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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

高齢者向け優良賃貸住宅について、整備及び管理を適切に実施することにより、高齢者に有効に活用されるよう意見を表示し、並びに適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの


(3) 高齢者向け優良賃貸住宅について、整備及び管理を適切に実施することにより、高齢者に有効に活用されるよう意見を表示し、並びに適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)国土交通本省
(項)住宅対策事業費(平成19年度以前は、(項)住宅建設等事業費)
(項)都市再生・地域再生整備事業費(平成19年度以前は、(項)揮発油税等財源都市環境整備事業費、(項)都市環境整備事業費)
(項)北海道開発事業費(平成19年度以前は、(項)北海道住宅建設等事業費)
部局等 国土交通本省(平成13年1月5日以前は、建設本省)
補助の根拠 高齢者の居住の安定確保に関する法律(平成13年法律第26号)
地域における多様な需要に応じた公的賃貸住宅等の整備等に関する特別措置法(平成17年法律第79号)
補助事業者 都、道、府2、県14、市22
間接補助事業者
(事業主体)
個人136、民間法人97、住宅供給公社11、社会福祉法人等21、計265事業主体
補助事業 高齢者向け優良賃貸住宅供給促進、公営住宅等整備
補助事業の概要 高齢者の居住の安定確保を図るため、良好な居住環境を備えた高齢者向け優良賃貸住宅を整備するもの
検査の対象とした高齢者向け優良賃貸住宅の戸数 8,990戸(整備年度:平成12年度〜22年度)
高齢者向け優良賃貸住宅の空家等戸数 空家 622戸 (平成22年度末現在)
目的外使用 186戸 (平成22年度末現在)
上記に係る事業費相当額 87億6420万余円 (平成12年度〜22年度)
上記に対する国庫補助金等相当額 6億8396万円 (背景金額)
高齢者の入居実績がない住戸及び不適切な目的外使用が行われた住戸 高齢者の入居実績がない住戸 337戸  
 新築空家 157戸  
 高齢者未入居住戸 180戸  
不適切な目的外使用が行われた住戸 107戸  
上記に係る事業費相当額 37億7974万余円 (平成12年度〜22年度)
上記に対する国庫補助金等相当額 2億6188万円    

【意見を表示し並びに適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】

  高齢者向け優良賃貸住宅の整備及び管理について

(平成23年10月28日付け 国土交通大臣宛て)

 標記について、下記のとおり、会計検査院法第36条の規定により意見を表示し、並びに同法第34条の規定により是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。

1 制度の概要

(1) 高齢者向け優良賃貸住宅制度の概要

 貴省は、高齢者の居住の安定確保に関する法律(平成13年法律第26号。以下「法」という。)等に基づき、高齢者の居住の安定を図り、もって福祉の増進に寄与することを目的として、高齢者向け優良賃貸住宅(以下「高優賃」という。)の整備を行う個人、民間法人、住宅供給公社、社会福祉法人等の事業主体(以下「事業者」という。)に対してその費用を補助する地方公共団体に国庫補助金(交付金を含む。以下同じ。)を交付している。
 高優賃は、60歳以上の単身・夫婦世帯等(以下「高齢者」という。)を入居対象としたもので、バリアフリー化され、緊急時対応サービスの利用が可能な賃貸住宅であり、国庫補助金の交付の対象は、食事サービス施設、生活相談サービス施設、廊下等の共用部分、エレベータ、警報装置等の加齢対応構造等の整備に要する費用等となっている。また、貴省は、高優賃に入居する高齢者の居住の安定を図るため、家賃を減額する事業者に対して補助(以下「家賃補助」という。)する地方公共団体に国庫補助金を交付している。

