部局等 | 国土交通本省 | ||
検査の対象 | 国土交通本省 | ||
独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構 | |||
設置等の根拠法 | 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法(平成14年法律第180号) 日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律(平成10年法律第136号) |
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独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の特例業務の概要 | 日本国有鉄道の職員であった者等に係る年金の給付に要する費用等の支払、及びその支払の資金に充てるために日本国有鉄道等から承継した土地、株式等の資産の処分を行うなどの業務 | ||
独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の特例業務勘定における平成21年度末の利益剰余金の額 | 1兆4534億円 | ||
上記のうち余裕資金の額(試算値) | 1兆2000億円 |
【意見を表示したものの全文】
独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の特例業務勘定における利益剰余金について
(平成22年9月24日付け国土交通大臣あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)は、昭和62年4月に日本国有鉄道改革法(昭和61年法律第87号)に基づき、旅客会社6社、貨物会社1社(以下、これらの7会社を合わせて「JR各社」という。)等に分割されて、その際にJR各社等に承継されない資産の処分及び債務等の処理並びに国鉄職員の再就職促進に関する業務等は、日本国有鉄道清算事業団(以下「清算事業団」という。)において行われることとなった。
これにより、清算事業団が、国鉄の長期借入金及び鉄道債券に係る債務等(以下「長期債務」という。)19兆8629億余円の償還と国鉄の職員であった者等に係る共済年金追加費用(注1)
等の将来費用(以下「年金の給付に要する費用」という。)5兆6622億円、計25兆5251億余円の支払を行うこととなった。
そして、「日本国有鉄道清算事業団の債務の償還等に関する基本方針について」(昭和63年1月26日閣議決定)によって、長期債務の償還及び年金の給付に要する費用の支払に当たっては、清算事業団に帰属した土地及びJR各社の株式を処分するなどしてこれらに充てることとされて、これらの資産処分による充当によってもなお残る債務等については、最終的に国において処理するものとされた。
イ 長期債務等の増加とその本格的処理のための新たな枠組みの下での特例業務の開始
清算事業団は上記の方針の下に資産の処分及び長期債務の償還等に当たったが、61年末から平成3年ごろまでのいわゆるバブル経済期における地価高騰時に「緊急土地対策要綱」(昭和62年10月16日閣議決定)により土地売却の凍結が行われたこと、4年のいわゆるバブル経済崩壊後の土地、株式市況の低迷等により土地等の資産処分収入が伸び悩んだことなどから、多額の金利負担が生ずるなどして、長期債務及び年金の給付に要する費用の残高は増加して、清算事業団が解散した10年10月には、長期債務24兆1875億余円、年金の給付に要する費用(厚生年金移換金(注2)
を含む。)4兆1087億余円、計28兆2963億余円となった。
このような事態に対処するため、「国鉄長期債務及び国有林野累積債務の処理のための具体的方策」(平成9年12月17日財政構造改革会議決定。以下「処理方策」という。)等が策定された上、長期債務の処理の実現を図るべく、「日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律」(平成10年法律第136号。以下「処理法」という。)が制定されて、これにより解散する清算事業団の資産は日本鉄道建設公団(以下「公団」という。)が承継することとするとともに、公団国鉄清算事業本部が年金の給付に要する費用の支払等の業務を特例業務として行うこととなった。
そして、上記の清算事業団解散時の長期債務24兆1875億余円のうち24兆1628億余円については、処理法の施行に伴い、国の一般会計が有利子債務16兆0301億余円を承継して、残りの無利子債務8兆1327億余円の返済は免除された。この一般会計が承継した有利子債務16兆0301億余円と、昭和61年度から平成9年度までの間に一般会計が承継した国鉄等の債務9兆0005億余円に係る清算事業団解散時の残高7兆9864億余円とを合わせた24兆0166億余円については、国が60年で全額現金償還するという、いわゆる60年償還ルールで償還されることとなった。そして、処理方策においては、この一般会計が承継した有利子債務の元本償還のための財源については、一般会計の歳出・歳入両面にわたる努力等のほか、最終的には、年金負担が縮小していくことに伴い確保される財源等により対応することとされた。
そして、清算事業団解散時の長期債務のうち上記の一般会計が承継するなどした債務に係る残高24兆1628億余円を除いた246億余円、及び年金の給付に要する費用4兆1087億余円のうちJR各社等が負担する分を除く3兆9317億余円については公団が負担することとなった。
