ページトップ
  • 平成22年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第11 国土交通省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

滑走路等の舗装工事の実施に当たり、航空機が安全かつ効率的に離着陸や走行を行えるようにするため、舗装の設計及び施工管理の方法を明確にすることにより、横断勾配を航空法施行規則で定める規格に適合した適切なものとするよう改善させたもの


滑走路等の舗装工事の実施に当たり、航空機が安全かつ効率的に離着陸や走行を行えるようにするため、舗装の設計及び施工管理の方法を明確にすることにより、横断勾配を航空法施行規則で定める規格に適合した適切なものとするよう改善させたもの

会計名及び科目 社会資本整備事業特別会計(空港整備勘定) (項)空港整備事業費
部局等 3地方整備局
工事名 大阪国際空港C-6、W-9誘導路改良工事等10工事
工事の概要 滑走路等の老朽化に伴う改良等を行うため、アスファルト舗装やコンクリート舗装を実施する舗装工事
工事費 25億3736万余円 (平成20、21両年度)
滑走路等の横断勾配が規定勾配を超えていた箇所の舗装面積 7,291m2 (平成20、21両年度)
上記の舗装面積に係る表層工の工事費 4359万円 (平成20、21両年度)

1 事業の概要

(1) 滑走路等の舗装工事の概要

 国土交通省は、空港法(昭和31年法律第80号。平成20年6月17日以前は空港整備法)等に基づき、同省が滑走路及び誘導路(以下「滑走路等」という。)を設置及び管理する21空港(注1) (以下「国管理空港」という。)において、滑走路等及びこれらに接するショルダー等の新設又は老朽化に伴う改良等を行うため、アスファルト舗装やコンクリート舗装の舗装工事を多数実施している。
 そして、これらの工事で施工する滑走路等については、航空機の安全かつ効率的な離着陸や走行を図るため、予想される航空機の運航回数に十分耐えられるよう舗装するとともに、路面の雨水を良好に排水するために滑走路等の横断方向に勾配(以下「横断勾配」という。)を設けることとしている。

(2) 航空法施行規則における滑走路等の横断勾配の規定

 滑走路等の幅、横断勾配等は、航空法施行規則(昭和27年運輸省令第56号。以下「施行規則」という。)に定められた規格に適合したものであることとされている。そして、航空機が安全かつ効率的に離着陸や走行を行えるようにするため、滑走路等の横断勾配の最大値(以下「規定勾配」という。)は、1.5%とすることが規定されている。規定勾配は、国際民間航空条約(昭和28年条約第21号)の附属書において示されており、排水性だけでなく航空機の操作性を考慮して定められたとしている(参考図参照)

(3) 滑走路等の舗装工事における横断勾配の設計

 滑走路等の舗装工事の設計に当たっては、「空港土木施設の設置基準・同解説」(国土交通省航空局監修。20年6月以前は「空港土木施設設計基準」。以下、これらを合わせて「設計基準」という。)等に基づいて行うこととされている。そして、設計基準によれば、滑走路等の横断方向の端部の高さに合わせて接するショルダーについては、航空機が逸脱した場合の一時的な走行等に耐えられるよう舗装するとともに、その横断勾配は、2.5%以内にすることとされている。
 しかし、滑走路等の改良等のために行う舗装工事において、既設の滑走路等をかさ上げする工法(以下「かさ上げ工法」という。)により設計する場合は、滑走路等の路面が高くなり、滑走路等の端部と既設ショルダーの高さが合わなくなることから、滑走路等と既設ショルダーの間に段差が生ずることとなる。この段差を解消すること及び滑走路等の横断勾配を規定勾配以内とするため、工事の対象にショルダーを含めて設計することとされている。そして、滑走路等の舗装をかさ上げ工法により行う場合のショルダーの設計については、横断勾配を2.5%以内としてショルダーを滑走路等の路面に合わせて高くすると、ショルダーの全幅にわたり舗装することとなる場合があることから、経済的な設計とするなどのためにショルダーの横断勾配を5%まで許容し、かさ上げした路面を滑走路等の端部と近い位置で既設ショルダー内の路面にすりつけることにより、ショルダーの舗装面積を小さくすることができるようにしている(参考図参照)

(4) 滑走路等の舗装工事の施工

 空港の滑走路等の舗装工事の施工については、空港土木工事共通仕様書、契約ごとに定める特記仕様書、空港における主要な土木工事に関する施工管理等の基準を示した「空港土木工事施工管理基準及び規格値」(国土交通省航空局監修。以下「施工管理基準」という。)等に基づき行うこととされている。
 そして、施工管理基準においては、アスファルト舗装やコンクリート舗装について、路盤の高さ、表層の厚さ及び幅等の出来形管理の規格値が定められている。

2 検査の結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、合規性等の観点から、滑走路等の舗装工事の設計及び施工において横断勾配が規定勾配以内で適切に確保されているか、設計基準や施工管理基準等に従って適切に行われているかなどに着眼して、20年度から22年度までの間に実施された56工事(工事費総額165億6176万余円)を対象として、4地方整備局等(注2) 及び4港湾・空港整備事務所等(注3) において、契約関係書類等により会計実地検査を行った。また、北陸地方整備局及び2港湾・空港整備事務所等(注4) については、提出を受けた契約関係書類等により検査した。

