会計名及び科目 | 一般会計 | (組織)厚生労働本省 | (項)職業能力開発強化費 |
部局等 | 厚生労働本省 | ||
交付の根拠 | 予算補助 | ||
事業主体 | 中央職業能力開発協会 | ||
緊急人材育成支援事業の概要 | 雇用保険を受給できない者の職業訓練の機会を拡充するため、職業訓練、訓練・生活支援給付等を実施するもの | ||
緊急人材育成支援事業に係る基金造成額 | 3870億5061万余円(平成21、22両年度) | ||
上記のうち平成22年度までに基金から支出された額 | 1357億3833万円(背景金額) |
(平成23年9月26日付け 厚生労働大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴省は、平成21年度第1次補正予算が平成21年5月29日に成立したことを受けて、平成21年度緊急人材育成・就職支援事業臨時特例交付金交付要綱(平成21年厚生労働省発能第0605001号)に基づき、同年6月に、中央職業能力開発協会(以下「協会」という。)に対して緊急人材育成・就職支援事業臨時特例交付金7000億円を交付している。
協会は、この交付金を財源として緊急人材育成・就職支援基金(以下「基金」という。)を造成し、基金を活用して緊急人材育成・就職支援基金事業(以下「基金事業」という。)を実施している。基金事業は、深刻な経済危機の中で、製造業を中心とした雇用調整により離職を余儀なくされた非正規労働者等の失業期間が長期化していくことが懸念されることから、雇用保険受給資格のない者や雇用保険受給終了者等の長期失業者に対するセーフティネットを作り、公共職業安定所(以下「安定所」という。)が中心となって職業訓練、再就職及び生活への支援を総合的に推進することを目的としている。
そして、22年度までの基金の造成額は、前記の交付金交付後、基金の一部が国庫返納されたり交付金が追加交付されたりしたことにより5581億4662万余円となっている。
基金事業のうち、緊急人材育成支援事業は、雇用保険を受給できない者の職業訓練の機会を拡充するため、図1のとおり、職業訓練(以下、緊急人材育成支援事業として行うこの職業訓練を「基金訓練」という。)、訓練・生活支援給付等を実施するものである。
図1 緊急人材育成支援事業の概要図
そして、前記の基金造成額5581億4662万余円のうち、表1のとおり、緊急人材育成支援事業に係る造成額は3870億5061万余円となっており、このうち1357億3833万余円が21、22両年度に基金から支出されている。
年月日(注) | 平成21年5月29日 | 平成21年12月15日 | 平成22年9月24日 | 平成22年11月26日 | |
基金の造成額(千円) | 700,000,000 | 346,646,627 | 358,646,627 | 558,146,627 | |
うち緊急人材育成支援事業に係る造成額(千円) | 478,439,000 | 288,043,056 | 288,043,056 | 387,050,619 | |
事由 | 21年度第1次補正予算成立により、事業開始。 | 21年度第2次補正予算成立により、3533億余円を国庫返納。 | 閣議決定により、120億円を積み増し。 | 22年度補正予算成立により、1995億円を積み増し。 |
ア 基金訓練の概要
基金訓練の対象者は、訓練開始予定の日において、安定所に求職の申込みを行っている求職者であること、現在有する技能、知識、職業経験等と労働市場の状況からみて受講が適切であると判断され、公共職業安定所長(以下「安定所長」という。)から受講勧奨を受けていることなどの要件を満たす者であるとされている。
協会は、基金訓練の訓練コースについて、基金訓練を実施する機関(専修学校、教育訓練企業等。以下「訓練実施機関」という。)の名称、所在地、訓練内容、応募方法等に関する情報を、安定所と連携して受講希望者に提供することとされている。これらの情報により訓練コースを選定した受講希望者は、安定所から交付を受けた受講申込書を訓練実施機関に提出し、訓練実施機関の選考及び安定所長による受講勧奨を経て、基金訓練の受講を開始する。
基金訓練の訓練コースは基礎力を養成するもの、実践的な能力を習得するものなど4種類があり、これらの訓練コース及び都道府県等が実施する公共職業訓練については、基金訓練の基礎的な訓練コースの受講後に基金訓練の実践的な訓練コースを受講したり、基金訓練の実践的な訓練コースの受講後に公共職業訓練を受講したりなど、一定の条件の下に連続して受講できることとされている。そして、基金訓練の受講者に対しては、安定所において訓練の修了後に積極的な就職支援を行うこととされている。
