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年金相談業務に係る契約の実施に当たり、契約の履行確認を徹底するなどするよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求め、並びに委託する年金相談窓口数の見直しを行うなどして、年金相談業務の実施等が経済的なものとなるよう意見を表示したもの


(1) 年金相談業務に係る契約の実施に当たり、契約の履行確認を徹底するなどするよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求め、並びに委託する年金相談窓口数の見直しを行うなどして、年金相談業務の実施等が経済的なものとなるよう意見を表示したもの

科目 業務経費
部局等 日本年金機構本部
契約名 (1)  年金事務所等における指定する年金相談窓口等の運営委託(平成21、22両年度)
(2)  「ねんきん定期便」及び「ねんきん特別便」並びに「厚生年金加入記録のお知らせ」に関する相談業務(平成21、22両年度)
(3)  年金相談センター運営業務委託(平成21年度〜24年度)
契約の概要 (1)  年金事務所等における年金見込額等に関する相談業務等
(2)  市区町村等における出張年金相談業務等
(3)  年金相談センターの運営業務
契約の相手方 (1)  29社会保険労務士会
(2)  18社会保険労務士会
(3)  全国社会保険労務士会連合会
契約 (1)  平成22年1月、22年4月 随意契約
(2)  平成22年1月、22年4月 随意契約
(3)  平成22年1月 随意契約
支払額 (1) 25億6705万余円 (平成21、22両年度)
(2) 3619万余円 (平成21、22両年度)
(3) 25億0608万余円 (平成21、22両年度)
節減できた委託費相当額等(ア) (1) 5億2363万円 (平成21、22両年度)
(2) 2597万円 (平成21、22両年度)
(3) 5097万円 (平成21、22両年度)
全国社会保険労務士会連合会に留保されている委託費に係る余剰金の額(イ) (3) 1億7912万円 (平成22年度末)
(ア)及び(イ)の計   7億7971万円  

(前掲の「年金相談センター運営業務委託において、委託費の対象とはならない研修に係る経費を委託費の対象経費として支払っていたもの」 参照)

【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求め並びに意見を表示したものの全文】

  年金事務所等における年金相談窓口等の運営について

(平成23年10月28日付け 日本年金機構理事長宛て)

 標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求め、並びに同法第36条の規定により意見を表示する。

1 年金相談業務の概要

(1) 年金事務所等における年金相談業務の概要

 貴機構は、国民年金、厚生年金保険の被保険者等からの年金の見込額に関する相談等に対応するため、312年金事務所において年金相談業務を実施するとともに、年金事務所での年金相談業務を補完するための常設の年金相談センター(以下「センター」という。)を27都道府県に51か所設置している。また、年金事務所の年金相談窓口の混雑緩和や年金受給者等のニーズへの対応のため、年金事務所が年金事務所以外の市区町村の庁舎等に設置した年金相談窓口(以下「出張相談窓口」という。)に職員等を出張させて年金相談業務を実施し、市区町村が設置した「ねんきん定期便」等による年金記録等に関する年金相談窓口(以下「巡回相談窓口」という。)において年金相談業務を実施している。
 これらの年金相談業務は、各年金事務所の職員によって実施するほか、貴機構が指定する年金相談窓口の運営については各都道府県社会保険労務士会(以下「社労士会」という。)に、センターの運営については全国社会保険労務士会連合会(以下「連合会」という。)に、それぞれ委託して実施している。なお、年金相談業務には年金制度等に関する専門知識が必要となることから、社労士会は、年金事務所等での年金相談業務を社会保険労務士(以下「社労士」という。)に再委託している。

