検査対象 | 検査対象総務省、法務省、財務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省 |
会計名 | 交付税及び譲与税配付金、登記、国債整理基金、特定国有財産整備(平成21年度末まで設置)、エネルギー対策、国立高度専門医療センター(平成21年度末まで設置)、労働保険、船員保険(平成21年12月末まで設置)、年金、食料安定供給、農業共済再保険、国有林野事業、漁船再保険及び漁業共済保険、貿易再保険、特許、社会資本整備事業、自動車安全各特別会計 |
一般会計からの繰入れの概要 | 特別会計に関する法律(平成19年法律第23号)第6条等の規定に基づき、各特別会計において経理されている事務及び事業に係る経費のうち、一般会計からの繰入れの対象となるべき経費の財源に充てるために必要があるときに限り、予算で定めるところにより、一般会計から当該特別会計に繰り入れるもの |
一般会計からの繰入金 | 48兆0417億円(平成20年度) |
国は、特別会計に関する法律(平成19年法律第23号。以下「特会法」という。)に基づき、その経理を一般会計と区分して行うため特別会計を設置しており、平成20年度における 特別会計は21会計(注1)
となっている。そして、各特別会計は、各省各庁の長が法令で定めるところに従い管理することとされており、一つの特別会計の中で複数の事業が実施されていて、それぞれの事業収支を区分する必要がある場合には、その単位として勘定が設けられている(以下、勘定区分のない特別会計についても1勘定と数えることとする。これによれば、21特別会計の勘定数は53となる。)。
20年度決算における21特別会計53勘定の収納済歳入額は計387兆7395億余円で、その内訳をみると、公債金・借入金が9特別会計10勘定で計128兆0424億余円(21特別会計53勘定の収納済歳入額の33.0%)、他会計・他勘定からの受入れが6特別会計17勘定で計90兆9213億余円(同23.4%)、一般会計からの繰入れが17特別会計36勘定で計48兆0417億余円(同12.3%)となっており、このほかに、公的サービスの対価として徴収される自己財源、特定財源、負担金収入、事業収入もあるなど多種多様なものとなっている。
また、収納済歳入額から支出済歳出額を差し引いた額である決算剰余金は、予算額に対する歳入の増加、歳出予算の繰越、不用等が要因となって生じるものであり、21特別会計53勘定で計28兆5413億余円となっている。この決算剰余金の処理については、特会法第8条第1項において、「各特別会計における毎会計年度の歳入歳出の決算上剰余金を生じた場合において、当該剰余金から次章の定めるところにより当該特別会計の積立金として積み立てる金額及び資金に組み入れる金額を控除してなお残余があるときは、これを当該特別会計の翌年度の歳入に繰り入れるものとする。」と規定されている。
特別会計又はその勘定の歳入のうち、一般会計からの繰入金は、事務事業の支出に充てるための財源の一部又は全部を、一般会計から特別会計又はその勘定に繰り入れるものである。
特会法第6条では、「各特別会計において経理されている事務及び事業に係る経費のうち、一般会計からの繰入れの対象となるべき経費(以下「一般会計からの繰入対象経費」という。)が次章に定められている場合において、一般会計からの繰入対象経費の財源に充てるために必要があるときに限り、予算で定めるところにより、一般会計から当該特別会計に繰入れをすることができる。」と規定されている。また、特会法附則第390条において、「第6条の規定は、この法律の施行前に他の法令において定められた一般会計から特別会計への繰入れに関する規定の適用を妨げるものではない。」と規定されている。
このほか、交付税及び譲与税配付金特別会計、国債整理基金特別会計、エネルギー対策特別会計のエネルギー需給勘定及び電源開発促進勘定については、それぞれ特会法第24条、第42条、第90条及び第91条において、特会法第6条の規定にかかわらず、当該各規定で定められた方法により算定した金額を、一般会計から当該特別会計又は勘定に繰り入れるものとすることなどが規定されている(以下、「一般会計からの繰入対象経費」その他の一般会計から繰り入れた財源が充てられる経費を「繰入対象経費」という。)。
