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  • 平成22年度|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

農地等に係る贈与税及び相続税の納税猶予制度の適用を適切なものとするため、農地法に基づく遊休農地対策を適切に実施させるなどするよう意見を表示したもの


(1) 農地等に係る贈与税及び相続税の納税猶予制度の適用を適切なものとするため、農地法に基づく遊休農地対策を適切に実施させるなどするよう意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計 国税収納金整理資金 (款)歳入組入資金受入
       (項)各税受入金
部局等 農林水産本省
検査の対象 農林水産本省、国税庁、都道県23、市151、町82、村6
農地等に係る贈与税及び相続税の納税猶予制度の概要 推定相続人が農地の全部等の贈与を受けた場合、贈与税額のうち農地等の価額に対応する税額の納税が、また、農業相続人が農地等を相続等により取得した場合、相続税額のうち特例農地等の価額の農業投資価格を超える部分に対応する税額の納税が、それぞれ一定の要件の下に猶予される制度
全体調査の対象となった耕作放棄地のうち特例農地等に該当するもの
6,335筆
 5,654,859m2

上記のうち農地法に基づく遊休農地対策が適切に実施されていなかったもの及び非農地であると判断されたもの (1)   農地法に基づく遊休農地対策が適切に実施されていなかったもの
5,360筆
 4,673,419m2

(2)   非農地であると判断されたもの
353筆
 267,601m2

上記に係る贈与税又は相続税の納税猶予相当額 (1) 
35億6323万円
 

(2) 
1283万円
 

計 
35億7606万円
 

【意見を表示したものの全文】

   耕作放棄地等に係る贈与税及び相続税の納税猶予制度の適用について

(平成23年10月28日付け 農林水産大臣宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 制度の概要

(1) 農地等に係る贈与税及び相続税の納税猶予制度

 農地等(農地、採草放牧地等をいう。以下同じ。)に係る贈与税及び相続税の納税猶予制度(以下「農地等納税猶予制度」という。)は、農地等の確保、相続による農地の細分化の防止、農業後継者の育成等を税制面から支援することを目的として、贈与税については昭和39年に、相続税については50年にそれぞれ創設されたものであり、租税特別措置法(昭和32年法律第26号)上の特別措置の一つである。
 このうち贈与税の納税猶予制度は、農業を営む個人が、その農業の用に供している農地の全部等をその推定相続人に贈与した場合に、一定の要件の下に、その年分の贈与税額のうち農地等の価額に対応する部分の税額の納税が猶予され、当該農地等を贈与した者又は当該農地等の贈与を受けた者のいずれかが死亡したときに免除されるものである。また、相続税の納税猶予制度は、農業を営んでいた個人の相続人(以下「農業相続人」という。)が、相続又は遺贈によりその農業の用に供されていた農地等を取得した場合に、一定の要件の下に、納付すべき相続税額のうち、その申告書に納税猶予の特例の適用を受ける旨を記載した農地等の価額の農業投資価格(注1) を超える部分に対応する税額の納税が猶予され、農業相続人が死亡したときなどに免除されるものである。
 そして、農地等納税猶予制度は、納税猶予の特例の適用対象となった農地等(以下「特例農地等」という。)における農業経営の継続を前提として設けられていることから、特例農地等について譲渡又は耕作の放棄をしたなど一定の事由に該当した場合には、納税猶予が打切りとなり、それまで納税猶予を受けていた贈与税額又は相続税額の全部又は一部を、利子税と併せて納付しなければならないこととされている。
 上記の納税猶予が打切りとなる事由のうち、「耕作の放棄」とは、特例農地等の所有者等に対し、農地法(昭和27年法律第229号)第32条の規定による遊休農地である旨の通知(以下「遊休農地通知」という。)があったこと(注2) とされており、この事由は、増大する耕作放棄地の解消及び課税の公平の確保を目的として、平成17年度の税制改正により新たに追加されたものである。なお、17年3月31日以前に贈与又は相続を受けたものについては、「耕作の放棄」の事由に該当した場合においても納税猶予は打切りとはならないこととされている。

(注1)
農業投資価格  農地等が恒久的に農業の用に供されるとした場合に通常成立すると認められる取引価格としてその地域の所轄国税局長が決定した価格
(注2)
平成17年4月1日から21年12月14日までの間に贈与又は相続を受けた場合は、特例農地等の所有者等が、遊休農地通知があった後、農業上の利用に関する計画の届出をしなかったことなどをもって「耕作の放棄」という。

