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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成22年9月

国会議員の選挙等の執行経費の交付額の算定について、投票所経費、開票所経費等の算定を選挙事務の実態に即したものとすることなどにより執行経費の適正化を図るよう総務大臣に対して意見を表示したもの


2 本院の検査結果

(検査の観点及び着眼点)

 本院は、近年、市町村合併により市町村数や市町村の規模が変化していること、期日前投票が定着したこと、また開票時間の短縮等、選挙事務の効率化・迅速化が図られていることなどにかんがみ、基準法に基づき算定され都道府県及び管内の市町村に交付された執行経費について、合規性、経済性、有効性等の観点から、投票所事務、開票所事務等の執行の実態が基準法に基づく経費の算定の内容とかい離していないか、また、備品の購入状況は適切かなどに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

 検査に当たっては、16都府県(注) 及び管内の188市町(19特別区及び8指定都市を含む。)において19年7月実施の第21回参議院議員通常選挙(以下「参議院選挙」という。)の際にこれらの都府県及び市町に交付された執行経費151億0592万余円並びに21年8月実施の第45回衆議院議員総選挙及び第21回最高裁判所裁判官国民審査(以下「衆議院選挙」という。)の際の同執行経費180億1604万余円を対象として、算定資料、経理補助簿等の書類により会計実地検査を行った。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 投票所経費について

ア 投票所事務の従事時間

 投票日が休日の場合の投票所事務の従事時間は、投票所経費の基本額算定表において、投票時間の午前7時から午後8時までの13時間に事前準備及び後始末等の各1時間30分を加算した計16時間と想定されている。しかし、実際の従事時間について検査したところ、参議院選挙及び衆議院選挙ともに、188市町のうち183市町で16時間を下回っており、188市町全体の平均従事時間は参議院選挙では13.5時間、衆議院選挙では13.6時間となっていた。

イ 配置人数

 188市町が参議院選挙及び衆議院選挙の時に設置した投票所それぞれ10,942か所及び10,818か所に基本額算定表上配置されることが見込まれる投票所事務従事者の人数を算出するとそれぞれ計96,282人及び計95,737人となるが、実際に配置されていた人数(以下「実配置人数」という。)は、それぞれ計84,241人及び計88,009人であった。そして、基本額算定表に定められた選挙人の数の区分に応じた配置人数の基準(以下「基準配置人数」という。)と実配置人数とを投票所別に比較したところ、実配置人数が基準配置人数を下回っていた箇所が、参議院選挙では10,942投票所のうち7,876か所(71.9%)、衆議院選挙では10,818投票所のうち6,887か所(63.6%)となっていた。

ウ 賃金職員の導入状況

 投票所事務における賃金職員の導入の状況について検査したところ、基本額算定表上賃金職員の導入が見込まれている特別区及び指定都市の区のみならず、市町においても賃金職員が幅広く導入されていて、導入の割合は市町数では参議院選挙で52.1%、衆議院選挙で54.2%、投票所事務従事者数では参議院選挙で22.4%、衆議院選挙で23.7%となっていた。

エ 投票所事務従事者に対する超過勤務手当等

 以上のことなどから、投票所事務従事者に対する超過勤務手当等の実績額は、表3のとおり、基本額算定表に基づく算定額を大きく下回る結果となっていた。

表3 投票所経費における超過勤務手当等

(単位:時間、千円)

区分
基本額算定表
実績
開差
時間数
超過勤務手当等
時間数
超過勤務手当等
時間数
超過勤務手当等
参議院選挙
特別区及び指定都市の区
481,440
1,144,654
421,326
945,162
60,114
199,492
1,000,000
2,487,691
682,675
1,580,962
317,326
906,728
59,072
136,808
39,038
83,279
20,035
53,528
1,540,512
3,769,154
1,143,038
2,609,404
397,474
1,159,749
衆議院選挙
特別区及び指定都市の区
505,408
1,215,644
464,546
1,000,858
40,862
214,785
972,288
2,431,302
698,637
1,622,642
273,652
808,659
54,096
124,882
36,034
79,318
18,063
45,563
1,531,792
3,771,828
1,199,216
2,702,819
332,576
1,069,008
(注)
 計数は単位未満を切り捨てているため、各項目の計数を集計又は差し引きしても「計」欄又は「開差」欄の計数と一致しないことがある。

 なお、投票所事務従事者に対して実際に支払われている超過勤務手当について検査したところ、一般職員の超過勤務手当について、基本額算定表に準じた時間単価、職員個人の俸給に応じた時間単価、一律の時間単価、一律の日額単価等を適用していたほか、超過勤務手当の支給に代えて代休を取得させている市町もあった。

