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  • 平成22年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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浮桟橋の係留杭の設置工事の実施に当たり、適切な設計変更の措置を執っておらず、設計が適切でなかったため、工事の目的を達していなかったもの


(353) 浮桟橋の係留杭の設置工事の実施に当たり、適切な設計変更の措置を執っておらず、設計が適切でなかったため、工事の目的を達していなかったもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)海上保安庁 (項)海上保安官署施設費
      (項)船舶交通安全及海上治安対策費
部局等 第五管区海上保安本部
工事名 田辺(部)防災型浮桟橋整備ほか工事
工事の概要 巡視船艇等の係留施設として、平成21年度に、係留杭8本を設置してこれに浮桟橋2基を定置等するもの
工事費 62,685,000円
請負人 株式会社山水組
契約 平成21年8月 一般競争契約
しゅん功検査 平成21年12月
支払 平成21年9月、22年1月
不適切な設計となっていた係留杭に係る工事費 35,664,000円(平成21年度)

1 工事の概要

 この工事は、第五管区海上保安本部(以下「海上保安本部」という。)が、和歌山県田辺市文里(もり)港において、巡視船艇等の係留施設として用いる浮桟橋を新設するために、平成21年度に、浮桟橋2基(別契約で製作)を係留するための杭(以下「係留杭」という。)8本の製作及び設置、浮桟橋の定置、既設浮桟橋の撤去等を工事費62,685,000円で実施したものである。
 このうち、係留杭は、外径1000mm、厚さ12mmの鋼管杭を使用して長さ31.6mのもの6本及び32.6mのもの2本の計8本を工場で製作して、現地に搬入し、海底土中の支持層へ打設するなどして設置するものである。
 海上保安本部は、係留杭の設計を「港湾の施設の技術上の基準・同解説」(国土交通省港湾局監修)等に基づいて行っている。そして、係留杭の設計の基礎となっている設計計算書によれば、海底面を朔(さく)望平均干潮位(注1) (以下「LWL」という。)−6.0m、支持層をLWL−23.0m以下の砂れき層と想定して、係留杭の先端を支持層に3.0m根入れしてLWL−26.0mまで打設することとしていた(参考図参照) 。また、係留杭の耐用年数を50年間として、この期間の海水による杭の鋼材の腐食を防止するために、海底面が洗掘等により変動することも考慮してLWL−7.0mからLWL−6.0mまでの海底土中の1.0m及びLWL−6.0mからLWL+3.5mまでの海水中等の9.5mの計10.5mの部分については厚さ2.5mmのポリウレタン樹脂を被覆することによる防食処置(以下「重防食被覆」という。)を行うこととしていた。また、海底土中のうちLWL−26.0mからLWL−7.0mまでの部分については、海水中等に比べて腐食量が少ないことから防食処置を行わないなどとしていた。
 そして、海上保安本部は、係留杭の応力計算を行うに当たり、上記のような防食処置を行った場合の耐用年数の期間における総腐食量について、重防食被覆を行った部分については腐食なし、海底土中に貫入されるとして防食処置が行われていない部分(以下「無防食部分」という。)については1.50mmとするなどとしていた。そして、当該浮桟橋への船舶の接岸時及び暴風時において、杭内部に発生する応力の発生割合を所定の算定式(注2) により算定した数値(以下「応力度比」という。)が杭頭部、海水中及び海底土中のいずれも許容値の1.0を下回ることなどから計算上安全であるとして設計図面を作成し、これにより施工していた。

(注1)
 朔望平均干潮位  新月及び満月の日から前2日後4日以内に現れる各月の最低干潮位を平均した水面高
(注2)
 所定の算定式  軸方向圧縮応力度(材の軸方向に圧縮力がかかったとき、材の内部に生じる力の単位面積当たりの大きさ)を許容軸方向圧縮応力度(設計上許される軸方向圧縮応力度の上限値)で除して得られる数値と、曲げ圧縮応力度(材に外から曲げようとする力がかかったとき、材の内部に生じる力のうち圧縮側に生じる力の単位面積当たりの大きさ)を許容曲げ圧縮応力度(設計上許される曲げ圧縮応力度の上限値)で除して得られる数値とを加える式

2 検査の結果

 本院は、海上保安本部において、合規性等の観点から、本件工事の設計が適切に行われているかなどに着眼して会計実地検査を行った。そして、本件工事について、設計図書等の書類及び現地の状況を確認するなどして検査したところ、係留杭の設計が次のとおり適切でなかった。
 すなわち、係留杭は、実際の海底土中の支持層が設計で想定していた位置よりも浅かったことから、8本とも設計どおりの深さまで打ち込むことができず、実際の杭先端の位置は設計よりも0.70mから1.90m(平均1.48m)高くなっていた。また、杭を打ち込む実際の海底面の位置も設計で想定していた位置より0.74mから2.26m(平均1.37m)下方に変動していた。これらのことから、係留杭は、8本全てについて無防食部分の一部が海水中に露出しており、それぞれの露出部分の長さは0.44mから2.94m(平均1.85m)となっていたのに、海上保安本部は、露出部分に対して設計を変更して防食処置を行う措置を執っていなかった。
 そこで、8本の係留杭の無防食部分の海水中への露出状況等に基づいて、露出部分の耐用年数の期間における総腐食量を算定すると10.00mmとなることから、これを考慮して改めて応力計算を行ったところ、当該浮桟橋への船舶の接岸時及び暴風時において、応力度比が海水中では3.16から3.46までとなり、許容値の1.0を大幅に上回っていた。
 したがって、本件工事は、適切な設計変更の措置を執っておらず、設計が適切でなかったため、耐用年数の期間にわたる所要の安全度が確保されていない状態になっていて、工事の目的を達しておらず、係留杭に係る工事費相当額35,664,000円が不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、海上保安本部において、係留杭の防食処置を適切に行うことに対する認識が十分でなかったことなどによると認められる。

(参考図)

係留杭の概念図

係留杭の概念図