また、訓練実施機関に対しては、その実施する訓練コースの種類及び受講者数等に応じて、基金から訓練奨励金を支給することとされている。
イ 訓練・生活支援給付の概要
訓練・生活支援給付は、基金訓練又は公共職業訓練(以下「基金訓練等」という。)の受講中の生活保障を行い、円滑な受講に資するため、基金訓練等を受講している者に対して、訓練・生活支援給付金(以下「支援給付金」という。)を支給するものである。訓練・生活支援給付は、生活が困窮しており訓練の継続が困難であると判断される受講者の生活を保障するものであることから、支給対象者についての要件(以下「受給資格要件」という。)が定められており、その主なものは以下のとおりである。
〔1〕 安定所長の受講勧奨等により、基金訓練等を受講する者であること
〔2〕 雇用保険の求職者給付の受給ができない者であること
〔3〕 世帯の主たる生計者であること(以下「主たる生計者要件」という。)
〔4〕 年収が200万円以下であり、かつ世帯全体の年収が300万円以下の者であること
〔5〕 世帯を構成する者全員の保有する金融資産の合計が800万円以下の者であること(以下「金融資産要件」という。)
支援給付金の支給額は月額10万円(被扶養者を有する者は月額12万円)とされており、21、22両年度に支給された支援給付金は738億4332万円となっている。
支援給付金の支給を希望する者は、訓練・生活支援給付受給資格認定申請書(以下「認定申請書」という。)、所要の証明書類及び申請者本人の自筆署名による申告書(以下「申告書」という。)を安定所に提出し、安定所は受給資格要件を確認した上で、認定申請書等を協会に送付することとされている。協会は、送付された認定申請書等を審査して受給資格の認定(以下「受給資格認定」という。)を行うこととされている。また、受給資格認定時の審査に当たっては、証明書類によることが困難な場合又は本人から申し立てがあった場合には、受給資格要件の大半について、申告書をもって確認を行って差し支えないものとされている。
そして、協会から受給資格認定を受けた者(以下「受給資格者」という。)は、毎月、訓練・生活支援給付支給申請書等を訓練実施機関を経由するなどして協会に提出することとされている。支援給付金の支給は、基金訓練等への出席に関する要件(以下「出席要件」という。)等を満たすことが必要とされており、協会は、提出された訓練・生活支援給付支給申請書等について、出席要件等を審査して支給を決定することとされている。
なお、公共職業訓練の受講により受給資格認定を受ける場合は、当該訓練について安定所長の受講推薦を受ける必要がある。
ウ 支援給付金に係る事後的調査の概要
協会は、支援給付金に係る不正防止のため、毎年度、受給者の中から調査対象者を無作為に抽出し、受給者本人及び当該者の訓練を実施した訓練実施機関に対して、電話等により申請内容の確認を行うこととなっている。
また、不正受給の疑いがあるなど受給者に事情を確認する必要がある場合には、協会は、安定所に対して、受給者本人から事情を聴取したり書類提出等を指示したりするよう依頼することとなっている。この安定所が行う調査については、あくまでも本人の任意の協力によってのみ実現され得るものであり、本人がこれに応じない場合であっても、強制力をもって従わせることはできないものであることに留意することとされている。
エ 受講勧奨、受講推薦等の概要
基金訓練等の受講に当たって要件となる安定所長の受講勧奨及び受講推薦(以下「受講勧奨等」という。)は、単に求職者の受講希望のみに応じて受動的に行うべきものではなく、求職者のこれまでの職業経歴と今後の職業生活の設計に係る長期的な視点での職業相談を行った上で、受講させる訓練を決定して受講勧奨等を行う必要があるとされている。
また、安定所においては、担当者制を採っている場合を除き、求職者の来所の都度、担当する職員等が変わることなどから、職業相談に当たっては、求職者の支援のために必要な情報を共有して一貫した就職支援を行うために、職業相談等の終了後等に、必ず求職管理情報(注1)
に必要な情報を記録することとされている。
オ 就職状況の確認等の概要
訓練実施機関は、各受講者の訓練終了3か月後(受講を途中でやめた者(以下「中退者」という。)については退校時)の就職等の状況について、各受講者からの書面(以下「就職状況報告書」という。)の提出により把握し、その結果を取りまとめて就職状況報告書とともに協会に報告することになっている。そして、貴省は、基金訓練受講者の就職率を、就職状況報告書に基づき算定している。
