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  • 平成22年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 厚生労働省|
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  • 補助金

簡易水道等施設整備費補助金で実施した工事の設計が適切でなかったもの


(5) 簡易水道等施設整備費補助金で実施した工事の設計が適切でなかったもの

1件 不当と認める国庫補助金 13,693,200円

 簡易水道等施設整備費補助金(簡易水道再編推進事業に係る分)は、地方公共団体が行う水道事業の用に供する浄水池、滅菌装置等の浄水に必要な施設の整備等に要する費用について、その一部を国が補助するものである。
 本院が、地方公共団体が行う水道事業について、20府県の43事業主体において会計実地検査を行ったところ、次のような事態が見受けられた。

部局等 補助事業者
(事業主体)
補助事業 年度 事業費 左に対する国庫補助金等交付額 不当と認める事業費 不当と認める国庫補助金等相当額
(国庫補助対象事業費) (国庫補助対象事業費)
千円 千円 千円 千円
(159) 京都府 京都市 簡易水道等施設整備費 21〜23 282,975
(155,445)
62,178 34,233
(34,233)
13,693

 この補助事業は、京都市が、右京区京北灰屋町他地内において、既存の簡易水道施設の処理能力不足、老朽化等の問題を解消するなどのために、平成21年度から23年度までの間に、河川から取水した表流水の除砂を行う沈砂池(鉄筋コンクリート造、幅4.4m、長さ10.6m、高さ4.7m)及び浄水場から送水された水道水を給水区域へ配水する配水池(鉄筋コンクリート造、幅4.9m、長さ9.9m、高さ5.1m)を築造するなどしたものである(参考図参照 )。
 同市は、上記の沈砂池、配水池等の設計については、「水道施設の技術的基準を定める省令」(平成12年厚生省令第15号。以下「省令」という。)及び「水道施設耐震工法指針・解説」(社団法人日本水道協会発行。以下「指針」という。)等に基づいて行っている。
 省令によると、沈砂池、配水池等については、レベル2地震動(注1) に対して、生ずる損傷が軽微であって、当該施設の機能に重大な影響を及ぼさないという要件を備えるものとされ、また、指針等によると、これらの構造物の耐震設計に当たっては、構造物を支持する地盤の特性、構造物の変形特性(じん性)(注2) 、構造物に作用する地震動の強さなどの要因を考慮し、対象構造物に対して適切な耐震設計手法を選択する必要があるとされている。
 そして、全ての施設をレベル2地震動に対して完全に耐震的にすることは、技術的にも経済的にも極めて困難であることなどから、レベル2地震動時の部材の断面の照査において、じん性を考慮して設計水平震度(注3) を低減する場合があるが、この場合には、部材において曲げ破壊とせん断破壊(注4) のどちらが先行して生ずるかを判定(以下、この判定を「破壊モードの判定」という。)し、曲げ破壊がせん断破壊よりも先行して生ずることを確認することとされている。
 また、上記とは別の耐震設計手法として、設計水平震度を低減しない場合には、当該部材に作用するせん断力がせん断耐力(注4) に対して1.0を上回らないことを確認(以下、この確認を「せん断に対する照査」という。)することとされている。
 したがって、レベル2地震動時の部材の断面の照査においては、破壊モードの判定又はせん断に対する照査のどちらかを行う必要がある。
 しかし、同市が委託した設計コンサルタントの本件工事に係る構造計算書では、本件沈砂池及び配水池について設計水平震度を低減していたにもかかわらず、レベル2地震動時の部材の断面の照査において、破壊モードの判定が行われておらず、また、設計水平震度を低減しない場合のせん断に対する照査も行われていなかった。
 そこで、沈砂池及び配水池の底版等の鉄筋コンクリートの部材について、破壊モードの判定及びせん断に対する照査を行ったところ、次のような結果となり、いずれも設計計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

ア 破壊モードの判定を行ったところ、当該部材については、せん断破壊が曲げ破壊より先行して生ずることが確認された。

イ せん断に対する照査を行ったところ、当該部材に作用するせん断力がせん断耐力に対して、沈砂池の底版下面で1.137、外壁内面で1.167と1.0を上回っていて、配水池のピット壁で1.232、底版下面で1.316と1.0を大幅に上回っていた。

 したがって、本件沈砂池及び配水池の築造工(これらの工事費相当額34,233,000円)は、設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっていて、工事の目的を達しておらず、これに係る国庫補助金相当額13,693,200円が不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、同市において、耐震設計に対する理解が十分でなく、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったこと、また、京都府において、同市に対する指導が十分でなかったことなどによると認められる。

(注1)
 レベル2地震動  発生の確率は極めて低いが大きな地震強度を持ち一度発生すれば大災害になり得る地震動
(注2)
 じん性  外力に抗して破壊しにくく、衝撃力にも耐えるような粘り強い性質
(注3)
 設計水平震度  耐震設計において、水平方向の慣性力を算定するために構造物等の重量に乗ずる係数
(注4)
 せん断破壊・せん断耐力  「せん断破壊」とは、せん断力(材を切断しようとする力)を受ける部材断面に生じる破壊をいい、せん断破壊に対する耐荷力を「せん断耐力」という。

 (参考図)

沈砂池の概念図、沈砂池の断面図、配水池の概念図、配水池の断面図