財政法(昭和22年法律第34号)第4条第1項においては、「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。」と規定されている(以下、この規定により発行される公債を「建設国債」という。)。
また、建設国債を発行してもなお歳入が不足すると見込まれた場合には、建設国債のほか、予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行することができるとする法律が制定されており(以下、このような法律の規定により発行される公債を「特例国債」という。)、20年度においては、「平成20年度における公債の発行の特例に関する法律」(平成20年法律第24号)により、特例国債を発行することができるとされている。そして、特例国債の発行は特例的に行われるものであること、また、税収など他の歳入の状況を考慮に入れ、できる限りその発行額を最小限に抑える必要があることから、同法においては、特例国債は予算をもって国会の議決を経た範囲内で、21年6月30日までの間発行できること(この場合において、同年4月1日以後に発行される特例国債に係る収入は、20年度所属の歳入となる。)などが定められている。
20年度における一般会計の収納済歳入額は89兆2082億余円で、その内訳は、租税及印紙収入44兆2673億余円(一般会計の収納済歳入額の49.6%)、公債金収入33兆1679億余円(同37.1%)、その他収入11兆7729億余円(同13.1%)となっている。そして、公債金収入の割合は、20年度決算では37.1%であったが、経済情勢の悪化等により、21年度一般会計決算では48.5%、22年度一般会計予算(当初)では47.9%に及んでおり、また、20年度末の公債残高は549兆4590億余円(財政投融資特別会計国債を除く。)となっているなど、我が国においては、財政の健全化が喫緊の課題となっている。
20年度における21特別会計53勘定の収納済歳入額をみると、前記のとおり計387兆7395億余円で、このうち一般会計からの繰入金は、17特別会計(注2)
36勘定において計48兆0417億余円(17特別会計36勘定の収納済歳入額の15.0%)となっており、一般会計の支出済歳出額84兆6973億余円の56.7%を占めている。
他方、20年度において一般会計からの繰入金を歳入としている17特別会計36勘定の決算剰余金は、21年度にほぼ全額が国債の償還や利払等の財源に充てられている国債整理基金特別会計の16兆4674億余円等の計20兆9830億余円となっており、この額は、18年度の計42兆6694億余円(一般会計からの繰入金を歳入としているのは24特別会計39勘定)、19年度の計34兆3154億余円(同23特別会計39勘定)より減少しているものの、依然として多額となっている。
そこで、本院は、合規性、効率性等の観点から、特別会計又はその勘定の歳入である一般会計からの繰入れは適切かつ効率的に行われているかなどに着眼し、これを税収のほか国債の発行等により調達されて特別会計に繰り入れられた資金のその後の状況とも関連付けて検査した。
本院は、20年度に一般会計からの繰入金を歳入としている17特別会計36勘定の20年度決算を対象に、それぞれを所管する7省(注3) の本省等において会計実地検査を行い、予算書、決算書等の関係書類によって、特別会計における歳出予算の執行はどのように管理されているかを横断的に分析するなどの方法により検査した。
17特別会計36勘定の20年度の歳入のうち、一般会計からの繰入金は、表1のとおり、計48兆0417億余円で、収納済歳入額(318兆5186億余円)に占める割合(繰入率)は15.0%となっているが、漁船再保険及び漁業共済保険特別会計(5勘定のうち3勘定)では93.8%、農業共済再保険特別会計(6勘定のうち5勘定)では70.2%と一般会計への依存度が高くなっている。
そして、一般会計からの繰入金は、他の財源とともに17特別会計36勘定の支出済歳出額297兆5356億余円の財源に充てられている。
特別会計名 | 収納済歳入額 A |
支出済歳出額 | ||
うち、一般会計からの繰入額 B |
繰入率 B/A×100(%) |
|||
交付税及び譲与税配付金 (1) | 51,127,046 | 15,679,227 | 30.6 | 50,502,918 |
登記 (1) | 189,413 | 67,751 | 35.7 | 161,915 |