職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律(平成23年法律第47号。以下「求職者支援法」という。)が23年5月20日に公布され、同年10月1日から同法に基づく新制度(以下「求職者支援制度」という。)が開始されることとなった。求職者支援制度は、現行の緊急人材育成支援事業の制度を基に創設されるものであり、安定所に求職の申込みをしている者(雇用保険被保険者及び雇用保険の受給資格を有する者を除く。)のうち、労働の意思及び能力を有している者であって、職業訓練その他の支援措置を行う必要があると安定所長が認めた者(以下「特定求職者」という。)に対して、職業訓練の実施、給付金の支給その他の就職に関する支援措置を実施することとされている。
求職者支援法においては、職業訓練の実施及び給付金の支給について、以下のように規定されている。
〔1〕 厚生労働大臣は、職業訓練を行う者の申請に基づき、当該者の行う職業訓練について、就職に必要な技能等を十分に有していない者の職業能力の開発及び向上を図るために効果的なものであることなどの要件に適合する旨の認定をすることができること(以下、求職者支援制度において厚生労働大臣が認定するこの職業訓練を「認定職業訓練」という。)
〔2〕 特定求職者が安定所長の指示した認定職業訓練等を受けることを容易にするため、当該特定求職者に対して職業訓練受講給付金を支給することができること
求職者支援法における認定職業訓練及び職業訓練受講給付金は、現行の緊急人材育成支援事業における基金訓練及び支援給付金に、それぞれ相当するものとなっている。
そして、現行の緊急人材育成支援事業は求職者支援制度の開始に伴って同年9月30日で終了(経過措置に係るものを除く。)することとなっており、基金事業全体が終了した際、残余財産がある場合は、交付金の全部又は一部に相当する額が国庫に納付されることとなっている。また、緊急人材育成支援事業の実施主体であった協会は、求職者支援制度に係る業務は行わないこととなっている。
(検査の観点及び着眼点)
緊急人材育成支援事業は、雇用保険制度と生活保護制度の間を埋める第2のセーフティネットを整備するものであるが、予算措置により協会に基金を設置して実施される時限の補助事業であり、また制度の設計から事業開始までが短期間のうちに行われている。一方で、恒久的にこのセーフティネットを整備するものとして、求職者支援法に基づく求職者支援制度が導入されることとなっており、求職者支援制度は緊急人材育成支援事業の制度を基に創設されるものとなっている。そして、23年10月1日から実施される求職者支援制度に係る23年度の予算額は、665億円と多額に上っている。
本院は、このような状況を踏まえて、求職者支援制度の実施に資するものとすることを念頭において、緊急人材育成支援事業の実施状況について、合規性、有効性等の観点から、支援給付金の支給等は適切に行われているか、事業の効果を適切に把握し十分に発現される体制となっているかなどに着眼して検査を行った。
(検査の対象及び方法)
本院は、21、22両年度に緊急人材育成支援事業のために基金から支出された1357億3833万余円を対象として、貴省及び協会において、交付金交付申請書、事業実施報告書等の関係書類等により会計実地検査を行うとともに、貴省及び協会から、支援給付金の支給の記録、受講者の就職状況に係る調書等の提出を受けその内容を分析するなどして検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
ア 中退者等に対する支援給付金の支給
支援給付金は、訓練受講中の生活保障を行うものとして月額10万円又は12万円支給されることとされている。そして、1回目の支給については、基金訓練等に1日以上出席することで、2回目以降の支給については、前月の基金訓練等に8割以上出席することなどで、それぞれ出席要件を満たし、1か月分の支援給付金が支給されることとなっている。
そこで、22年12月までに終了した基金訓練等を受講した受給資格者に対する受給資格認定115,640件のうち、支援給付金の支給を1回しか受けていないもの5,580件(これに対する22年度末までの支援給付金支給額5億9012万円)について検査したところ、基金訓練を受講していた期間が訓練開始から数日間であるにもかかわらず、1回目の支給として1か月分の支援給付金を受給している者が見受けられた。
受講者Aは、平成22年5月6日開始の訓練コースを受講し、協会から受給資格認定を受けていた。