(2) 賃貸住宅の整備及び管理に関する計画の申請及び認定

 法等によると、高優賃の整備及び管理を行おうとする者は、賃貸住宅の整備及び管理に関する計画(以下「供給計画」という。)を作成し、都道府県、政令指定都市又は中核市(以下「都道府県等」という。)の認定を申請することができるとされている。供給計画には、賃貸住宅の位置、戸数、設備、入居者の募集方法に関する事項、家賃等の賃貸条件に関する事項等を記載しなければならないとされている。そして、都道府県等は、供給計画が法等で定められた認定基準に適合すると認めるときは、その認定をすることができるとされており、「高齢者の居住の安定確保に関する法律の施行について」(平成13年住宅局長通知。以下「局長通知」という。)によると、高優賃の整備に要する費用について補助を行うに当たっては、入居することとなると考えられる者の世帯構成等地域の住宅事情を勘案した規模、設備等を備えた良質な住宅が供給されるよう適切に指導することが望ましいとされている。また、法等によると、事業者は認定を受けた供給計画を変更しようとするときは、軽微な変更を除き、都道府県等の認定を受けなければならないとされている。
 また、局長通知によると、高優賃の供給を的確に進めていくためには、市町村の福祉施策との連携が重要であることなどから、都道府県等は、地域における高齢化の見通し、高齢者の住宅事情の改善のための方策等について市町村と十分調整を行うとともに、供給計画の認定の基準等についてはあらかじめ密接に調整することが望ましいとされている。

(3) 高優賃の管理等

 法等によると、事業者は、都道府県等が定めるところにより、新聞掲載、掲示等の方法により高優賃の入居者を公募しなければならないとされており、その際には、局長通知において、必要に応じ、都道府県等及び所在市町村の広報紙等に掲載する措置を講ずるとともに、広告媒体の活用等により広域的な住宅需要についても配慮するとされている。
 そして、3か月以上高齢者の入居が確保できない場合には、都道府県等の承認を受けて、5年(平成18年度以前は2年)を上回らない期間を定めた建物賃貸借(以下「定期建物賃貸借」という。)により高優賃の全部又は一部を高齢者以外の者に賃貸等すること(以下「目的外使用」という。)ができるとされている。この目的外使用の承認に際しては、「高齢者の居住の安定確保に関する法律施行規則の一部改正の施行について」(平成19年住宅総合整備課長通知。以下「課長通知」という。)によると、高優賃の本来の目的と既存ストックの有効活用という目的外使用の目的を考慮して、当該申請ごとに適切な期間の判断を行うこととされている。
 また、法等によると、都道府県等は、事業者に対し、高優賃の整備又は管理の状況について報告を求めることができるとされており、局長通知においては、入居者の選定方法、入居者の資格、家賃の額等について報告させ、高優賃の管理が適切に行われているかを確認することが望ましいとされている。そして、事業者が認定を受けた供給計画に従って管理を行っていないと認めるときは、相当の期限を定めて、その改善に必要な措置を執るべきことを命ずることができるとされている。
 さらに、都道府県等及び所在市町村は、事業者に対し、高優賃の整備及び管理に関し必要な助言及び指導を行うよう努めるものとするとされている。

2 本院の検査結果

 (検査の観点及び着眼点)

 高齢化が急速に進む中で、高齢の単身者や夫婦のみの世帯が増加しており、高齢者の身体機能に対応した設計、設備等高齢者に配慮した良質な賃貸住宅を供給し、高齢者の居住の安定の確保を図ることが重要となっている。
 そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、高優賃の整備及び管理が適切に実施され、これまでに整備された高優賃が高齢者のために有効に活用されているかなどに着眼して検査を実施した。

 (検査の対象及び方法)

 高優賃制度発足の13年4月から22年3月までの間に管理を開始し23年3月末現在で1年以上経過している高優賃のうち、40都道府県等(注1) が認定し、265事業者が整備している高優賃306住宅8,990戸(事業費計1479億8909万余円、補助対象事業費計357億0708万余円、国庫補助金相当額計90億4569万余円)を対象として、高優賃の供給計画等の書類及び現地を確認するなどして会計実地検査を行った。

 40都道府県等  東京都、北海道、京都、大阪両府、青森、茨城、神奈川、富山、石川、福井、岐阜、愛知、兵庫、広島、香川、福岡、長崎、鹿児島各県、札幌、旭川、さいたま、横浜、川崎、富山、金沢、岐阜、名古屋、豊橋、京都、大阪、堺、東大阪、神戸、姫路、広島、福山、北九州、福岡、長崎、鹿児島各市

