部局等 | 中小企業庁 | ||
損害担保付貸付けの概要 | 指定金融機関が危機対応業務として行う貸付けについて、株式会社日本政策金融公庫が損害担保を付与するもの | ||
企業規模に見合っていない貸付種別の補償料率等を適用している損害担保付貸付けの件数 | 512件 | (平成20年10月〜22年1月) | |
上記に係る貸付金額 | 1127億3000万円 | (背景金額) | |
上記のうち債務不履行になり実際に支払われた補償金 | 3件 | 7億9775万余円 | |
上記について企業規模に見合った補てん割合を適用した場合の減少額 | 2億2792万円 |
(平成22年10月20日付け 経済産業大臣あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
危機対応業務は、株式会社日本政策金融公庫法(平成19年法律第57号。以下「公庫法」という。)に基づく恒久的な制度として、主務大臣(財務大臣、農林水産大臣及び経済産業大臣)が内外の金融秩序の混乱等、危機対応業務を行うことが必要な状況である旨を認定する場合に、主務大臣の指定する金融機関(以下「指定金融機関」という。)が、株式会社日本政策金融公庫(以下「公庫」という。)から損害担保等の信用の供与を受けて、資金繰りが悪化しているなどの事業者に対して必要な資金の貸付けなどを行うものである。
株式会社商工組合中央金庫(以下「商工中金」という。)及び株式会社日本政策投資銀行(以下「政策銀行」という。)は、公庫法により、平成20年10月1日において指定金融機関の指定を受けたものとされている。そして、同年同月以降、両指定金融機関は、危機対応業務に係る各種の貸付けなどを実施しており、このうち、21年度末における危機対応業務の貸付実績は、計38,065件(貸付金額5兆8277億円)となっている。
指定金融機関は、危機対応業務の一環として、一定の要件に該当する事業者に対して、公庫が損害担保を引き受ける貸付け(以下「損害担保付貸付け」という。)を実施している。損害担保付貸付けは、指定金融機関が公庫と損害担保契約を締結し、危機対応業務として行った貸付けについて貸付金額に所定の補償料率等を乗じて算出した補償料をあらかじめ公庫に支払うことにより、貸付先の債務不履行等により指定金融機関に損害が生じた場合に、公庫から貸付金の残元本の一定割合(以下「補てん割合」という。)が指定金融機関に補償金として支払われるものである。そして、公庫における当該補償金支払の財源は、指定金融機関からの補償料収入及び国から公庫への出資金等(以下「国庫負担分」という。21年度末現在額3019億円)である。
また、損害担保付貸付けは、危機の認定に係る主務大臣告示(以下「認定告示」という。)により、危機の事案ごとに一定の要件に該当する事業者が貸付対象者として定められている。そして、20年10月以降の認定告示により、一定の要件に該当する事業者に対して、主に、以下の貸付種別の損害担保付貸付けが実施されている。
〔1〕 法定中小企業者(注) 、中小企業等協同組合等(以下「組合」という。)及び組合の構成員(以下「組合員」という。また、以下、「法定中小企業者」、「組合」及び「組合員」を合わせて「中小企業者等」という。)を対象とした貸付け(以下「中小企業等向け貸付け」という。)
〔2〕 資本金10億円未満の非法定中小企業者(以下「中堅企業」という。)及び資本金10億円以上の非法定中小企業者(以下「大企業」という。)であって組合員に該当する企業(以下、これらを合わせて「中堅企業等」という。)を対象とした貸付け(以下「中堅企業等向け貸付け」という。)
〔3〕 大企業であって組合員に該当しない企業を対象とした貸付け(以下「大企業向け貸付け」という。)
上記のとおり、組合員に該当する企業については、中小企業、中堅企業及び大企業という企業規模にかかわらず、〔1〕 の利用が可能となっており、また、大企業に該当する組合員は〔3〕 の利用はできないが、〔1〕 に加えて、〔2〕 の利用が可能となっている。一方、組合員でない企業については、企業規模に応じて、それぞれ〔1〕 、〔2〕 、〔3〕 を利用することとなっている。
損害担保付貸付けの補償料率及び補てん割合は、補償料率等を定めた主務大臣告示(以下「料率告示」という。)により次表のとおり定められていて、期限の定めはなく、中小企業等向け貸付けは、大企業向け貸付けなどに比べて補償料率が低くなっていて中小企業者等の負担をより軽減していたり、補てん割合が高くなっていてより手厚い信用補完になっていたりしている。また、貸付限度額は認定告示で定められており、21年1月に危機の認定が行われた「国際的な金融秩序の混乱に関する事案」の場合、22年9月現在、次表の「告示」欄にあるとおりとなっている。