そして、Aは、5月6日及び7日の2日間しか訓練に出席していないのに、訓練初日の5月6日の出席により1回目の支給に係る出席要件を満たすこととなり、2日間の訓練受講に対し1か月分の生活保障に相当する支援給付金12万円を受給していた。
また、基金訓練等を中退して、直ちに別の基金訓練等を連続して受講した結果、支援給付金の対象となる訓練の期間が重複して、実質的に月額10万円又は12万円を上回る支援給付金を受給している者が見受けられた。
受講者Bは、平成22年5月6日開始の6か月間の訓練コースCを受講し、協会から受給資格認定を受けていた。
そして、Bは、訓練コースCを4か月受講した後、9月3日付けで退校願を提出して中退し、新たに別の訓練実施機関が実施する9月6日開始の3か月間の訓練コースDを受講して、協会から受給資格認定を受けていた。
この間、Bは、8月6日からの1か月間に訓練コースCに8割以上出席しており、中退後の9月6日からの1か月分の支援給付金についても出席要件を満たすことから、この1か月分を含め、訓練コースCに係る支援給付金を5か月分計60万円受給していた。一方で、訓練コースDに係る支援給付金を9月6日からの3か月分計36万円受給していた。このため、訓練コースC及び訓練コースDに係る支援給付金の対象となる期間は、9月6日から10月5日までの1か月間が重複しており、Bは、この1か月間に、2か月分の生活保障に相当する支援給付金計24万円を受給していたことになる。
以上のとおり、緊急人材育成支援事業においては、中退者等に対する支援給付金の支給が基金訓練等の受講期間に応じたものとなっていない事態が生じていた。
求職者支援制度においては、職業訓練受講給付金の支給を認定職業訓練等の受講期間に応じたものとする必要があると認められる。
イ 支援給付金の受給資格認定時の審査
(ア) 支援給付金の受給資格要件の確認の状況
前記のとおり、受給資格認定時の審査に当たっては、所要の証明書類等により受給資格要件の確認を行うこととされているが、主たる生計者要件を確認するために必要な申請者の世帯構成の確認については、認定申請書の家族状況欄に本人が記載した世帯構成及び申告書によることとされており、住民票等の証明書類によることとされていない。また、このほか、証明書類によることが困難な場合又は本人から申立てがあった場合には、受給資格要件の大半について、申告書により確認を行って差し支えないものとされている。
そこで、協会における実際の審査の状況について、23年5月2日から31日までに受給資格認定された17,499件のうち100件を無作為に抽出して、審査の際に協会が確認した書類を検査した。その結果、主たる生計者要件の確認に当たり、申請者の世帯構成について認定申請書の家族状況欄の記載及び申告書のみにより確認していたものが100件のうち67件、金融資産要件について申告書のみにより確認していたものが100件のうち93件等となっていた。
(イ) 支援給付金の不適正支給の状況
支援給付金の受給資格認定に当たっては主たる生計者要件があることなどから、受給資格者は原則として各世帯につき1人のみとされているが、これについては、過去の受給資格認定に係るデータを参照することで、同一住所に同一姓の受給資格者が認定されていないか確認することが可能である。
そこで、本院が協会から受給資格認定に係るデータの提出を受け、22年12月までに協会が受給資格認定を行った169,726件のうち同一住所かつ同一姓である者について受給資格認定を行っていた605件を抽出して検査したところ、主たる生計者要件を満たしていない者に対して支援給付金を支給していたものが129件(これに対する22年度末までの支援給付金支給額4950万円)あった(注2)
。また、これら129件の中には、認定申請書の家族状況欄に事実と異なる世帯構成を記載しているものが見受けられた。
協会は、平成22年7月に、基金訓練受講予定のEから、認定申請書の家族状況欄にE本人のみが記載され、単身世帯であるとする認定申請書及び添付書類等の提出を受けて、これに基づきEを世帯の主たる生計者として受給資格認定し、その後支援給付金計60万円を支給していた。
しかし、実際には、Eと同一世帯のFが同年5月に認定申請書を提出して、受給資格認定を受けて支援給付金を受給しており、Eは認定申請書に事実と異なる世帯構成を記入していたものと認められた。このことから、Eは主たる生計者要件を満たしておらず、支援給付金の支給対象とはならない。
以上のことから、申請者の世帯構成を、認定申請書の家族状況欄の記載及び申告書のみにより確認することとしている取扱いは、必ずしも適切ではないと認められる。