 (検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 高優賃の入居状況

ア 全体の入居状況

 検査した306住宅8,990戸の高優賃について、23年3月末時点の入居状況をみると、表1 のとおり、空家が175住宅622戸(空家率6.9%)、目的外使用の住戸が32住宅186戸(全体戸数の2.0%)で、空家と目的外使用を合わせた住戸(以下「空家等」という。)は、計178住宅808戸(全体戸数の8.9%。これらに係る事業費計87億6420万余円、補助対象事業費計22億9891万余円、国庫補助金相当額計6億8396万余円)となっていた。
 そして、空家の中には、1年以上空家となっている住戸(以下「長期空家」という。)が79住宅317戸(全体戸数の3.5%)あり、更に長期空家の中には、管理開始以降一度も入居の実績のない住戸(以下「新築空家」という。)が12都道府県等(注2) の32住宅157戸(同1.7%)見受けられた。

表1
 高齢者向け優良賃貸住宅の入居状況(平成23年3月末時点)

  検査対象 空家
(b)
  目的外使用
(d)
空家等
(b)+(d)
管理開始以降目的外使用をしたことのある住戸   新築空家及び高齢者未入居住戸
(c)+(e)
うち長期空家   うち高齢者未入居住戸
(e)
うち新築空家
(c)
住宅数 306 175 79 32 32 (注)
178
43 24 (注)
44
戸数 8,990(a) 622 317 157 186 808 271 180 337
戸数(a)に占める割合 6.9% 3.5% 1.7% 2.0% 8.9% 3.0% 2.0% 3.7%
 合計の数を計算するに当たっては、重複分を控除している。

 また、管理開始以降23年3月末までの間において目的外使用をしたことのある住戸は、11都道府県等(注3) の43住宅271戸で、このうち、管理開始以降、目的外使用が行われたことはあるものの高齢者の入居実績がない住戸(以下「高齢者未入居住戸」という。)が8都道府県等(注4) の24住宅180戸(全体戸数の2.0%)見受けられ、新築空家と高齢者未入居住戸を合わせた住戸は計44住宅337戸(同3.7%。これらに係る事業費計34億0414万余円、補助対象事業費計8億1666万余円、国庫補助金相当額計2億3642万余円)となっていた。
 また、これらのうち新築空家について、管理開始以降の期間をみると、2年以上のものが29住宅135戸で、このうち3年以上のものが20住宅63戸見受けられ、最長のものは8年となっていた。

(注2)
 12都道府県等  東京都、北海道、大阪府、福井、愛知、兵庫、広島、福岡、鹿児島各県、大阪、東大阪、北九州各市
(注3)
 11都道府県等  東京都、北海道、大阪府、兵庫、福岡、長崎、鹿児島各県、名古屋、広島、北九州、鹿児島各市
(注4)
 8都道府県等  東京都、北海道、大阪府、福岡、鹿児島両県、名古屋、北九州、鹿児島各市

イ 住宅別の空家等の状況

 住宅別の空家状況をみると、検査した306住宅のうち、23年3月末時点で空家率が20%以上の住宅は48住宅(全体の15.6%)で、このうち空家率が50%以上の住宅は8住宅(同2.6%)となっていた。そして、空家率が20%以上の住宅における新築空家は134戸と新築空家全体157戸の大部分(85.3%)を占めていた。
 また、住宅別に目的外使用の状況をみると、23年3月末時点で目的外使用の住戸が20%以上の住宅は18住宅(全体の5.8%)で、このうち住戸の半数以上が目的外使用となっている住宅が3住宅(同0.9%)見受けられた。そして、目的外使用の住戸が20%以上の住宅において、高齢者未入居住戸が156戸と高齢者未入居住戸全体180戸の大部分(86.6%)を占めていた。
 そして、これらの空家等の割合が20%以上の住宅は60住宅(全体の19.6%)で、このうち空家等の割合が50%以上の住宅は18住宅(同5.8%)となっており、中には空家等の割合が100%で高齢者が全く入居していない住宅が3住宅あった。また、空家等の割合が20%以上の住宅における新築空家は139戸、高齢者未入居住戸は170戸、計309戸となっており、これらの全体337戸のほとんど(91.6%)を占めていた。
 また、上記60住宅の認定を行った都道府県は13都道府県及び7市(注5) となっており、これらの都道府県等別にみると、北九州市で16住宅(うち空家等の割合が50%以上のものは6住宅)、大阪府で6住宅(同3住宅)、福岡県で5住宅(同3住宅)、鹿児島県で5住宅(同2住宅)と空家等の割合の高い住宅が多く見受けられた。