(2) 社労士会及び連合会との委託契約の概要

ア 社労士会との委託契約の概要

 貴機構は、平成21年度及び22年度に「年金事務所等における指定する年金相談窓口等の運営委託」(以下「指定窓口契約」という。)を社労士会と随意契約により締結し、21年度(22年1月から3月までの間。以下同じ。)4億6561万余円、22年度21億0144万余円の委託費を支払っている。また、年金記録に関する相談に対応するため、21、22両年度に「「ねんきん定期便」及び「ねんきん特別便」並びに「厚生年金加入記録のお知らせ」に関する相談業務」(以下「巡回相談契約」という。)を社労士会と随意契約により締結し、21年度646万余円、22年度2973万余円の委託費を支払っている。
 貴機構は、指定窓口契約及び巡回相談契約を締結するに当たり、それぞれの契約書、「年金事務所等における指定相談窓口等の運営委託要領」等において、予定数量、契約単価、業務内容等を定めている。
 そして、社労士会からの再委託を受けた社労士が年金相談業務を実施した場合、相談者数、相談時間等を記載した相談業務実施状況報告書(日次)等を作成し、これらを社労士会に提出するとともに、相談業務実施状況報告書(日次)の写しを年金事務所に提出することとなっている。社労士会は、これらの報告書を取りまとめ、相談業務実施状況報告書(月次)等を作成し、社労士が実施した総時間数に契約単価を乗じて得た金額等を記載した請求書を貴機構に提出し、担当職員の検査を受けた後、委託費の支払を受けることとされている。

イ 連合会との委託契約の概要

 貴機構は、22年1月に、契約期間を同年1月から25年3月までとする年金相談センター運営業務委託(以下「センター運営業務契約」という。)を、契約金額65億0255万余円で連合会と随意契約により締結し、23年3月までに委託費として、計25億0608万余円を支払っている。
 貴機構は、年金相談センター運営業務委託標準仕様書等において、委託する窓口の稼働数、相談業務実施体制等を定めるとともに、連合会から、センターごとに作成した相談窓口稼働及び実施体制等実績報告を提出させることとしている。
 また、連合会では、センター運営業務契約に関する経理を「街角の年金相談センター特別会計」において経理している。

2 本院の検査結果

 (検査の観点及び着眼点)

 本院は、合規性、経済性、有効性等の観点から、委託した年金相談業務は仕様書等に基づいて適正に履行されているか、相談件数に応じて、年金事務所及びセンターの年金相談窓口数の見直しが適切に行われているかなどに着眼して検査した。

 (検査の対象及び方法)

 検査に当たっては、貴機構本部、220年金事務所、51センター、連合会及び29社労士会において、22年1月から23年3月までの間における指定窓口契約、巡回相談契約、センター運営業務契約を対象として、契約書、相談業務実施状況報告書(日次)、委託費の請求書等の書類により会計実地検査を行うとともに、各年金事務所、各センター、連合会及び各社労士会から調書の提出を受けるなどして検査した。なお、年金相談件数等の推移については、東日本大震災の影響等から23年3月の数値を比較の対象とすることは適切でないと認められたため、各年2月の数値を使用した。

 (検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 社労士会への年金相談窓口の委託

ア 指定窓口契約

(ア) 年金事務所における年金相談件数の推移等

 今回検査した220年金事務所における年金相談件数の推移をみると、20年2月の596,162件から23年2月の456,177件(20年2月比77%)と減少傾向が見られた。
 一方、検査を実施した220年金事務所の年金相談窓口数は、22年2月は1,509窓口、23年2月は1,527窓口とほぼ同数となっている。
 また、1年金相談窓口1日当たりの年金相談件数をみると、次表 のとおり、職員が実施した年金相談件数の平均は16.8件であるのに対して、社労士では6.3件と職員の約4割となっている。

 1年金相談窓口1日当たりの年金相談件数(月平均) (単位:件)
区分 通常時(平日8時30分から17時15分まで)
職員が実施した年金相談件数 社労士が実施した年金相談件数
最高 21.9 9.5
最低 13.3 3.8
平均 16.8 6.3

(イ) 年金事務所における年金相談業務の実施体制

 指定窓口契約により社労士会に委託する年金相談窓口は、各年金事務所ごとの年金相談件数等に応じて設置されることとなるが、設置に当たっての明確な基準はなく、その具体的な設置数は各年金事務所の判断による必要数としている。なお、センター運営業務契約では、貴機構本部は、委託する各センターの年金相談窓口数を算出するに当たって、1年金相談窓口1日当たりの年金相談件数について15件を窓口設置の目安(以下「設置目安」という。)としている。
 そこで、各年金事務所の職員が実施している年金相談窓口1,180窓口(23年2月現在)及び社労士会に委託している347窓口、計1,527窓口を対象として、職員及び社労士が実施した年金相談件数を基に、設置目安により必要とされる年金相談窓口数(以下「必要窓口数」という。)を算出し、これを各年金事務所の1日当たりの平均の年金相談窓口数(以下「設置窓口数」という。)と比較したところ、平日8時30分から17時15分までの通常時において、設置窓口数が必要窓口数を上回っているものが53年金事務所で71窓口(委託費相当額3億3256万余円)見受けられた。