求職者支援制度においては、職業訓練受講給付金の支給に当たり、申請者と同居の配偶者、子、父母等が職業訓練受講給付金の支給を受けた認定職業訓練等を受講していないことを要件とすることが予定されており、その要件の確認のためには、申請者の世帯構成を的確に把握する必要がある。したがって、職業訓練受講給付金の支給を適正なものとするよう、要件の確認に当たっては、住民票等の証明書類により申請者の世帯構成を把握した上で、同一住所における申請者以外の職業訓練受講給付金受給者の有無の確認を行う必要があると認められる。
ウ 支援給付金の受給資格要件の事後的調査
前記のとおり、受給資格認定時の審査に当たっては、受給資格要件の大半について申告書をもって確認を行って差し支えないこととされている。これについて、貴省は、受給資格要件の審査を迅速に行う観点から、事実関係を実際に証明書類等で確認することが困難な場合は、申告書で事実確認に代えることとしたものであり、必要な場合は事後的に確認を行うことなどにより支給の適正性を担保しているとしている。このため、支援給付金の支給について事後的調査を行うに当たっては、本人に対する事実確認のみによるのではなく、必要に応じて、市区町村が発行する所得証明書、住民票等を確認すること、また、受給資格者及び受給資格者と同一世帯の者の名義である預金口座の残高、取引状況等について、金融機関に照会することなどにより受給資格要件を十分に確認することが重要となる。
そこで、協会等が実施した事後的調査の実施状況について検査したところ、以下のとおりとなっていた。
(ア) 事後的調査における受給資格要件の確認状況
支援給付金に係る事後的調査については、受給者の中から調査対象者を無作為に抽出して確認を行うもの、不正受給に関する通報等により要件に疑義が発生した場合に行うものなどがある。
これらの事後的調査における受給資格要件の確認状況について検査したところ、調査対象者を無作為に抽出して確認を行うものなどの調査は、いずれも支援給付金の出席要件を確認するものであって受給資格要件を確認するものとはなっていなかった。
また、不正受給に関する通報等により受給資格要件に疑義が発生した場合の調査は、23年5月末までに20件(雇用保険の失業等給付の不正受給に伴って支援給付金の支給を取り消したものを除く。)実施されており、このうち不正受給が判明したものは1件であった。この調査は、協会から依頼を受けた安定所が受給資格者に来所や資料提出を求めるなどして本人に事実を確認するものであったが、前記のとおり、あくまでも本人の任意の協力によってのみ実現される、強制力のない調査であるとされており、本人の任意の協力が得られずに十分な調査を行えなかったものが見受けられた。
協会は、平成22年3月に、受給資格者Gが月30万円程度の給与を得ており年収要件を満たさない可能性があるとの情報提供を受けて、東京労働局に対して、Gの就業実態を調査して受給資格要件の再確認を行うとともに、Gの就業実態(就業先及び給与)が確認できる資料、生計を一にしている者の就業実態(就業先及び給与)が確認できる資料及び世帯全員の住民票を提出するよう求めた。
しかし、この求めを受けて東京労働局が大森公共職業安定所に調査を実施させたところ、同安定所はG本人の任意の協力を得られなかったため、協会から求められた資料についてGから提出を受けるなどの確認を行わず、Gに対する電話確認のみを行い、東京労働局はこの聴取結果のみを協会に報告していた。
そして、協会は、この報告をもって調査を終了し、不正受給の事実はなかったものとしていた。これについて協会は、支援給付金の事後的調査は強制力を伴わないものであり、受給資格者本人から働いていない旨の回答があればそれ以上の確認を行えないため、調査を終了したものであると説明している。
(イ) 金融機関に対する照会等を円滑に行うための方策
受給資格要件に疑義が発生した場合においては、受給資格者及び受給資格者と同一世帯の者の名義である預金口座の残高、取引状況等について、金融機関に照会するなどの確認が重要になる。しかし、緊急人材育成支援事業においては、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)の規定に鑑みて、受給者本人の同意を得ることなく金融機関に照会を行っても、これに対する金融機関の協力を得ることが難しい状況であり、前記の受給資格要件に係る事後的調査20件についても、直接金融機関に照会を行って確認していた事例はなかった。