また、国庫負担分は貴省等の予算で手当てされており、次表の「予算」欄にあるように、貸付先が債務不履行となる確率(以下「想定事故率」という。)を設定するなどした上で、指定金融機関が公庫に支払う補償料の額では補償金の支払に不足すると見込まれる額を国庫負担分として積算している。
このように、貴省等が予算において設定した想定事故率と国庫負担分をみると、中小企業等向け貸付けは、大企業向け貸付けなどに比べて国の財政負担による支援の度合いが高く設定されている。
区分 | 中小企業等向け貸付け | 中堅企業等向け貸付け | 大企業向け貸付け | |
告示 | 補償料率 | 0.1% | 0.5% | 0.3%又は0.5% |
補てん割合 | 80% | 70% | 50%以下 (信用リスク区分が一定の水準以下で貸付額200億円以上の場合等は80%以下) |
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貸付限度額 | 7.2億円等 | 20億円 | 制限なし | |
予算 | 想定事故率 | 2.5% | 1.5% | 0.83% |
国庫負担分 | 2.4% | 1.0% | 0.53%又は0.33% |
商工中金は、株式会社商工組合中央金庫法(平成19年法律第74号。20年9月30日以前は商工組合中央金庫法(昭和11年法律第14号))において、中小企業等協同組合、主として中小規模の事業者を構成員とする団体及びその構成員に対する金融の円滑化を図るために必要な業務を営むこととされている。そして、この業務としての貸付けは、20年10月に商工中金が株式会社に転換する以前から、組合員の企業規模により区別することなく実施されている。
危機対応業務の実施に当たっても、商工中金は、公庫法等に基づき、従前どおり組合員に対する貸付けを実施している。そして、商工中金が20年10月から22年1月までの間に実施した損害担保付貸付けの実績は、本店及び各支店で計27,096件(貸付金額1兆6329億円)となっている。
本院は、経済性、有効性等の観点から、損害担保付貸付けにおける補償料率、補てん割合等は、国の財政負担による支援の必要性からみて各貸付先企業の規模に見合った妥当なものとなっているかなどに着眼して、商工中金の上記の損害担保付貸付け27,096件(貸付金額1兆6329億円)のうち1件当たりの貸付金額が1億円以上のもの6,213件(貸付金額8571億5739万余円)及び政策銀行が20年10月から22年3月までの間に実施した損害担保付貸付け33件(貸付金額2335億円。全件が1件当たり1億円以上の貸付けとなっている。)を対象として、中小企業庁、商工中金本店及び10支店、政策銀行本店並びに公庫本店において、貸付関係書類等を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、残りの商工中金81支店については貸付関係書類等の提出を受けて検査した。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
指定金融機関の一方である政策銀行が公庫法、認定告示、料率告示(以下、両告示を合わせて「告示」という。)等に基づいて実施した損害担保付貸付け33件をみると、すべて中小企業、中堅企業及び大企業という企業規模に見合った貸付種別の貸付けを行って当該貸付種別の補償料率及び補てん割合を適用した損害担保契約を公庫と締結していた。
これに対して、同じ公庫法、告示等に基づいて商工中金が実施した前記の損害担保付貸付け6,213件をみると、大企業に該当する組合員に対して、中小企業等向け貸付けの補償料率及び補てん割合を適用していたものが84件、中堅企業等向け貸付けの補償料率及び補てん割合を適用していたものが111件見受けられた。上記計195件の中には、東京証券取引所一部に上場している企業への貸付けも53件含まれていた。また、中堅企業に該当する組合員に対して、中小企業等向け貸付けの補償料率及び補てん割合を適用していたものが315件見受けられるなどした。以上のように、商工中金においては、組合員である企業に対して企業規模に見合っていない貸付種別の補償料率及び補てん割合を適用していたものが、6,213件中512件あり、これに係る貸付金額は、1127億3000万円となっていた。
このように、商工中金は、企業規模にかかわらず、組合員であるという理由のみで、中小企業等向け貸付け又は中堅企業等向け貸付けの補償料率及び補てん割合を適用した損害担保契約を公庫と締結していた。
危機対応業務は、企業規模にかかわらず資金を必要とする企業を対象者として国の財政負担等により行われる資金繰り支援である。このうち中小企業等向け損害担保付貸付けの対象とされる中小企業の多くは、以下のような状況に置かれている。
