上記の支払済額のうち国からの委託費充当額   8億7384万円 (平成20、21両年度)
国際博覧会事業を実施するため委託先が受領する収入金等 23億0397万円 (サラゴサ国際博覧会)
125億6344万円 (上海国際博覧会)
148億6742万円 (背景金額)

【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求め並びに改善の処置を要求したものの全文】

国際博覧会事業の実施及び経理について

(平成22年10月28日付け 経済産業大臣あて)

 標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求め、並びに同法第36条の規定により改善の処置を要求する。

1 国際博覧会事業等の概要

(1) 国際博覧会事業の概要

 我が国は、スペイン王国での2008年サラゴサ国際博覧会(以下「サラゴサ博」という。)及び中華人民共和国(以下「中国」という。)での2010年上海国際博覧会(以下「上海博」という。また、以下、サラゴサ博と上海博を合わせて「両博覧会」という。)に公式参加することについて、開催国との間の友好親善に資するとともに、国際社会における我が国への理解を深める機会となるなどの意義を有するとして、平成18年10月20日に閣議了解を行い、両博覧会への公式参加表明を行っている。また、これに伴い、両博覧会への参加に要する諸準備を円滑に行うため、関係省庁からなる準備会を設けて、経済産業省設置法(平成11年法律第99号)等に基づき博覧会等に関する事務をつかさどることとされている貴省を幹事省とし、独立行政法人日本貿易振興機構法(平成14年法律第172号)等に基づき博覧会等に参加することを業務としている独立行政法人日本貿易振興機構(以下「機構」という。)を参加機関とすることが合わせて閣議了解されている。

(2) 国際博覧会への出展に係る貴省と機構との委託契約

 貴省は、日本国政府が国際博覧会に出展する事業(以下「国際博覧会事業」という。)について、その基本計画の策定並びに日本館の建築、展示及び管理運営等の各業務に係る委託契約を、サラゴサ博においては17年度から20年度までに8件、上海博においては18年度から22年度までに9件、計17件締結している。このうち、公募により民間事業者に委託した1件を除く計16件の契約は、いずれも機構を委託契約の相手方としている。
 上記各契約の委託費は、委託先の当該委託業務に係る担当職員等の人件費、事務費及び委託先が業務の一部を別の事業者に更に委託等した場合に必要となる経費(以下「再委託費」という。)等から構成されている。
 そして、貴省は、委託費の精算に当たって、貴省が定めた「委託契約に関する会計経理事務処理実施要領」(平成18・09・28会課第3号)等により、委託先が当該事業を終了したときは、この成果を記載した実績報告書の提出を受けて、委託費の総額を決定する確定検査等を行い、委託費の交付額の確定を行って当該委託費の交付を行うこととしている。また、委託先が再委託を行っている場合には、当該委託先が、再委託費について貴省が行う検査と同等の検査を行っていることを確認することとしている。

(3) 過去の国際博覧会事業において貴省が執った処置

 貴省は、17年3月から9月までの間に愛知県において開催された2005年日本国際博覧会の実施等に当たり、財団法人2005年日本国際博覧会協会(以下「協会」という。)に対し会場建設事業等を対象として補助金を交付していた。この補助金の交付を受けた協会は、地方公共団体等に対して博覧会に対応する工事等を委託していたが、委託事業に係る事業費について概算額を基に算定していたにもかかわらず、事業終了後に実際の事業費に基づいた精算をしていなかった。これについて本院が指摘したところ、貴省は、本院の指摘に基づき、17年9月に、「博覧会事業に関する予算執行の適正化のための事務マニュアル」(以下「博覧会マニュアル」という。)を整備するなどの処置を講じたことから、本院は、平成16年度決算検査報告に本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項 として掲記している。
 貴省が定めた博覧会マニュアルによれば、事業費が概算額で算定され、将来実績額が変動することが十分に予想される事業の場合は、その実績額の確認及び精算方法の策定について、関係者と十分な協議を行うとともに、精算条項が付されていることを確認するなどの措置を行うこととされている。
 そして、貴省は、両博覧会においても、事業費の交付方式が補助金から委託費に変更されたものの、この博覧会マニュアルを適用することとしている。

