会計名及び科目 | 一般会計 (組織)外務本省 (項)経済協力費 | |
部局等 | 外務本省 | |
政府開発援助の内容 | 無償資金協力 | |
環境・気候変動対策無償資金協力事業の概要 | 開発途上国又は地域で行う気候変動対策に係る事業に対して資金協力を行うもの | |
平成21年12月から23年3月までの間に交換公文を締結した実施事業数及びこれらの事業に係る贈与額計 | 56事業 | 452億8800万円(平成21、22両年度) |
平成22年度末時点で贈与日から1年以上経過している実施事業数及びこれらの事業に係る贈与額計 | 35事業 | 263億4800万円(平成21年度) |
交換公文発効から調達代理契約締結まで2か月以上を要した実施事業数及びこれらの事業に係る贈与額計(1) | 23事業 | 169億円(背景金額)(平成21年度)
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平成22年度末時点で工程表が作成されていない実施事業数及びこれらの事業に係る贈与額計(2) | 17事業 | 128億円(背景金額)(平成21年度)
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(1)及び(2)の純計 | 27事業 | 200億円(背景金額)(平成21年度)
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(平成23年10月28日付け 外務大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
我が国は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することを目的として、政府開発援助を実施している。そして、平成21年12月に開催された気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)において、我が国は、気候変動対策に積極的に取り組む開発途上国に対して、24年末までの約3年間に気候変動対策に係る支援を行うことを発表するなど、気候変動対策は、我が国の国際協力の重要分野の一つとなっている。
貴省は、この分野の支援の一環として、環境・気候変動対策無償資金協力事業を実施しており、21年12月から23年3月までの間に、我が国が援助の相手となる国又は地域(以下「相手国」という。)と交換公文を取り交わした事業は、56事業(44か国)、贈与額計452億8800万円となっている。
これらの事業には、〔1〕 太陽光発電パネルを調達して設置する「太陽光を活用したクリーンエネルギー導入計画」、〔2〕 洪水、干ばつなどの被害対策等に必要な機材や設備の供与等を行う「気候変動による自然災害対処能力向上計画」及び〔3〕 持続可能な森林利用やその保全のために必要な機材の供与等を行う「森林保全計画」の3種類があり、主に資機材の調達等を行うこととしている。
貴省は、前記56事業の資機材の調達等の事業が効率的、円滑かつ適切に実施されるよう、我が国と相手国との間で取り交わす交換公文において、相手国は、貴省が調達のノウハウを有するとして推薦した我が国又はイギリスの法人(以下「調達代理機関」という。)と調達代理契約を締結するものとし、調達代理機関が相手国に代わって資機材の調達等の入札・契約、支払等を実施する方式(以下「調達代理方式」という。)によって事業を行うこととしている。
前記の56事業における調達代理方式では、事業の進捗に応じて資金を贈与する方式で行われている一般プロジェクト無償資金協力等とは異なり、貴省は、事業の実施前の定められた期日までに贈与資金の全額を相手国の政府名義の銀行口座(以下「相手国口座」という。)に送金することとなっている。
調達代理方式を採用した本事業は、交換公文及び事業実施に係る詳細手続に関する合意議事録、調達代理機関が制定する調達ガイドライン等(以下、これらの取決め文書類を合わせて「交換公文等」という。)に基づいて、おおむね次のように行われることとなっている(図参照
。以下、記述の番号は図の番号と対応している。)。
〔1〕 相手国は、交換公文の発効後14日以内に相手国口座を開設して、貴省は、贈与資金の全額を同口座に送金する(以下、貴省が相手国口座に送金した日を「贈与日」という。)。
〔2〕 相手国は、交換公文の発効後、原則2か月以内に調達代理機関と調達代理契約を結ぶ。
〔3〕 調達代理契約を貴省が承認した後、我が国及び相手国の代表をメンバーとして、調達代理機関の代表をアドバイザーとする協議会(議長は相手国の代表)を速やかに開催する(2回目以降は我が国又は相手国のいずれかの要請によって開催される。)。
〔4〕 調達代理機関は、相手国口座が開設されている銀行に贈与資金の送金を要求し、銀行は、相手国の異議がなければ、調達代理機関の口座(以下「調達代理口座」という。)に送金する。この送金は、贈与日から12か月以内に完了する。
