ページトップ
  • 平成22年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第11 国土交通省|
  • 不当事項|
  • 補助金|
  • 補助事業の実施及び経理が不当と認められるもの|
  • (2) 工事の設計が適切でなかったもの

擁壁の設計が適切でなかったもの


擁壁の設計が適切でなかったもの

(1件 不当と認める国庫補助金 11,749,050円)

  部局等 補助事業者等
(事業主体)
補助事業等 年度 事業費
(国庫補助対象事業費)
左に対する国庫補助金等交付額 不当と認める事業費
(国庫補助対象事業費)
不当と認める国庫補助金等相当額
千円 千円 千円 千円
(364) 静岡県 静岡県 地域自立・活性化交付金 19、20 111,729
(111,729)
50,278 26,109
(26,109)
11,749

 この交付金事業は、静岡県が、熱海市下多賀地内において、主要地方道熱海大仁線の幅員を拡幅するため、土工、擁壁工等を実施したものである。
 このうち擁壁工は、H鋼杭(杭長10.0m〜14.5m)計32本を2m間隔で建て込むなどして構築した山留壁から、アンカー計34本を背面地山の斜め下方向に打ち込んだ後、アンカー頭部に鋼製台座、腹起し材、ブラケット等を設置して擁壁(延長計65.5m)を築造するものである。そして、腹起し材は、鋼製台座を介して作用するアンカーの張力を山留壁に均等に伝えるためH形鋼を水平方向に2段設置するものであり、ブラケットは、この腹起し材を支えるために上段のH形鋼の下に溝型鋼を、下段のH形鋼の下に等辺山形鋼を三角形に組み立てたもの(以下「下段ブラケット」という。)をそれぞれ配置して、H鋼杭に溶接して固定したものである(参考図参照)
 同県は、本件擁壁の設計を「グラウンドアンカー設計・施工基準,同解説」(社団法人地盤工学会編)等(以下「基準等」という。)に基づいて行っている。
 これらによると、下段ブラケットとH鋼杭との溶接部には、アンカーの張力による鉛直力と腹起し材の自重により、せん断力と曲げモーメント(注1) が同時に作用することから、これらを合成した応力度(以下「合成応力度」という。)に対して安全であることを確認する必要があるとされている。このため、同県は、下段ブラケットについて基準等に基づき設計計算を行い、下段ブラケットとH鋼杭との溶接部の縦方向及び横方向の必要溶接長をそれぞれ530mm及び150mmとすれば、溶接部に作用する合成応力度が許容せん断応力度(注2) を下回ることから、応力計算上安全であるとしていた。そして、上記に基づき、下段ブラケットのうちH鋼杭に溶接する部材の縦方向及び横方向の長さを、上記の必要溶接長とそれぞれ同じとすることとしていた。
 しかし、設計図面を作成する際に、縦方向の長さを530mmとすべきところを、誤って500mmと記載して、この図面により施工していた。
 そこで、本件下段ブラケットについて、改めて設計計算を行ったところ、腹起し材で一体となっているH鋼杭10本のうち9本の溶接部に作用する合成応力度は64.65N/mm 〜79.17N/mm となり、許容せん断応力度64N/mm をいずれも上回っていて応力計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。
 したがって、本件擁壁は設計が適切でなかったため、上記のH鋼杭10本に係る擁壁(延長22.0m、これらの工事費相当額26,109,000円)は、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る交付金相当額11,749,050円が不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、同県において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。

(注1)
 曲げモーメント  外力が材に作用し、これを曲げようとする力の大きさをいう。
(注2)
 許容せん断応力度  外力が材に作用して、これを切断しようとする力がかかったときに、そのために材の内部に生ずる力の単位面積当たりの大きさをせん断応力度といい、その数値が設計上許される上限を「許容せん断応力度」という。

(参考図)

アンカー頭部の拡大図、断面図

アンカー頭部の概念図

アンカー頭部の概念図