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  • 平成22年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 厚生労働省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

医師、歯科医師及び薬剤師が加入する国民健康保険組合において、組合員が診療所等の休止又は廃止を届け出た後におけるそれぞれの事業又は業務への従事の状況を適時的確に把握して組合員資格の管理を適切に行うなどするよう意見を表示したもの


(7) 医師、歯科医師及び薬剤師が加入する国民健康保険組合において、組合員が診療所等の休止又は廃止を届け出た後におけるそれぞれの事業又は業務への従事の状況を適時的確に把握して組合員資格の管理を適切に行うなどするよう意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)医療保険給付諸費
  (平成19年度以前は、 (項)国民健康保険助成費)
部局等 厚生労働本省、7都府県
補助の根拠 国民健康保険法(昭和33年法律第192号)
補助事業者 15国民健康保険組合(保険者)
療養給付費補助金の概要 国民健康保険組合が行う国民健康保険事業の運営の安定化を図るため、被保険者に係る医療給付費に対して補助するもの
休止又は廃止を届け出た後も組合員となっている者等に係る医療給付費の額
14億0361万余円
(平成17年度〜21年度)

上記に係る療養給付費補助金相当額
4億3089万円
(背景金額)

【意見を表示したものの全文】

   医師、歯科医師及び薬剤師が加入する国民健康保険組合における組合員資格について

(平成23年10月21日付け 厚生労働大臣宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 制度等の概要

(1) 国民健康保険組合の概要

 国民健康保険は、市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)又は国民健康保険組合(以下「国保組合」という。)が保険者となって、被用者保険の被保険者及びその被扶養者等を除き、当該市町村の区域内に住所を有する者等を被保険者として、その疾病、負傷、出産又は死亡に関して、療養の給付、出産育児一時金の支給、葬祭費の支給等の給付を行う保険である。
 このうち、国保組合は、国民健康保険法(昭和33年法律第192号。以下「国保法」という。)に基づき、主たる事務所の所在地の都道府県知事の認可を受けて設立され、都道府県知事の認可を受けた規約において定めた同種の事業又は業務に従事する者で当該国保組合の地区内に住所を有する者を組合員として組織することとなっており、国保組合が行う国民健康保険の被保険者は、これらの組合員及びその世帯に属する者とされている。

(2) 療養給付費補助金の概要

 貴省は、国民健康保険について各種の国庫助成を行っており、その一つとして、国保組合が行う国民健康保険事業運営の安定化を図るため、国保組合に対して、療養給付費補助金を交付している。
 そして、療養給付費補助金の交付額は、原則として、各国保組合の被保険者の療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る被保険者の一部負担金に相当する額を控除した額及び入院時食事療養費、療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額の合算額(以下「医療給付費」という。)の100分の32に相当する額等とすることとなっている。
 療養給付費補助金の交付手続については、〔1〕 交付を受けようとする国保組合は都道府県に交付申請書を提出して、〔2〕 これを受理した都道府県は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査の上、貴省に提出して、〔3〕 貴省はこれに基づき交付決定を行い療養給付費補助金を交付することとなっている。そして、〔4〕 当該年度の終了後に、国保組合は都道府県に実績報告書を提出して、〔5〕 これを受理した都道府県は、その内容を審査の上、貴省に提出して、〔6〕 貴省はこれに基づき交付額の確定を行うこととなっている。

(3) 医師、歯科医師及び薬剤師の国保組合の概要

 旧国民健康保険法(昭和13年法律第60号)に基づく国民健康保険事業は、従前から相扶共済の精神にのっとり同一業種で任意に組織していた組合があったことを踏まえ、地域住民を対象とする普通国保組合と、同一事業又は同種の業務に従事する者を対象とする特別国保組合(現在の国保組合)を保険者として行われており、これらの国保組合は、いずれも任意に設立されるものとなっていた。
 このうち、特別国保組合は、昭和33年に現行の国保法が制定され、全ての市町村が36年4月までに国民健康保険事業を行うことが義務付けられた以降は、その歴史的経緯等から国保組合として認められていたものである。
 医師、歯科医師及び薬剤師の医療従事者は、診療する側であることから医療給付を行う必要がない者として、普通国保組合に加入することができないこととされていた。このため、医師、歯科医師及び薬剤師の国保組合(以下「三師国保組合」という。)は特別国保組合として、32年以降に順次設立されたものであり、平成22年度末現在における組合数は、全165国保組合の過半数を占める92組合(医師国保組合47組合、歯科医師国保組合27組合、薬剤師国保組合18組合)となっている。

2 本院の検査結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、合規性等の観点から、13都府県(注1) の23三師国保組合において、組合員資格を正しく確認しその管理が適切に行われているかに着眼して、事業実績報告書、加入申込書等の関係書類を調査するとともに、23三師国保組合に対して調査票を配布するなどして、各国保組合が、その規約において定めた事業又は業務に従事する者を組合員として組織しているかなどを確認する方法により会計実地検査を行った。

 13都府県  東京都、大阪府、秋田、神奈川、富山、山梨、岐阜、愛知、三重、広島、山口、福岡、沖縄各県

 (検査の結果)