〔5〕 調達代理機関は、資機材の調達等を行う請負業者及び施工監理等を行うコンサルタント(以下、これらを合わせて「請負業者等」という。)との調達等の契約に基づき、請負業者等に資金を支払う。
〔6〕 相手国は、贈与資金(発生利子を含む。以下同じ。)の全てが相手国口座から調達代理口座に支払われたとき、又は贈与資金が相手国口座から調達代理口座へ送金されるまでの期限(贈与日から12か月間)が終了したときに、貴省に相手国口座の取引に係る報告書を遅滞なく提出し、相手国口座に贈与資金の残額がある場合は、これを貴省に遅滞なく返納する。
上記のうち、〔3〕 の協議会は、交換公文等において、事業の進捗を管理して贈与資金を迅速かつ効果的に活用するための事業の実施工程表(以下、単に「工程表」という。)を作成したり、事業を遅延させる可能性のある問題の特定及び解決法の策定をしたりすることとされている。
注(1) | 「太陽光を活用したクリーンエネルギー導入計画」においては、調達する資機材が限定的であることなどから、開催することは交換公文等に規定されていない。 |
注(2) | 調達代理機関から請負業者等への支払期限は定められていない。 |
本院は、合規性、効率性等の観点から、事業が所定の手続に従い適切に実施され、贈与した資金が効率的に活用されているかなどに着眼して、調達代理方式によって実施された前記の56事業(44か国、贈与額計452億8800万円)のうち、贈与日が22年3月以前で、22年度末において贈与日から1年以上が経過している35事業(29か国(注1)
、贈与額計263億4800万円。表1参照
)を対象として検査を実施した。
そして、貴省本省において、相手国等から提出されている書類を確認したり、担当者から事業の実施状況を聴取したりして会計実地検査を行うとともに、3か国(注2)
(5事業)においては、貴省の職員の立会いの下に相手国の協力が得られた範囲内で、相手国の事業実施責任者等から進捗状況の説明を受けたり、事業予定現場の状況の確認を行ったりなどして、現地調査を行った。
(注1) | 29か国 ジブチ、スリランカ、モロッコ、ネパール、ボツワナ、コスタリカ、ヨルダン、シエラレオネ、ラオス、レソト、ケニア、ニカラグア、ペルー、ガーナ、東ティモール、フィリピン、ベナン、ブルキナファソ、カメルーン、モーリタニア、カンボジア、エチオピア、ガボン、ガンビア、インドネシア、セネガル、カーボヴェルデ、パプアニューギニア、マリ(交換公文締結順)
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(注2) | 3か国 ペルー、フィリピン、カンボジア(同)
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区分 | 平成21年12月から23年3月までに交換公文を締結した事業 | 左のうち検査の対象とした事業(22年度末時点で贈与日から1年以上を経過している事業) | ||
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事業の種類 | 事業数 | 贈与額 | 事業数 | 贈与額 |
太陽光を活用したクリーンエネルギー導入計画 | 9 | 70億0800万円 | 8 | 61億4800万円 |
気候変動による自然災害対処能力向上計画 | 25 | 188億8000万円 | 16 | 107億円 |
森林保全計画 | 22 | 194億円 | 11 | 95億円 |
計 | 56 | 452億8800万円 | 35 | 263億4800万円 |
検査及び現地調査を実施したところ、次のような事態が見受けられた。
調達代理契約は、交換公文の発効後、原則2か月以内に締結されなければならないとされているにもかかわらず、相手国の手続の遅延等により、35事業中23事業(贈与額計169億円)ではその期間を超えており、うち2事業(贈与額計17億円)は交換公文の発効後1年以上が経過した22年度末においても調達代理契約が締結されていなかった。
22年度末において贈与日から1年以上(最長1年2か月)が経過している35事業における贈与額計263億4800万円について、22年度末における状況をみると、表2のとおり、相手国口座又は調達代理口座において253億4063万余円(贈与額の96.2%)が保有されていた。この内訳は相手国口座に17億円(同6.5%)、調達代理口座に236億4063万余円(同89.7%)で、相手国口座で保有されている17億円は、上記の(1)で記述した交換公文の発効後1年以上調達代理契約が締結されていない2事業の贈与額である。
贈与額計 | 左の内訳 | 左の内訳 |
263億4800万円 (100.0%) |
相手国口座又は調達代理口座 | 相手国口座 17億円(6.5%) |