そして、事例4のように、事後的に本人の同意を得ることは必ずしも容易ではないことから、照会に対する金融機関の協力を得るには、安定所等が必要と認めた場合は金融機関に対して照会等を行うことについて受給資格認定申請時にあらかじめ申請者本人から同意を得ておくことが有効である。しかし、貴省は、あらかじめ申請者から同意書の提出を受けることとしていなかった。
以上のとおり、支援給付金の事後的調査については、必ずしも受給資格要件の確認を十分に行える体制であったとは認められない。
求職者支援制度では、求職者支援法において、厚生労働大臣は必要に応じて特定求職者等本人に報告を求めることができることなどが規定されているが、職業訓練受講給付金の支給の適正性について事後的に調査する際に適切な確認を行うため、必要な場合には金融機関への照会等に対する協力を得ることができる体制を整備することが必要であると認められる。
ア 基金訓練受講者の就職率の把握方法
貴省は、労働政策審議会点検評価部会において、緊急人材育成支援事業の事業効果を評価するための指標の一つとして、基金訓練受講者の就職率を目標に据えている。そして貴省は、受講者から提出される就職状況報告書を基に就職率を算定しており、22年1月から12月までに終了した訓練コース9,630コースの受講者の訓練終了3か月後等の就職率について、69.2%であるとしている。これについて、算定方法及びその根拠となる計数を示すと、図2のとおりである。
就職率は事業効果を評価する指標の一つであることから、その把握を適切に行うことが重要である。そこで、基金訓練受講者の就職率の把握方法についてみたところ、次のとおりとなっていた。
(ア) 就職状況報告書の様式等について
貴省は、図2のとおり、未就職者が就職状況報告書において「訓練受講中(受講予定)または引き続き訓練を希望」(C)及び「進学・その他」(D)の選択肢を選んで回答した場合、それぞれその者を分母から除いて、就職率を算定している。
「訓練受講中(受講予定)または引き続き訓練を希望」(C)と回答した者を分母から除く取扱いについて、貴省は、他の訓練を連続して受講する者については、連続して受講した訓練と合わせて訓練の効果になると考えているためであるとしている。しかし、このうち「引き続き訓練を希望」としている者については、他の訓練を連続して受講することが確定している者ではないことから、「引き続き訓練を希望」としている者を分母に含めることで、より適切な就職率を把握することが可能であったと思料される。しかし、就職状況報告書の様式は、「引き続き訓練を希望」の者と「訓練受講中(受講予定)」の者とを分けて把握する選択肢となっていなかった。
また、「進学・その他」(D)と回答した者については、「訓練受講中(受講予定)」の者と異なりこれらの者を分母から除くべき特段の理由が見受けられないこと、委託訓練(注3)
の就職率の算定に当たっては「進学・その他」に相当する者を分母から除いていないことから、これを分母に含めることでより適切な就職率を把握することが可能であったと思料される。
(イ) 就職状況報告書の回収率について
22年1月から12月までに終了した基金訓練9,630コースの就職状況報告書の回収率(就職状況報告書提出者数÷受講者数)は86.5%となっている。貴省においては、回収率向上のための取組を行っているところであるが、沖縄県内の訓練コースについては同時期の回収率が42.5%と著しく低いなど、一部の都県内において回収率が十分でない状況となっていた。
以上のとおり、緊急人材育成支援事業においては、基金訓練受講者の就職率の把握に当たり、就職状況報告書の様式に改善の余地があったり、就職状況報告書の回収率が十分でなかったりなどしていた。
求職者支援制度においては、受講者からの就職等の状況についての報告書の様式をより適切なものとしたり、報告書の回収率を改善するための措置を執ったりすることなどにより、就職率の把握をより適切に行う必要があると認められる。
イ 本院が実施した受講者別調査
基金事業は、職業訓練等への支援を推進して、もって労働者の雇用及び生活の安定を図ることを目的とするものである。一方で、貴省が算定した前記の基金訓練受講者の就職率69.2%について、その就職者(図2のA及びE) を雇用形態別にみると、表2のとおり、パートタイム労働者・アルバイト等の雇用形態である者が一定程度含まれている。
雇用形態 | 人数(人) |
常用労働者 | 24,734 |
派遣労働者(常用型) | 3,932 |
派遣労働者(登録型) | 5,703 |
パートタイム労働者・アルバイト | 30,906 |
臨時・季節・日雇労働者、自営 | 10,302 |
計 | 75,577 |