(ウ) 年金相談窓口への案内業務の内容及び実施状況

 指定窓口契約では、年金事務所の年金相談窓口における年金相談業務のほか、被保険者等が持参した届け書の受付や来訪相談者の年金相談窓口への案内業務(以下、これらを合わせて「総合案内」という。)についても社労士会に委託している。
 総合案内を実施している325窓口(23年2月現在)について業務の実施状況をみたところ、社労士が総合案内を行っていたものが、66年金事務所において、15か月間で延べ1,094窓口見受けられた。しかし、総合案内は一般的には補助的な業務であり、専門的な知識を必要としないことから、社労士が行う必要はないものと認められる。
 当該業務を補助作業等に従事する契約職員に実施させることとして委託費を算定すると、委託費相当額1億8492万余円節減できたと認められる。

(エ) 出張相談に係る委託業務の履行確認

 指定窓口契約により、社労士が年金事務所の職員に同行して、出張相談窓口において年金相談業務を実施した場合、その実施時間等について、相談業務実施状況報告書(日次)を作成し、社労士会に提出することとなっている。
 しかし、延べ1,700窓口において、上記の報告書に、年金事務所が設定した出張相談窓口の開設時間よりも長い時間が記載されていたり、休憩時間を含めた時間が実施時間として記載されていたりしていた。このような事態は、社労士が職員と年金相談業務を実施しているものの、年金事務所が開設した時間以外の実施時間について、社労士が作成した報告書以外に実施状況を確認するものがなく履行確認が十分でないと認められる(委託費相当額613万余円)。

イ 巡回相談契約

 巡回相談契約により、社労士が巡回相談窓口において年金相談業務を実施した場合、前記と同様に、その実施時間等について報告することとなっているが、巡回相談においても、開設時間よりも長い時間又は休憩時間を含めた時間を報告書に記載している事態が見受けられた。巡回相談窓口は、社労士のみで年金相談業務を実施しているため、社労士が作成した報告書以外に実施状況を確認するものがなく、また、契約書等に定められている貴機構の担当者による履行確認のための検査も十分に行える体制とはなっていないため、巡回相談契約に基づく業務委託(委託費相当額2597万余円)は履行確認が十分に行われていないと認められる。

(2) 連合会への委託(センター運営業務契約)

ア 年金相談窓口の設置状況

 センター運営業務契約では、センターに開設する年金相談窓口は、全51センターで254窓口を原則として稼働させることとされている。
 しかし、実際に開設されていた年金相談窓口数が、原則として稼働させる窓口数(以下「委託窓口数」という。)を下回っていたものが2センターの2窓口(委託費相当額966万余円)見受けられ、履行確認が十分に行われていないと認められる。

イ 各センターにおける年金相談業務の実施体制

 センター運営業務契約は22年1月から25年3月までの長期間にわたる契約となっているが、委託窓口数の見直しの基準を定めていないことから、委託窓口数は契約当初から変更されていなかった。
 そこで、委託窓口数と各センターにおいて実施した年金相談件数を基に算出した必要窓口数とを比較したところ、委託窓口数が必要窓口数を上回っているものが、通常時において9センターで9窓口(委託費相当額4500万余円)見受けられた。

ウ 貴機構による委託費の使途の確認

(ア) 年金相談業務に従事する相談員等に対する研修
 連合会は、センター運営業務に係る委託費から、同業務の一環として全国47社労士会に再委託して実施した年金相談実務に関する研修に要した経費(22年度2060万余円)を、支払っていた。しかし、センターが設置されていない20県の社労士会が実施した研修に要した費用(支払額597万余円)は、委託費の対象とならず、適切とは認められない。
(イ) 委託費の経理
 連合会では、街角の年金相談センター特別会計において、22年度末に、決算上の余剰金として正味財産残高1億7912万余円を保有している。貴機構は23年7月に委託契約を変更し、余剰金を返還させる契約条項を追加しているが、返還時期を契約終了時の25年3月としているため、上記の余剰金は連合会に留保されたままとなっている。
 しかし、委託業務の実施に必要となる経費は、契約に基づき毎月概算払されているのであるから、連合会において、特別会計に資金を留保しておく必要はないと認められる。