(4) 国際博覧会事業の財源等

 貴省は、サラゴサ博以前から、国際博覧会に関して、展示及び行催事の内容の充実を図るなどのため、民間企業等に協賛を依頼している。上海博においても、より効率的な事業を目指すため、民間企業等から多額の資金や技術面でより一層の協力を得て、国際博覧会事業を行うことにより「官民一体となった出展の実現」に向けて取り組むこととしている。
 そして、機構は、これに賛同した民間企業等と日本館に対する協力に関し合意書を締結するなどして、民間企業等から資金(以下「協賛金」という。)等を受領している。この協賛金は、機構の規程等に基づき、機構において他の一般的な収入と同様に公金として取り扱われる。機構は、国からの委託費及び民間企業等からの協賛金を合わせて国際博覧会事業に要する経費の財源として、各種の再委託契約及び請負契約を締結し事業を実施している。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 貴省から両博覧会に係る前記16件の契約を受託した機構は、その実施に当たり、受託した業務の大半を、別の事業者に再委託したり請け負わせたりしている。
 また、国際博覧会事業への参加は、国際社会における我が国への理解を深める機会となるとともに、国民からの注目度、期待度も高く、国費及び協賛金等を財源として事業を実施していることから、事業に係る収支状況の透明性の確保がより一層重要になってきている。
 そこで、本院は、合規性、経済性等の観点から、機構と再委託業者との契約において博覧会マニュアルどおりに、精算条項が付され、事業実施後に実績額による適切な精算が行われているか、また、国際博覧会事業に係る収支状況が適切に把握され、その透明性が確保されているかなどに着眼して検査を実施した。
 検査に当たっては、貴省が機構と締結した上海博に係る9件の委託契約(契約金額計63億4610万余円)のうち4件の委託契約(契約金額計39億1241万余円)に基づく日本館の運営、広報及び行催事等に係る再委託契約(再委託契約金額29億2924万余円)、及び両博覧会に係る事業の収支状況を対象として、貴省並びに機構本部及び上海博日本館事務局において、実績報告書等により会計実地検査を行った。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 再委託契約における精算等について

 機構は、貴省と契約した上記4件の委託契約に係る再委託契約として、21年1月に2会社と28億2459万余円で「2010年上海国際博覧会日本館の運営・広報・行催事に係る業務」委託契約(契約期間23年3月31日まで。以下「当初契約」という。)を締結していた。そして、この再委託契約については、22年3月に、機構と2会社との間で、変更契約(変更後の契約金額29億2924万余円)が締結されていた。
 この契約について検査したところ、次のような事態となっていた。

ア 当初契約の契約金額は、日本国内での調達価格から単価を推計したり、契約締結時点での計画を基に数量を算定したりするなど、契約金額の大半を概算額で算定していて、将来実績額が変動することが十分に予想されるものとなっていた。しかし、当初契約において、単価については精算の対象とはせずに、数量のみを精算することとしており、20年度においては、単価について実績額に基づく精算を行わないまま2会社に対して3990万円(全額委託費を充当)を支払っていた。

イ 機構は、貴省の指示による業務内容の変更、追加及び中止が頻繁に発生したため、その都度、2会社との間で契約を変更することが困難であることを理由に、22年3月に2会社との間で契約変更を行い、数量についても精算を必要としない確定契約とし、また、変更後の契約の効力発生日を21年4月1日までさかのぼらせていた。そして、機構は、この変更契約に基づき、21年度分として2会社に対して9億0987万余円(うち委託費充当額8億3394万余円及び協賛金充当額7593万余円)を支払っていた。

ウ 上海博が開催される中国において課される諸税について、中国の税務当局が定めた通知等によれば、物品の一部に課せられた諸税については、必要な支出関係書類等を提出すれば還付を受けられることとなっている。このため、当初契約においては、契約金額は税抜きの金額とし、2会社が諸税を負担した場合には、別途、機構が諸税相当額を2会社に支払うこととして、代わりに、2会社は、機構に対して諸税を還付する手続に必要な支出関係書類等を提出することとされていた。また、再々委託業者等が負担する諸税についても、同様の措置が執られていた。
 しかし、22年3月に契約変更を行った際に、契約金額は税込とする一方、機構が諸税を還付する手続を行うのに必要な支出関係書類等の提出について変更契約に規定していなかったため、機構が諸税の還付手続を行うことができない契約となっていた。

 このような再委託契約になっているにもかかわらず、貴省は、再委託契約に精算条項が付されていることを確認するなどの措置を行うことなく、機構に、再委託費20年度3990万円、21年度8億3394万余円、計8億7384万余円を含めた委託費20年度1億9717万余円、21年度15億1049万余円、計17億0767万余円を支払っていた。