国債整理基金 (1) | 194,751,644 | 19,166,464 | 9.8 | 178,284,150 |
特定国有財産整備 (1) | 192,150 | 3,942 | 2.0 | 73,042 |
エネルギー対策 (2) | 2,672,827 | 775,700 | 29.0 | 2,381,995 |
国立高度専門医療センター (1) | 169,874 | 48,710 | 28.6 | 152,437 |
労働保険 (3) | 7,934,842 | 161,741 | 2.0 | 6,753,446 |
船員保険 (1) | 67,391 | 3,907 | 5.7 | 63,360 |
年金 (6) | 51,675,326 | 8,157,637 | 15.7 | 51,052,701 |
食料安定供給 (2) | 1,394,183 | 291,979 | 20.9 | 1,346,568 |
農業共済再保険 (5) | 71,732 | 50,419 | 70.2 | 43,166 |
国有林野事業 (1) | 459,061 | 190,168 | 41.4 | 451,002 |
漁船再保険及び漁業共済保険 (3) | 16,352 | 15,341 | 93.8 | 15,541 |
貿易再保険 (1) | 219,309 | 2,386 | 1.0 | 64,983 |
特許 (1) | 307,267 | 18 | 0.0 | 109,486 |
社会資本整備事業 (5) | 7,220,259 | 3,425,467 | 47.4 | 6,039,353 |
自動車安全 (1) | 50,002 | 885 | 1.7 | 39,608 |
17特別会計(36勘定) 計 | 318,518,686 | 48,041,751 | 15.0 | 297,535,679 |
各省は、所管する各特別会計について、各四半期ごとに収入予定総表及び支払計画予定総表を作成しており、支出見込みなどを勘案して必要な額を一般会計から繰り入れている。
一般会計からの繰入金の収納時期をみると、表2のとおり、第1四半期が最も多くなっている。そして、この一般会計からの繰入金は各特別会計における繰入対象経費計164「項」の財源に充てられている。
特別会計名 | 繰入対象経費「項」数 | 平成20年度 | 計 | ||||
第1四半期 | 第2四半期 | 第3四半期 | 第4四半期 | 出納整理期間 | |||
交付税及び譲与税配付金 | 3 | 6,883,848 | 3,993,702 | 3,749,980 | 1,051,696 | — | 15,679,227 |
登記 | 1 | 18,174 | 11,699 | 18,934 | 18,943 | — | 67,751 |
国債整理基金 | 3 | 4,094,707 | 4,970,529 | 4,405,002 | 5,349,141 | 347,084 | 19,166,464 |
特定国有財産整備 | 4 | — | — | — | 3,942 | — | 3,942 |
エネルギー対策 | 19 | 23,700 | 72,800 | 144,850 | 435,100 | 99,250 | 775,700 |
国立高度専門医療センター | 3 | 18,433 | 8,991 | 8,292 | 12,993 | — | 48,710 |
労働保険 | 4 | 163 | 99 | 185 | 103 | 161,188 | 161,741 |
船員保険 | 6 | 1,023 | 855 | 986 | 1,042 | — | 3,907 |
年金 | 16 | 2,687,368 | 1,521,438 | 2,683,703 | 1,265,124 | 1 | 8,157,637 |
食料安定供給 | 5 | 167,603 | 35,684 | 44,192 | 44,110 | 388 | 291,979 |
農業共済再保険 | 3 | 7,194 | 14,165 | 2,242 | 6,530 | 20,286 | 50,419 |
国有林野事業 | 11 | 40,289 | 22,903 | 55,415 | 71,560 | — | 190,168 |
漁船再保険及び漁業共済保険 | 2 | 5,287 | 2,516 | 3,347 | 2,740 | 1,450 | 15,341 |