 13都道府県及び7市  東京都、北海道、大阪府、茨城、神奈川、石川、福井、愛知、兵庫、広島、福岡、長崎、鹿児島各県、札幌、名古屋、東大阪、広島、北九州、福岡、鹿児島各市

(2) 供給計画、入居者の募集方法等の状況

ア 供給計画の認定状況

 供給計画の作成又は認定に当たり、事業者や都道府県等において高齢者向け住宅に対する需要の予測を行うこととはされていないが、306住宅のうち97住宅(全体の31.6%)において、都道府県等又は事業者のいずれかが何らかの需要の予測を行ったとしていた。また、一部の都道府県等では、高優賃の入居申込者を対象にした住宅の要望等の調査結果をその後の高優賃の認定等の参考にしたり、住宅供給公社が事業者の場合に、自ら管理している賃貸住宅の入居者に対し高優賃への入居希望の意向調査等を行ったりしていた。しかし、空家等の割合が20%以上の住宅が多い3府県1市における供給計画の認定状況についてみると、中には、需要の予測を行ったとしているものもあるが、供給計画の認定に際し、立地条件が同様の地域等で以前に整備されている住宅において高齢者の入居割合が低く、高齢者の入居が見込めないことから目的外使用を承認しているのに、そのような状況を十分考慮せずに認定していて、新たに整備された住宅においても高齢者の入居割合が低いものが見受けられた。
 上記の事態について事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

 北九州市(34住宅730戸)に所在するA住宅は平成18年2月に認定戸数22戸で、B住宅は20年4月に認定戸数12戸で、C住宅は20年8月に認定戸数54戸でそれぞれ管理開始されている。B住宅及びC住宅は、A住宅からそれぞれ2.5km、2.9kmの距離に位置しており、同市は、このうちB住宅の供給計画を18年12月に、C住宅の供給計画を19年3月にそれぞれ認定している。
 そして、B住宅及びC住宅の供給計画を認定する時点で判明している18年2月から19年2月までの間のA住宅の高齢者の入居者数は、最大月においても14戸(高齢者の入居割合63.6%)となっていたのに、同市は、この既存のA住宅の入居状況をB住宅及びC住宅の認定の際の判断材料としていなかった。そして、B住宅の高齢者の入居者数は最大月においても2戸(同16.6%)、C住宅では34戸(同62.9%)となっており、いずれも高齢者の入居者数が少ない状況となっていた。

イ 入居者の募集状況

 法及び局長通知によると、入居者の募集方法は、供給計画に定めるとともに、必要に応じ、都道府県等及び所在市町村の広報紙等に掲載する措置等についても配慮することとされている。
 高優賃の募集情報の入手方法について、本院が高優賃に入居している高齢者に対して行った調査や、高優賃の認定を行う都道府県等の一部が高優賃に入居している高齢者に行ったアンケート調査の結果によると、市町の広報紙によるものが約3割で最も多く、これに公共施設等の掲示を加えると3分の1を超えており、事業者等のホームページ、新聞広告・チラシ等は、いずれも1割に満たないものとなっていた。これは、高齢者はインターネットを利用する機会が少ないことや、公的な情報を重視していることなどによると思料され、市町村の広報紙等による募集が効果的な方法の一つであると認められた。
 これに対して、空家率が20%以上の48住宅における入居者の募集方法をみると、複数の方法が採られているが、事業者等のホームページ及び新聞広告・チラシがいずれも半数以上で、市町の広報紙によるものは10住宅、公共施設等の掲示は11住宅となっており、特に空家率が50%以上の8住宅では、これら広報紙等にはよっておらず、効果的な募集方法が採られているとは認められない状況となっていた。

ウ 所在市町村の高優賃への関与

 局長通知によると、都道府県等は、高優賃の供給を的確に進めていくため、高齢者の住宅事情の改善のための方策、供給計画の認定の基準等について、市町村と十分調整することが望ましいとされている。また、法によると、都道府県等及び所在市町村は、事業者に対し、高優賃の整備及び管理に関し必要な助言及び指導を行うよう努めるものとするとされている。
 しかし、検査した306住宅が所在する115市区町のうち、供給計画を認定した政令市又は中核市ではない93市区町において、都道府県から供給計画を認定した旨の通知を受けるだけで、空家の状況等を踏まえて助言を行っていないなど、高優賃の整備及び管理に関与の程度が低いと思料されるものが34市町見受けられた。また、これらに所在する49住宅の入居状況をみると、空家等の割合が20%以上の住宅は18住宅で、このうち空家等の割合が50%以上の住宅は7住宅と比較的多くなっていた。