 (検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。
 前記の56工事において、設計図面及び施工業者から提出された出来形図面等により示された滑走路等の路面の高さ及び幅から横断勾配を算出するとともに、現地の状況を確認するなどしたところ、3地方整備局(注5) が行った5空港(注6) における10工事(工事費総額25億3736万余円)において、滑走路等の横断勾配が規定勾配を超えている箇所が見受けられた。このうち設計上の要因によるものが3工事、施工上の要因によるものが7工事となっていた。
 そして、このような設計及び施工が行われていたのは、次の理由によるものと認められた。

(1) 設計について

 前記のとおり、設計基準によると、滑走路等の改良等を行う舗装工事において、既設の滑走路等をかさ上げ工法により設計する場合、ショルダーを含めて設計しショルダーの横断勾配を5%まで許容することができることとされている。しかし、かさ上げ工法以外の工法については、この設計基準の規定を適用できる旨が明確に示されていなかった。このため、滑走路等の舗装の表層等を切削して打ち換える工法(以下「切削・打換え工法」という。)等を採用している前記の3工事は、この設計基準の規定を適用できないとしたことなどから、既設ショルダーを工事の対象外としていた。そして、切削・打換え工法等を採用している前記の3工事においては、耐久性を高めるために切削する舗装厚より打ち換える舗装厚の方を厚くすることにより滑走路等の路面が高くなる箇所についても、ショルダーを工事の対象に含めて滑走路等の端部と近い位置で既設ショルダー内の路面にすりつけることとする設計とせずに、滑走路等の端部を既設ショルダーの端部の高さに合わせるなどの設計としていた。このため、これにより舗装工事を実施した滑走路等については、その横断勾配が急になっていて、規定勾配を超える箇所(最大3.227%)が生じていた。

(2) 施工について

 滑走路等の出来形管理については、施工管理基準において、舗装厚等の規格値が定められているものの、横断勾配に関する規定はなく、出来形は舗装厚等の規格値を満足していれば良いとしていること、また、特記仕様書等において横断勾配を規定勾配以内とすることを明記していないことから、横断勾配の施工管理が行われておらず、前記の7工事においては、舗装工事を実施した滑走路等の横断勾配について規定勾配を超える箇所(最大2.168%)が生じていた。

 このように、国管理空港で実施されている滑走路等の舗装工事において、かさ上げ工法以外の工法で実施する場合に滑走路等の横断勾配が規定勾配以内となるようショルダーを含めて設計することが設計基準等に明確に示されていなかったり、特記仕様書等に横断勾配を規定勾配以内とすることについて明記されていなかったりしているため、滑走路等に規定勾配を超える箇所が生じている事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

 (横断勾配が規定勾配を超えていた箇所の舗装面積に係る表層工の工事費)

 滑走路等の舗装工事において、上記の設計又は施工上の要因により横断勾配が規定勾配を超えている箇所の舗装面積は、20年度4,396m 、21年度2,895m 、計7,291m となり、これに係る表層工の工事費は、20年度857万余円、21年度3502万余円、計4359万余円となっていた。

 (発生原因)

 このような事態が生じていたのは、国土交通省において、滑走路等の舗装工事をかさ上げ工法以外の工法で実施する場合に滑走路等の横断勾配が規定勾配以内となるようショルダーを含めて設計することを設計基準等に定めていなかったこと、舗装工事の特記仕様書等に横断勾配を規定勾配以内とすることについて明記していなかったこと、施行規則で定められた横断勾配の規定を遵守することに対する認識が十分でなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、23年9月に地方整備局等に対して通知を発し、滑走路等の舗装工事において施行規則で定められた横断勾配の規定を遵守するよう周知徹底するとともに次のような処置を講じた。
ア 設計においては、切削・打換え工法等、かさ上げ工法以外の工法で実施する場合においても、ショルダーを含めて設計することにより、滑走路等の横断勾配について規定勾配を超えないように設計することを明確にした。
イ 施工においては、特記仕様書に滑走路等の横断勾配について規定勾配を超えないように施工することを明記することとした。

(注1)
 21空港  東京国際、新千歳、稚内、釧路、函館、仙台、新潟、大阪国際、広島、高松、松山、高知、福岡、北九州、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、那覇、八尾各空港
(注2)
 4地方整備局等  近畿、四国、九州各地方整備局、内閣府沖縄総合事務局
(注3)
 4港湾・空港整備事務所等  四国地方整備局松山港湾・空港整備事務所、北海道開発局札幌、函館、稚内各開発建設部
(注4)
 2港湾・空港整備事務所等  北陸地方整備局新潟港湾・空港整備事務所、北海道開発局釧路開発建設部
(注5)
 3地方整備局  近畿、四国、九州各地方整備局
(注6)
 5空港  大阪国際、高松、福岡、長崎、鹿児島各空港

(参考図)

滑走路等の概念図

滑走路等の概念図