受講者のうち、より安定した就職を実現した者の割合については、雇用保険被保険者資格(注4)
の取得状況が一つの指標となるが、就職状況報告書からは、雇用保険被保険者資格の取得状況を把握することはできない。
また、求職者支援制度は雇用保険の附帯事業と位置付けられていることなどから、同制度における特定求職者については、訓練修了後に雇用保険被保険者資格を取得するなど、より安定した就職を実現することが重要となる。
そして、受講者のより安定した就職のためには、安定所における職業相談等を適切に行うことが重要である。
これらのことから、基金訓練等受講者の訓練終了後の雇用保険被保険者資格の取得状況、安定所における職業相談等の状況等についてみるために、支援給付金の受給資格認定2,000件(これに対する22年度末までの支援給付金支給額6億8758万円)について、以下のとおり受講者別調査を行った。
調査対象: | 平成22年9月30日までに終了した基金訓練等の訓練コースを受講した受給資格者に対する受給資格認定 |
抽出方法: | 上記に対する受給資格認定の取扱実績の多い安定所上位10所(注5) において、取り扱った受給資格認定11,420件から無作為に2,000件を抽出 |
(注4) | 雇用保険被保険者資格 1週間の所定労働時間が20時間以上であること及び引き続き31日以上(平成22年3月までは引き続き6か月以上)の雇用見込みがあることという基準を満たす労働者は、原則として雇用保険の被保険者となる。ただし、雇用される時点において満65歳に達している者は被保険者とならない。
|
(注5) | 安定所上位10所 福岡中央、新宿、那覇、札幌東、阿倍野、熊本、大阪東、池袋、沖縄、渋谷各公共職業安定所
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(ア) 訓練受講後の雇用保険被保険者資格の取得状況
調査の対象とした受給資格認定2,000件のうち、一定の条件を満たす受給資格者(注6)
に係る1,457件について検査したところ、訓練終了3か月後時点において雇用保険被保険者資格を取得していたのは338件(23.1%)であった。
求職者支援制度においては、特定求職者のより安定した就職を実現することが重要となることから、訓練終了後に雇用保険被保険者資格を取得する者の割合の向上に努める必要があると認められる。
(イ) 安定所における職業相談の内容等の記録状況
前記のとおり、受講勧奨等は単に本人の受講希望のみに応じて受動的に行うべきものではなく、十分に職業相談を行った上でなされるべきものであり、安定所において職業相談を行った際には、一貫した就職支援を行うために、必ず求職管理情報に必要な情報を記録することとされている。また、基金訓練等修了後の就職支援を適切に行うためにも、基金訓練等受講前の職業相談の内容を適切に記録しておくことが重要である。
そこで、調査の対象とした2,000件のうち、求職管理情報に当該受講者に係る記録データが保存されていた1,702件について、安定所における職業相談の内容の記録状況を検査したところ、安定所長が受講勧奨等を行った理由が記録されていなかったものが406件、本人が訓練の受講を希望する動機が記録されていなかったものが323件見受けられた。また、これらについて、記録はされていたものの、単に「スキルアップ」や「就職の幅を広げる」と記入されているなど、具体性に乏しい情報と認められるものも見受けられた。
また、訓練終了後の就職支援、連続受講に当たっての受講勧奨等に際して重要な情報である受講者の訓練の修了状況を適切に把握していない安定所が見受けられた。
以上のように、緊急人材育成支援事業においては、受講者の安定所における職業相談の内容が適切に記録されていなかったり、受講者の訓練の修了状況を安定所において適切に把握していなかったりしていた。
求職者支援制度においては、特定求職者に対して定期的に安定所への来所を求め、安定所長が各特定求職者に関して個別に作成する就職支援計画を基に、継続的な職業相談等による就職支援措置を実施することが予定されている。したがって、安定所における就職支援措置を適切に行い特定求職者のより安定した就職を実現することにより事業効果を発現させるため、毎回の職業相談の内容を適切かつ具体的に記録することを徹底したり、特定求職者の訓練の修了状況を適切に把握したりする必要があると認められる。
ウ 訓練実施機関が従前に開講した同種の訓練コースの就職実績の開示
貴省は、前記のとおり、22年1月から12月までに終了した基金訓練の訓練コース9,630コースの就職率を69.2%と算定しているが、これについて、訓練コースごとの就職率の分布をみると、図3のように就職率の高いものから低いものまで広範囲にわたっている。