ア 中小企業庁の「中小企業白書2010」が参考資料としている株式会社東京商工リサーチの「全国企業倒産状況」にある企業の倒産件数等から、17年度から21年度までの5年間における法定中小企業者と上場企業の平均の倒産件数の比率をみると、中小企業の場合は0.96%であるのに対して、上場企業の場合は0.38%であり、中小企業の方が比率は高くなっている。
イ 貴省がホームページ上で公表している「新しい中小企業金融研究会」報告書(18年7月)では、中小企業の財務体質のぜい弱性(自己資本の不足)が問題視され、これらを要因として信用度に劣ることが多いとされている。また、財務省が毎年公表している法人企業統計調査の結果によると、資本金が1000万円以上1億円未満の企業の自己資本比率は、15年度から19年度までの間で平均値は25.6%となっているが、資本金が10億円以上の企業の同期間における自己資本比率の平均値は38.2%となっており、10ポイント程度の差が見受けられる。
このように、一般的に中小企業と大企業等とでは信用補完等による支援の必要性の程度が異なるものと思料される。したがって、中小企業のみならず中堅企業及び大企業も対象とされている損害担保付貸付けを行うに当たっては、公庫との損害担保契約において適用する補償料率及び補てん割合がそれぞれの企業規模に見合ったものとなるようにすべきであると認められる。
前記(1)の商工中金が企業規模に見合っていない貸付種別の補償料率及び補てん割合を適用している損害担保付貸付け512件について、商工中金が公庫へ支払う補償料の額及び国庫負担分について、現在の契約に基づく場合と、前記(2)を踏まえて貸付先の実際の企業規模に見合った貸付種別の補償料率及び補てん割合を適用することとするなどして試算した結果とを比較すると、次のとおりとなる。
ア 現在の契約において商工中金が公庫に支払った補償料は計4億9786万余円であるが、仮に実際の企業規模に見合った貸付種別の補償料率及び補てん割合を適用したとして補償料を算定すると5億1509万余円となり、現在の契約の場合に比べて公庫への支払額が1723万余円不足することとなる。
イ 現在の契約で、仮に想定事故率どおりに貸付先に事故が発生して公庫が商工中金に対して補償金を支払うこととなった場合、その財源として必要となる国庫負担分は12億1858万余円となるが、実際の企業規模に見合った貸付種別の補償料率及び補てん割合を適用したとして将来想定される国庫負担分を算定すると8億4933万余円となり、現在の契約の場合は、これに比べて国庫負担分が3億6925万余円大きくなることが想定されることとなる。
実際に、21年度末現在で、大企業に該当する組合員に対して、中堅企業等向け貸付けの補てん割合70%を適用して貸付けが行われたもののうち3件が債務不履行になり、公庫から商工中金に対して補償金7億9775万余円が支払われている。当該貸付けについて、仮に大企業向け貸付けの補てん割合50%を適用したとすれば補償金の支払額は5億6982万余円となり、2億2792万余円少なくなることとなる。
商工中金が実施した前記の損害担保付貸付け512件(貸付金額1127億3000万円)について、組合員であることのみを理由として企業規模に見合っていない貸付種別の補償料率及び補てん割合を適用した損害担保契約を締結している事態は、信用補完等による支援の必要性の程度が大企業等とは異なる中小企業に対して、より手厚い信用補完を行うなどの国の財政負担による支援の在り方からみて適切ではなく改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴省において、損害担保付貸付けに関し、告示等により、組合員については企業規模にかかわらず中小企業等向け貸付けなどの補償料率及び補てん割合を一律に適用することとしていることなどによると認められる。
危機対応業務の損害担保付貸付けは、指定金融機関に損害が生じた場合に公庫による補償金の支払を通じて国が一定の負担をすることになることから、国の財政負担による支援が信用補完等の必要性の程度に応じた適切なものとなるような制度の在り方が求められる。
また、危機対応業務は公庫法に基づく恒久的な制度であり、料率告示には期限の定めがないことから、今後も商工中金等の指定金融機関は現行の料率告示に基づいて損害担保付貸付けなどの危機対応業務を実施することとなる。
ついては、貴省において、指定金融機関が組合員に対して損害担保付貸付けを実施する場合でも、公庫と指定金融機関との損害担保契約の補償料率や補てん割合が中小企業、中堅企業及び大企業という企業規模に見合ったものとなるよう告示等の改正を行うなどして、公庫の補償金支払財源の一部である国庫負担分が信用補完等支援の必要性の程度に応じた適切なものとなるよう意見を表示する。