貿易再保険 | 5 | — | — | 2,386 | — | — | 2,386 |
特許 | 1 | 5 | 3 | 5 | 3 | — | 18 |
社会資本整備事業 | 77 | 1,063,547 | 638,938 | 612,906 | 1,086,116 | 23,960 | 3,425,467 |
自動車安全 | 1 | 267 | 177 | — | 267 | 173 | 885 |
17特別会計 計 | 164 | 15,011,614 | 11,294,504 | 11,732,431 | 9,349,417 | 653,783 | 48,041,751 |
各府省は、財政法第28条に規定する予算の添付書類の作成、公債発行額の決定等のために、「決算純計額報告書、決算見込額報告書及び決算見込純計額報告書等の様式並びに送付期限等について」(昭和33年蔵計第2138号)等に基づき、毎年度の12月末(第1次)、2月末(第2次)及び4月末(第3次)現在における一般会計及び特別会計の歳入歳出決算見込額を把握して、表3のとおり、財務省に報告することとなっている。この報告においては、歳出予算現額のうち、年度内に執行しないことが確実と見込まれる「項」「目」の不用見込額について、その不用理由と併せて報告することとなっている。
区分 | 報告書の種類 | 報告書の送付期限 |
歳入 | 平成〇〇年度 歳入決算見込額報告書 |
第1次 当該年度12月15日 (毎年事務連絡で1月初旬を期限としている) 第2次 当該年度3月15日 (毎年事務連絡で3月初旬を期限としている) 第3次 翌年度5月15日 (毎年事務連絡で一般会計は5月10日頃を期限としている) |
歳出 | 平成〇〇年度 歳出決算見込額報告書 (内訳) 翌年度繰越見込額内訳表 不用見込額内訳表 |
このうち、各年度2月末現在の状況として報告される第2次の歳入決算見込額報告書等の様式を示すと、図1から図4までのとおりである。
図1 歳入決算見込額報告書(第2次) | |
○○主管一般会計(○○所管○○特別会計 ○○勘定) | (単位:円) |
部款項目 | 歳入予算額 | 決算見込額 | 備考 | ||||||
(2月末現在) | 1月分まで備考の収納済額 | 2月分以降収納見込額 | 計(B) | 予算額との差(B−A) | |||||
当初予算額 | 補正額 | 移替額 | 計(A) | ||||||
合計 |
図2 歳出決算見込額報告書(第2次) | |
○○所管一般会計(○○所管○○特別会計 ○○勘定) | (単位:円) |
項目 | 歳出予算額 | 前年度繰越額 | 予備費使用額 | 予算総則の規定による経費増額 | 流用等増減額 | 歳出予算現額2月末現在 | |||
当初予算額 | 補正額 | 移替増減額 | 計 | ||||||
合計 | |||||||||
項目 | 決算見込額 | 翌年度繰越見込額 | 不用見込額 | 備考 | |||||
1月分までの支出済額 | 2月分以降支出見込額 | 計 | うち節約分 | ||||||
合計 |
図3 翌年度繰越見込額内訳表(第2次) | |
○○所管一般会計(○○所管○○特別会計 ○○勘定) | (単位:百万円) |
区分 | 項目 | 翌年度繰越見込額 | 繰越理由 |
合計 |
図4 不用見込額内訳表(第2次) | |
○○所管一般会計(○○所管○○特別会計 ○○勘定) | (単位:百万円) |
項目 | 不用見込額 | 不用理由 |
合計 |
そして、2月末及び4月末現在の状況として把握された一般会計の不用見込額は、財務省において、それぞれ当該年度の建設国債及び特例国債の発行額を決定するための参考資料として活用されている。
一方、特別会計の不用見込額は、建設国債等の発行額を決定するために直接活用されているものではない。しかし、2月末の繰入対象経費に係る不用見込額は、当該年度の経費としては支出する見込みがないものとして把握されているのであるから、これに相当する額を一般会計からの繰入金として繰り入れないこととすれば、特別会計において決算剰余金の額が抑制されるだけでなく、その額が一般会計において不用見込額として計上されることになることから、建設国債等の発行額を決定するための参考資料として活用することができることになる。
ア 特別会計において把握された繰入対象経費に係る不用見込額等の一般会計からの繰入額への反映状況
