ふるさと雇用再生特別交付金は、厚生労働省が定めた「平成20年度ふるさと雇用再生特別交付金交付要綱」(平成21年厚生労働省発職第0130002号)に基づき、各都道府県が、同交付金を原資として、ふるさと雇用再生特別基金(以下「基金」という。)を造成するために国が交付するものである。
そして、各都道府県及び各市町村等は、厚生労働省が定めた「ふるさと雇用再生特別基金事業実施要領」(平成21年厚生労働省職発第0130005号。以下「実施要領」という。)等に基づき、平成20年度から23年度までの間に、基金を財源として、地域の求職者等を雇い入れて、原則として1年以上の長期的な雇用機会の創出を図る事業(以下「基金事業」という。)等を実施している。
基金事業では、民間企業等に対する委託により行う事業(以下「委託事業」という。)が実施されており、都道府県は、自らが委託事業を実施する場合は事業費相当額を基金から取り崩し、また、管内の市町村等が委託事業を実施する場合は、当該市町村等に対して基金を財源とした補助金(補助率10分の10)を交付している。
また、実施要領等において、委託事業の実施に関して次のような事項が定められている。
〔1〕 都道府県又は市町村等(以下「委託者」という。)は、委託事業により委託先の民間企業等(以下「受託者」という。)において収入が発生した場合は、受託者に対して当該収入の返還を命じる旨を委託契約書等に定めること
〔2〕 委託者は、受託者が、失業者を新たに雇用する際に、本人に失業者であることを証明できるものの提示を求めることなどによる確認を怠った場合は、委託契約額の一部又は全部を返還させることができることなどを委託契約書等に定めること
〔3〕 委託事業において新たに雇用される労働者は、所定の労働時間及び日数が、当該事業所において同種の業務に従事する他の通常の正規労働者のおおむね4分の3以上であるなど常用的雇用関係にあること
〔4〕 都道府県が作成する事業計画において、委託事業に要する経費のうち失業者の雇用に係る人件費の割合(以下「失業者人件費割合」という。)が2分の1以上であること
本院が、9道県及びこれら9道県から補助金の交付を受けた管内の39市町村において会計実地検査を行った結果、4道県(注1)
に造成された基金を財源として、2道県及び2県の5市(注2)
が実施した基金事業において、委託事業の受託者が、実績報告書に虚偽の記載を行っていたり、事業に従事した者の人件費等を誤って記載していたりなどしていたことにより、計36,571,579円(交付金相当額同額)が、4道県に造成された基金から過大に取り崩され、補助の目的外に使用されていて不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、上記の4道県及び5市において、市又は受託者から提出された実績報告書の内容の調査確認が十分でなかったこと、2県において、5市に対する指導が十分でなかったこと、厚生労働省において、4道県に対する指導監督が十分でなかったことなどによると認められる。
これを事業主体別に示すと次のとおりである。
部局等 | 補助事業者 (事業主体) |
補助事業 | 年度 | 基金造成額 | 左に対する交付金交付額 | 不当と認める基金使用額 | 不当と認める交付金相当額 | |
千円 | 千円 | 千円 | 千円 | |||||
(293) | 厚生労働本省 | 北海道 | ふるさと雇用再生特別基金造成 | 20 | 8,210,000 | 8,210,000 | 1,160 | 1,160 |
北海道は、平成20年度に造成された基金を財源として、21年度に生活習慣改善啓発事業を46,036,680円で委託して実施した。しかし、受託者から提出された同事業の実績報告書には、事業に従事した14人の通勤交通費計1,160,355円が誤って二重に計上されていた。
したがって、適正な委託費の額を算定すると44,876,325円となり、上記委託費の支払額46,036,680円との差額1,160,355円(交付金相当額同額)が基金から過大に取り崩され、補助の目的外に使用されていた。
(294) | 厚生労働本省 | 千葉県 | ふるさと雇用再生特別基金造成 | 20 | 5,760,000 | 5,760,000 | 29,458 | 29,458 |
千葉県は、管内の市町村等が委託事業を実施する場合に、当該市町村等に対して、平成20年度に造成された基金を財源として補助金を交付している。
このうち、4市(注3)
において、委託事業の受託者が、実績報告書に虚偽の記載をしていたり、委託事業により収入が発生した場合の処理について、規定に基づき返還されることなく受託者が留保していたりなどしていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
柏市は、平成21年度に、保育サービス充実事業を43,139,392円で委託して実施した。しかし、受託者が、この事業で新たに失業者を雇用したとして報告していた31名のうち19名については、従前から雇用関係にあった者を新たに雇用したと偽るなどしていたものであり、当該19名に係る人件費等計28,126,806円が同事業の実績報告書に計上されていた。
したがって、上記の4市で実施された4事業について適正な委託費の額を算定すると計42,408,638円となり、委託費の支払額計71,867,530円との差額計29,458,892円(交付金相当額同額)が基金から過大に取り崩され、補助の目的外に使用されていた。
部局等 | 補助事業者 (事業主体) |
補助事業 | 年度 | 基金造成額 | 左に対する交付金交付額 | 不当と認める基金使用額 | 不当と認める交付金相当額 | |
千円 | 千円 | 千円 | 千円 | |||||
(295) | 厚生労働本省 | 福岡県 | ふるさと雇用再生特別基金造成 | 20 | 6,970,000 | 6,970,000 | 2,618 | 2,618 |
福岡県は、平成20年度に造成された基金を財源として、20、21両年度に、看護補助者確保支援事業を計251,136,621円で委託して実施した。しかし、賃金台帳の金額が誤って集計されていたことなどにより、受託者から提出された同事業の実績報告書には、人件費等計2,618,457円が過大に計上されていた。
したがって、適正な委託費の額を算定すると248,518,164円となり、上記委託費の支払額251,136,621円との差額計2,618,457円(交付金相当額同額)が基金から過大に取り崩され、補助の目的外に使用されていた。
(296) | 厚生労働本省 | 熊本県 | ふるさと雇用再生特別基金造成 | 20 | 6,170,000 | 6,170,000 | 3,333 | 3,333 |
熊本県は、管内の市町村等が委託事業を実施する場合に、当該市町村等に対して、平成20年度に造成された基金を財源として補助金を交付している。
このうち、熊本市は、21年度に、こどもホットラインくまもと事業を4,622,625円で委託して実施した。同市は、熊本県の事業計画において、実施要領等に基づき、失業者人件費割合が2分の1以上とされていたことから、受託者との委託契約書において本件事業に係る失業者人件費割合を2分の1以上と定めていた。また、前記のとおり、委託事業において新たに雇用される労働者は、常用的雇用関係にあることが必要であるとされている。
しかし、受託者が、本件事業で新たに失業者を雇用したと報告していた4名のうち常用的雇用関係にあって委託事業の対象となるのは1名で、その人件費は644,375円となっていた。
したがって、失業者人件費割合を2分の1以上とすることとして、適正な委託費の額を算定すると、1,288,750円となり、上記委託費の支払額4,622,625円との差額3,333,875円(交付金相当額同額)が基金から過大に取り崩され、補助の目的外に使用されていた。
千円 | 千円 | 千円 | 千円 | |||||
(293)—(296)の計 | 27,110,000 | 27,110,000 | 36,571 | 36,571 |
(注1) | 4道県 北海道、千葉、福岡、熊本各県
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(注2) | 5市 館山、松戸、柏、四街道、熊本各市
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(注3) | 4市 館山、松戸、柏、四街道各市
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