地域科学技術振興事業費補助金は、地域における科学技術振興の推進に資することを目的として、当該地域の科学技術振興の中核的存在であり公益性の認められる財団法人等が行う知的クラスター創成事業及び都市エリア産学官連携促進事業に対して、その必要な経費を国が補助するものである。
このうち、知的クラスター創成事業は、知的創造の拠点となる大学、公的研究機関等を中心とした関連研究機関、研究開発型企業等が集積する研究開発能力の拠点(知的クラスター)の創成を図るものである。
補助金の交付額は、「地域科学技術振興事業費補助金交付規則」(平成14年文科科第135号)等により、研究に使用する消耗品等(以下「研究用物品」という。)の購入費等を補助対象経費として、1事業当たり年間6億円を上限とするなどした上で、その全額を補助することとなっている。
本院が、1財団法人において会計実地検査を行ったところ、次のような事態が見受けられた。
事業主体 | 補助事業 | 年度 | 補助対象経費 | 左に対する国庫補助金交付額 | 不当と認める補助対象経費 | 不当と認める国庫補助金 | 摘要 | |
千円 | 千円 | 千円 | 千円 | |||||
(38) | 財団法人やまぐち産業振興財団 | 知的クラスター創成 | 16、17 | 984,729 | 984,729 | 10,294 | 10,294 | 不適正な経理処理 |
財団法人やまぐち産業振興財団(以下「やまぐち財団」という。)は、本件補助事業を平成16、17両年度に実施しており、補助事業の一部である研究開発を国立大学法人山口大学(以下「山口大学」という。)に委託し、補助金を財源として16、17両年度に委託費計883,573,000円(うち一般管理費相当額計80,315,000円)を支払っていた。
そして、山口大学は、委託された研究開発を実施した研究代表者A(注)
から、研究用物品が計9,358,197円で納入されたとする納品書、請求書等の提出を受けるなどして、その購入代金を業者に支払っていた。
しかし、研究代表者Aは、業者に架空の取引を指示して虚偽の納品書、請求書等を作成させ、これにより山口大学に上記の購入代金を支払わせて、その全額を受託した研究開発に係る研究用物品とは異なる物品の購入代金に充てるなどしていた。
したがって、研究用物品の購入代金としていた計9,358,197円及びこれに係る一般管理費相当額計935,819円、合計10,294,016円は、受託した研究開発に要した経費とは認められず、これに係る国庫補助金計10,294,016円が過大に交付されていて不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、研究代表者Aにおいて、任意に業者を選定できる発注者の立場から融通の利く特定の業者に架空の取引を指示するなど、補助金の原資は税金等であるにもかかわらず事実に基づく適正な会計経理を行うという基本的な認識が欠けていたこと、山口大学において、研究用物品と納品書等との数量等を確認する納品検査が省略されていて、研究代表者と業者との不正な取引を防止する事務処理体制が十分に機能していなかったこと、やまぐち財団において、委託先での事業の実施状況の把握が十分でなかったこと、及び文部科学省において、研究代表者、大学等に対して補助金等の不正使用の防止について必要な措置の導入や指導を行っていたものの、その周知徹底が十分でなかったことによると認められる。