ウ 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の発足と同機構による特例業務の実施
その後、公団は、特殊法人改革に伴い15年10月に解散して、旧運輸施設整備事業団と統合して、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下「機構」という。)となり、機構は、特例業務について、公団と同様に機構内に国鉄清算事業本部(以下「事業本部」という。20年4月1日以降は、国鉄清算事業管理部等。)を設置して、機構の他の業務と区分して行っている。
特例業務の主な内容は、機構が負担することとされた年金の給付に要する費用の支払を行うこと、及び年金の給付に要する費用等の支払の資金に充てるために土地やJR各社の株式等の資産処分を行うこと(以下「資産処分業務」という。)であり、このほか、機構は、特例業務の一環として、資産処分業務を効果的に推進するため、北海道旅客鉄道株式会社、四国旅客鉄道株式会社、九州旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社(以下、これらの4会社を合わせて「JR4社」という。)の経営基盤の強化を図るための無利子貸付等も行っている。
15年10月の機構発足時においては、年金の給付に要する費用の支払に備えるため、共済年金追加費用3兆6767億余円、恩給負担金(注3)
261億余円、業務災害補償費(注4)
511億余円及び厚生年金移換金1718億余円、計3兆9258億余円等が引当金等として計上されており、このほかに事業本部の運営のための管理費等が毎年必要になるとされていた。一方、それらの支払のための財源としては、土地(15年10月の時価評価額1424億余円)及びJR各社の株式(同1兆2632億余円)の売却収入、助成勘定長期貸付金(注5)
(15年10月の元本残高1兆8864億余円)の元利償還収入等のほか、国の一般会計からの国庫補助金を充てることとなっていた。この国庫補助金は、処理法第26条の規定に基づき、特例業務の確実かつ円滑な実施を図るために交付されるもので、10年度から18年度までの間に累計で5525億円が交付され、当該各年度における業務の実施に要する費用の支払に充てられている。
なお、年金の給付については、9年に日本電信電話公社、日本専売公社及び国鉄の旧3公社の共済年金が厚生年金に統合された後は、日本鉄道共済組合(注6)
が一部直接支給するものを除き、厚生年金から年金の給付がなされるようになり、日本鉄道共済組合が厚生年金へその費用として共済年金追加費用を納付している。そして、機構は、この日本鉄道共済組合が直接支給している年金や共済年金追加費用の大半を負担している。
恩給負担金 公共企業体職員等共済組合法の施行(昭和31年7月)前に退職した国鉄職員のうち官吏に相当する者及びその遺族については、旧年金制度である恩給制度の適用を受けることとされており、これらの者に対して国から支給される恩給の支払に充てるべき金額については国鉄が負担することとされていた。国鉄分割民営化以降は、国鉄の権利義務を承継した清算事業団がこれを負担することとなり、平成10年10月の同事業団解散後は公団が、さらに15年10月の公団解散後は、機構が負担することとなった。
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業務災害補償費 国鉄は国と同様に労働者災害補償保険の対象外とされたことから、業務中にり災した職員に対しては、国鉄が直接補償を行っていた。これらの国鉄時代に生じた業務災害に係る補償については、恩給負担金と同様に、平成15年10月以降は機構が支払を行うこととなった。
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助成勘定長期貸付金 新幹線鉄道に係る鉄道施設の譲渡等に関する法律(平成3年法律第45号)第1条及び第2条の規定に基づき、新幹線鉄道保有機構(以下「保有機構」という。)が東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社及び西日本旅客鉄道株式会社の3社(以下、これらの3会社を合わせて「JR本州3社」という。)に対して譲渡した新幹線鉄道施設の譲渡代金約9.2兆円のうち、清算事業団(現在の機構の特例業務勘定)が負担することとされた年金の給付に要する費用に充てるために保有機構(現在の機構の助成勘定)が清算事業団(現在の機構の特例業務勘定)に対して負った約1.9兆円に相当する額
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日本鉄道共済組合 昭和23年7月に国鉄共済組合として発足し、62年の国鉄分割民営化に伴って日本鉄道共済組合となった。平成9年4月における鉄道共済年金の厚生年金への統合後は、厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成8年法律第82号)に基づく存続組合として、厚生年金に統合されなかった昭和31年6月以前の加入期間を基礎とする年金の給付業務を行っている。