(2) 耕作放棄地全体調査

ア 耕作放棄地全体調査の概要

 我が国の農地面積は、昭和36年には609万haであったのに対し、平成22年には459万haへと減少している。そして、「平成22年耕地面積統計」によると、農地の減少理由として、耕作放棄によるものの割合が約44%となっており、優良農地の確保と有効利用のために、耕作放棄地の解消が喫緊の課題となっている。
 耕作放棄地の解消を図るためには、その現状を的確に把握した上で、それぞれの状況に応じた対策を講じていくことが必要である。そこで、20年度から、市町村及び農業委員会により、現況が耕作放棄地となっている農地を対象として荒廃状況等を把握するための耕作放棄地全体調査(以下「全体調査」という。)が実施されている。全体調査においては、耕作放棄地全体調査要領(平成20年19農振第2125号農林水産省農村振興局長通知)に基づき、把握した耕作放棄地の荒廃状況に応じて、一筆ごとに以下の区分を行うものとされている。
〔1〕  人力・農業用機械で草刈り、耕起、抜根又は整地(以下、これらを「草刈り等」という。)を行うことにより、直ちに耕作することが可能な土地
〔2〕  草刈り等では直ちに耕作することができないが、区画整理等の基盤整備を実施して農業利用すべき土地
〔3〕  森林・原野化しているなど、農地に復元して利用することが不可能と見込まれる土地

イ 非農地の概要

 全体調査の結果、上記アの〔3〕 に区分された耕作放棄地について、農地法上の農地に該当するか否かの判断が必要となった場合には、「耕作放棄地に係る農地法第2条第1項の「農地」に該当するか否かの判断基準等について」(平成20年19経営第7907号農林水産省経営局長通知。以下「判断基準」という。)に基づき、市町村は農業委員会に対して判断を依頼することとなっている。
 判断基準によれば、耕作放棄地のうち、農地として利用するには一定水準以上の物理的条件整備が必要な土地(人力又は農業用機械では耕起又は整地ができない土地)であって、農業的利用を図るための条件整備(基盤整備の実施、企業参入のための条件整備等)が計画されていない土地について、その土地が森林の様相を呈しているなど農地に復元するための物理的な条件整備が著しく困難な場合又はその土地の周囲の状況からみて、その土地を農地として復元しても継続して利用することができないと見込まれる場合には、農地法上の農地に該当しないもの(以下、このような土地を「非農地」という。)とすることとされている。そして、農業委員会は、非農地であると判断した場合には、当該土地の所有者に対してその旨を通知することとされている。

(3) 農地法に基づく遊休農地対策

 耕作放棄地の増加に伴う農地面積の減少に鑑み、耕作放棄地を含む遊休農地対策を強化することなどを目的として、21年に農地法等の一部を改正する法律(平成21年法律第57号)が施行された。これにより、従来は農業経営基盤強化促進法(昭和55年法律第65号)に基づき講じられてきた遊休農地対策が、全ての農地を対象とした耕作放棄の発生防止及びその解消・再発防止を図る措置へと拡充された上で、新たに農地法に規定されることとなった。
 農地法に基づく遊休農地対策の概要は、以下のとおりとなっている。
ア 農業委員会は、毎年1回、その区域内にある農地の利用状況についての調査(以下「利用状況調査」という。)を行わなければならない(農地法第30条第1項)。
イ 農業委員会は、利用状況調査の結果、次の〔1〕 又は〔2〕 のいずれかに該当する農地があるときは、その農地の所有者等に対し、当該農地の農業上の利用の増進を図るため必要な指導(以下「指導」という。)をするものとする(農地法第30条第3項)。

〔1〕  現に耕作の目的に供されておらず、かつ、引き続き耕作の目的に供されないと見込まれる農地
〔2〕  その農業上の利用の程度がその周辺の地域における農地の利用の程度に比し著しく劣っていると認められる農地(〔1〕 に掲げる農地を除く。以下「低利用農地」という。)

ウ 農業委員会は、指導をした場合においてもなお相当期間当該農地の農業上の利用の増進が図られないなどの場合には、当該農地の所有者等に対し、遊休農地通知を発出するものとする(農地法第32条)。

