科目 | 営業費用 | |
部局等 | 西日本電信電話株式会社本社及び33支店 | |
工事の概要 | 加入者の申込みに応じて、作業員を派遣して光ケーブルの新設作業や引込線等の撤去作業等を行う工事 | |
工事の件数 | 8,685,088件 | (平成20年7月〜22年3月分) |
上記に係る請負工事費 | 1126億3410万余円 | |
非効率となっていた工事の件数 | 465,413件 | (平成20年7月〜22年3月分) |
非効率となっていた工事の発生を防止したとした場合に節減できた請負工事費 | 18億3630万円 | (平成20年7月〜22年3月分) |
西日本電信電話株式会社(以下「NTT西日本」という。)は、加入電話やADSLサービスなどの通信サービスを提供するため、メタルケーブルや加入者宅等に配線する引込線、回線を保護する保安器等の加入者回線設備を多数保有している。
近年、光ケーブルを使用する通信サービスが拡大して、メタルケーブルを使用する通信サービス(以下「メタルケーブル系サービス」という。)の加入者数が毎年減少してきていることから、NTT西日本は、作業員を派遣して光ケーブルの新設作業や、引込線、保安器等(以下「引込線等」という。)の撤去作業等を行う工事(以下「派遣工事」という。)を多数実施している。このうち、引込線等の撤去作業においては、将来の新規加入等に備えて空き心線を確保することを目的として、電柱上のメタルケーブルと引込線との分岐点でメタルケーブルの心線をあらかじめ再接続する作業(以下「心線再接続作業」という。)を行っている(参考図参照)
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NTT西日本は、これらの派遣工事を通信建設会社に請け負わせて実施しており、この請負工事費は、1回の派遣工事で実施する上記の各作業に直接要する経費(以下「作業費」という。)と加入者宅等への現場移動に要する経費(以下「派遣費」という。)とを合計して支払うこととしている。
そして、通信建設会社への発注に当たっては、加入者からメタルケーブル系サービスの休止、解約等の注文を受け付けた各支店の受付部門等が、注文内容や社内データベースの顧客情報から派遣工事の要否及びその作業内容を判断して、派遣工事が必要な場合には、当該受付部門から通信建設会社に直接発注しており、また、それらの要否等について更に検討を要する場合には、設備部門において必要な作業工程等を調査した上、設備部門から発注している。
加入者回線設備についてはユニバーサルサービス制度(注1)
の支援対象となっていて、その維持に要する費用の節減はNTT西日本及びその加入者のみにとどまらず、通信サービスの利用者全体にとって緊要な課題となっている。また、近年、更に加入者数が減少し、メタルケーブルに相当数の空き心線が生じていると見込まれることから、本院は、経済性、効率性等の観点から、派遣工事で実施する作業内容や作業量等は経済的・効率的なものとなっているかに着眼して検査した。
そして、NTT西日本の全33支店(注2)
が平成20年7月から22年3月までの間に実施した派遣工事について、通信建設会社からの請求データを入手して分析するとともに、21、22両年次に延べ33支店(21年次16支店(注3)
、22年次17支店(注4)
)において会計実地検査を行うなどして検査した。
(注1) | ユニバーサルサービス制度 加入者が支払う基本料では加入者回線設備の費用を賄えず、基本料部門の収支が赤字となった場合は、費用の一部を、法令で定める電気通信事業者全体で応分に負担する制度。電気通信事業者等の多くは、負担金をそれぞれの利用者に転嫁している(平成20年1月から21年1月までは電話番号当たり毎月6円、21年2月からは8円)。
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(注2) | 全33支店 大阪、大阪東、大阪南、和歌山、京都、奈良、滋賀、兵庫、名古屋、静岡、岐阜、三重、金沢、富山、福井、広島、島根、岡山、鳥取、山口、愛媛、香川、徳島、高知、福岡、北九州、佐賀、長崎、熊本、大分、鹿児島、宮崎、沖縄各支店
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(注3) | 21年次16支店 大阪、大阪東、大阪南、奈良、兵庫、名古屋、金沢、富山、広島、島根、岡山、鳥取、福岡、大分、宮崎、沖縄各支店
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(注4) | 22年次17支店 大阪、大阪東、大阪南、和歌山、京都、名古屋、三重、金沢、広島、山口、愛媛、香川、徳島、福岡、佐賀、長崎、熊本各支店
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本院が、NTT西日本の各支店において実施されていた派遣工事計8,685,088件(請負工事費計1126億3410万余円)について、通信建設会社からの請求データに基づき検査したところ、1回の派遣で心線再接続作業のみを行っている派遣工事(以下「単独工事」という。)がすべての33支店において計465,413件発生しており、これらに係る請負工事費は計18億3637万余円に上っていた。そして、これらの単独工事は、1件当たりの請負工事費が平均3,940円であるのに対して、そのうち心線再接続の作業費は、平均620円に過ぎず、請負工事費の大部分が派遣費で占められている非効率なものとなっていた。
そこで、上記465,413件の単独工事のうち、支店ごとに50件をそれぞれ任意に抽出した計1,650件について、単独工事となった理由等を調査したところ、そのほとんどは、加入者が不在であったために、加入者宅等で引込線等の撤去作業を行えず、電柱上で心線再接続作業のみを行っていたものとなっていた。そして、その原因は、各支店の受付部門から通信建設会社への発注指示の内容が、加入者が不在であった場合でも心線再接続作業は実施することとしていたり、通信建設会社が事前に加入者の在宅確認を十分行わないまま加入者宅等を訪問していたりしていることなどによると認められた。
しかし、派遣工事の発注については、その発注前に、社内データベースの設備情報を参照するなどして、心線再接続作業の対象となるメタルケーブルの空き心線の充足状況の確認を行うことにより、心線再接続作業の必要性を判断できること、また、通信建設会社に発注する際に、加入者宅等訪問時の事前連絡を徹底することなどにより、非効率な単独工事の発生を防止することが可能であると認められた。また、20年12月におけるNTT西日本の全メタルケーブルにおいて、使用中の心線の割合は43%程度となっていて、将来の新規加入等に備える空き心線には十分な余裕がある状況となっていた。
したがって、このように、加入者数が減少していてメタルケーブルに相当数の空き心線が生じている状況の中で、加入者が不在の場合でも取り急ぎ行う必要のない心線再接続作業を行うよう指示していたことから、非効率な単独工事が発生していて、派遣工事に係る請負工事費が不経済となっている事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
NTT西日本において、加入者が不在の場合には心線再接続作業を行わないこととするよう発注指示の方法を見直したり、加入者に対する事前連絡を徹底したりするなどすれば、非効率な単独工事の発生を防止することが可能となり、前記の単独工事465,413件に係る請負工事費約18億3630万円を節減できたと認められた。
このような事態が生じていたのは、NTT西日本本社及び各支店において、派遣工事の中に非効率な単独工事が発生して不経済となっている事態に対する認識が十分でないこと、本社において、引込線等の撤去及び残置に関する指示文書で、加入者が不在の場合の適切な対応方法を明確に示していないこと、各支店において、受付部門が、加入者の増加していた時期に行っていた作業の方法を見直すことなく発注指示していたことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、NTT西日本本社は、21年10月及び22年7月に、各支店に対し通知文書を発して、派遣工事において、加入者が不在の場合には心線再接続作業のみを行うとする発注指示を行わないことを徹底するとともに、通信建設会社による加入者への事前連絡を徹底させることにより、非効率な単独工事の発生を防止して、加入者回線設備の維持に要する費用の節減を図る処置を講じた。
心線再接続作業の概念図