 (是正及び是正改善並びに改善を必要とする事態)

 年金相談業務の財源は保険料等によるものであり、委託業務は経済的に実施する必要がある。
 したがって、指定窓口契約及び巡回相談契約において、社労士が実施する年金相談窓口数が年金相談件数と比べて適切な規模となっていなかったり、社労士に専門的知識を必要としない業務をさせたりする事態及び巡回相談窓口等での委託業務の履行確認のための体制及び確認方法が十分でない事態は、適切とは認められず、改善の要があると認められる。
 また、センター運営業務契約において、実際に開設されていた年金相談窓口数が委託窓口数を下回っていて履行確認が十分でないなどの事態は適切とは認められず、是正及び是正改善を図る要があると認められる。
 さらに、センター運営業務契約において、委託窓口数が年金相談件数に応じた適切な規模となっていなかったり、委託費の使途の確認が適切に行われていなかったりする事態は、適切とは認められず、改善の要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

ア 年金事務所において

(ア) 社労士会に委託する必要がある年金相談窓口数等の把握を適切に行うことについての認識が十分でないこと
(イ) 社労士会に委託して実施する出張相談窓口及び巡回相談窓口における年金相談業務について、委託業務の履行確認が必要であるという認識が十分でないこと

イ 貴機構において

(ア) 社労士会へ委託する年金相談窓口数等を年金相談件数等に応じて算出するための基準を設定することについての認識が十分でないこと
(イ) 社労士会に委託して実施する巡回相談窓口等における年金相談業務について、履行確認が必要であるという認識が十分でないこと
(ウ) センター運営業務契約において、実際に開設されていた年金相談窓口数が委託窓口数を下回っていないかなど、委託業務の履行確認が必要であるという認識が十分でないこと
(エ) 連合会への委託期間は長期間にわたっているのに、委託窓口数を見直すための基準を設定することについての認識が十分でないこと
(オ) 連合会に留保されている余剰金について早期に解消させることの認識がないこと

3 本院が要求する是正の処置及び求める是正改善の処置並びに表示する意見

 年金事務所、センター等における年金相談業務は、年金受給対象者の増大する中、国民の年金制度への信頼回復のため、今後も引き続き重要な業務となっており、貴機構は、自ら実施するものと委託により実施するものとを組み合わせて、年金相談業務の充実を図ることとしている。
 しかし、委託費を含む年金相談に係る財源は保険料等によるものであることから、経済性等にも十分留意する必要がある。
 ついては、貴機構において、各社労士会及び連合会へ委託して実施する年金相談業務の実施を経済的なものにするとともに、委託費の使途の確認が適切なものとなるよう、次のとおり是正及び是正改善の処置を求め並びに意見を表示する。
ア 社労士会に委託する年金相談窓口数等を算出するための基準を検討するなどした上で年金事務所に周知徹底し、年金相談窓口数が適切な規模となるようにすること(会計検査院法第36条による意見を表示するもの)
イ 巡回相談窓口等での出張相談における社労士の委託業務の履行確認について確認方法を定めるとともに履行確認のための検査が十分に行える体制を整備し、確認方法を年金事務所に周知徹底すること(同法第36条による意見を表示するもの)
ウ 連合会に委託する委託窓口数を算出するための基準を検討するとともに、委託窓口数を見直す時期を定めて適切に見直しを行うこと(同法第36条による意見を表示するもの)
エ 原則として稼働させるとした委託窓口数が実際に開設されているかなどの契約の履行確認を徹底すること及び原則として稼働させるとした委託窓口数が満たされていなかったものなどについて委託費を返還させるなどの措置を執ること(同法第34条による是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求めるもの)
オ 連合会に留保されている余剰金について、委託費を返還させるなどして留保の解消を図ること(同法第36条による意見を表示するもの)