 そして、(1)のとおり遊休農地通知があった場合等には、当該農地の納税猶予が打ち切られ、また、農業委員会は当該農地について「耕作の放棄」があった旨を所轄税務署長に通知することとされており、当該農地の所有者等は納税猶予を受けていた贈与税額又は相続税額の全部又は一部を、利子税と併せて納付しなければならないこととなる。
 また、(2)の全体調査は、(3)アの利用状況調査と調査手法及び内容が密接に関連していることから、農業委員会は、双方の調査で得た情報を相互に活用することに努めることとされている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 前記のとおり、農地等納税猶予制度は、農地等の確保等を税制面から支援することを目的とするものである。この目的を踏まえると、原則として特例農地等が耕作されていることが必要であり、このためにも、農業委員会において、指導や遊休農地通知の発出といった農地法に基づく遊休農地対策を適切に実施することが必要となる。
 そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、耕作放棄地等となっている特例農地等に対して農地法に基づく遊休農地対策が適切に実施されているかなどの点に着眼して、農林水産本省、23都道県(注3) 及びその管内の市町村において会計実地検査を行った。検査に当たっては、23都道県管内の239市町村において、20年度から22年度までの間に全体調査の対象となった耕作放棄地のうち、特例農地等に該当するもの6,335筆5,654,859m2 (納税猶予を受けていた贈与税相当額又は相続税相当額計52億7789万余円)を特定した上で、これを対象として、耕作放棄地全体調査表等の関係書類により実地に検査したり、各都道県に対して農地法に基づく遊休農地対策の実施状況等についての報告を求めて、その報告内容を確認したりするなどの方法により検査した。また、課税の実態について把握するため、国税庁において会計実地検査を行い、関係書類の提出を受けて、説明を聴取した。

(注3)
23都道県  東京都、北海道、群馬、埼玉、神奈川、石川、岐阜、静岡、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、長崎、熊本、大分各県

(検査の結果)

 検査したところ、前記の6,335筆計5,654,859m2 の状況は次のとおりとなっていた。

〔1〕  全体調査が実施された後に耕作放棄地である状況が解消され、既に営農が再開されるなどしているもの

22都道県に係る585筆計693,070m2

〔2〕  全体調査が実施された後に耕作放棄地である状況は解消されたが、低利用農地等に該当 すると認められるもの

12県に係る193筆計199,251m2

〔3〕  全体調査が実施された後も引き続き耕作放棄地となっているもの(〔4〕 で非農地と判断されたものを除く。)

22道県に係る5,204筆計4,494,937m2

〔4〕  全体調査の調査結果を踏まえ、農業委員会により非農地であると判断されたもの

10道県に係る353筆計267,601m2

 そして、上記のうち〔2〕 、〔3〕 及び〔4〕 に該当する土地計5,750筆計4,961,789m2 について、次のような事態が見受けられた。

(1) 耕作放棄地等となっている特例農地等に対する農地法に基づく遊休農地対策の実施状況

 〔2〕 及び〔3〕 に該当する土地計5,397筆計4,694,188m2 は、農業委員会が農地法に基づく遊休農地対策を実施する必要があると認められる。そして、前記のとおり、農業委員会は、全体調査及び利用状況調査の双方で得た情報を相互に活用することに努めることとされていることから、全体調査の結果判明した〔2〕 及び〔3〕 に係る情報を利用状況調査に反映させた上で、これらの土地に対し、農地法に基づく遊休農地対策を実施する必要があると認められる。
 そこで、〔2〕 及び〔3〕 に該当する土地計5,397筆計4,694,188m2 に対する農地法に基づく遊休農地対策の実施状況を確認したところ、次表のとおり、農業委員会が農地法に基づく遊休農地対策として指導を適切に実施していたものは37筆計20,769m2 (筆数で全体の0.6%、面積で全体の0.4%)にとどまっており、残りの5,360筆計4,673,419m2 (納税猶予を受けていた贈与税相当額又は相続税相当額計35億6323万余円)については、指導を適切に実施していなかった。このため、指導を行った後、当該農地の農業上の利用の増進が図られなかった場合に発出することとなる遊休農地通知の発出が行われていない状況となっていた。

