本院は、平成14年度決算検査報告の特定検査対象に関する検査状況「中小企業信用保険事業における収支状況について」において、協会と金融機関との負担割合についての検討を更に行うことが望まれる旨の所見を記述した。その後、17年度に、前記のとおり、協会に部分保証の実行による損失を処理するための促進基金を造成する場合の補助事業としての基金造成補助事業が導入され、以後毎年多額の補助金が交付されている。
そこで、効率性、有効性等の観点から、各協会に対する補助金の配分は部分保証の実績や促進基金の残高等を的確に反映しているか、補助金により各協会に造成された促進基金の規模は適正なものとなっているか、代位弁済後に回収した資金の処理は適切かなどに着眼して、17年度から各協会の決算が確定していた20年度までに交付された補助金195億3000万円を対象として検査した。検査に当たっては、中小企業庁において、各協会に対する補助金交付に係る算定根拠等に係る関係資料について説明を聴取するなどの方法により会計実地検査を行った。また、22協会において、部分保証に係る保証状況、20年度末までの促進基金の取崩し状況等について関係書類を精査するなどして会計実地検査を行うとともに、残りの30協会については調書を徴取するなどして検査した。
前記のとおり、交付要綱に定める補助金の交付対象は、部分保証の引受けから生じた損失を処理する促進基金の造成に必要な経費とされている。しかし、中小企業庁は、国が実施する施策の円滑な導入及び促進を図るとともに、中小企業庁が推進する施策を積極的に実施している協会の財政基盤の強化を図るため、部分保証採用の拡大に向けた取組のみならず、無担保保証の保証承諾、資金の回収等についても評価を加えた上で、補助金を配分してきている。そして、経済産業局等は、中小企業庁が上記のような考え方の基に決定した協会ごとの配分額に基づき補助金を交付している。
17年度から20年度までの促進基金の取崩額は、取崩しがなかった4協会を除いた48協会で計24億9246万余円となっていて、20年度末の促進基金の残高は52協会で計170億3753万余円となっている。
協会ごとの補助金交付額、促進基金残高及び部分保証債務残高をみたところ、補助金交付額は2億2773万余円から8億3611万余円、促進基金残高は1億2321万余円から7億8199万余円、部分保証債務残高は12億4549万余円から1108億9428万余円となっていて、特に部分保証債務残高については協会間で大きな差が見受けられた。そして、部分保証債務残高に対する補助金交付額すなわち促進基金造成額及び促進基金残高の割合は、促進基金造成のための補助金の的確な配分や促進基金の適正な規模を測る指標となることから、〔1〕 部分保証債務残高に対する補助金交付額の割合と〔2〕 部分保証債務残高に対する促進基金残高の割合を協会ごとにみたところ、〔1〕 は0.6%から23.3%、〔2〕 は0.3%から22.9%といずれも著しい差が生じていた。このような各協会における補助金交付額や促進基金残高の状況をみると、仮に部分保証債務残高のすべてが代位弁済に至った場合でも、代位弁済額のうち約80%は保険金で補てんされることから協会の損失の上限は約20%になることなどを考慮すると、補助金の配分及び促進基金の規模は、各協会の部分保証の実績に即した的確な配分や適正な規模になっていないと認められる。
部分保証は、12年度から開始され、今後も引き続き実施されることが見込まれるが、過去5か年における部分保証債務残高は、18年度末の9541億3486万余円をピークに、21年度末で8448億7808万余円と減少傾向がみられる。そして前記のとおり、ほとんどの金融機関が負担金方式を選択しているため現行の信用保証制度に大きな変更がない限り、今後、大幅に部分保証が増加することは見込まれないと思料される。
このことから、近年の厳しい経済情勢の下、今後も債務保証から生ずる代位弁済が多数発生する状況が続いたとしても、現行の配分方法に基づき補助金が交付された場合は、部分保証に係る保証債務残高が少ない協会において、促進基金が必要額を超えて過大に保有され続けるおそれがある。