(2) 開票所経費について

ア 開票所事務の従事時間

 開票所事務の従事時間は、開票所経費の基本額算定表において、5時間と想定されているが、188市町における実際の従事時間について検査したところ、参議院選挙では141市町(75.0%)が、衆議院選挙では160市町(85.1%)がそれぞれ5時間を下回っており、188市町全体の平均従事時間は参議院選挙で3.7時間、衆議院選挙で3.6時間となっていた。

イ 配置人数

 188市町における開票所数は、参議院選挙では263か所、衆議院選挙では287か所であり、このうち開票所加算を適用した開票所は参議院選挙では200か所(76.0%)、衆議院選挙では207か所(72.1%)となっていた。
 前記のとおり、開票所加算は、選挙人の数が3万人以上の開票区の開票所について3万人を超える選挙人の数1万人ごとに選挙人の数3万人以上の区分の基本額に地域加算等をした額の100分の30相当額を加算することとなっていることから、開票所経費の額の算定の基になっている開票所事務従事者の基準配置人数も同様の割合で加算されるものとみなすことができるので、これにより、4万人以上となる開票所における基準配置人数を試算して、これと実配置人数とを比較したところ、図1のような状況となっていた。
 すなわち、選挙人の数が4万人以上の開票所においては、実配置人数が上記により試算した基準配置人数を下回っていて、選挙人の数が多くなるにしたがってその開差が著しく拡大する状況となっていて、開票所加算の加算率が実態とかい離していると思料された。

図1 開票所事務従事者における基準配置人数(試算)と実配置人数

図1開票所事務従事者における基準配置人数(試算)と実配置人数

 そして、188市町が参議院選挙及び衆議院選挙の時に設置した開票所それぞれ263か所及び287か所における基準配置人数については、基本額算定表に基づく人数(4万人未満の開票所の分)と前記の開票所加算に基づく試算による人数(4万人以上の開票所の分)とを合計すると、参議院選挙では計105,542人、衆議院選挙では計106,525人となるが、実配置人数はそれぞれ計59,608人(56.4%)及び計60,959人(57.2%)とこれらを大幅に下回っていた。これを開票所ごとに比較したところ、参議院選挙では263開票所のうち228か所(86.6%)、衆議院選挙では287開票所のうち242か所(84.3%)において実配置人数が基準配置人数を下回っていた。

ウ 賃金職員の導入状況

 開票所事務については、基本額算定表上賃金職員の導入が見込まれていないが、開票所事務における賃金職員の導入状況について検査したところ、投票所事務の場合と同様に賃金職員が導入されていて、導入の割合は、投票所事務ほど高くはないものの、市町数では参議院選挙で30.8%、衆議院選挙で33.5%、開票所事務従事者数では参議院選挙で5.5%、衆議院選挙で6.0%となっていた。

エ 開票所事務従事者に対する超過勤務手当等

 以上のことなどから、開票所事務従事者に対する超過勤務手当等の実績額は、表4のとおり、基本額算定表に基づく算定額を大きく下回る結果となっていた。

表4 開票所経費における超過勤務手当等

(単位:時間、千円)

区分
基本額算定表
実績
開差
時間数
超過勤務手当等
時間数
超過勤務手当等
時間数
超過勤務手当等
参議院選挙
特別区及び指定都市の区
229,035
713,857
83,630
287,516
145,405
426,340
286,505
833,583
129,971
369,516
156,534
464,066
12,170
34,007
9,130
23,157
3,041
10,850
527,710
1,581,448
222,731
680,191
304,979
901,257
衆議院選挙
特別区及び指定都市の区
241,345
762,874
87,885
295,316
153,460
467,558
280,565
821,872
130,106
372,239
150,459
449,633
10,715
29,958
7,320
19,071
3,395
10,887
532,625
1,614,706
225,311
686,627
307,314
928,078
(注)
 計数は単位未満を切り捨てているため、各項目の計数を集計又は差し引きしても「計」欄又は「開差」欄の計数と一致しないことがある。

 なお、開票所事務従事者に対して実際に支払われている超過勤務手当について検査したところ、一般職員の超過勤務手当について、投票所事務従事者の場合と同様の状況が見受けられた。

(3) 調整費について

 参議院選挙においては、表5のとおり、11都府県管内の68市町に対して9億9527万余円の調整費が交付されていた。なお、衆議院選挙にかかる調整費は、会計実地検査時点において交付額が確定していなかったため検査していない。

表5 調整費の交付の状況
(参議院選挙) (単位:千円)
都府県名\金額及び市町数
調整費
市町数
金額
山形県
栃木県
5
8,267
埼玉県
8
42,706
東京都
23
819,818
神奈川県
12
57,665
長野県
大阪府
4
21,150
兵庫県
6
24,982
島根県
1
1,961
岡山県
3
8,380
徳島県
2
7,045
愛媛県
福岡県
1
424
佐賀県
3
2,866
長崎県
熊本県
68
995,270

