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  • 平成21年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第13 国土交通省|
  • 不当事項|
  • 補助金|
  • 補助事業の実施及び経理が不当と認められるもの

擁壁の設計が適切でなかったもの


(3) 工事の設計が適切でなかったもの4件 不当と認める国庫補助金 190,083,877円

 擁壁の設計が適切でなかったもの
(1件 不当と認める国庫補助金 139,136,200円)

  部局等
補助事業者等
(事業主体)
補助事業等 年度
事業費
(国庫補助対象事業費)
左に対する国庫補助金等交付額
不当と認める事業費
(国庫補助対象事業費)
不当と認める国庫補助金等相当額
          千円 千円 千円 千円
(747) 熊本県 熊本県 河川等災害復旧 17、18 262,598
(235,268)
156,923 217,616
(208,600)
139,136

 この補助事業は、熊本県が、球磨郡五木村築切地内において、台風により被災した一般国道445号の車道部等及び一級河川川辺川の護岸を復旧するため、土工、山留工等を実施したものである。
 このうち山留工は、鋼管杭(外径508.0mm、杭長20.5m〜26.0m)を建て込むなどして構築する山留壁からアンカー計21本を地山に打ち込み、アンカー頭部に鋼製台座、腹起し材、ブラケット等を設置して擁壁(延長計80.0m)を築造するものである。そして、腹起し材は、鋼製台座を介して作用するアンカーの張力を山留壁に均等に伝えるためにH形鋼を水平に二段設置するものであり、ブラケットは、この腹起し材を支えるために三角形に組み立てた等辺山形鋼を上下二段に鋼管杭に溶接して固定したものである(参考図参照)。
 同県は、本件擁壁の設計を「グラウンドアンカー設計・施工基準,同解説」(社団法人地盤工学会編)等(以下「基準等」という。)に基づいて行っている。そして、ブラケットのうち、下段ブラケットについては基準等に基づき設計計算を行い、下段ブラケットと鋼管杭との溶接部には、腹起し材を介して、アンカーの張力により最小77kN〜最大106kNのせん断力が作用するとしていた。そして、このせん断力に対して安全となる必要溶接長を、溶接部の許容せん断応力度(注1) 72N/mm に基づき135mm〜185mmと算定して、下段ブラケットと鋼管杭との接合部分(長さ350mm)の全長を溶接すれば、溶接長が必要溶接長を上回ることから、応力計算上安全であるとして、これにより施工していた。
 しかし、下段ブラケットと鋼管杭との溶接部には、アンカーの張力による鉛直力と腹起し材の自重により、せん断力と曲げモーメント(注2) が同時に作用することとなる。そして、基準等によると、このような場合には、せん断力と曲げモーメントを合成した応力度に対して安全となるよう設計する必要があるとされているのに、同県では、せん断力のみが作用することとして設計していた。
 そこで、本件下段ブラケットについて、基準等に基づき改めて設計計算を行ったところ、鋼管杭との溶接部(長さ350mm)に作用する応力度は195N/mm 〜266N/mm となり、前記の許容応力度72N/mm を大幅に上回っていて、応力計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。
 したがって、本件擁壁(工事費相当額217,616,000円、うち国庫補助対象額208,600,000円)は、設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金相当額139,136,200円が不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、同県において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。

 許容せん断応力度  外力が材に作用して、これを切断しようとする力がかかったときに、そのため に材の内部に生ずる力の単位面積当たりの大きさをせん断応力度といい、その数値が設計上許さ れる上限を「許容せん断応力度」という。

 曲げモーメント  外力が材に作用し、これを曲げようとする力の大きさをいう。

(参考図)

断面図

断面図

アンカー頭部の概念図

アンカー頭部の概念図

アンカー頭部拡大図

アンカー頭部拡大図