(3) 高優賃の目的外使用の状況

ア 都道府県等における目的外使用の承認

 課長通知によると、都道府県等は、目的外使用の承認に当たり、高優賃の本来の目的と既存ストックの有効活用を考慮して、申請ごとにその期間が適切かどうかの判断を行うこととされている。
 しかし、管理開始以降23年3月末までの間において目的外使用をしたことのある43住宅271戸についてみると、その開始時期が管理開始後3か月から1年未満のものが18住宅91戸(全体戸数の33.5%)となっていたり、総戸数の9割以上に当たる住戸の承認を一括で行っていたりするなどの事態が見受けられた。これらの住宅の目的外使用を承認した都道府県等は、高齢者の入居を確保できない要因や入居を確保できない期間に行った募集方法の確認を十分に行わないまま、高優賃本来の目的等を考慮せずに承認していると認められた。
 上記の事態について事例を示すと次のとおりである。

<事例2>

 大阪府は、平成23年3月末までに、42住宅1,701戸のうち9住宅123戸について目的外使用を承認しているが、申請前の募集方法等について具体的に確認することなく、一度に複数の住戸についてまとめて承認しているものが相当数見受けられた。このうちD住宅については、管理開始から6か月後の17年9月に、全戸数23戸の9割を超える21戸の目的外使用を一括して承認していた。そして、同住宅では、多い月で19戸を目的外使用していて、23年3月末時点では12戸(空家が8戸、高齢者の入居が3戸)となっていた。D住宅のほかにも、3住宅について、管理開始後7か月から9か月を経過した19年12月から21年12月までの間に、各住宅の戸数の約3分の1に当たる10戸又は20戸の目的外使用を一括して承認していた。
 また、北九州市は、23年3月末までに、34住宅730戸のうち22住宅147戸について目的外使用を承認しているが、その申請があった際に、空家期間が3か月以上であることを確認するだけで承認している。そして、このうち、管理開始後僅か3か月で目的外使用を開始しているものが4住宅14戸あり、しかも、この中には、定期建物賃貸借の契約期間を最長限度の5年としているものが1住宅6戸あった。23年3月末現在、目的外使用の割合が50%を超えるものが2住宅あり、それぞれ66.6%(12戸のうち8戸)、61.9%(42戸のうち26戸)となっていた。

イ 事業者における不適切な目的外使用

 目的外使用は、事業者による申請を都道府県等が承認した場合に行うことができるとされているが、承認を受けないまま行っているなどの事態が表2 のとおり見受けられた。また、目的外使用の場合の契約は、高齢者の居住の安定確保という高優賃の目的を担保するため、あらかじめ入居期間を定める定期建物賃貸借契約によらなければならないこととされているのに、一般的な賃貸借契約を締結していたものが表2 のとおり見受けられた。これらの中には、都道府県等が制定した高優賃の制度要綱において目的外使用を行った場合には、契約書の写しを提出することとなっているのに、提出されていなかったり、提出されていても内容に不備があったりなどしていたものが見受けられた。

表2
 事業者における不適切な目的外使用

  住宅数 戸数
承認を受けずに目的外使用を行っていたもの 23年3月末現在継続中 2 25
事後承認したもの 9 23
未承認のまま退去 2 8
承認期間経過後も引き続き目的外使用を継続して行っていたもの 23年3月末現在継続中 5 34
23年3月末までに退去 7 24
定期建物賃貸借契約となっていなかったもの 23年3月末現在継続中 5 33
23年3月末までに退去 4 21
18 107
(注)
 合計の数を計算するに当たっては、重複分を控除している。

 これについて事例を示すと次のとおりである。

<事例3>

 東京都内に所在するE住宅は、平成19年9月の管理開始以降高齢者の入居率が低かったことから、21年5月以降、都の承認を受けずに目的外使用を行っており、23年5月の会計実地検査時点においても、33戸のうち16戸は同様な状態になっていた。さらに、その契約は、定期建物賃貸借契約によらずに一般的な賃貸借契約を締結しており、その家賃も家賃補助を受けた高齢者の家賃負担額と同じ額まで減額していた。