 検査したところ、次のような状況となっていた。

ア 上記23三師国保組合のうち12都府県(注2) の21三師国保組合は、それぞれの規約において、組合員の範囲をその母体組織である医師会、歯科医師会又は薬剤師会(以下、これらを合わせて「三師会」という。)の会員及びこれらの会員の所属する医療機関等に勤務する者とするなどと規定しており、組合員の資格について、それぞれの事業又は業務に従事する必要があることが明確になっていなかった。
 このことについて、12都府県(注3) の18三師国保組合は、調査票において、三師会の会員資格があれば組合員となることができると回答している。
イ 三師会等に診療所等の休止又は廃止(以下「休廃止」という。)を届け出た23三師国保組合の組合員のうち12都府県(注2)の21三師国保組合の組合員1,612人(被保険者2,647人)が、休廃止を届け出た後も引き続きそれぞれの三師国保組合の組合員となっていた。
 これらの組合員の休廃止の届出後の状況を期間別に示すと次表のとおりであり、休廃止を届け出てから2年以上経過している者が、全体の6割を超えている状況となっている。

表 休廃止を届け出た後も組合員となっていた組合員数・被保険者数
(単位:人、%)
区分 休廃止を届け出てからの経過期間
1年未満 1年以上2年未満 2年以上
組合員 被保険者 組合員 被保険者 組合員 被保険者 組合員 被保険者
休止 2 3 4 6 12 23 18 32
廃止 319 532 256 430 1,019 1,653 1,594 2,615
321 535 260 436 1,031 1,676 1,612 2,647
全体に占める比率 19.9 20.2 16.1 16.5 64.0 63.3 100 100
(注)
 被保険者数には組合員数を含む。

 このことについて、21三師国保組合は、休廃止の届出は、医師等である組合員自らが経営する診療所等を病気等の理由により休院又は閉院する場合に行うものであって、組合員が三師会を退会しないということは、医師等として、その後もそれぞれの事業又は業務に携わっているはずであるなどと説明している。
ウ 上記21三師国保組合のうち7都府県(注4) の15三師国保組合は、調査票において、休廃止を届け出た後も引き続き組合員となっている組合員1,404人(被保険者2,335人)のうち、148人(被保険者292人)については休廃止を届け出た後も事業又は業務に従事していると回答していた。
 しかし、残りの組合員1,256人(被保険者2,043人)の状況については調査票にその記載がなかった。
 このことは、三師国保組合において、組合員が休廃止を届け出た後の事業又は業務への従事の状況について適時的確に把握していなかったことなどによると思料される。
エ 前記15三師国保組合の組合員1,404人、これに係る被保険者2,335人の17年度から21年度までの間における医療給付費は14億0361万余円となっており、これらの被保険者に係る療養給付費補助金相当額を算定すると4億3089万余円となる。

(注2)
 12都府県  東京都、大阪府、秋田、神奈川、富山、岐阜、愛知、三重、広島、山口、福岡、沖縄各県
(注3)
 12都府県  東京都、大阪府、秋田、神奈川、富山、山梨、岐阜、愛知、三重、広島、山口、福岡各県
(注4)
 7都府県  東京都、大阪府、神奈川、愛知、広島、福岡、沖縄各県

 (改善を必要とする事態)

 前記のとおり、国保法において、国保組合は、同種の事業又は業務に従事する者で国保組合の地区内に住所を有する者を組合員として組織すると規定されている。したがって、三師会の会員という特定の資格を有することをもって、事業又は業務に従事していなくても組合員となることができるものではない。
 そして、前記のように、三師国保組合において、三師会の会員資格があれば組合員となることができると規約を解釈しているなどのことから、組合員の資格について、それぞれの事業又は業務に従事する必要があることが明確でなく曖昧な状況となっていたり、休廃止を届け出てから長期間が経過するなどしているのに、組合員の事業又は業務への従事の状況を適時的確に把握していなかったりしている事態は、国民健康保険制度の適正で公平な運営を図る上で適切ではなく、改善の要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 三師国保組合において、それぞれの事業又は業務に従事する者を組合員として組織する必要があることについて十分認識していないこと
イ 三師国保組合において、組合員が休廃止を届け出た後のそれぞれの事業又は業務への従事の状況を適時的確に把握して組合員資格の管理を適切に行うことについての認識が十分でないこと

3 本院が表示する意見

 国保法は保険者を原則として市町村としているが、国保組合は、国保法制定後もその歴史的経緯等から同種の事業又は業務に従事する者が自主的に組織することを特別に認められたものであることから、その組合員資格が適正に保たれることで、適正で公平な国民健康保険制度の運営が図られるとともに、国保組合に交付される療養給付費補助金の算定が適正なものとなる。
 ついては、貴省において、国保法の規定にのっとって三師国保組合が適正に組織されるよう、次のとおり意見を表示する。
ア 三師国保組合に対して、国保組合は、同種の事業又は業務に従事する者を組合員として組織する必要があることの徹底を図るよう指導すること
イ 三師国保組合に対して、組合員が休廃止を届け出た後におけるそれぞれの事業又は業務への従事の状況を適時的確に把握して組合員資格の管理を適切に行うよう指導すること