(2) 国際博覧会事業の収支状況の公表について

 我が国が参加している最近の主な国際博覧会のうち、機構が参加機関とされている国際博覧会事業は、2000年のハノーバー国際博覧会、2008年のサラゴサ博、現在実施中の上海博及び今後参加する2012年の麗水国際博覧会となっている。
 前記のとおり、国際博覧会事業への参加は、国際社会における我が国への理解を深める機会となるとともに、国民からの注目度、期待度も高く、国費及び協賛金等を財源として事業を実施しているが、サラゴサ博においてその収支状況は一般に公表されていない。貴省が機構に委託して作成したサラゴサ博の公式参加記録には、収支状況の記載があるが、この記録は一部の関係者に配布されたのみであった。
 なお、この収支状況の表示は、18、19両年度の支出額については委託費の確定額としていたが、20年度の支出額については当初契約の計画額を使用するなど、決算額を表示したものとなっていなかった。そこで、20年度の支出額等を、機構において、協賛企業等との合意書及び実績報告書等により確認したところ、協賛企業等から受けた現物による給付額及び付加価値税の還付金等があったため、公式参加記録で21億4165万余円の同額としていた収支は、収入23億0397万余円、支出23億0377万余円となっていた。
 一方、上海博は、事業実施中であり決算は未確定であるが、その事業規模を収支予算で見ると、18年度から22年度までの間で合計125億6344万余円に上る大規模な事業となっている。その内訳は、国からの委託費計56億7842万余円、貴省が所管している財団法人地球産業文化研究所からの委託費計6億3123万余円及び民間企業等からの協賛金等計62億5378万余円となっている。そして、支出については、機構がこれらの収入を財源として、建築、展示及び運営等の各業務を実施するとしている。
 このように、上海博は、多額の国費及び協賛金等を財源とする事業が予定されているが、これらの事業に係る収支状況について、貴省及び機構は、事業実施後に決算を公表する予定はないとしている。

(是正及び是正改善並びに改善を必要とする事態)

 前記(1)のように、再委託契約における契約金額が概算額で算定され、将来実績額が変動することが十分予想されたにもかかわらず、博覧会マニュアルに基づいた実績額による精算が行えない契約としていたり、開催国で課せられる諸税の還付手続を行うことができない契約としていたりしている事態は適切とは認められず、是正及び是正改善の要があると認められる。
 また、前記(2)のように、国民からの注目度、期待度も高く、多額の国費及び協賛金等を財源として実施される国際博覧会事業の収支状況の決算額を、貴省及び機構が十分に把握していなかったり、これを公表することとしていなかったりしている事態は、事業実施に係る収支状況の透明性の確保が図られておらず、改善の要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、国際博覧会事業が、法令、税制等の諸制度が国内と異なる海外で実施されることに伴う特殊性があるものの、次のことなどによると認められる。

ア 貴省において、博覧会マニュアルの重要性についての認識が十分でなかったこと及び再委託契約の適正な実施についての認識が十分でなかったこと

イ 貴省において、開催国で課せられる諸税に関する還付手続を行うよう博覧会マニュアルに明記していないなど、海外で実施される国際博覧会の特殊性に関する認識が十分でなかったこと

ウ 貴省及び機構において、国からの委託費及び国と一体となって出展に協力した民間企業等からの協賛金等を財源として実施される国際博覧会事業について、その収支状況を的確に把握した上で、これを明らかにするという透明性の確保についての認識が十分でなかったこと

3 本院が要求する是正の処置及び是正改善の処置並びに要求する改善の処置

 上海博については、貴省は22年10月31日の閉幕後、委託契約に基づき再委託費を含めた委託費の交付額の確定を行うこととなる。また、24年に大韓民国で開催される2012年麗水国際博覧会についても、今回と同様に、機構を参加機関として公式参加し、貴省が幹事省となることが21年2月に閣議了解されている。
 ついては、貴省において、国際博覧会事業における適正な予算執行及び透明性の確保を図るよう、次のとおり、是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求め並びに改善の処置を要求する。

ア 現在実施中の上海博に係る再委託契約について、機構に対して、実績額による精算の必要性を検討させるとともに、精算が必要な契約については、当該再委託業者との間で精算に向けて協議させるよう指導及び助言を行うこと(会計検査院法第34条による是正の処置を要求するもの)

イ 博覧会マニュアルの遵守が、国際博覧会事業における適正な予算執行を行う上で重要であることを再認識し、委託先等に対して周知徹底を図るとともに、今後実施される国際博覧会事業については、委託先に対して、目的又は性質上精算を要しない場合を除き、再委託契約書等に精算条項を付するなどして、実績額に基づいた精算を行わせるよう指導及び助言を行うこと。また、事業実施期間中に事業の進ちょく状況を適時、適切に確認するとともに、再委託契約の精算に当たっては、委託先とともに必要に応じて実績額の確認を行うこと(同法第34条による是正改善の処置を求めるもの)

ウ 国際博覧会事業が、主として海外で実施されることを踏まえて、海外で課される諸税に関する還付手続を行うこととし、その旨を博覧会マニュアルに明記すること(同法第34条による是正改善の処置を求めるもの)

エ 国からの委託費及び民間企業等からの協賛金等を財源として実施される国際博覧会事業の収支状況を正確に把握した上で、その収支に係る決算書等を作成してホームページ等により公表することとし、その旨を博覧会マニュアルに規定すること(同法第36条による改善の処置を要求するもの)