253億4063万余円(96.2%) | 調達代理口座 236億4063万余円 | |
(89.7%) | ||
その他 10億0736万余円(3.8%) | 請負業者等への支払済額 | |
8億0417万余円(3.1%) | ||
調達代理機関の調達代理手数料 | ||
2億0318万余円(0.8%) |
上記のとおり、贈与額の大半が相手国口座又は調達代理口座に保有されていることから、事業の進捗状況についてみたところ、22年度末において、35事業のうち17事業(贈与額計128億円)では、工程表が作成されておらず、事業の完了予定年月が定まっていない状況となっていた。これは、貴省及び相手国は、貴省が調達代理契約を承認した後、速やかに協議会を開催して、工程表を作成することとなっているのに、貴省と相手国との間での調整に時間を要して協議会が開催されていなかったり(7事業、贈与額計58億円)、開催されていても当該協議会においては工程表の作成に至らず、以降の協議会に持ち越されていたり(10事業、贈与額計70億円)していることによるものである。
そして、工程表が作成されていない17事業のうちの16事業及び工程表が作成されている18事業のうちの11事業、計27事業では、調達代理機関と請負業者との間で資機材の調達等の契約が結ばれていなかった。
外務省は、インドネシア共和国政府と平成22年3月に取り交わした森林保全計画に係る交換公文(贈与額10億円)に基づき、同月、同国政府口座に10億円を一括して送金した。しかし、同国の事情により、22年度末現在においても、調達代理契約が締結されておらず、協議会も開催されていない。このため、工程表が作成されておらず、事業の完了予定が定まっていない。なお、贈与資金は、22年度末現在、全額が同国政府口座で管理されている。
なお、工程表が作成され、事業の完了予定年月が設定されている18事業においては、表3のとおり、贈与日から事業の完了予定年月までの所要月数は、平均で27.7か月となっていた。
項目 | 全体の事業数 | 工程表が作成されている事業 | 工程表が作成されておらず事業の完了予定が定まっていない事業数 | |
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事業の種類 | 事業数 | 贈与日から事業完了予定までの平均月数(月) | ||
太陽光を活用したクリーンエネルギー導入計画 | 8 | 8 | 25.4 | 0 |
気候変動による自然災害対処能力向上計画 | 16 | 7 | 25.9 | 9 |
森林保全計画 | 11 | 3 | 37.9 | 8 |
計 | 35 | 18 | 27.7 | 17 |
事業の実施前に資金の全額を贈与する調達代理方式では、贈与した資金が相手国口座又は調達代理口座において一定の期間保有されることになる。そして、事業の内容によっては、その期間が長期となる場合があり、事業の具体的な計画が早期に確定しないなどして、進捗が遅延した場合には、この期間が更に長期化することとなる。
したがって、贈与した資金の援助効果が長期間発現しないことにならないよう、事業が的確かつ迅速に実施されることが肝要であることから、交換公文等に定められた調達代理契約の締結までの期間内に調達代理契約が結ばれていなかったり、贈与日から1年以上経過した時点においても工程表が作成されておらず完了予定年月が定まっていなかったりしている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、相手国において、事業を的確かつ迅速に実施することに対する認識が必ずしも十分でなかったことなどにもよるが、貴省において、交換公文等に定められた調達代理契約の締結までの期間を遵守することについて、相手国に対する働きかけが十分でなかったこと、及び協議会を開催して工程表を作成するなどの事業の進捗管理について、相手国に対する協議及び働きかけが十分でなかったことなどによると認められる。
環境・気候変動対策に係る援助の必要性は、今後、一層増加することが予想され、我が国としても、限られた資金で援助をより効果的に実施することが必要である。ついては、貴省において、贈与した資金がより効率的に活用されるよう、次のとおり意見を表示する。
ア 工程表が作成されていない事業について、相手国に対して早急に事業の具体化及び進捗を促すなどすること
イ 贈与日が22年4月以降で現在実施されている事業や、今後、相手国からの要請内容に応じて、本事業のような調達代理方式によって環境・気候変動対策無償資金協力事業を実施する場合については、事業の的確かつ迅速な実施が図られるよう、交換公文等に定められた調達代理契約の締結までの期間を遵守するよう相手国に対して働きかけを十分に行うとともに、協議会を適時に開催して工程表を早期に作成するなど事業の進捗管理を徹底したり、事業に遅れがみられた場合にはその進捗を促したりするなどして、相手国に対する協議及び働きかけを徹底すること