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労災病院における診療報酬の請求に当たり、手術料等の請求額に過不足があったもの


(857)—(860) 労災病院における診療報酬の請求に当たり、手術料等の請求額に過不足があったもの

科目 医療事業収入
部局等 4労災病院
請求過不足があった診療報酬 手術料、麻酔料、入院料等など
請求過不足額 請求不足額  39,852,740円 (平成20、21両年度)
  請求過大額 2,766,890円 (平成20、21両年度)

1 診療報酬の概要

(1) 診療報酬の算定及び請求

 独立行政法人労働者健康福祉機構が設置している労災病院は、業務災害又は通勤災害を被った労働者に対する診療を行うほか、保険医療機関として健康保険等の患者の診療を行っている。
 このうち、保険医療機関としての診療に要した費用については、診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号。以下「厚生労働省告示」という。)等により、診療報酬として所定の診療点数(以下「点数」という。)に単価(10円)を乗ずるなどして算定することとなっている。そして、保険医療機関は、健康保険法(大正11年法律第70号)等により、診療報酬のうち患者負担分を患者に請求して、残りの診療報酬については、診療報酬請求書に診療報酬の明細を明らかにした診療報酬明細書(以下「レセプト」という。)を添付して社会保険診療報酬支払基金等に対して請求することとなっている。

(2) 診療報酬の構成

 診療報酬は、厚生労働省告示により、基本診療料と特掲診療料から構成されている。
 このうち、基本診療料は、初診、再診及び入院診療の際にそれぞれ行われる診療行為又は入院サービスの費用等を一括して算定するもので、初・再診料と入院料等に区分されている。
 また、特掲診療料は、基本診療料として一括して算定することが妥当でない特別の診療行為に対して、厚生労働省告示において個々に定められた点数により算定するもので、注射料、処置料、手術料、麻酔料等に区分されている。

(3) 手術料、麻酔料及び入院料等

 手術料は、厚生労働省告示により、手術の種類ごとに所定の点数が定められている。そして、緊急のために、休日又は診療時間以外の時間に手術を開始した場合は、当該手術の点数に、休日、深夜の場合はその100分の80、それ以外の場合は100分の40に相当する点数を加算することとなっている。また、手術において特定保険医療材料(注1) を使用した場合は、当該手術の点数と当該特定保険医療材料の点数とを合算して算定することとなっている。このほか、同一手術野又は同一病巣に、2以上の手術を同時に行った場合は、原則として主たる手術の点数のみにより算定するが、厚生労働大臣が定める2以上の手術を同時に行った場合は、主たる手術の点数と従たる手術の点数の100分の50に相当する点数とを合算して算定することとなっている。
 麻酔料は、厚生労働省告示により、麻酔の種類ごとに所定の点数が定められている。そして、マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔(注2) (以下「全身麻酔」という。)を、厚生労働大臣が定める麻酔が困難な患者に対して行った場合は、それ以外の患者に対して行った場合に適用される点数より高い点数により麻酔料を算定することとなっている。
 入院料等には、入院基本料、入院基本料等加算などがある。この入院基本料等加算のうち、救急医療管理加算は、救急医療態勢を確保している保険医療機関に、緊急に入院を必要とする重症患者として入院した患者について、入院基本料等の点数に所定の点数を加算して算定することとなっている。

(4) 労災病院における診療報酬の請求事務

 労災病院は、これらの診療報酬請求事務をコンピュータシステムを使用して行っている。すなわち、手術等の診療行為を行った場合は、診療部門は手術名、使用した薬剤、特定保険医療材料、患者の状態等を伝票に記入し、又はコンピュータ上のオーダー画面に入力するなどして料金算定部門に送付して、料金算定部門は、この伝票の記載内容等をコンピュータに入力するなどして、これにより診療報酬の算定及び請求を行っている。

(注1)
 特定保険医療材料  厚生労働大臣が手術等の点数と合算してその費用を算定することができると定めている特定の保険医療材料で、人工血管、骨セメント等がこれに該当する。
(注2)
 閉鎖循環式全身麻酔  閉鎖循環式全身麻酔器を用いて、患者の呼気中の炭酸ガスを除去しながら、麻酔ガスと酸素を補給する吸入麻酔法

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

 本院は、5労災病院において、合規性等の観点から、平成20年度又は21年度の診療報酬の算定及び請求が適正に行われているかなどに着眼して、入院に係るレセプト控えなどの書類により会計実地検査を行った。

(2) 検査の結果

 検査の結果、4労災病院において、診療報酬請求額が不足していたものが1,142件、39,852,740円、診療報酬請求額が過大になっていたものが70件、2,766,890円あり、不当と認められる。
 これらについて、その主な態様を診療報酬の別に示すと次のとおりである。

ア 手術料に関するもの

 4労災病院は、緊急のために、休日又は診療時間以外の時間に手術を開始しているのに、手術の点数に100分の80又は100分の40の加算を行っていなかったり、手術において特定保険医療材料を使用しているのに、その点数を手術の点数に合算していなかったりなどしていた。このため、手術料が過小に算定されていて、診療報酬請求額が555件、25,936,770円不足していた。
 また、4労災病院は、同一手術野又は同一病巣に、厚生労働大臣が定める2以上の手術を同時に行っているのに、主たる手術の点数に従たる手術の点数をそのまま合算するなどしていた。このため、手術料が過大に算定されていて、診療報酬請求額が37件、2,038,620円過大になっていた。

イ 麻酔料に関するもの

 4労災病院は、全身麻酔を厚生労働大臣が定める麻酔が困難な患者に対して行っているのに、それ以外の患者に対して行った場合に適用されるより低い点数により麻酔料を算定するなどしていた。このため、麻酔料が過小に算定されていて、診療報酬請求額が284件、8,301,280円不足していた。

ウ 入院料等に関するもの

 4労災病院は、救急医療管理加算の算定対象となる患者が入院しているのに、所定の点数を加算していないなどしていた。このため、入院料等が過小に算定されていて、診療報酬請求額が118件、4,391,500円不足していた。

 このような事態が生じていたのは、4労災病院において、次のことなどによると認められる。

ア 請求不足については、診療部門において手術等の診療内容を伝票に記入し、又はオーダー画面に入力する際に、使用した特定保険医療材料、患者の状態等に関する記入又は入力を漏らしていたこと、料金算定部門において手術日、手術開始時間等の確認が十分でなかったり、伝票の記載内容等をコンピュータに入力する際に記載内容を見落とすなどして入力していなかったりしていたこと、また、診療部門及び料金算定部門において入院料等の算定に関する認識が十分でなかったこと

イ 請求過大については、料金算定部門において手術料の算定に関する認識が十分でなかったこと

 これを労災病院別に示すと次のとおりである。

労災病院における診療報酬の請求に当たり、手術料等の請求額に過不足があったものの表1

(注)
 1件で、複数の診療報酬について請求過不足が生じている場合は、請求過不足額が最も多い診療報酬で分類している。