 そして、調整費の交付額が最も多い東京都管内の19特別区及び4市についてみると、投票所経費、開票所経費、事務費等の多くの経費について調整費の要望が出されており、その要望内容には、国会の会期延長に伴う入場整理券の再作成費用等やむを得ない事情によると認められるもののほか、投票用紙読取分類機等の購入費用や選挙管理システム経費等があり、これらに対して調整費が交付されていた。このように多額の調整費が交付されていたが、貴省は、前記のように、その要望に係る支出が選挙事務の執行に不可欠であるか否かについて十分に検討することなどに留意するよう周知しているものの、調整費の交付に係る具体的な要件等を整備していない状況となっていた。

(4) 備品の購入について

 参議院選挙及び衆議院選挙に係る備品の購入状況について検査したところ、表6のとおり、188市町のうち161市町(85.6%)において、投票用紙自動交付機、投票用紙読取分類機、計数機、パソコン等の備品を参議院選挙で4億6116万余円、衆議院選挙で4億7680万余円購入していた。

表6 備品の購入状況及び投票日後の備品の購入状況

(単位:円)

都府県名
参議院選挙
衆議院選挙
市町数
左のうち備品を購入していた市町数及び金額
左のうち投票日後に備品を納入していた市町数及び金額
市町数
左のうち備品を購入していた市町数及び金額
左のうち投票日後に備品を納入していた市町数及び金額
山形県
9
7
25,165,255
4
18,150,957
9
8
7,438,761
1
191,762
栃木県
16
16
50,427,449
5
8,737,650
16
16
39,425,640
4
5,553,618
埼玉県
15
15
27,387,642
1
4,935,000
15
15
40,220,965
1
308,888
東京都
23
19
64,564,090
1
152,985
23
21
94,004,085
神奈川県
13
11
21,468,033
3
5,697,510
13
8
25,608,019
長野県
11
11
51,486,626
10
39,362,846
11
9
30,025,200
大阪府
11
11
56,961,605
11
9
82,782,282
兵庫県
14
11
34,303,674
14
12
30,411,324
1
26,250
島根県
10
7
8,934,507
10
6
3,538,500
岡山県
10
7
7,850,335
10
8
8,593,720
徳島県
9
5
13,752,917
2
1,551,000
9
7
13,042,504
1
1,442,174
愛媛県
9
6
6,705,739
1
1,689,450
9
8
20,703,648
1
4,095,000
福岡県
8
7
9,142,640
2
3,376,275
8
7
14,164,807
1
210,000
佐賀県
9
8
14,800,655
1
483,000
9
8
16,868,865
長崎県
9
8
17,733,523
3
8,363,911
9
8
14,527,870
熊本県
12
12
50,484,621
3
13,971,405
12
11
35,448,945
188
161
461,169,311
36
106,471,989
188
161
476,805,135
10
11,827,692

 そして、備品の納入時期を検査したところ、投票日(参議院選挙19年7月29日、衆議院選挙21年8月30日)後に納入されているものが、表6のとおり、参議院選挙において36市町で1億0647万余円、衆議院選挙において10市町で1182万余円見受けられた。
 さらに、これらのうち参議院選挙の投票日後に納入された備品について、その契約及び納入時期をみると、図2のとおり、選挙から5か月以上経過した翌年1月から3月に集中している状況(投票日後の備品の納入に係る金額の74.3%)となっていた。

図2 投票日後に納入された備品の契約及び納入時期

図2投票日後に納入された備品の契約及び納入時期

 このように、投票日後の年度末に備品が多く納入されていることについて、当該市町の選挙管理委員会事務局の多くは、これら備品の購入目的を次回の選挙の用に供するためなどとしている。

(改善を必要とする事態)

 投票所経費及び開票所経費の基本額の算定の基礎となっている従事時間数や配置人数等が選挙事務の執行の実態とかい離していたり、開票所加算が実態を適切に反映したものとなっていなかったり、次回の選挙の用に供する備品を購入していたりなどしている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省において、次のことなどによると認められる。
ア 投票所経費及び開票所経費の基本額の算定の基となっている選挙事務従事者の従事時間数、配置人数、賃金職員の導入等について、都道府県等の選挙事務の執行の実態を十分に把握しておらず、経費の算定に適切に反映させていないこと
イ 開票所加算の措置を講ずる開票所の実態を十分把握しておらず、加算率を基準法制定後一度も見直していないこと
ウ 調整費の要望に係る支出を避けることのできない事故その他特別な事情により当該選挙の執行に不可欠なものに限定する具体的な手続等が整備されておらず、審査が十分でないこと
エ 備品の購入の実態が経費の算定に反映されておらず、また、備品の購入について当該備品がなければ選挙の管理執行に支障を来すのかを十分に見極めた上で必要やむを得ないものに限るとする周知が徹底していないこと

 16都府県  東京都、大阪府、山形、栃木、埼玉、神奈川、長野、兵庫、島根、岡山、徳島、愛媛、福岡、佐賀、長崎、熊本各県