17特別会計で把握している20年度の不用見込額のうち、繰入対象経費に係るものは、表4のとおりとなっており、21年2月末現在で16特別会計27勘定において計2兆4689億余円となっていた。
特別会計名 | 不用見込額 | 不用額 (決算時) |
||
第1次 (20年12月末) |
第2次 (21年2月末) |
第3次 (21年4月末) |
||
交付税及び譲与税配付金 (1) | 148,966 | 309,057 | 309,671 | 309,671 |
登記 (1) | — | 1,823 | 1,959 | 1,961 |
国債整理基金 (1) | — | 635,087 | 789,032 | 773,618 |
特定国有財産整備 (1) | 108 | 4,784 | 12,443 | 12,443 |
エネルギー対策 (2) | 92,220 | 94,720 | 201,423 | 201,423 |
国立高度専門医療センター (1) | — | 1,862 | 1,540 | 1,540 |
労働保険 (3) | 24,359 | 33,694 | 170,716 | 170,716 |
船員保険 (1) | — | 925 | 2,598 | 2,597 |
年金 (6) | 0 | 1,355,919 | 1,500,206 | 1,499,480 |
食料安定供給 (2) | — | 8,756 | 10,774 | 10,774 |
農業共済再保険 | — | — | 90 | 90 |
国有林野事業 (1) | — | 18,905 | 18,901 | 18,901 |
漁船再保険及び漁業共済保険 (1) | — | 6 | 49 | 49 |
貿易再保険 (1) | 22 | 22 | 147,112 | 147,116 |
特許 (1) | — | 545 | 11,067 | 11,067 |
社会資本整備事業 (3) | — | 1,773 | 15,370 | 14,749 |
自動車安全 (1) | 923 | 1,099 | 2,532 | 2,532 |
計 | 266,602 | 2,468,984 | 3,195,490 | 3,178,735 |
そこで、2月末の不用見込額を把握している16特別会計27勘定における2月末の不用見込額の一般会計からの繰入額への反映状況を検査したところ、国債整理基金特別会計、労働保険特別会計の徴収勘定、年金特別会計の業務勘定及び漁船再保険及び漁業共済保険特別会計の業務勘定、計4特別会計4勘定においては、2月末の不用見込額の全額を一般会計からの繰入額に反映し、一般会計からの繰入れを減額していた。しかし、それ以外の14特別会計23勘定においては、2月末の不用見込額の全部又は一部に対応する額を一般会計からの繰入額に反映していないなどの状況となっていた。これは、上記14特別会計23勘定のうち9特別会計14勘定については、次のような事情によるものとなっていた。
(ア) 法令の規定により算定されるなどした金額が一般会計からの繰入れとして繰り入れられることとされているため、不用見込額を反映することができないもの
4特別会計5勘定
(イ) 一般会計からの繰入金の予算額が繰入金の充てられる経費の歳出見積額に不足するなどのため、不用見込額を反映することが困難なもの
4特別会計4勘定
(ウ) 一般会計から繰り入れた金額が繰入対象経費の決算額を超過した場合には精算する旨の規定が特会法にあり、不用見込額を反映する必要がないもの
2特別会計5勘定
これに対して、表5のとおり、残りの6特別会計9勘定においては、2月末の不用見込額を一般会計からの繰入額に反映できるのに反映していなかったものなどである。これらについては、2月末の不用見込額を反映させることなどにより一般会計からの繰入れを計502億7096万余円減額することができると認められたことから、22年度限りで廃止される登記特別会計を除く5特別会計8勘定について、各特別会計を所管する厚生労働大臣、農林水産大臣及び国土交通大臣に対して、それぞれ会計検査院法第36条の規定により意見を表示し、又は改善の処置を要求した(前掲 3か所参照 1
2
3
)。
また、22年度限りで廃止される登記特別会計において見受けられた事態は次のとおりである。