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機構は、処理法第27条第1項の規定により、上記の特例業務に係る経理については、他の経理と区分して特例業務勘定を設けて整理している。
そして、共済年金追加費用、恩給負担金、業務災害補償費、土地等及び株式の処分に係る費用等の費用については、処理法第13条の規定等により、土地売却収入、JR各社の株式売却収入、国庫補助金収入、助成勘定長期貸付金に係る元利償還等の収入をその支払財源とすることとしている。
上記の費用のうち、共済年金追加費用については、その将来の給付負担に備えるために共済年金追加費用引当金(以下「年金引当金」という。)を計上していて、これが特例業務勘定の負債のほとんどを占めている。その額は、21年度末についてみると、年金数理上適当と思われる失権率等の基礎率に基づき、支払が74年度まで続くとして、昭和31年から平成21年までの物価上昇率(消費者物価指数。異常値を除く。)の平均値2.4%を用いて22年度から74年度までの名目支払見込総額を算出した上で、これをその支払までの平均期間に応じた直近の国債の利回りを基に計算した割引率1.0%で割り引いて算出している。
同様に、恩給負担金、業務災害補償費等については、将来の給付負担に備えるためにそれぞれ恩給負担金引当金(以下「恩給引当金」という。)、業務災害補償費引当金(以下「業務災害引当金」という。)等の引当金を計上している。
独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)第44条の規定によれば、毎事業年度、損益計算を行った後に残余がある場合には、積立金として整理して(同条第1項)、積立金の処分については、個別法で定めることとされている(同条第5項)。
なお、独立行政法人会計基準(平成22年3月改訂。独立行政法人会計基準研究会等)によれば、利益剰余金は、通則法第44条第1項の規定に基づく積立金のほか、当期未処分利益等に区分され、損失が発生して積立金を減額整理することなどがなければ、当期未処分利益が翌期の積立金に加算される。
そして、機構の特例業務勘定以外の勘定における積立金の処分については、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法(平成14年法律第180号)第18条の規定により、通則法第29条の規定に基づく中期目標の期間が終了して利益及び損失の処理を行った後に積立金があるときは、その額に相当する金額のうち国土交通大臣の承認を受けた金額を次の中期目標の期間における業務の財源に充てることなどができることとされており、業務の財源に充てるなどしてもなお残余がある場合には国庫に納付しなければならないこととされている。これに基づき、機構は、第1期中期目標の期間(15年10月1日から19年度末まで)の終了後の20年7月に、特例業務勘定以外の勘定における積立金について、第2期中期目標の期間(20年度から24年度まで)における業務の財源に充てるため繰り越した金額を除き、基礎的研究等勘定においては3451万余円を、また、助成勘定においては1191万余円をそれぞれ国庫に納付している。
一方、特例業務勘定に関しては、通則法第44条及び処理法第27条の規定により損益計算後の残余の全額を積立金として整理することとされており、国庫納付の規定はない。これについて、貴省は、現時点の物価上昇率、失権率等の基礎率に基づいて算出される年金引当金は計上されているものの、現役世代がおらず保険料収入が見込めない中で今後50年以上の長期間にわたる年金等の支払額が変動する可能性等を考慮しつつ支払に備える必要があり、ある時点で剰余金が発生したとしても、これを他の用途に充てるべきではないからであると説明している。
機構発足時、特例業務勘定では、負債の額が資産の額を上回っており、欠損金が計上されていたが、その後、資産売却の進展等により利益が生じた結果、資産の額は負債の額を大きく上回るようになった。そして、第1期中期目標の期間の終了時である19年度末には1兆3441億余円の利益剰余金が計上されていたが、この全額が積立金として第2期中期目標の期間に繰り越されている。さらに、20、21両年度にも利益が発生したことから、21年度末においては第1期中期目標の期間から繰り越された積立金を含めて計1兆4534億余円の利益剰余金が計上されており、22年度にはこの全額が積立金として整理されることになる。
本院は、機構の特例業務勘定について、平成19年度決算検査報告に特定検査対象に関する検査状況として「国鉄清算業務に係る財務について」
を掲記している。
この中で本院は、特例業務勘定は、今後50年以上の長期にわたり年金等の支払を確実に行っていくために、処理法の規定により損益計算後の残余の全額を積立金として整理することとされており、国庫納付の規定はないが、国庫の厳しい財政状況、これまで国の一般会計が多額の債務等を負担しているなどの状況及び現在多額の積立金を計上している状況にかんがみれば、年金の支払等を確実に行っていく上での不確定要素の状況を見極めつつ、長期収支見込みを作成して積立金の適正水準について検討して、仮にその結果残余が見込まれる場合には、当該残余を国庫に納付することが可能となるようにすることが肝要であり、そのため、貴省及び機構において今後、特段の取組が必要とされるとしている。そして、本院としては、特例業務勘定の積立金に関して、貴省及び機構における取組状況について引き続き検査していくこととしている。