図3 基金訓練の訓練コースごとの就職率分布状況
このように、訓練実施機関の就職実績は訓練コースにより大きな開きがあることから、受講希望者にとって、訓練実施機関が従前に開講した同種のコースの就職実績は、訓練コース選定のための重要な情報となる。
緊急人材育成支援事業においては、このような就職実績の情報が受講希望者に対して開示されていなかった。しかし、これを開示することは、上記のとおり受講希望者にとって有益であるとともに、訓練実施機関に対しても、就職実績向上のための取組を促す効果を持つと思料されることから、事業効果の発現に資すると考えられる。
以上のことから、求職者支援制度の実施に当たっては、その事業効果を発現させるため、安定所等において認定職業訓練の情報を提供する際、訓練実施機関が従前に開講した同種の訓練コースの就職実績を開示するための方法を検討することが必要であると認められる。
(改善を必要とする事態)
緊急人材育成支援事業において見受けられた以下のような事態は適切ではなく、求職者支援制度の実施に当たり、改善の要があると認められる。
ア 中退者等に対する支援給付金の支給が、基金訓練等の受講期間に応じたものとなっていない事態
イ 支援給付金の受給資格認定の審査における主たる生計者要件の確認方法が必ずしも適切でない事態
ウ 支援給付金の事後的調査について、必ずしも受給資格要件の確認を十分に行える体制となっていない事態
エ 基金訓練の就職状況報告書の様式に改善の余地があったり、就職状況報告書の回収率が十分でなかったりなどしている事態
オ 安定所における職業相談の内容が適切に記録されていなかったり、受講者の訓練の修了状況を安定所において適切に把握していなかったりしている事態
カ 基金訓練の訓練コースについての情報提供を行う際、訓練実施機関が従前に開講した同種の訓練コースの就職実績を受講希望者に対して開示していない事態
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴省において、次のことについての認識が十分でないことなどによると認められる。
ア 中退者等に対する支援給付金の支給を基金訓練等の受講期間に応じたものとすること
イ 支援給付金の受給資格認定時の主たる生計者要件の審査に当たり、確認方法を適切なものとすること
ウ 支援給付金の事後的調査に当たり、受給資格要件の確認を十分に行える体制とすること
エ 基金訓練受講者の就職率の把握方法について改善を図ること
オ 安定所における職業相談の内容を適切かつ具体的に記録したり、受講者の訓練の修了状況を適切に把握したりすることが就職支援を適切に行うために重要であること
カ 訓練実施機関が従前に開講した同種の訓練コースの就職実績を受講希望者に対して開示することが重要であること
貴省は、23年10月に、緊急人材育成支援事業の制度を基に恒久的な制度として求職者支援制度を創設することとしている。求職者支援制度は、恒久的に第2のセーフティネットを整備するものであり、貴省においても重点施策として位置付けられている。
ついては、貴省において、求職者支援制度の実施に当たり、職業訓練受講給付金が適正に支給されるよう、また、事業効果を適切に把握し十分に発現される体制となるよう、次のとおり意見を表示する。
ア 職業訓練受講給付金の支給を認定職業訓練等の受講期間に応じたものとすること
イ 職業訓練受講給付金が適正に支給されるよう、要件の確認に当たり住民票等の証明書類により申請者の世帯構成を把握した上で、同一住所における申請者以外の職業訓練受講給付金受給者の有無の確認を行うこととすること
ウ 職業訓練受講給付金の支給の適正性について事後的に調査する際に適切な確認を行うため、必要な場合には金融機関への照会等に対する協力を得ることができる体制を整備すること
エ 認定職業訓練受講者の就職率について、より適切に把握することとすること
オ 安定所における就職支援措置を適切に実施して特定求職者のより安定した就職の実現を図るため、安定所において毎回の職業相談の内容を適切かつ具体的に記録することを徹底したり、特定求職者の訓練の修了状況を適切に把握したりすること
カ 安定所等において認定職業訓練の情報を提供する際、受講希望者にとってより就職につながりやすい訓練コースの選択に資するよう、また、訓練実施機関に対して就職実績向上のための取組を促すよう、受講希望者に対して訓練実施機関が従前に開講した同種の訓練コースの就職実績を開示する方法を検討すること