すなわち、登記特別会計における繰入対象経費は、特会法附則第204条の規定により、登記所に係る事務のうち登記の審査に関する事務及び登記所の管理に関する事務に要する経費とされている。そして、20年度決算における繰入対象経費に係る不用額は、(項)事務取扱費に係るもので計19億6102万余円となっているが、法務省は、21年2月末の時点では、これらに係る不用見込額を18億2334万余円であると把握していたにもかかわらず、これを一般会計からの繰入額に反映させていなかった。このため、上記の不用見込額を一般会計からの繰入額に反映させていれば、この不用見込額のうち登記の審査に関する事務に要する経費に対応する13億3143万余円は一般会計からの繰入れを減額することができたと認められるのに、この不用見込額のうち繰入対象経費に対応する財源を含めて一般会計から繰り入れていた。
所管 | 特別会計名 | 勘定名 | 「第3章個別の検査結果」における掲記の状況 | 事態の概要 | 減額できた額 |
法務省 | 登記 | — | 歳出予算の執行過程で把握していた不用見込額を反映することにより、一般会計からの繰入れを減額することができたもの | (13億3143万円) | |
(平成22年度限りで廃止) | |||||
厚生労働省 | 年金 | 健康 | 会計検査院法第36条改善の処置を要求したもの | 累積債務に係る借入金利子の支払実績額が歳出予算額を下回っているのに、一般会計からの繰入れを減額していないもの | 96億3378万円 |
農林水産省 | 食料安定供給 | 調整(農業経営安定) | 会計検査院法第36条 意見を表示したもの |
農業経営安定勘定の翌年度の財源として繰り越すために交付金として実際に当年度に交付を要しないため不用になる額を一般会計から繰り入れているもの | 311億7128万円 |
国営土地改良事業 | 会計検査院法第36条 改善の処置を要求したもの |
歳出予算の執行過程で把握した執行見込額を反映することにより、一般会計からの繰入れを減額することができたもの | 2億5000万円 | ||
国有林野事業 | — | 会計検査院法第36条 改善の処置を要求したもの |
歳出予算の執行過程で把握していた不用見込額を反映することにより、一般会計からの繰入れを減額することができたもの | 63億6908万円 | |
国土交通省 | 社会資本整備事業 | 治水 | 会計検査院法第36条 改善の処置を要求したもの |
歳出予算の執行過程で把握していた不用見込額を反映することにより、一般会計からの繰入れを減額することができたもの | 3249万円 |
道路整備 | 11億5830万円 | ||||
港湾 | 3億0448万円 | ||||
自動車安全 | 自動車検査登録 | 2008万円 | |||
6特別会計9勘定 計 | 502億7096万円 |
また、以上の2月末の不用見込額の一般会計からの繰入額への反映状況を態様別に一覧にして示すと、表6のとおりである。
特別会計名 | 態様 | ||||
不用見込額を一般会計からの繰入額に反映していたもの | 不用見込額を一般会計からの繰入額に反映するのが困難なものなど | 2月末の不用見込額を一般会計からの繰入額に反映できるのに反映していなかったものなど | |||
(ア) | (イ) | (ウ) | |||
交付税及び譲与税配付金(1) | 〔1〕 | ||||
登記 | 〔1〕 | ||||
国債整理基金(1) | 〔1〕 | ||||
特定国有財産整備(1) | 〔1〕 | ||||
エネルギー対策(2) | 〔2〕 | ||||
国立高度専門医療センター(1) | 〔1〕 | ||||
労働保険(3) | 〔1〕 〔徴収勘定〕 | 〔1〕 〔労災勘定〕 | 〔1〕 〔雇用勘定〕 | ||
船員保険(1) | 〔1〕 | ||||
年金 | 〔1〕 〔業務勘定〕 | 〔4〕 〔国民年金、厚生年金、福祉年金、児童手当各勘定〕 | 〔1〕 〔健康勘定〕 | ||
食料安定供給(2) | 〔2〕 〔調整(農業経営安定)、国営土地改良事業両勘定〕 | ||||
国有林野事業(1) | 〔1〕 | ||||
漁船再保険及び漁業共済保険(1) | 〔1〕 〔業務勘定〕 | ||||
貿易再保険(1) | 〔1〕 | ||||
特許(1) | 〔1〕 | ||||
社会資本整備事業(3) | 〔3〕 〔治水、道路整備、港湾各勘定〕 | ||||
自動車安全(1) | 〔1〕 〔自動車検査登録勘定〕 | ||||
16特別会計(27勘定) | 4特別会計 4勘定 |