そこで、部分保証債務残高が少ない協会においては年度ごとの部分保証債務残高に対する代位弁済額の割合の振幅が大きいことから、協会ごとではなく、52協会合計の期末の部分保証債務残高に対する期中の代位弁済額の割合の中で最も高い21年度の4.75%を用いて部分保証債務残高に対して1年間にどの程度の割合の促進基金の額が必要かを試算した。この試算によると、代位弁済額のうち保険金等で補てんされない約20%分が促進基金の取崩し対象となることから、4.75%に0.2を乗じた0.95%程度の額が必要額となる。これを踏まえ、部分保証債務残高に対する促進基金の必要額の割合を、更に不測の事態を考慮するなどして上記0.95%の2倍となる1.9%とし、促進基金の保有状況を協会ごとにみたところ、20年度末において、部分保証債務残高の1.9%以上の額の促進基金を保有している協会は52協会のうち40協会ある状況となっていた(表
参照)。さらに、この40協会の中には、部分保証債務残高のすべてが代位弁済に至った場合でも、代位弁済額のうち保険金等によって補てんされず促進基金の取崩し対象となる約20%に相当する額を超える促進基金を保有している協会が3協会あった。
部分保証債務残高に対する促進基金残高の割合 | 0.95%を1とした場合の倍率 | 協会数 | |
0.95%未満 | 1倍未満 | 2 | |
0.95%以上1.9%未満 | 1倍以上2倍未満 | 10 | |
1.9%以上4.75%未満 | 2倍以上5倍未満 | 部分保証債務残高の1.9%以上の額の促進基金を保有している40協会 | 13 |
4.75%以上9.5%未満 | 5倍以上10倍未満 | 10 | |
9.5%以上14.25%未満 | 10倍以上15倍未満 | 9 | |
14.25%以上20.0%未満 | 15倍以上約21倍未満 | 5 | |
20.0%以上 | 約21倍以上 | 3 | |
合計 | 52 |
そして、上記の40協会における促進基金の必要額は、協会ごとの20年度末の部分保証債務残高に1.9%を乗じて求めた額を合算した46億1684万余円となり、40協会の促進基金残高計134億2186万余円のうち88億0502万余円は、この必要額を超えて過大に保有されているものと認められる。
前記のとおり、代位弁済により取得した求償権の行使により、事後に資金を回収した場合の経理処理方法については、回収金に係る保険金相当額等は公庫等へ納付して、残額は前記の経理処理要領に基づき、償却求償権回収金として計上することとなっているが、同回収金は促進基金に戻し入れられておらず、協会の一般財源になっている。そして、21年9月末までに、代位弁済を実行して促進基金を取り崩した後の回収金の額は、29協会において1億5435万余円となっており、このうち公庫等へ納付した後の残額2795万余円は、促進基金には戻し入れられていない。
しかし、促進基金の財源となっている国からの補助金が代位弁済から生ずる協会の損失を処理するために交付されているものであることからみて、促進基金の取崩し後の回収金のうち公庫等の保険金等に相当する額を除いた額が、促進基金に戻し入れられることなく協会の一般財源になっている状況は適切とは認められない。
したがって、促進基金を取り崩した後の回収金のうち公庫等の保険金等に相当する額を除いた額は、促進基金に戻し入れることとする必要があると認められる。
各協会に対する補助金の配分が部分保証債務残高や促進基金残高等を的確に反映しておらず、多数の協会において促進基金が必要額を超えて過大に保有されている事態や促進基金を取り崩した後の回収金について保険金等に相当する部分に係る公庫等への納付額を除いた残額を促進基金に戻入れがなされていない事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴省において、次のことなどによると認められる。
ア 各協会に対する補助金の配分について、部分保証債務残高や促進基金残高等を十分に反映していなかったこと
イ 促進基金を取り崩した後の回収金の経理処理について、促進基金が補助金により造成されたものであることについて十分認識しないまま取扱要領等で具体的な方法を定めていなかったこと