 上記の目的外使用の事態の18住宅107戸(重複を除く。)に係る事業費は計11億3761万余円(補助対象事業費計2億3004万余円、国庫補助金相当額計7357万余円)となっており、これに前記新築空家及び高齢者未入居住戸44住宅337戸とを重複分を控除して合計すると、計51住宅367戸となり、これらに係る事業費は計37億7974万余円(補助対象事業費計8億9409万余円、国庫補助金相当額計2億6188万余円)となっている。

 (改善並びに是正及び是正改善を必要とする事態)

 上記のように、空家等が多数発生している高優賃が見受けられる事態及び既存の高優賃の空家等の状況等を考慮せずに新たに高優賃の供給計画の認定を行っていたり、効果的な募集方法を採っていなかったりするなどしている事態は、国庫補助金の交付を受けて整備された高優賃が制度の趣旨に沿って有効に活用されていないもので適切とは認められず、改善の要があると認められる。また、事業者が、都道府県等の承認を受けずに目的外使用を行うなどしている事態及び都道府県等が、高齢者の募集方法等を十分確認しないまま目的外使用を承認するなどしている事態は適切とは認められず、是正及び是正改善の要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 都道府県等、事業者及び所在市町村において、高優賃制度の趣旨についての認識等が十分でなかったこと
イ 高優賃の整備に当たって、都道府県等及び事業者において、需要の予測や高齢者の要望の把握が、また、都道府県等において、高優賃の入居状況等の確認が十分でなかったこと
ウ 都道府県等、事業者及び所在市町村において、効果的な入居募集を行うことにより、高齢者の入居を促進することについての認識が十分でなかったこと
エ 都道府県等において、目的外使用を承認する場合や承認した後に、入居募集の方法や管理状況等の確認が十分でなかったこと
オ 貴省において、高優賃制度の趣旨を踏まえて供給計画の認定、目的外使用の承認等を適切に実施することについての都道府県等に対する周知徹底が十分でなかったこと

3 本院が表示する意見並びに要求する是正の処置及び求める是正改善の処置

 高優賃は、これまで高齢者の居住の安定を確保する住宅として一定の役割を果たしており、23年10月からは、新たにサービス付き高齢者向け住宅の整備に対する助成も始まることとなっている。そして、これらの高齢者向け住宅は、高齢者の増加等を背景として、今後ともその重要性は増していくものと見込まれる。
 ついては、貴省において、高齢者の居住の安定を確保するため、既存の高優賃及び今後新たに整備される高優賃等が有効に活用されるよう、次のとおり、意見を表示し並びに是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
ア 高齢者の居住の安定を確保するという高優賃制度等の趣旨について、都道府県等、事業者及び所在市町村に対して、周知徹底すること(会計検査院法第34条による是正改善の処置を求めるもの)
イ 高優賃等の整備に当たっては、事業者が需要の予測や高齢者の要望の把握を適切に行い、都道府県等は需要の予測や高齢者の要望の把握に努め、高優賃等の入居状況等の確認を適切に行うよう、また、所在市町村とも連携を図るよう、都道府県等に対して技術的な助言を行うこと(同法第36条による意見を表示するもの)
ウ 高齢者の入居を促進するため、事業者が効果的に入居募集を実施し、都道府県等及び所在市町村がその入居募集に協力するよう、都道府県等に対して技術的な助言を行うこと(同法第36条による意見を表示するもの)
エ 事業者が目的外使用を行う場合は、法等にのっとった手続をとることを徹底し、また、都道府県等が目的外使用を承認するか否かを判断する場合には、入居募集の方法や高優賃本来の目的等を踏まえ適切な審査を行ったり、承認後は、その管理状況等の確認を行ったりするよう、都道府県等に対して技術的な助言を行うこと(同法第34条による是正改善の処置を求めるもの)
オ 都道府県等に対して、目的外使用に係る手続等が適切でない住宅の事業者について、法等に沿って、是正のための措置を講じさせるよう、必要な処置を執ること(同法第34条による是正の処置を要求するもの)