4特別会計 5勘定 |
4特別会計 4勘定 |
2特別会計 5勘定 |
6特別会計9勘定 |
9特別会計14勘定 | |||||
14特別会計23勘定 |
イ 一般会計からの繰入額が過大になっている事態
一般会計からの繰入れについては、繰入対象経費が「国庫が負担するもの」とされ、その国庫が負担する額が法令の規定により算定されることとなっている特別会計がある。また、そのようにして算定される国庫が負担する額と、予算で定められて実際に繰り入れられた額とに差がある場合に、その差額を翌年度以降に調整することが特会法に規定されている特別会計がある。
このような特別会計を検査したところ、2特別会計4勘定において次のように20年度の一般会計からの繰入額が過大になっている事態が見受けられた(過大になっている額(ア)、(イ)の計で1133億6347万余円)。
(ア) 労働保険特別会計の雇用勘定において、19年度に国庫が負担する額を超えて繰り入れられた額が特会法に上記のような差額を調整する規定があるにもかかわらず20年度に減額されておらず、繰入額が1101億9899万余円過大になっていた。
(イ) 20年度の農業共済再保険特別会計の家畜、果樹、園芸施設各勘定において、一般会計からの繰入額が国庫が実際に負担する額を超えていて、繰入額が31億6448万余円過大になっていた。
これらについては、各特別会計を所管する厚生労働大臣及び農林水産大臣に対して、会計検査院法第34条の規定によりそれぞれ是正及び是正改善の処置を求め又は是正改善の処置を求めた(前掲 2か所参照 1 2 )。
ウ 決算剰余金の財源充当状況
一般会計の決算剰余金については、財政法第6条第1項は、「各会計年度において歳入歳出の決算上剰余を生じた場合においては、当該剰余金のうち、二分の一を下らない金額は、他の法律によるものの外、これを剰余金を生じた年度の翌翌年度までに、公債又は借入金の償還財源に充てなければならない。」と規定している。そして、公債又は借入金の償還財源に充てられなかった剰余金は、財政法第41条の規定に基づき、翌年度の一般会計の歳入に繰り入れられ、通常、補正予算において翌年度の歳出予算の財源に充てられている。
これに対して、特別会計の決算剰余金は、特会法等に基づき、積立金に積み立てられたり、翌年度の歳入に繰り入れられたりするなどの方法により処理されている。
一般会計からの繰入金を歳入としている17特別会計36勘定の20年度決算における決算剰余金は、前記のとおり計20兆9830億余円となっているが、このうち国債整理基金特別会計の決算剰余金16兆4674億余円は、そのほぼ全額が翌年度(21年度)の歳出予算の財源とされて公債の償還や利払等の財源に充てられている。そして、他の16特別会計の決算剰余金計4兆5155億余円は、11特別会計(注4)
で計1兆3706億余円が積立金に積み立てられるなどし、計1兆5758億余円が翌年度繰越額等の財源に充てられたほか、計1兆1131億余円(20年度の決算剰余金で翌年度以降の歳出予算の財源に充てられた額の71.3%)が翌年度(21年度)の歳出予算の財源(13特別会計)に、計4477億余円(同28.6%)が翌々年度(22年度)の歳出予算の財源(10特別会計)に、それぞれ充てられている状況である。
また、前記表5の「減額できた額」及びイの「過大になっている額」に相当する額は各特別会計又は勘定において決算剰余金となっているが、該当する8特別会計13勘定における20年度の決算剰余金の処理状況は、表7のとおりとなっており、積立金に積み立てられるなどしたり、翌年度繰越額等の財源に充てられたりした額を除くと、翌年度又は翌々年度の歳出予算の財源に充てられていて、その割合は翌年度の歳出予算の財源として充てられたもの50.6%、翌々年度の歳出予算の財源として充てられたもの49.3%となっている。
特別会計名 | 決算剰余金 (A) |
積立金、資金、持越現金等 (B) |
翌年度の歳入に繰入れ (C)=(A)−(B) |
||||||
翌年度繰越額等の財源に充てられた額 (D) |
左のほか、翌年度以降の歳出予算の財源に充てられた額 | ||||||||
(E)=(C)−(D) | 翌年度(平成21年度) | 翌々年度(平成22年度) | |||||||
充当額(F) | 割合(%) (F/E×100) |
充当額(F′) | 割合(%) (F′/E×100) |
||||||