表 耕作放棄地等となっている特例農地等に対する農地法に基づく遊休農地対策の実施状況

耕作放棄地等となっている特例農地等 農地法に基づく遊休農地対策として指導を適切に実施していたもの 農地法に基づく遊休農地対策として指導を適切に実施していなかったもの
  面積(m2 面積(m2 面積(m2
低利用農地等に該当すると認められるもの 193 199,251 193 199,251
引き続き耕作放棄地となっているもの 5,204 4,494,937 37 20,769 5,167 4,474,168
  人力・農業用機械で草刈り等を行うことにより、直ちに耕作することが可能な土地 1,967 1,808,145 29 18,280 1,938 1,789,865
草刈り等では直ちに耕作することができないが、基盤整備を実施して農業利用すべき土地 1,323 1,241,165 8 2,489 1,315 1,238,676
森林・原野化しているなど、農地に復元して利用することが不可能と見込まれる土地のうち、非農地と判断するに至っていない土地 1,914 1,445,627 1,914 1,445,627
5,397 4,694,188 37 20,769 5,360 4,673,419

(2) 非農地であると判断された特例農地等について

 〔4〕 のとおり、10道県に係る特例農地等353筆計267,601m2 (納税猶予を受けていた贈与税相当額又は相続税相当額計1283万余円)については、全体調査の結果を踏まえ、農業委員会が、判断基準に沿って非農地であると判断していた。
 本来、非農地であると判断された特例農地等については、農地等納税猶予制度の趣旨に鑑み、速やかに納税猶予を打ち切る必要があると認められる。
 しかし、前記のとおり、非農地は農地法上の農地に該当しないものとされていることから、当該特例農地等に対しては農地法に基づく遊休農地対策は講じられないこととなる。また、納税猶予が打切りとなる事由としての「耕作の放棄」とは、遊休農地通知があったことなどとされていることから、非農地であるとの判断は「耕作の放棄」に該当しない。そして、貴省は、現行の農地等納税猶予制度の運用上、非農地であるとの判断のみを根拠として納税猶予を打ち切ることはできないとしている。
 以上のことから、非農地であると判断された特例農地等については、納税猶予の打切りに係る措置を執るための適切な手続が整備されていないため、納税猶予を打ち切ることができない状況となっている。

(改善を必要とする事態)

 以上のとおり、特例農地等が耕作放棄地等となっていて農業上の利用の増進が図られていないにもかかわらず、農業委員会が農地法に基づく遊休農地対策として指導を適切に実施せず、ひいては遊休農地通知の発出を行っていなかったり、農業委員会が特例農地等について非農地であると判断しているにもかかわらず、納税猶予の打切りに係る措置を執ることができない状況となっていたりする事態は、農地等納税猶予制度の趣旨からみて適切とは認められず、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 農業委員会において、農地等納税猶予制度の趣旨を踏まえ、耕作放棄地等となっている特例農地等に対して、農地法に基づく遊休農地対策を適切に実施することについての認識が十分でないこと
イ 貴省において、

(ア) 都道府県を通じて、農業委員会に対し、農地等納税猶予制度の趣旨を踏まえ、耕作放棄地等となっている特例農地等に対して、農地法に基づく遊休農地対策を適切に実施することについての周知が十分でないこと
(イ) 農業委員会が特例農地等について非農地であると判断した場合に、贈与税及び相続税の納税猶予の打切りに係る措置を執るための適切な手続を整備していなかったこと

3 本院が表示する意見

 我が国においては、農地面積は年々減少の一途をたどっている。このため、農地等の確保等を税制面から支援することを目的として創設された農地等納税猶予制度の趣旨を踏まえ、農業委員会は耕作放棄地等となっている特例農地等の所有者等に対し農地法に基づく遊休農地対策を適切に実施することにより、耕作放棄地等の解消又は納税猶予の打切りにつなげることが必要であり、また、非農地となっている特例農地等については、速やかに納税猶予を打ち切ることが必要である。
 ついては、貴省において、農地等納税猶予制度の適用が適切なものとなるよう、次のとおり意見を表示する。
ア 都道府県を通じて、農業委員会に対し、全体調査の結果を利用状況調査に反映させることにより、耕作放棄地等となっている特例農地等の所有者等に対して、指導や遊休農地通知といった農地法に基づく遊休農地対策を適切に実施することにより耕作放棄地等の解消又は納税猶予の打切りにつなげるよう、改めて周知徹底を図るとともに、その実効性を確保するための措置を講ずること
イ 農業委員会が特例農地等について非農地であると判断した場合には、速やかに贈与税及び相続税の納税猶予を打ち切ることができるよう、適切な手続を整備すること