登記(1) | 27,498 | — | 27,498 | 2,648 | 24,849 | 20,291 | 81.6 | 4,558 | 18.3 |
労働保険(1) | 783,858 | 657,027 | 126,831 | 注(1) 126,831 |
— | — | — | — | — |
年金(1) | 634,692 | 578,709 | 55,983 | — | 55,983 | 7,486 | 13.3 | 48,497 | 86.6 |
注(4) 食料安定供給(2) |
45,879 | — | 45,879 | 1,319 | 44,559 | 34,156 | 76.6 | 10,402 | 23.3 |
農業共済再保険(3) | 20,337 | 注(2) 6,036 |
14,300 | 14,300 | — | — | — | — | — |
国有林野事業(1) | 8,059 | 注(3) 8,059 |
— | — | — | — | — | — | — |
社会資本整備事業(3) | 1,097,199 | — | 1,097,199 | 1,027,516 | 69,682 | 33,591 | 48.2 | 36,090 | 51.7 |
自動車安全(1) | 10,394 | — | 10,394 | 462 | 9,931 | 8,210 | 82.6 | 1,720 | 17.3 |
8特別会計(13勘定) 計 | 2,627,919 | 1,249,832 | 1,378,086 | 1,173,080 | 205,006 | 103,736 | 50.6 | 101,269 | 49.3 |
特別会計の歳入について、一般会計からの繰入れは適切かつ効率的に行われているかなどに着眼して検査したところ、前記のとおり、6特別会計9勘定において不用見込額を把握しているのに、一般会計からの繰入額に反映させていないなどの事態、2特別会計4勘定において一般会計からの繰入額が過大になっている事態が見受けられた。本院は、これらの事態について、会計検査院法第34条又は第36条の規定により意見を表示し又は処置を要求したところである。
このような事態が生じていたのは、これらの特別会計を所管している4省において、一般会計からの繰入れは、特会法において繰入対象経費の財源に充てるために必要があるときに限り行うことができるとされていることについての認識が十分でなかったこと、このため、一般会計の繰入れは原則として予算で定められたとおりの金額を繰り入れることを慣行にしていたことなどが挙げられるほか、一般会計の歳出が多額の公債発行により賄われていることを踏まえて予算の執行管理に当たり、一般会計からの繰入れの抑制に努めることへの配慮が十分でなかったことにもよると考えられる。
前記のとおり、一般会計からの繰入金は一般会計の支出済歳出額の56.7%を占めており、その財源として多額の建設国債又は特例国債が発行されている。このため、一般会計からの繰入額が過大になっている場合には、一般会計において、これに相当する額に税収等を充ててなお不足する部分の財源に充てるために建設国債又は特例国債が発行されていることになる。また、特別会計において不用となっていても、これに対応する財源を減額することなく一般会計から繰り入れている場合には、一般会計において支出済となっていて不用とはなっていないことから、特別会計で不用となったものも含めて税収等を充ててなお不足する部分の財源に充てるために建設国債又は特例国債が発行されていることになる。
そして、一般会計における決算剰余金は、公債等の償還財源となったり、通常は翌年度の歳出予算の財源に充てられたりするのに対して、特別会計における決算剰余金は、翌年度繰越額等の財源に充てられるもののほか、積立金に積み立てられたり、歳出予算の財源に充てられる時期が翌々年度になったりするものがある状況である。
したがって、繰入額が過大になっている事態を解消することはもとより、税収のほか国債の発行等により調達された資金が有効に活用されるものとするため、特別会計における不用の見込みを一般会計からの繰入額に確実に反映させることなどにより、繰入額を極力抑制して一般会計からの繰入れを適切かつ効率的なものとしてゆくことが望まれる。
本院としては、特別会計改革の進ちょく状況等に留意しつつ、今後も特別会計における歳出予算の執行の管理等について引き続き注視していくこととする。